精緻に描かれる地形図
今昔を比較する面白さ
Q. どうして地図に興味をお持ちになったのですか?
精緻に描かれていることに感動を覚える
自著でもっぱら扱っているのは国土地理院の地形図です(※地図記号などを使って、その土地の地形を細かく示した地図)。中学1年生の時に授業で習うのですが、1:25000の縮尺の地形図を初めて見て、一目惚れというか、ハマってしまいました。それまでは日本全図や神奈川県全図のように、小縮尺の地図をよく見ていましたが、1:25000という縮尺の大きな地図を見たのは初めてで、学校の校舎の配置が正しく描かれていたことと、プールが青で印刷されていて、通学路もその通り、太い道は太く、細い道、植生に至るまできちんと描かれていました。
このように、最初に魅力を感じたのは地図が非常に「精緻に」描かれていたことです。一般的に鉄道模型や昆虫など、精密にできているものに魅力を感じる年頃ですが、私の場合は地形図だったということでしょうか。その後すぐに、自分で架空の地形図を作って、勝手に街を創って遊んでいました。
違う景色が広がる地形図
地図がだんだん読めるようになってくると、自分の行ったことのない土地に興味を持つようになりました。北海道(道東)の地図を買ってまず驚いたのは、人がいないことでした。ともかく閑散としていて、牧草地、森や湿原がたくさんあるのです。その次は沖縄を買って、ますますハマり込んで行きました。自分の住んでいるところと違う世界が広がっていることが、地形図を見て感じられるのです。また、小学5~6年には時刻表に興味を持っていたので、鉄道の路線があるところがどのようになっているか、「鉄道的」にみて面白い所の地図をどんどん買い集めました。
今と昔を比較できる面白さ
社会人になって、明治期の1:20000地形図や戦前の地形図など、古い地図が手に入ると、新旧の比較ができるようになり、とても面白くなっていきました。新旧を比較すると、鉄道の廃線跡が細道として残っているとか、ずっと森ばかりの丘陵地だったところに、雛壇状の開発地が出来ているとか、「土地の激変」が手にとるようにわかって面白かったのです。その辺が地形図の魅力ですね。
地図の道路は実際より太い!?
地形図を見慣れてくると、そこの実際の景色がよく見えてきます。地図というのは情報の取捨選択があって、より重要なものは太く大きく描く、いらないものは捨てています。例えば、1:25000の縮尺の地図上で、1mmの幅で描かれている道路は25mの幅があることになりまが、実際はそうではなく、重要な道路は地図上で太く誇張して描かれているのです。
三次元の情報と新旧の時間軸、そういう意味で、これまで蓄積された地形図の情報量は非常に多いです。
また、地図に描かれている記号の集まりがどんな「風景」を描写しているのか、想像してみるのも面白いですよ。
今尾恵介さん (作家・地図研究家)
1959年横浜市生まれ。中学生の頃、国土地理院の地形図に一目惚れし、地図を読み始める。音楽出版社勤務を経て独立し、『地名の社会学』(角川選書, 2008年)、『地名の謎』(ちくま文庫, 2011年)等、地図や地名、鉄道を題材とした著作を多く発表。一般財団法人日本地図センター客員研究員、日本地図学会評議員。

1:25000地形図は、国土地理院地図(
ウェブサイト >)で閲覧することができます。
古い地形図は国土地理院でコピーを取得できます。また、新旧の地図を比較して見られる地図も、大学の先生によって『
今昔マップ on the Web』として公開されています。現在の図とリンクさせて古い地図を見ることができ、とても優れています。