III. 道路政策のめざすべき方向

(3)政策の進め方の変革

 道路政策の基本的方向の転換と内容の充実にあわせて、道路政策の進め方も透明性が高く、効率的なものに率先して変革すべきである。
 このため、目標設定から事業の実施にいたる各場面において、より一層の情報公開と「利用者のニーズへの的確な対応と効率的な施策展開、事業執行を可能とする、施策の評価、改善等を行うためのシステム」(評価システム)の導入を進めるとともに、投資の重点化やコスト縮減のための整備、運用方法の改善などに取り組むことが必要である。またその際には、「関係者の積極的参加と相互理解に基づく適切な役割分担」(パートナーシップ)の確立が重要である。
 これまで述べてきた様々な取り組みは社会的に大きな影響を与えるものも多く、政策内容の充実や政策の進め方の変革を実現するうえで、「期間を限定して実際に現地で試行し、評価をふまえて本格実施に移行すること」(社会実験)も必要である。

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1)評価システムの導入
 「事業目的や社会的な効果を十分確認して投資を判断する時代」には、国民の意見や満足度を反映した的確な目標設定と目標実現に向けた効率的な施策展開、事業執行が求められている。これを実現するためには、道路政策の不断の見直しと改善が必要であり、判断に必要な情報収集と実施結果の評価(見直し)及びそれに基づく改善のための方法と体制が政策の進め方の中に組み込まれなければならない。
 このため、Plan(企画)/Do(実施)/Check(見直し)/Action(改善)の考えを導入し、利用者のニーズの把握と的確な対応、効率的な施策展開と事業執行を可能とする評価システムを構築していくべきである。
 標準的な評価方法は、幅広く各方面の意見を取り入れるなどにより、可能な限り客観的な方法として構築されることが必要である。また、事業者はこの評価方法に基づいて評価を行い、その結果を公表していくことにより、評価の客観性と透明性を確保する必要がある。さらに一定規模以上の事業については、必要に応じて学識経験者等を含めた機関を設置して評価内容をチェックすることが望ましい。これらを通じて、施策の継続的な改善と国民とのコミュニケーションが行われることが期待される。

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1.国民の意見、満足度を反映した目標設定
 行政は広く国民の負担によって運営されており、国民が十分に納得できる行政サービスを提供することが求められる。しかし現在は、国民のニーズや意見が必ずしも十分に行政側に伝わっておらず、政策に反映されていない場合がある。今後は、マーケットリサーチ(注13)の実施や意見を常時受け付けるシステムの充実等によって国民のニーズや意見を継続的に把握するとともに、得られたデータの蓄積、分析の実施により政策に反映していくことが必要である。

2.目標を実現するための施策展開の評価
 政策目標を効果的・効率的に実現するためには、その目的の達成度合いが判断できるよう、できる限り客観的な指標を用いて評価を行うことが重要である。このような指標の下に、関係者が共同で施策体系と役割分担を明確にした総合的な計画を立案し、それに基づいて相互に進捗状況を調整しながら計画的、重点的に施策を実施すべきである。施策の展開にあたっては、できる限り定期的な見直しを行うべきであり、その結果、当初の目標との間に乖離が生じた場合には、原因を分析して課題を抽出し、関係者間で協議しながら、計画の見直しや施策の改善を行うことが重要である。  このような企画〜実施〜見直し〜改善の一連の取り組みを通じて計画、施策が改善され、より効率的な目標の達成が可能となる。

3.個別事業の評価
 最近、道路事業の着手の際に、費用便益分析(B/C)を含めた評価項目を用いて事業の熟度や必要性を評価し、新規採択の優先度を決定する判断材料として公表することが始められている。これらの取り組みに客観指標による現状評価など、さらなる評価手法の改善を加え、個別事業の採択にあたって優先順位などの決定に反映すべきである。具体的には、事業の必要性の他に、緊急性、整備効果、事業費や工期の妥当性等についても評価の対象に加え、アカウンタビリティー(説明責任)を高めることなどである。
 事業が完了した段階においても、計画段階で期待した整備効果や事業費、工期が実現したかどうかについて評価すべきである。また、道路は長期間にわたってその効果を発現するため、継続的な評価も必要である。道路利用者の視点から見たサービスレベル、道路管理者の立場から見た舗装や標識、防災対策等の管理レベル、情報提供や路上工事等の運営レベル等について評価し個別事業や政策方針に反映すべきである。

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2)重点投資とコスト縮減
 限られた財源を有効に活用し、道路事業を効率的・効果的に進めていくためには、重点投資による投資効果の向上とその早期発現に努めるとともに、道路整備に必要なコストの一層の縮減に努めることが必要である。

1.重点投資の推進
 事業の効率的・効果的な推進に向けて、対象とする重点的施策の明確化、事業期間の短縮などにより、投資の重点化を図る必要がある。このため、前に掲げた政策方針や各地域が設定した目標の達成に対して効果的に寄与するものを重点的施策と設定し、集中的に実施すべきである。また、事業の推進にあたっては、その効果を最大限に引き出すべく、関係省庁や他分野の事業との連携に積極的に取り組み、公共投資としての総合的な効果発揮に努めるとともに、事業の箇所、着手時期、完成時期等を明示したプログラムを策定し、国民に公表していく必要がある。
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2.コスト縮減の推進
 平成9年4月には$公共工事コスト縮減対策に関する行動指針及び行動計画が策定され、平成11年までの3年間に、関係省庁と連携した取り組みによって、少なくとも10%以上のコストを縮減する目標が定められている(右上図参照)。道路事業の分野においても、この指針・計画をふまえて着実に実行していくことが必要である。特に、利用者の料金負担によって整備される有料道路を運営する公団は、事業の効率化をより一層進めるとともに、建設費、管理費の節減への取り組み状況を明らかにして利用者の理解を得るよう努めることが重要である。
 今後は、道路ストックの増大により事業費に占める維持管理費の割合が増加すると予想される。建設コストのみならず、維持補修コストを含めたライフサイクルコストの縮減にも積極的に取り組むべきである。また、用地取得の難航、埋蔵文化財調査による事業の遅延等によって、事業効果の発現が大幅に遅れる事例も見られる。供用の遅れは、投下した資本からの収益回収の遅れとともに、他の投資の停滞にもつながるため、国民経済的に大きな損失である。今後はこのような遅延コストを縮減するため、土地収用法等用地取得に関わるルールの厳正な適用、埋蔵文化財調査の効率化や調査手法の標準化等に関し、関係機関と調整していくべきである。

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3)パートナーシップの確立
 国民のニーズが多様化するなか、21世紀に向けてよりよい社会を実現するためには、国民と行政、官と民、国と地方等の間で、新しいパートナーシップの関係が必要となっている。国民の理解を得ながら速やかに目標を実現するため、関係者が積極的に参加し地域の課題や政策方針等についてオープンに意見交換するなど、相互理解したうえで方針を決定するような仕組みとこれをふまえた関係者間の適切な役割分担が必要である。特に道路は交通機能や空間機能を通して様々な形で社会とのつながりを持つため、関係する機関や住民等社会全般との相互理解を深めていくことがより一層重要となっている。
 今回の提言にあたっては、パブリック・インボルブメント方式(注1)を採用し、国民との対話を行いながら、政策提案を行うことを試行した。相互理解のための仕組みには様々な形態があると想定されるため、今後は効果や手法等についてより一層議論を深め、可能なところから逐次モデル的に取り組み、適切な手法を開発していくことが重要である。

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1.国民と行政の役割分担
 計画策定等の場面において、事前に情報を公開し、適切な国民参加の下に意志決定が行われる仕組みを構築すべきである。またその際、情報公開を前提として、利用者・関係者が自らの責任において施策の選択を行うことも必要である。
 計画の段階では、幹線道路等の大規模な事業の場合は、事業主体が検討案を作成する早期段階において、案の内容やその評価結果を国民に公表し、検討案について事業主体と国民各層が意見交換を行うとともに、有識者からのアドバイスを求めるシステムを構築すべきである。また、当面の渋滞解消策として流入規制やロードプライシング(注14)などの交通需要調整策を導入する際には、経済・社会、市民生活に大きな影響を及ぼすため、利用者・関係者も含めた幅広い議論・検討を行ったうえで施策の選択が必要である。
 コミュニティ・ゾーン(注10)等の地域的な事業の場合は、事業主体と関係住民が責任を持って参加する協働型で事業を進めることが望ましい。協働型の事業を円滑に進行させるためには、参加者の責任と自覚、地域の声をまとめるリーダーの育成に加えて、事業に関わるルールの確立や行政側の協力と支援が必要である。特に、防災上危険な市街地の改善など緊急性の高い事業では、事業を円滑に推進する観点から住民合意のルール作りが重要である。また、沿道景観の改善を目的とした広告物等の規制やトランジットモール(注15)の整備等では、関係者との調整の下で住民自身が検討し、決定することが必要である。
 事業の段階においても、適宜事業の進捗状況を公開し、国民や関係者の理解と協力を得ていく必要がある。また、管理の段階においても、自発的な参加希望に基づくモニター制度や、複数の道路管理者の窓口を一本化して国民の意見を聞くシステムを全国に展開するなど、国民の声が直接、道路管理者に届くような仕組みを構築する必要がある。その際には、寄せられた意見や要望について適切に対応できる体制もあわせて構築する必要がある。また、その意見や要望は、データベース化して他の事業に反映できるようにするとともに、一定期間ごとにまとめて公表すべきである。

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2.官と民の役割分担
 我が国の道路整備においては、これまで東京湾横断道路、開発インターチェンジ等で民間活力の活用を図ってきている。財政状況が厳しいなかで効率的に事業を実施していくためには、民間の資金と技術力、経営のノウハウを一層活用することが重要である。従って民間に委ねる部分のさらなる拡大を図るために、官と民の新たな役割分担と協力関係を構築する必要がある。その際、近年の低金利下において民間の資金が海外に向けられていることを踏まえれば、高齢社会の到来を目前に控え、早急な社会資本の整備のためにこのような資金を活用する工夫が望まれる。
 今後、我が国の道路整備において民間活力をさらに活用する手法について、近年諸外国で実施されているBOT方式(注16)の事例等を参考にしつつ、対象事業の範囲、条件、手続き等我が国の実情に適合した制度や仕組みに関して民間事業者を含めた場で検討すべきである。その際インターチェンジやサービスエリア等各種施設の整備や活用などに民間との連携を導入することも含め、幅広く検討する必要がある。
 なお、これらの事業の実施については、その効果等を検証するため、試行段階を設けることが望ましい。

3.国と地方の役割分担
 これまでも一般国道、都道府県道等道路の機能等に応じ、国、地方公共団体が適切に役割分担を行いつつ、その整備、管理に努めてきたが、補助金や機関委任事務等の様々な仕組みにより、制度上は対等であるにもかかわらず、地方の国への過度の依存といった関係が生まれ、地方の自立性の低下や行政効率の低下等を招いているのではないかとの指摘がある。
 地方から国に対して積極的に提案が行われるなど、対等な立場で進められているものもあるが、今後一層、地方分権を進めるとともに、国と地方の権限と責任をより明確化したうえで良好なパートナーの関係を築き、効率的な行政運営を行うことが必要である。  国と地方の役割分担については、国は、地方公共団体では適切かつ効率的な対応が困難である広域的・根幹的道路網の整備・管理を自ら責任をもって実施することが必要である。また、根幹的な道路網を核として、市町村道を含む全体のネットワークが効率的・効果的に機能するように、全国的・広域的な視点から中枢的な役割を果たすことが重要である。
 また、地域に密着した身近な道路に関しては、地方公共団体が権限と責任をもって整備を行うことを基本とする。国は、大規模プロジェクト・特別立法関連や21世紀の諸課題に対応した先導的なプロジェクト推進等の観点から、国による支援が真に必要とされるものに対して重点的・機動的に支援を行うべきである。

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4)社会実験の積極的実施
 社会的に大きな影響を与える取り組みの実施にあたっては、新しい仕組みへの変革の手段として、あるいは施策の効果を把握しつつ関係者の合意形成を進める手段として、「期間を限定して実際に現地で試行し、評価をふまえて本格実施に移行すること」(社会実験)を積極的に取り入れるべきである。
 社会実験は、その地域が改善されるだけでなく、他地域に有効な実験成果を提供できる反面、リスクと費用を伴うものである。このため、実験箇所を限定するとともに、実施する地域に対しては国の特段の支援が行われるべきである。実験終了後には、成果を共有するため、実績の評価と結果の公表を行うとともに他地域への普及方法について検討することが必要である。また、結果をふまえて、社会実験の継続、本格実施のとり止めを含めて施策の改善を継続的に行うとともに、国の政策方針の改善にも反映すべきである。

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