III. 道路政策のめざすべき方向

(2)政策内容の充実

 これまでの重要な道路政策の着実な推進に加えて、「ソフト施策の導入や施策の総合化等、関係省庁等と連携して新しい分野に取り組むこと」(政策領域の展開)を進めるとともに、「達成すべき目標を設定し、各種の施策を最適に組み合わせ、計画的、重点的に実施すること」(戦略的施策展開)等の新しい政策手法を確立することが必要である。

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1)政策領域の展開 〜重要な施策の着実な推進とマネジメントの導入〜
 財政的な制約の中で、これらのサービス目標を効率的に実現するためには、関係機関の協力と国民の理解を得て、新しい分野に取り組むことが必要である。このため、重要な道路整備を着実に推進することに加えて、ストックの有効活用、良質な道路の効率的整備等の観点から、ソフト施策の導入、施策の総合化、関係機関との連携、制度の弾力的運用、空間の有効活用等、各種の施策を総合的に活用するマネジメントの考え方を導入することが必要である。

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1.移動の効率性を高めるための展開
 地域間の競争条件の整備と国際競争力を確保するためには、人・モノ・情報の効率的な移動の確保が不可欠である。このため、高規格幹線道路等の幹線道路網の効率的な整備に加えて、複数の交通機関を組み合わせた輸送が効率よく行われるよう相互の連携を確保、改善することが重要である。また、ソフト施策もあわせて展開することにより他の交通機関と一体となって移動の効率化を図ることが必要である。
イ)総合的な物流対策、交通需要マネジメント(注8)等による既存ストックの有効活用
 広域物流の効率化のため、主要な空港・港湾等への連絡道路などの重点整備による複合一貫輸送の促進に加え、車両の大型化対応、物流システムの情報化等関係省庁、民間事業者との連携による施策の総合的展開を行うべきである。
 都市内の渋滞対策や物流の効率化、環境負荷の低減などのため、環状道路の整備をはじめとした道路整備に加え、マルチモーダル施策(注7)の一環として新交通システム、路面電車等の公共交通機関への支援を充実・強化するとともに、時差出勤、パークアンドライド等の交通需要マネジメント施策を都市の規模や交通特性に応じて導入すべきである。
 これらを実施する際には、VICS(注9)等によるきめ細かな道路交通情報の提供や高速道路料金所のノンストップ化など、高度道路交通システムの活用による既存ストックの利用効率の向上策をあわせて行うべきである。

ロ)道路網体系の再構築、事業の重点化による道路ネットワークの効率的整備
 幹線道路網を効率よく整備するためには、広域的な幹線道路網体系を再構築する必要がある。また、地域の発意による地域活性化に関する広域的な計画に基づく道路について、重点的に整備すべきである。その際、一層の効率化・重点化を進めるため、これまでの一律な道路構造の採用を見直し、交通特性等に見合った経済的な道路構造とすべきである。
 都市間の広域的な交流を支える高規格幹線道路の料金水準については、これまでは整備目標量を決め、その整備により必要となる料金改定が行われてきたが、今後は物価、金利など経済情勢が大きく変化しなければ、建設・管理費の節減や整備の重点化、国、地方公共団体の適切な役割分担をふまえた公的助成の一層の拡充等により、基本的には料金を上げない範囲で整備を進めていくべきである。

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2.地域・都市における生活の質を高めるための展開
 質の高い生活環境を確保するためには、道路空間の緑化などの景観整備を進めるほか、都市機能の向上が必要である。都市における公共空間としての道路の役割は重要であり、人の観点から見直し、空間機能の充実を図ることにより、地域・都市づくりに貢献すべきである。

イ)道路の歩行者空間や収容空間としての有効活用
 環状道路等の整備により交通需要が減少した都心部の既存道路等については、道路空間の再構築により車中心から人中心の道路づくりへ転換し、特に住居系地区内では、歩行者等を優先する空間としてコミュニティ・ゾーン(注10)化を図るべきである。また、高齢社会に備え、バリアフリー歩行空間・たまり空間の整備を行うなど歩行者の視点からの道路整備を進めるべきである。
 道路は交通機能に加え、良好な市街地の骨格を形成するとともに、水道管、ガス管、情報通信ケーブル等ライフラインの収容空間となっていること、防災活動のための空間としての機能を有すること、地下鉄などの公共交通施設等の収容空間となっていることなど、生活を支える最も根幹的な空間機能を有していることを再認識し、生活の質を高める基盤となるライフラインの収容空間として共同溝、電線共同溝、情報BOXの整備を促進する必要がある。
 ライフラインの収容や維持管理を目的とした路上での占用工事によって生じる渋滞による大きな社会的、経済的損失を抜本的に削減し、沿道環境を改善するうえで、共同溝は絶大な効用を発揮するうえに、地震等の都市の防災や都市景観、次世代の新しい情報通信ネットワークの整備促進に大きな効果がある。このような観点から共同溝の整備促進を図るための方策・制度を検討すべきである。

ロ)道路空間と沿道空間との一体整備などによる効率的整備
 良好な市街地形成のため、都市内道路整備については、これまでの道路空間主体の整備から、沿道空間との一体整備への取り組みを基本とし、沿道敷地の活用や建物の立体的活用による道路空間の創出を図るべきである。
 市街地整備について、新市街地の整備に対する投資から既成市街地の再構築に資する道路整備への投資に大幅に移行すべきである。特に、地方都市等の中心市街地活性化を重視し、区画整理事業と建築物との一体的整備の推進、駐車場の整備等を促進すべきである。

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3.新しいライフスタイル実現の鍵となる分野への貢献(環境保全、情報化、技術開発等)
 環境保全、高度情報化などの新しいライフスタイル実現の鍵となる分野において道路政策が果たすべき役割は拡大しており、これらへの対応が求められている。また、人工衛星を利用したGPS(注11)技術やデジタル道路地図の整備がドライバーに対するサービスやナビゲーション市場を創出したように、社会資本整備に伴う新技術や基盤整備が新しいサービスや市場を創出する。
 このため、道路政策に関連してもたらされる多様な価値についても評価し、環境保全や高度情報化への対応、技術開発の推進に積極的に取り組むべきである。その際、民間事業者との連携や他事業との連携による効果の拡大等にも十分配慮して事業や技術開発を実施することが望まれる。

イ)環境保全への対応
 環境保全・向上を道路整備の重要な目的の一つとして位置づけ、施策を推進することが必要であり、自然環境の保全を図るうえでの基本的な考え方や具体的な方法を指針としてとりまとめることが必要である。また、個別の道路整備については、自然環境への影響や景観の向上などの環境要素を取り込んだうえで、整備効果と整備費用を比較して総合的に是非を判断するとともに、CONOx(注12)対策、リサイクルの推進、電気自動車等の省エネルギー・低公害車の普及促進など、環境負荷の軽減を政策目的とすることも必要である。

ロ)高度情報化への対応
 高度情報通信社会の構築を促進するため、情報通信ネットワークである情報ハイウ ェイの構築支援や高速道路料金所のノンストップ化、国際標準を念頭においた安全走行支援技術などの新技術開発、さらには、道の駅、サービスエリア等において地域が主体的に行う情報提供と道路交通情報等の提供との連携などに取り組むことが必要である。

ハ)技術開発の推進
 技術開発は、環境保全、高度情報化、渋滞対策、交通安全、防災、コスト縮減等今後の道路政策に必要な技術に関し、重点テーマを設定して集中的に推進していくことが必要である。
 推進にあたっては、使う側の視点に立って、利用者にわかりやすい目標や技術開発成果の経済的効果等を明確にするとともに、異分野も含めた他省庁、大学、民間等の研究開発力や研究成果の有効利用を図る等、総合的かつ戦略的に進めていく必要がある。

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2)新しい政策手法の導入 〜戦略的施策展開の導入〜
 サービス目標を実現するためには長期間を要するため、状況の変化に対応してサービス目標の見直しを求められる場合も考えられる。柔軟性を持って的確に目標を達成していくためには、効率的かつ計画的な事業展開を可能にする政策手法が求められる。このため、新しい政策手法として、戦略的施策展開の考え方を導入するとともに、費用負担のあり方と多様な経済的手法の検討を行うべきである。

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1.戦略的施策展開の考え方の導入
 目標を効率的に達成するためには、達成すべき目標を設定するとともに、関係省庁等と連携して各種の施策を最適に組み合わせ、総合的な計画に基づいて計画的、重点的に実施することが必要である。その際、国は、全国的な政策方針と国として達成すべき目標を設定し、責任を持って必要となる施策を行うとともに地域による選択可能な複数の施策例を提示すべきである。また、地方は、各地域の実状に応じた目標を選択的に設定し、その達成のための施策体系と関係者の役割分担を明らかにした総合的な計画を立案するとともに、これに基づいて計画的、重点的に実施すべきである。
   道路整備には長期間を要するものが多く、中期的な目標とそれに必要な投資規模を示す事業計画を策定することにより、計画的かつ効率的に進めていくことが必要である。計画の実施に際しては、道路政策と地域政策との関係や、費用対効果を明らかにしつつ、定期的な進捗管理を行うとともに、事業量と事業費に関して達成実績の評価と効果分析を行うべきである。

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2.費用負担のあり方と多様な経済的手法の検討
 現下の厳しい財政状況の下で道路整備を行うためには、受益者負担・原因者負担の考え方に基づく道路特定財源制度は今後ますます重要になると考えられるが、その際、道路整備の必要性・効果等に関する情報提供により、負担のあり方について国民の理解を得られるよう努める必要がある。
 また、有料道路は、現在、整備に要する費用を原則として利用者が料金として負担しているが、一般道路を含めた道路網全体の効率的な形成と利用に貢献していることを考慮すれば、直接の利用者だけでなく、幅広い受益者を代表する国や地方公共団体の果たすべき役割も大きいと考えられる。さらに、利用者の料金負担を個々の道路の走行性や利便性等に対応したものとすることも今後の検討課題である。
 一方、近年、渋滞対策や環境対策が重要な課題となっているが、財政的制約の中で早急に問題解決を図るためには、必要な施設整備に加えて、料金制度を活用したソフトな対策も考えられる。例えば、都市部の交通対策として、社会的コストを勘案した課金など、交通誘導等のための多様な経済的手法に関する施策について、その合理性、利用者の受容性を十分検証するとともに、海外における導入事例も参考に広範な議論と検討が必要である。
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