4.NPOによる移送サービスの提供−石川県七尾市−
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ポイント
■石川県内で第2号の特定非営利活動法人として認定されたNPOが七尾市および周辺 地域で移送サービス事業を展開している。
■運営方法は身障者・高齢者を対象とした会員制であり、利用は原則予約制、利用距離 と時間に応じた料金を支払うこととしている。
■口コミで利用会員が増加し、サービス開始から1年を経過していない段階で、会員数 は300人を大きく超えている。
■予約制の徹底による効率的・計画的な配車、従業員の確保と教育が課題である。
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(1)地域交通の状況と施策のねらい
@地域概況
- 石川県七尾市は能登半島中部に位置する人口約48,574人(平成10年)の都市であり、七尾鹿島広域市町村圏を構成する能登島町、中島町、田鶴浜町等の中心に位置する。
- JR七尾線が鹿西町・鳥屋町と七尾市を結び、また圏域北部中島町、田鶴浜町とは、のと鉄道七尾線によって結ばれている。
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A導入の経緯
- 医療施設の元職員が中心となり、居宅支援事業を展開するための初期段階として平成11年4月に移送サービスを開始したが、反響が大きかったことから同7月にNPO法人格を取得して移送サービスを中心的事業とした。
- 事業開始当初は圏域北部の中島町を中心として活動していた。同町の山間部ではバス停に出るまでに徒歩で1時間以上を要する集落があり、診療所に出かけるのにも弁当持ちでなければ出られない現状であったり、また家族の運転する自動車に同乗する場合は、家族の通勤時間に合わせるため早朝から病院で診察待ちをしなければならないという現状から、移送サービスの必要性があると考えられた。
(2)施策内容
- 会員制をとっており、年会費は2,000円、会員数は337人(平成12年2月現在)となっている。
- 会員資格は、60歳以上で通院を必要とする虚弱者、身障者の場合は1,2級の身障者である。
- 利用者は原則として前日までに予約し、利用距離、時間に応じた料金を負担して利用する。
- 利用エリアには制限はなく、複数の市町村にまたがる広域利用も可能である。
運営主体 |
特定非営利活動法人三美会 |
運行主体/同法人 |
実施場所 |
七尾市および周辺地域 |
導入時期 |
平成11年4月 |
施策内容
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車両/3台(2台はストレッチャー付) |
路線数・延長 − |
運行頻度/− |
利用者数/6,445人/11ヶ月 |
料金/500円/5km/0.5h、以後200円/km |
導入時 |
初期費用 |
不明(車両購入費) |
負担者 (補助制度)
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個人で1台目の車両購入(ただし後法人所有に転換)。他の1台は日本財団からの寄贈、他1台はリース。 |
運営時 |
運営費用 |
不明 |
負担者 (補助制度)
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同法人
・日本たばこ産業(人件費の1人半年分)寄付(平成12年度)。
・社会福祉医療事業団から情報機器関係の補助 |
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(3)工夫した点・苦労した点
●運営組織としてのNPO
- 移送サービスを実施するための法人格の選定に際して、NPO以外に医療法人や社会福祉法人などの選択が考えられたが、医療法人や社会福祉法人は、法人格取得にあたって資金、資産面の条件が厳しいことから、NPOを選択した。
- 法人格を得ることによって、職員が社会保険に加入すること、契約関係も法人として契約すること、地元信用金庫で借入を行うこと、移送サービス用車両を法人所有にすることが可能となった。
- 正職員2人とパート1人を雇用し、ボランティア活動ではなく、事業として移送サービスを行っている。
- NPOの場合、役員報酬や配当金を支払えないという制約はあるが、特にデメリットとは考えられていない。
●料金設定における工夫
- 基本的にタクシーとバスの中間程度の料金を考え、距離を長く乗る場合でもタクシーの6〜7割程度で利用できる料金とした。
- 七尾市には、民間救急サービスを行っている事業者が営業を展開しているが、最低料金が4,000円であり、1回5km以内の乗車で7,000〜8,000円を要する。だれもが利用できること、わかりやすい料金設定が必要と考え、救急サービスの免許取得は見送った。
- 現在の料金は500円/5km/30分という基本料金で以後乗車キロによる加算があるが、会員制であるため、1度利用すればおおよその料金が把握できるため、毎回の料金計算の必要はない。
●関係機関との調整
- 移送サービスにおける道路運送法の適用については、当初緑ナンバーを取得しようと考えたが、緑ナンバーにすると料金設定を安くするなどの自由度がないことから、料金を実費程度の範囲内に留めることとし、白ナンバーでサービスを提供している。
●運営上の工夫
- 年会費は夫婦のうち一方が登録すれば、もう一人は無料で会員となることができる。また会費は、年度締でなく、加入月から1年間有効となっているため随時入会可能である。
- 基本的には予約制としている。予約制にすることによって配車の効率化や相乗りを進めようとしている。
(4)施策の実施効果
- 当初1年間の利用会員の入会は200名を目標としていたが、口コミで広がり11ヶ月で会員数は337人にのぼる。割安な料金設定ときめ細かなサービス提供により、利用回数も月ごとに増加の傾向を示している。
- 移送サービスがなければそれを前提として生活することになるが、新しいサービスが導入されたことによって、潜在的なニーズが顕在化し、新しい行動パターンが生まれていると考えられている
- 利用エリアに制約がないため、周辺地域から七尾市の総合病院への通院利用が中心となっている。
- 年会費と料金の収入のみで人件費や燃料費等を捻出し、行政からの助成を一切受けずに事業運営を行うことに成功している。(ただし、平成12年度は人件費の一部について民間企業からの寄付を獲得した。)
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図2-6 利用回数と会員数の伸び

資料)三美会資料より三和総合研究所作成
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(5)今後の展望と課題
- 基本的には予約制としているが、実際には当日の利用直前に連絡をしてきたり、また予約してもそのことを忘れてしまう人が多く、予約制が徹底していないのが現状である。そのために効率的・計画的な配車ができないという問題がある。
- 人員・台数を増やし効率的な配車を行うことが必要と考えられている。
- 会員は高齢者が多いために、自分の住所・氏名・移送先等の正確な情報を伝えられないこと、運営側が伝えたい意思が伝わらないことなどコミュニケーションの問題があり、電話対応のための専任の事務員が必要となっている。(現状は運転手が事務を兼務している。)
- 移送サービスを行う法人であることから、職員がホームヘルパーや介護福祉士など関連する資格取得を進めることも必要とされている。
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