4.ITSにより実現する社会の姿(ITSの効果)
 
<1>  スマートウェイは、スマートカー、スマートゲートウェイと三位一体となってITSを実現し、日本が精力的にスマートウェイの構築に取り組むならば、日本の社会全体に様々な効果をもたらすものと考えられる。さらには日本のみならず、その効果は世界にも波及することになろう。具体的には、以下に示す通り、道路交通安全の確保、渋滞の削減、環境負荷の軽減など道路交通環境の改善に加え、新規市場・産業の創出など社会に多くの効果をもたらすものである。さらに、その効果は直接的な利用者にとどまらず、生活、経済、地域社会等社会の様々な面で効果が拡大することが期待され、その整備の意義は極めて高いものと考えられる。
<2>  なお、技術の進歩と合わせ、将来の世代が自由な発想でスマートウェイを活用することにより、今日の我々では想定できない効果も発生すると考えられる。今後とも、関連技術の進歩に併せて、国民の享受できる社会の姿を継続的に検討し、国民に広く提示していくことが望まれる。
 
(1) 道路交通環境の改善
 
 1) 渋滞の緩和に有効なITS
 我が国の道路交通における大きな課題の一つである渋滞を緩和するためには、バイパス・環状道路等の道路整備に加えて、既存の道路ネットワークの有効利用を図ることが必要である。

 [交通の円滑化支援]
<1>  全渋滞損失の7%を占める高速道路の渋滞については、ノンストップ自動料金収受システム(ETC)の全国料金所への導入と概ね全ての車両へ車載器の普及により、2015年には年間5,000万時間、約1,500億円の渋滞損失が解消できると試算されている。また、走行支援システムによるトンネルやサグ(下り坂から上り坂へ移行する区間)での速度低下の防止により、従来までボトルネックとなっていたこれらの区間における渋滞を解消し、快適な走行環境を提供できる。(サグで発生する15km程度の渋滞が、走行支援システムの普及率40%で解消されるという試算もあると試算されている。)
<2>  都市部等ネットワークを形成する地域において、ITSによる混雑情報など交通情報の適切な提供は、道路ネットワークのさらなる整備と相俟って最適な経路選択を可能とし、限りある道路資産の有効利用にも資するものとなる。既存の首都高速道路網において、VICSの普及装着率が20%レベルに達することにより、首都高速上での渋滞量が10%削減、また、VICSが全国でに普及し装着率が30%に達すれば、全渋滞損失の6%を削減するという試算もあるできると試算されている。
<3>  このような試算によれば、ITSの渋滞解消効果は2015年には年間約1.2兆円にも達する。

 [公共交通の利用支援]
 駐車場の満空状況、高速バスや鉄道等の公共交通の運行状況並びに座席の混雑状況、道路交通情報等の総合的な情報を出発前や移動中にリアルタイムに提供を行い、郊外のパークアンドライドの利用促進などを通じて、公共交通の利用を促し、渋滞の緩和や公共交通利用者の利便性の向上を図ることが可能となるであろう。

 [交通需要マネジメントの支援]
 社会的実験によりドライバーの受容性を確認する必要はあるものの、ITS技術を活用してピーク時以外の利用を促進するTDM(交通需要マネジメント)など、道路施設の効率的な利用による渋滞緩和施策の円滑な導入を支援することが期待される。

 [事故渋滞の削減と事故処理の迅速化支援]
 走行支援システムの導入により事故が減少し事故渋滞そのものが減少する。同時に、交通事故発生時の迅速な情報伝達により事故処理が迅速化すれば、高速道路における事故を原因として発生する渋滞(高速道路渋滞の15%程度に相当)も大きく削減する。
 
 2) 交通事故の大幅な削減に有効なITS

 [直接的な事故抑止効果]
<1>  最近の研究によれば、交通事故の約80%がドライバーの発見の遅れや、判断・操作のミスを原因としており、これらの事故の原因となる危険の存在をドライバーに確実に伝えたり、差し迫った危険に対して注意を促すことなどにより、事故の大部分は回避できる可能性があることがわかってきている。
<2>  走行支援システムは、その導入区間において安全運転を心がける一般的なドライバーが引き起こす交通事故を現在の1/3程度に削減できることを目標に現在開発が進められている。(全国の幹線道路の事故が集中する区間に導入すれば、交通事故の約15%が削減され13万人の死傷者を減らすことが可能となり、削減可能な交通事故損失は年間約5,500億円に達するという試算もある。)

 [事故後の迅速な対応支援]
 直接的な事故発生抑止効果の他、死傷者の軽減のためには、事故後の迅速な対応も求められている。ITS技術を活用して事故情報や災害情報の迅速な伝達、救命救急医療システムの高度化なども図られ、事故発生後や災害時における安全性を高めることが可能となる。例えば、カーナビのGPS(位置検出機能)と通信端末を連動させることにより、事故の発生箇所が自動通知されるようになれば、救命救急の初動が短縮され、被害者の救命率は向上すると考えられる。
 
 3) 環境調和型交通システムを実現

 [地球環境への負荷の軽減]
<1>  環境に優しいスマートカーの開発・普及に加えて、駐車場の情報提供やパークアンドライドの積極的活用による自動車交通の公共交通への転換や、物流効率化による走行車両数の抑制・調整などITSによる環境調和型交通システムの実現により、一層のCO2排出量削減が期待できる。
<2>  さらに、走行支援に関する技術の開発により、プラトーン走行(車群走行)の実現が可能となれば、走行中の車両のCO2排出量を10〜15%程度削減可能とする試算もあり、物流車両による環境負荷はさらに軽減するであろう。
<3>  自動車部門の燃料消費量の11%は渋滞によるものであり、ITSの導入によって渋滞が緩和されれば各路線の走行速度が向上し、CO2排出削減が可能となる。
<4>  このような展開により、2010年には、自動車部門のCO2排出の少なくとも1.5%にあたる約110万トンの排出削減が可能と試算されている。

 [沿道環境の改善]
 ITSによる交通渋滞の緩和などに加え、特に厳しい沿道環境地区においては、ITS技術を活用した騒音負荷の大きな車両の誘導や乗り入れ規制、迂回等により、沿道環境の改善を図ることが可能となる。
 
(2) 経済発展への貢献支援

 [市場及び雇用の創出に貢献]
 ITSの関連分野は21世紀のリーディングインダストリーの一つに成長すると考えられる。具体的には、2000年から2015年までのITS情報通信関連市場について、累積規模は約60兆円、全産業への波及効果を含めると約100兆円と予想されている。雇用面でも2015年には全産業で約107万人という大きな雇用創出に貢献する。(電気通信技術審議会答申99年2月22日より)

 [地域経済の振興]
 ETC専用のインターチェンジ(スマートIC(仮称))の導入により、IC周辺の開発効果にとどまらない大きな経済効果が期待される。また、都心部ではITSを活用した新しい交通システムにより駅前広場等の再生が可能となり、新たな都市開発を通じて地域経済の活性化が期待される。

 [物流の効率化]
 ITSは渋滞緩和による物流移動時間の短縮や、商用車の運行管理支援による輸送効率の向上に大きな効果を発揮する。その結果、国内の物流コストが大きく削減され、ひいては国内企業の競争力拡大と物価の低減に寄与することが可能である。2015年には、ITSにより国内の物流コストの3%が削減されITSによる渋滞緩和に伴い、渋滞によって上乗せされる物流コストのうち15%が削減され、さらに、商用車の運行管理支援等により、物流コストの4%が削減可能とされている。またこれにより、消費者物価も0.14%低減されるという試算もあると試算されている。走行支援システムの進歩によりプラトーン走行(車群走行)が実現すれば、輸送コストの一層の低減を図ることも可能となるであろう。
 
(3) 生活・地域社会等における多様な国民ニーズへの対応
 
 1) 高度なサービスの提供による生活の質の向上
 国民は多様なライフスタイルの中で生活の質的向上を希求しているが、ITSはこれらのニーズに対して生活の場で様々な選択を可能とし、多様かつ高質な生活を提供することに資することができる。

 [高齢者等の自由な移動の支援]
 今後の高齢化社会において、高齢者の自由なモビリティを確保することは社会的な要請であり、特に自動車以外の移動手段を持たない地域においては、喫緊の課題となっている。ドライバーの運動能力は年齢とともに低下すると言われており、走行支援システムによる情報の提供や運転操作の支援は、高齢者ドライバーなどにとって極めて有益である。

 [快適な都市活動の支援]
 ITSによるバス等の運行情報の提供や定時性の確保、輸送力の増強による公共交通機関の使いやすさの向上、駐車場の満空情報の提供や予約システムの導入による円滑な都市内交通の確保、将来的には、より移動の自由度を高める電気自動車の共同利用など新たな交通システムを導入することにより、21世紀に相応しい都市内の移動環境が実現するであろう。

 [快適な歩行環境の確保]
 人間の移動には必ず歩行による移動が伴う。誰もが安心して参画できる社会づくりには、安全で安心な歩行環境の創出が不可欠である。また、多様化・高度化する国民ニーズに対応して、快適な歩行空間も求められている。ITSが提供するサービスは自動車の領域だけでなく、歩行者への情報提供なども含まれるものであり、公共交通利用を含む最適な経路誘導システムの導入・普及により、土地に不案内な旅行者など全ての人に対して便利で安心な歩行環境を提供することになる。

 [その他日常生活における新たな質的向上]
 携帯電話等の爆発的普及が示すように、移動中における情報へのニーズは急速に高まっている。これまで道路上は情報の受発信から取り残されたフィールドであった。今後とも民間レベルでの実用展開に依るところが多いものの、ITS技術を活用した多様な情報の受発信を可能とするシームレスな情報通信環境が実現する。この結果、自動車の移動途中においても物品購入、レジャー、飲食など様々な日常生活情報やオフィスと変わらない情報環境が提供され、生活の質的向上をもたらすことが期待される。
 
 2) 地域ニーズに対応したITS展開による地域社会の活性化
 ITSにより、それぞれの地域特性を生かした活力ある地域社会の構築が可能となる。

 [地域における活用例]
<1>  自立的な地域社会を形成するため、公共交通の確保が困難な地域においても、特に交通弱者のモビリティ確保が必要であり、ITSの運行管理技術の活用等により、住民の利用ニーズに合わせて運行するデマンドバスの導入が可能となる。また、SA・PAや道の駅の情報ターミナル化を核とした地域の情報ネットワーク形成を図ることにより、地域内・地域間の交流が活発となり、地域の観光や地場産業の振興、更には教育・文化の発展が期待される。
<2>  地域の中核となる鉄道駅周辺の自動車交通の整序化や、公共空間の有効利用を進めることが急務である。ITS技術を活用したオンデマンド型のタクシーサービス等の導入により、現行の駅前の公共交通用地を有効に使った新たな都心部の再生・創造を可能とすることも期待される。

 [スマートICによる土地の有効利用]
 ICは、地域の活性化に大きく寄与することから、新たな設置に関して地域の要望が高い。ETC専用のインターチェンジ(スマートIC(仮称))は、インターチェンジ構造がコンパクトであることから、これまでの約1/3の用地と約1/2の費用で整備することが可能となる。その結果、当該インターチェンジが追加導入された地域周辺において土地の有効利用が促進されるとともに、地域連携の強化により広域的な地域の発展の契機となる。
 サービスエリア等に新たなETC専用のUターン機能を有する連絡道を設置することにより、SA・PA及びその周辺エリアが大規模商業施設や物流基地などの機能を発揮することが可能となり、地域経済の活性化や高速道路の利用促進に寄与することが期待される。
 
 3) 安心な国土を実現
<1>  国土の安全と暮らしの安心を確保するため、安全で信頼性の高い道路交通の確保と維持管理の充実を図ることが必要である。ITSにより、災害の状況や災害の発生の恐れのある区間における車両の有無、雨量や積雪・凍結状況等局地的な路面情報の収集などが可能となり、これにより災害発生時の救助活動や除雪・凍結防止作業あるいは通行止め規制あるいは除雪・凍結防止作業などがより的確に実施されるようになり、また迂回路を含めた情報の円滑な提供により、利用者の安全と利便を向上させるとともに災害による被害を低減させることが期待される。可能となる。
<2>  ITS技術の活用による自動車からの情報収集が可能となれば、全国各地において災害、事故等に関する局地的な情報の迅速な収集と提供ができるようになり、更にきめ細かい地域の防災システムの構築も可能となるであろう。
<3>  また、ITS技術により道路状況の点検や情報収集・評価を容易に行えるようになり、沿道環境の改善、利用者の快適性・安全性の確保、並びに計画的・効率的な道路の維持管理を行うことにも寄与するであろう。
 
 4) 21世紀の国民生活や社会への波及

 [国土の有効利用]
 ITSの効果は、道路交通問題の解決および、道路交通を媒体とした新たな価値の創造にとどまらない。例えば、河川の情報化、住宅の情報化など他の社会資本の情報化ともネットワークとして統合されることによって、あらゆる地域において情報へのアクセス性の飛躍的な向上、地域ポテンシャルの高まりが期待される。その結果、従来の国土構造や都市構造にとらわれない国土構造の再編及び新たな地域社会の形成が可能となり、国土の有効利用に大きく寄与することが期待される。

 [大規模災害時の対応]
 大規模な災害時における迅速な情報収集・提供や広域的な支援体制の整備などにより、国土の適切な管理にも大きく貢献する。

 [国民生活の高度化支援]
 医療や福祉の面では、ITSの技術・インフラを活用して、巡回車両と医療・福祉施設、患者・被介護者宅などの間で情報受発信が可能となることにより、より高度かつ低廉な地域医療サービスの実現が期待できる。更には社会資本の情報化に呼応する形で、遠隔地からの映像を利用した体験型教育システムや在宅介護の高度システムなどについて、民間企業が新たな商品・サービスを開発することも期待され、その結果として、より大きな社会的効果がもたらされ、21世紀の国民生活は一層、便利で快適なものになるであろう。

 [社会の高度情報化支援]
 ITS実現に必要なスマートウェイ(のプラットフォームの構築)は、GISの構築等と相互に補完しあい、様々なサービスの実現を可能とし、他の交通モードはいうに及ばず、国民生活全体の高度情報化にも大きく寄与することが期待される。


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