交流を拓く情報化
第1回『情報化の現状と交通』
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[背景]
§情報化の進展
・情報化の進展は著しい。その中で、地域における情報化も進み、全国の2割以上の自治体で地域情報化計画が策定されており、様々な業務の情報化が進んでいる。
・また、ユーザー側として、例えばインターネットの利用は、過去2年間で2倍以上に増加しており、2,000万人近くに達している(1999年12月推計)。なかでも家庭からの接続が増加しており、過去2年間でおよそ4倍となっている。
§情報化に伴う社会の変化
・こうした情報化の進展により、例えばテレワーク等に伴う就業構造の変化等、社会へのさまざまな影響も考えられている。
§情報通信と交通との関係
・その中で、情報通信と交通との関係について、大きく見ると、@『交通・情報通信体系』と総称されることもあるように、国内外の地域相互を結びつける基礎的基盤の両輪としての関係、そして、A『ITS』『観光情報提供』等に代表される交通体系を情報通信技術が支援するという関係に区分される。
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論点: |
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・地域・社会の情報化の実状、今後の方向性は? |
[ゲストスピーカー]
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●情報通信は交通を代替していない
・潟rューワークスの主な業務はTVや劇場用のアニメーション等のマルティメディア制作・CG制作である。クライアントは主として在京の企画・制作・放送等のディストリビューターである。
・情報化によって交通需要が減少するという議論がある。事務経理等の基幹業務ではある程度あり得るが、マルチメディア制作についていえば無理である。それは、制作作業は制作者の個性や力量が強く反映されるため、クライアントとの報告・確認を密に行わなければならないことが最大の要因である。また、クライアントであるディストリビューターが東京に集中している現状もふまえ、東京まで出張する機会は年々多くなっている。
・また、こうした打ち合わせとは別に、画像データのやりとりを行う必要性も多くなっているが、画像データは容量が大きくネットワーク上での伝送は現在の通信環境では事実上不可能である。結果として宅急便や郵送に頼らざるをえず、情報化により郵便量の減少につながっていない。
●情報化による連携・交流の進展は
・情報化による地域連携について、北海道では実感がない。むしろ、東京など大都市圏へのさらなる一極集中が進んでおり、都市と地方の双方向交流ではなく、仕事を受注するための地方から大都市への一方的な移動が増えている。また、有名な話であるが、韓国等でのアニメ制作も、珍しい話ではなくなっている。ある意味で国際交流の一つであるといえるかも知れない。
・インターネットショッピングは、国内では大きく伸びている。国際間のものの流れについては、周囲を見渡した限りでは、語学の壁や為替事務の繁雑さ、ユーザーニーズへのきめ細かな対応が難しいことから、輸入主体は個人から大手専門業者にシフトしているようである。
●情報化で雇用構造が変わる・変えられる
・大都市における情報処理量の増大に伴い、中央における雇用機会が増える一方、地方からの人材流出が進んでいる。地元の例として、情報技術を学んだ旭川工業高専の卒業生を例に取ると、以前は20%は地元に就職したが、現在は95%が東京に行く。
・こうした状況を鑑みると、情報化が進むと地方の時代になるという安易な論調には疑問がある。現状では、太い回線を引いても需要に間にあわず、郵送量や移動回数が増えるばかりである。郵政省のギガビットネットワークなども、ユーザー段階のメリットはそう大きくない。北海道ではインフラ整備の結果、交通面ではかなりゆとりが出ているので、今後は新幹線よりも情報インフラ整備を進めてほしい。さもないと人材流出がさらに進む。
・つまり、情報化による地域・社会の変化について、受け身では地方はやっていけない。能動的に変えていくことが必要であり、そのための取り組みを進めている。
・現在、旭川市では、市民36万人のうち2万人が身障者手帳を持っている。こうした人たちの雇用の場を創るため、情報基盤を通じ、アニメのセル画制作や地図情報のCADデータ化などを適正価格で請け負う仕組みづくりを検討している(参考資料)。
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●地域の情報化を仕掛けてきた
・『地域情報化』という概念は特に新しいものではないが、5年くらい前から地域活性化と絡めた取り組みが積極的に行われるようになってきた。
・全国およそ3300の自治体のうち、200〜300団体が情報化に取り組んでいるといわれているが、事務作業の電算化から、ハード・ソフトの両面での地域ネットワークの整備といった大きな規模のものまでさまざまである。三菱電機鰍ナは、情報通信機器等、ハード面での情報インフラはもとより、その上でのアプリケーションの提案まで、自治体と議論しつつ、地域情報化に携わってきた。
●県レベルでの情報化〜高知県「KOCHI 2001 PLAN」
・県レベルで情報化への取り組みを積極的に推し進めている県として、高知県が挙げられる。高知県は全国でも特に高齢化が進み、地域活性化が大きな課題となっていることもあり、知事が中心となって全県レベルの情報化プロジェクトを推進している。
・具体的には、大容量(50MB)の基幹通信網を整備し、保健・医療・福祉情報システム構築による高齢化への対応や、道の駅「KoCoRo'97」の情報化による観光・行政情報の発信、あるいはドリームネットによる教育の情報化、そして高知工科大学による産業振興など、総合的な情報政策を展開している。
●交通基盤の代替としての情報化〜北海道別海町「先進的情報通信システムモデル都市」
・人口およそ2万人の北海道別海町は、町村としては比較的規模は大きいものの、面積が神奈川県ほどもあり、高齢化を迎え、長距離移動が一つの課題として挙げられている。ここでの情報化は、遠隔医療をはじめとするシステムにより、長距離移動の障壁をなくすことを目的としてはじめられた。
・具体的なシステムとしては、TV電話による遠隔医療、TV会議の活用による移動を伴わない行政関連会議の開催などが実現されている。このほか、全小学校にパソコンを設置し、情報化による教育レベルアップや、酪農技術の向上、技術情報の共有なども進められている。
●庁内の情報化、地域の情報化〜岡崎市「高度情報化計画」
・地域情報化のデパートとでも言えるのが岡崎市。早くから庁内情報化に取り組んでいたが、CATVの普及に併せ、住民生活の情報化も急速に進んでいる。
・比較的早くから整備されていたCATVのネットワークに光ファイバーを組み合わせ、最新のシステムにキャッチアップしている。
・情報化の中核施設である情報ネットワークセンターを拠点に、行政情報のほか駐車場情報等の生活情報発信、テニスコート予約等の双方向情報発信を展開している。
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●情報化は地域を変えたのか?
Q:情報化によって地域への影響はあったのか?
A:あった。例えば、インターネットで観光情報等を発信した結果、市外との交流が活性化されている。また、農業情報の発信で、農業に関心を持つ都市住民が郊外の農園を訪れるようになった。ただし、よく言われている行政サービスについて、テニスコート予約システムのようなものはあるが、市役所に出向かなくても住民票を受け取れるようなシステムはまだ実現されていない。
●それでも情報化によって東京への移動が増えるのか
Q:情報化によるテレワーク等の実態は?
A:マルチメディアの制作という業務上、原則としてオフィス勤務で、旭川リサーチパーク内のCG制作室での作業が中心である。東京へは打ち合わせや営業等で月2回くらい出かけている。札幌には週1回。大きな都市には専らビジネスで出かける一方、自治体からの相談や催しのブレーンとして道内の小都市に出向くこともある。
Q:なぜ東京なのか?
A:現状では東京に出かける必要性は高い。マルチメディア産業の業務、例えばアニメを例に取ると、企画・脚本・スポンサー探し等のディストリビューション、原画、動画、彩色等のプロセスがあり、原画以降の作業であれば地方でも対応できる。しかし、ディストリビューションについては、TVや映画会社が東京に集中している以上、上京しなくては仕事にならない。結局、マルチメディア産業に限らず、ビジネスの中心が東京であり続ける限り、地方の企業も東京に拠点を置いたり、営業のため上京しなくてはならない。
●東京への一極集中は変わるのか
Q:東京への一極集中の是正の流れはあるのか?
A:例えばアメリカではユタやネブラスカにB級専門会社が集中するなどハリウッドからの分散化も見られる。日本でもディストリビューションが地方に分散するようになれば状況は変わると思う。
Q:課題があるとすれば何か?
A:また、モーションキャプチャーのモデルデータ蓄積で成功したアメリカ・ビューポイント社を参考にして、旭川でもデータ・ライブラリを商品化したことがある。このように、事業のアイディアや採算ベースにのせるための方法を持っていても、地方の会社で十分な実績がないとなかなか理解してもらえず、結局東京に拠点(支店)を置かないと事業が展開しないのが現実である。
●情報化による社会構造の変化は?課題は?
Q:社会構造は変化するのだろうか?
A:変化を待つのではなく、変化させようと取り組んでいる。例えば、情報通信網を活用し、身障者が在宅で移動せずに仕事ができるような仕組み(旭川福祉村CGアニメ番組製作構想)を提案した。これは、子どもたちとの接点を持ち、TVなどの創作的な仕事がしたいという高齢者や身障者要望に応えようとしたものである。コンピュータを介することによって、下半身が不自由でも、短期間の訓練で2・3次元CAD入力などの仕事ができるようになる。
Q:その際の課題は?
A:こうした身障者の雇用拡大にあたり、課題も出てきている。まず、移動しなくても仕事ができる環境をつくること、次に移動する際の補助のあり方。例えば下半身が不自由な人と話をすると、低床バスなど莫大な費用がかかる施策よりも、身障者を補助する介添人の運賃免除の方がありがたいとのことである。
●情報ネットワークの必要性を改めて考えてみると
Q:情報ネットワークは本当に必要なのか?
A:情報や交通のネットワークは国土の均衡ある発展や地域振興に必要という考えがある反面、交通ネットワークが充実しすぎると人材が大都市に流出するという意見もある。都市と地方のネットワーク化についてどこまで進めるべきなのか、というのが課題である。
Q:情報化と情報インフラのバランスはどうか?
A:現状では情報インフラにはお金をかけていないというのが正直な感想。現在では需要の増大に転送容量が追いつかず、郵送という手段になってしまっている。陳腐化しないように、急場しのぎではなく、徹底的にいいインフラをつくってほしい。例えば情報ハイウェイではなく情報アウトバーンをつくるくらいが望ましい。
Q:インフラが整備されればそれでよいのか?
A:また、ネットワーク化をはじめ、情報インフラ面の新しい技術が出てきても、地方にはそれを活用するだけの体力がない。事業のアイディアがあってもお金が足りなかったり、コンピュータへの不信感や「地方では先端的な仕事ができない」という先入観が、情報化の進展の壁になっている。こうした地方の抱える問題について、地方の先進的な取り組みを行っている立場からもどう対応していけばよいかわからない状況である。
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