観光ビジネスはどこへいく
第7回『観光、あるいは旅行業の変遷と今後の方向性』
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[背景]
§増加する海外旅行者・相対的に少ない訪日外国人数
・わが国から海外への旅行者数は、湾岸危機等の影響で減少する局面も見られたものの、国民の所得水準の向上や自由時間の増大等をふまえ、着実に増加してきている。その一方で、わが国への外国人旅行者については、為替相場の影響を強く受けてはいるものの、概ね増加する傾向にある。しかしながら、両者の差は4倍にも及んでいる。
§低迷する国内旅行
・その中で、国内旅行については、海外旅行との同一市場化の進展や、割高な価格水準、個人・小グループを中心とした旅行需要とニーズの多様化に対応していないサービス等の構造的な問題に起因し、低迷状態にある。
§ビジネスとしての我が国旅行業の弱さ
・物流においては、我が国は世界の2割のシェアを誇ると共に、手配権も確保しており、優位性を保っているが、旅行業については、サッカーW杯フランス大会でその弱さを露呈したように、大きな課題を抱えている。
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論点: |
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・旅行・旅行業の現状は? |
[ゲストスピーカー]
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●壊滅状態の修学旅行・職場旅行
・旅行業は、大きく「手配旅行」と「主催旅行」の2つに分けられる。手配旅行とは職場旅行や修学旅行などの交通手段や宿の手配を行う業務。主催旅行はツアーなどの企画をこちらから消費者に誘い掛けるもの。
・現状の市況では、手配旅行のほとんどが低迷しており、低迷している理由もそれぞれはっきりしている。例えば慰安旅行はそれが始まった頃は普段行けないところに出掛けるきっかけとして楽しみにされていた。ところが現在では特に若い女性を中心に敬遠される風潮が強い。また修学旅行も少子化に加え、押し付けの企画が嫌われる傾向が強まっている。手配旅行は壊滅状態である。
・主催旅行も、旧来は海外旅行などの情報は旅行代理店のカウンターに行かなければ得られなかったが、わざわざ窓口に出向く必要のなくなった現在ではパンフレットの印刷費用もペイしにくくなっている。そのため旅行会社は全般的に、新聞広告等の媒体展開に移行しつつある。
●法人から個人へ
・同業他社から法人顧客を奪うことは困難であることに加え、手配旅行が衰退してきている現状をみるとターゲットを個人に移行するのは自然の流れと思われる。
・主催旅行参加者の平均年齢は65歳前後。20歳から65歳までの年齢層ではすべての商品のターゲットを女性に絞られている。
・そうした現状から、法人と有職男性、修学旅行に関しては現時点では、市場になりにくい。
・今後の課題は、65歳以上の顧客の細分化と子育て中の女性の取り込み、そして学校現場での総合学習の導入に合わせた新たなニーズの掘り起こしである。
●今後の事業展開の方向性
・今後の戦略は、@ターゲットの選定、A同業者との差別化、B自社資源の集中
・特に高齢者及び女性層のセグメントの徹底を図る。
・旅行業界は交通機関や観光施設のセットの組み合わせる要素が強いので、元来他との差別化がしにくい業種である。加えて新たな観光資源を開発したり、ブームを作る働きかけを行う力がない。結果として各社似通った商品になっている。ちょっとした差別化で成功してもすぐに他者が追随し、現在ヒットしているものをすばやく見つけることに主眼が置かれてきた。
・差別化のポイントはチャータービジネスと体験型ツアーなど。福祉や障害者対応なども視野に入れている。チャータービジネスはリスクも伴うが、全社横断的にプロジェクト対応できるのは他社にはない強み。将来はこの分野を子会社化することも検討している。
・自社資源の集中では、今年5月に解禁される中国人の日本への観光ビジネスに注目している。まだまだ制限も多いため、この分野にどれだけ資本や人員の投下を行うかが、各社とも課題となっている。
・また、従来の旅行業界はローカル色が強く、同じ社内であっても情報共有がなされていない傾向が強かった。
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●旅行ビジネスはどこへ行く
Q:なぜ男性はメインターゲットとならないか
A:団塊世代ももうすぐ定年の時期を迎え、余暇は生ずるが、男性だけのグループ旅行はほとんどなく、夫婦旅行である。その場合、やはり主導権は女性にある。趣味の旅行をという声は前々からあるが、アレンジに凝ると値段が上がる。対象となる客を見つけるためには相応の広告も必要だが、その費用がペイできるかどうか。まだビジネスとしては成り立ちにくい。
Q:薄利多売ではなく、高くて良いものは売れるのか?
A:高くて良いものは、あまり成功していない。記念事業などでグレード高いものを割安な価格で出せばかなり売れるが、内容のグレードアップに伴い高価格となった商品は苦戦している。
Q:なぜ日韓共催W杯はビジネスチャンスにならないのか?
A:次回の日韓W杯では、チケットの入手と交通・宿泊手配が別途になるが、国内の観客は地元の人が観戦するだけで、例えば北海道の人が九州の試合を見に行くことは想定されていないようだ。大きなビジネスになるという見方については、チケットが旅行業者に入らないため主催旅行は組めない。確かに個別手配はあるだろうが、当初期待していた大きなビジネスチャンスは見こめない。
Q:中国における日本旅行解禁はどの程度の影響があるのか
A:客数はまだ見えていない。一般に海外から日本を見ると物価が高く観光ポイントが少ない印象を持たれているが、中国では一度は隣国日本へ行きたいとするニーズはあると考えられる。人口が大きく、富裕層が増えているので、一定の需要は見込めるはず。その中で、日本の観光地では中国人観光客への対応という意識は未だ低い。セミナー等を開催して意識啓発を行っているところである。また、我が国の物価が高いこともあり、現在も既に課題となっている白バスや白タク等の増加についても懸念される。
●国際間競争から見た旅行業の姿は?
Q:旅行業そのものを国際競争等からみたらどうなるのか
A:旅行業は、お伊勢参りや修学旅行がその起こりと言われるように、非常に日本的なビジネスであり、海外には大きな旅行業者はない。日本の旅行業者は海外ではそれぞれ地域のエージェントと提携している。
Q:W杯を例に、国際競争力を考えた場合どうか?
A:今回感じたのはグローバルスタンダードになじめない我が国の体制の硬直性。国際的な旅行ビジネスから取り残されてしまうという危惧さえ抱く。
●観光による地域振興の可能性と課題について
Q:何をすればよいのか
A:癒しブームや教育現場での総合学習(ボランティア、福祉、環境など)とどう結びつけるかがポイント。体験型ツアーは市場はまだ大きくないが非常に伸びている分野である。行って何かをする、体験するという内容は印象が強く残るため反響も大きい。
Q:課題は何か
A:大きな課題は、行政は、特定の旅行業者とタイアップして人を呼ぶということを嫌う傾向があるということ。業者側からすれば固有名詞が表に出なくても結果が得られればそれで良いのだが、行政は特定の業者と手を組むことそのものに及び腰である。海外では特定業者の事業であっても企画・内容で判断し、それが地域の振興のためになると考えればお金を出す。悪いことでなければ良いと思うのだが、日本ではなかなかできない。
A:こうした背景で、行政から地域振興を図るため協力依頼をする場合、『旅行業』という括りで依頼をするケースが多いが、旅行業は個々の競争が激しく、業界がまとまって全体を盛り上げていこうとする気運は少ない。先日も、九州全体で観光振興を図るため、商工会議所などがおもな旅行代理店を集めて仕掛けを作ろうとしたが、非常に大変だったようだ。
●ツアーを組みやすい国、組みにくい国
Q:エージェントから見て、国による旅行のしやすさ、しにくさ等はあるのか
A:ツアーの組やすさ、組みにくさというのがある。阪急交通社の場合、行き先はヨーロッパが中心になるが、ヨーロッパの場合には最低3カ国を周遊しないと商品として売れない。しかも同じ航空会社で統一しないと安価にならないため、一度出発地に戻ってから新たな目的地へ移動する場合もでてくる。その意味で移動がしにくく、ツアーを組むのにも苦労する。その点、アメリカの都市間移動の場合には異なる航空会社同士でも連絡はスムーズであり、ツアーを組みやすい。
●地方空港の整備に意味はあるのか?
Q:地方空港の整備をどう考えるか?
A:旅行ビジネスから見るとある。国際交流の流れの中で、地方空港からのチャーター便という動きがあったが、これは想像以上に伸びている。現状では直接行けるのは韓国くらいであるが、韓国経由は価格が安くなるので、十分カバーできる。
A:地方空港とはいえないが、関空の整備の影響は大きかった。現在では関西の人が成田を経由することは拒否反応が非常に強い。海外よりも国内でのトランジットの方が抵抗が大きいので、地方から直接海外へ出掛けることは大きな魅力となる。
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