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東近江で見つけた小さな自然再生

我々、国土交通省が進める「流域治水」。流域のあらゆる関係者が協働して主体的に対策に取り組むことがひとつのコンセプトであるが、関係者の協働をどのようにしたら、促すことができるのか。そのヒントを求めていた最中、滋賀県東近江市を東西に流れ、琵琶湖に注ぐ愛知川で市民主体による小さな自然再生が取り組まれているという情報を得て、早速、関係者にインタビューすべく現地に向かった。

まずは、この取組の鍵を握るコーディネーター役「東近江三方よし基金」さん。困った事があれば気軽に相談する、相談にのる、そんな環境や人付合いが日常にあって、その困り事を多くの人を巻き込んで解決に向け形になっていく。長期的な視点にたって東近江の将来を担う人材を育てていきたいという、人への投資の想い。 まさに、人や地域のつながりを大切にしながら、広く公共利益のために貢献していく近江商人の精神を垣間見た。

東近江 小さな自然マップ

インタビュー 東近江三方よし基金 事務局長 山口美和子さん

コミュニティ財団が地域の小さな取組みを全力支援

普段はどのような取り組みをされているのですか?

課題解決の仕組みを作る

私たちは「コミュニティ財団」で、普段から、地域の課題を地域で解決する仕組みづくりをしています。今回は、環境省の地域循環共生圏づくりプラットフォーム構築事業の支援を受ける形で、愛知川漁業協同組合が実施する「簡易魚道の見試しで大人の川ガキづくり」、そして里山保全に取り組んでいる特定非営利活動法人遊林会の「そとイコ川ガキ育成塾のプログラムづくり」を支援しました。

愛知川漁協さんは、「子どもたちに琵琶湖の宝石であるビワマスを見てもらい、愛知川を愛する次世代が育つきっかけを作りたい」と漁協の皆さんが仰っていたことを聞いていましたが、漁協さんは人手や資金調達をどのようにしたら良いか悩まれていました。そこで私たちが声をかけ、「川に関わる人々と時間をもっと増やしましょう!」と提案し、今回の支援に繋がったんです。

遊林会さんは、東近江市でも有数の里山公園で、河辺林である「河辺いきものの森」で、子どもたちが自然と触れ合う場や機会を長年提供していましたが、愛知川にも活動の場を広げていきたいという想いがあることが分かりました。

しかし、子どもたちと川で遊ぶためには、スタッフの川に対する理解を深めることはもちろん、人数分のライフジャケットを揃える必要もあり、これまではなかなか挑戦できなかったそうです。そこで、お声がけしました。

具体的にはどのような支援をされているのですか?

地域の課題を発掘

地域に入りたくさんの人との対話を重ね、課題と、それを解決したいという想い、そして実現したい将来像を明確化したうえで、地域で活動する人に連携を呼びかけ、案件組成を一緒に行って資金を提供しています。それも、ただお金を補助するのではなくて、「東近江市版SIB事業」という枠組みを活用します。事業の「成果目標」を決めて、「出資金」として地域内外の企業や個人からお金を集め、目標が達成されると補助金が提供される仕組み です(※)。成果目標を掲げ、お金を人々から集めることで関係者の当事者意識ががぜん高まります。

支援の形を一緒に考えて伴走する

このように、私たちは、地域の中にある小さな取組みを実現するために、人と人とを繋いでいくことを大事にしています。 地域の人たちの悩み事に相談に乗り、その悩み事の解決のために多くの人を巻き込んで伴走しながらアクションする。むしろ私たちも、東近江の人間として、地域の方々と一緒になって、地域を良くしたいという想いで楽しく活動しているんです。

みんなのお金を集めた魚道づくり

※SIBは、「ソーシャル・インパクト・ボンド」の略。個人や企業が、お金を出すことで活動に参加できる仕組みになっている。「ミズベリング」の記事に詳しい紹介があるのでご参考に。

外部サイトへ

インタビュー 愛知川漁業協同組合 代表理事組合長:村山邦博さん

川でのびのびと人を育てるビワマスを子ども達に見せてあげたい

ビワマスの簡易魚道を作ってみんなで見たと伺いました。どんな動機があったのですか?

次世代が育つきっかけに

ビワマスの存在をみんなに知ってもらい、愛知川を愛する次世代が育つきっかけを作りたいと思ったことが最大の理由でした。 川には、高さ2・5メートルの「えん堤」という壁がありますが、それをビワマスが越えられる魚道(冒頭の写真左側)を作れば、えん堤の上流にも産卵場所が広がることがありますが、魚道づくりを通じて仲間が集まり、川に関心を持つ人を増やせるのではないかと考えました。

愛知川に関心は集まりましたか?

仲間とのびのびと

人手や資金調達をどうしたらいいかと悩んでいたところ、滋賀県立大学の瀧先生が「SIB」の活用を提案してくださったんです。SIBを活用する上では、目標を設定する必要がありますが、ビワマスの遡上自体を目標や評価の指標にするのではなく、河川との関係人口を増やすことを目標に据えたことで、仲間と、のびのびと魚道を作れました。
愛知川を大切にしようと思う人達が、のべ70名以上集まってくれたことが、何より嬉しかったです。

簡易魚道づくりの様子 写真提供:愛知川漁業協同組合

漁協さんの入口にかかる大きな看板。ビワマスは、稚魚のときに琵琶湖に下り、秋になると愛知川を数十キロメートルものぼって産卵しにくる。漁協さんのYouTubeチャンネルで遡上の様子が見られる。

※SIBは、「ソーシャル・インパクト・ボンド」の略。個人や企業が、お金を出すことで活動に参加できる仕組みになっている。「ミズベリング」の記事に詳しい紹介があるのでご参考に。

東近江市五個荘の「湖香六根」では、ビワマスを中心としたコース料理を提供している。店主の杉本宏樹さん(写真)によれば、「天然物のビワマスは味がとっても濃厚」で、外国人客も少なくないという。この美しい魚が育まれる環境を、地域、そして流域の人々が協働して守っていきたいという。

インタビュー 里山保全活動団体 遊林会:井田三良さん・熊木香さん

子どもたちにもっと川遊びを

どのような活動を通じて、子どもたちが川に遊びに行くプログラムが出来たのですか?

森への関心が広がる

長年、東近江市と協働し、里山公園である「河辺いきものの森」で子どもたちが自然と触れ合う場や機会を提供しています。そして私たちは、この森のルーツである愛知川に、子どもたちの活動範囲を広げられないかとかねてより検討してきました。そんな時、東近江三方よし基金さんが声をかけてくださり、SIBを通じて村山組合長や瀧先生とのご縁が繋がったのです。 そして、資金面での支援をいただいたことにより、人数分のライフジャケットや道具を揃えるなど、子どもたちが安全に川で遊ぶことのできる環境を整えることができました。また、スタッフは川の専門家による講義を何度も受けられたことで、これまで知らなかった川の知識を深めることができ、森への関心が森里川湖へと広がりました。

そとイコ川ガキ育成塾の活動の様子 写真提供:特定非営利活動法人遊林会

河辺いきものの森

元々この森は、「河辺林」の性質があり、愛知川水系が運んだ山地性の植物が平野部に 植生している、極めて珍しい生態系を持った森であるとのこと。

まとめ

小さな取組を繋げ、好循環を生み出そう

どうしたら人々が川に親しみ、地域の、流域のみんなで何かに取り組めるのか?

それは、「地域の人たちの悩みや実現したいという想いに真摯に耳を傾け、一緒になって課題や目標を共有しながら伴走するようなコーディネート役の存在が重要」であること。

地域住民が川に目を向け、水害を我が事として捉え、できることから「見試し」的な発想でたくさんの小さな取組みを繋げ、好循環を生み出していく」ことであることがわかった。 東近江三方よし基金の山口さんは、「ただ単に地域の課題解決のため、地域の皆さんが小さな取組みを一生懸命頑張っているだけ」だと言っていた。

しかし、その東近江の小さな自然再生の取組が、流域治水を各地で展開していくために参考となる重要なポイントになるのではないかと確信して帰路についた。

むすび

小規模多機能でいこう 〜流域治水に向けてアドバイス〜

滋賀県立大学環境科学部 准教授
瀧健太郎さん

流域の水循環と社会システムとの相互関係に着目し、持続可能な流域社会の実現に向けた政策や計画に関する研究を進めている。ビワマスの産卵床を作るプロジェクトに参加し、小さな自然再生の活動をサポートして地域の人々をつなげている

楽しく自発的に

市民が主体となって、川や水に親しむ活動を増やしていくことは非常に重要なことだと考えています。そこでは、無理に環境保護や親水事業をやろうとするのではなくて、「楽しいから自然と、自発的にやる!」というスタンスを守ることが大切です。「小さな自然再生」には3つの条件があるんです。

  • 1.自己調達できる資金規模
  • 2.多様な主体による参画と協働が可能
  • 3.修復と撤去が容易

流域治水も自然再生も、小さい方が融通が利いて、その時その時のカスタマイズもできて楽しいんですよね。僕の尊敬する兵庫県立人と自然の博物館の三橋弘宗先生は、「小規模多機能」ということを常に言い続けています。 愛知川漁協さんの取組についても、決して無理をせず、「簡易魚道」を作ってまず試してみることが重要で、そこに価値があります。SIBのプロジェクト名も、「見試し」とついていますが、この言葉は最高ですね。

流域治水を自分ごとに

川と言えば、河川管理や防災という「公」のものというイメージがありますが、今回のような「住民自治」の仕組みを活かさないと杓子定規で親しみづらいものになります。 今は、水や川とどう付き合っていくか、それは官側だけの問題だけではなく、民側からも考えていかないといけない時代になりました。流域治水も同様に、それを「自分ごと」として捉えて、うまく川と付き合っていく姿勢が求められると思います。

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