中心市街地活性化に向けての挑戦
第8回『連携の拠点としての中心都市の交通課題』
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[背景]
§中心市街地衰退の問題点
既存商店街の衰退とそれに伴うにぎわいの喪失が大きな問題とされている。
§商店街の衰退
商店街実態調査によると、近年は、停滞から衰退が大きく増加している。
§TDMへの期待
全国の区市担当者への調査によると、交通政策について、道路整備とTDMを併用するのが主流となっており、TDMが一定の認知を受けていることが示されている。
§コミュニティバスへの導入効果
公共交通の充実施策の一つであるコミュニティバスの導入は、中心市街地への来訪者の増加に寄与するとの回答が多く、効果が認められるようになっている。
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論点: |
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・中心市街地の問題と交通問題との関係は? |
[ゲストスピーカー]
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●TMO(タウンマネジメント機関)まちづくり会津設立の経緯
会津若松市では、中心市街地活性化に取り組む際に、住民主体のワークショップ等を通じて多様な意見を集めながら構想をまとめてきた。しかし、こうしたワークショップによる意見収集は確かに重要ではあるが、それらは地域の個々の意見の積み重ねであって、全体的視点によるマネジメントはまた別の問題である。そこで、全体的なマネジメントを行うために必要な能力を養い、的確なリーダーシップを発揮することが「まちづくり会津」にとって重要な課題である。
当社によると、会津のまちづくりを進める上での目標は、「市民主体のまちづくり」「行政と市民の新しいパートナーシップの確立」である。
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●中心市街地の基本的問題点
中心市街地の交通混雑を回避するために、バイパス等が建設されてきたが、まちづくりの具体的な施策を持たないまま道路をつくった結果、郊外に大型店が増える一方で中心市街地の集客力が落ち、さびれていったというのが、日本の多くの地方都市が直面している市街地空洞化問題の共通の構造ではないか。
中心市街地とは、かつて社会資本が集中的に投下された地域であり、歴史や文化の中心をなしていた地域でもある。これらの地域をさびれたままにしておくことは大変な損失である。
●駐車場整備についての賛否
中心市街地の商店街や住民の要望を聞くと、「駐車場が足りない」という意見が圧倒的に多い。しかし、道路を拡幅し、駐車場を充実すれば中心市街地が活性化するという考え方には疑問を感じる。
我々の理想は、車が中心市街地に入らなくても、自由に人が行き来し、フェイス・トゥ・フェイスの交流が可能になる、密度の濃い生活空間づくりである。ただし、これは将来の長期的な目標と位置付けであって、当面の課題は、城下町・会津若松の小さい入り組んだ道路に十分な歩行者空間と駐車スペースを確保することである。
福島市では、国道13号平和通りの地下に収容200台の大規模駐車場を整備中であるが、会津若松市と福島市では人口や財政規模も異なるため、会津若松市の現状に見あった駐車場のあり方を考える必要がある。会津若松では、町の中心部に空き店舗や空き地が増えており、これらが更地の駐車場になると、町のにぎわいをそぎ、景観を損なうことが問題になっている。中心市街地に駐車場がほしいという声がある一方で、無制限に駐車場が増えるとかえって町がさびれるおそれがある。
このため、「まちづくり会津」としては、小型の回遊バスを導入したいと考えている。駐車場だけに依拠しない、にぎわいのあるまちづくりや話題づくりの上で、小型循環バスは有効と思われるが、実際にはバス・タクシー会社との協議や商店街の負担の問題について、まったく研究されていないのが現状である。
●会津若松市における観光交通施策の検討
平成9〜11年度、TDMの調査研究会が設置され、11年9月、10月の観光シーズンにはアンケート調査と駐車場の誘導に関する調査が行われた。主な調査結果は次のとおりである。
@レンタサイクルの可能性
商工会議所青年部が中心となって「まちの駅」を3ヶ月設置し、レンタサイクルの運営等を行った。利用者に対する調査結果を見ると、レンタサイクルは市内をめぐるのに適していること、レンタサイクル利用者はリピーターになる可能性が高いことが判明した。ただし、「まちの駅」を恒常的に運営するには財政的な課題がある。
A駐車場の案内・誘導
現状の案内板は不備な点が多いので、統一的な誘導が検討されるべきである。
Bバス
1時間に1本の現状では観光客は利用できないので、抜本的な改革が必要である。
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●浜松トランジットモール実験の背景
浜松市は、人口50万を擁する中核都市であり、昔から計画的な都市整備を進めてきたことから「事業のショーウィンドウ」とも称されるほど、あらゆる事業を手がけている都市である。それにもかかわらず、中心市街地のシェアは年々低下し、にぎわい(通行量)も減少している。いろいろ手を尽くしても、中心市街地活性化になかなか結びつかないことが課題である。
浜松は平坦な地形なので、市街地が郊外に拡大しやすく、それに比例して人口密度は低下する。市外地域との連携を重視したことなどから、郊外の道路整備が先行する一方、既成市街地の道路整備は立ち遅れた。また、工業都市であるがゆえに、工場の郊外移転に伴い、中心地域の地位が低下する傾向もみられた。これらのことから、50万都市としては都心の機能がもともと弱く、かなり早い時期から中心部の再活性化・機能充実に取り組んできた。
●実験の概要
トランジットモールの実験を行ったのは、比較的古い市街地である。駐車場の整備は進んでいるものの、必ずしも集客につながっていない。これは、中心市街地としての魅力やゆとりが乏しいためではないかと考えられる。また、交通渋滞の発生など、都心の交通環境にも問題は残っている。こうしたことから、都心の周辺に外周道路をつくり、内側にはバスを除いてなるべく車を入れないシステムをつくろうとしたのがトランジットモールに取り組むこととなったきっかけである。
実験では、6車線道路に人工芝を敷いて歩道を広げ、バス以外の一般車両の通行を禁止した(時間帯別規制)。芝にはベンチ等を置き、ゆとりある空間づくりに努めた。実験の結果、トランジットモールの認知度向上には貢献したが、市街地活性化への影響に対する評価は分かれた。来訪者には概ね好評であったが、天候不良の影響もあり、地元からは規制に対する不満の声もあった。
●実験からの知見
中心市街地活性化のためには、ハード整備だけでは不足である。今後は、市民を巻き込んだ、ソフト重視の取組が求められるようになる。
浜松の中心市街地活性化の基本的な考え方は、@歩行者を重視した空間づくり、Aまちなかの移動性の確保(バリアフリー)、Bアクセスの多様性の確保、C人が集まりたくなる空間づくりである。このため、都心へのアクセス改善だけでなく、都心に何があるのか、都心で何ができるのかに着目した魅力づくりが重要である。
トランジットモールなどの規制をかける際には、規制主体である県警との協議・連携が大切である。浜松の例では、11ヶ月で20回も協議を行った。また、理解と協力を得るための広報も不可欠であり、浜松では今までにない大規模かつ多様な広報で周知を図った。市民や関係機関との緊密なコミュニケーション・話し合いに加え、各主体に交通問題を自分自身の問題として取り組ませるしかけが必要である。
このような交通に関する技術は、ハード面の技術、計画する技術、周知・納得させる技術など、あらゆる意味で未熟であることを感じた。
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●コミュニティバスの導入について
Q:現在、金沢のふらっとバスをはじめ、いろいろな都市で、循環バス・コミュニティバスが実験的に試行されている。
会津若松のTMOの中では、コミュニティバス導入の具体的な予定はないが、ぜひやって行きたい。
A:他都市の例をみても、負担はそう大きくないと思う。ドライバーが全員女性の渋谷代官山の循環バスや、武蔵野のムーバスなど、各地では試行錯誤しながら独自の工夫で成功しているものが多い。観光客向けと住民向けでは内容も変わってくると思うが、検討するだけの価値はあると思う。
●活性化のターゲットは誰か
Q:会津若松の場合、市街地活性化の上でのターゲットとして、観光客と住民のどちらを重視するのか。
A:観光客は季節による変動が大きい。我々としては、市民が日常的に地域の歴史や文化を楽しめるようなまちづくりを進めれば、結果的に観光客にもアピールできるようになるのではないかと考えている。また、観光客のために通りを美しくすれば、市民の足も向くようになる。
Q:レンタサイクル事業を「まちづくり会津」の事業とする考えはないか。事業化に当たってネックになっているのは何か。
A:補助事業として「まちの駅」を運営したとき、3ヶ月で3〜400万円かかった。リピーターの少ない会津若松では、レンタサイクルに対する期待は大きいが、補助事業でなければまず実現しない。特に人件費が大きく、今回は青年会議所のメンバーが対応してしのいだ。
●「まちの駅」事業への期待
Q:「まちの駅」は補助事業か。
A:「まちの駅事業」というものがあるわけではない。例えば、商店街等活性化先進事業の空き店舗対策等のメニューを活用しつつ、「道の駅」にならって進められているものである。ただし、「道の駅」と違い、独立採算ベースに乗せることは難しい。
Q:「まちの駅」でも、物産販売等を行うことはできるのではないか。
A:「道の駅」が成功したのは、郊外に広い駐車場と休憩所を確保し、余剰スペースで物産販売を行うので集客力があるためである。「まちの駅」は空き店舗を使って、情報提供やコミュニティスペースの提供を行うものなので、採算性はない。
「道の駅」にならってトイレや休憩所を設置し、情報提供を行い、10台程度の駐輪を行うと、最低2人の人員が必要で、その人件費を捻出できない。
●まちづくりの推進役は誰か
Q:中心市街地活性化法の中で、推進組織に位置づけられているのは何か。
A:TMOに認定されるのは商工会議所、商工会、3セクであり、通常は商工会議所が多い。
かつての商店街には勢いがあり、独自に画期的な様々な取組をしていたが、30年たつとルーティン化してしまい、エネルギーを失ってしまった。
Q:「まちづくり会津」の推進力になっているのはどのような層か。
A:若手事業主及び商店主である。商店街の婦人層もアネッサクラブという独自の組織ができてまちづくり推進力の一角を担っている。市役所、活性化推進室の担当者による支援が今は大きな力になっている。
Q:商業者のスタンスとしては、中心市街地でがんばろうとしているのか。それとも、バイパスにシフトする動きなどもあるのか。
A:バイパス沿いに出店するのはほとんど首都圏の資本である。地元には、出ていけるだけの力量はない。
●中心市街地への車の乗り入れについて
Q:中心市街地に車で来やすくするか、反対に車を排除するという二つの選択肢があるが、これについてはどう考えるか。
A:当面は自家用車で来て、停めてもらうようにすることが課題である。しかし、将来的には排除の可能性も含めて考えていく。金沢や代官山のバスの例も参考にしていきたい。
A:バス会社をうまく巻き込むことが大切である。
●トランジットモール実験の今後の展開
Q:浜松のトランジットモールの実験は有名だが、今後もこうした取組を続けていくのか。
A:まず、今回の実験で洗い出されたいくつかの課題について、地元と協議を進めていくことが大切である。
中心市街地の問題は市民の問題であり、来訪者にとっての問題でもあることを認識することが大切である。都心に魅力を増やしていく装置づくりを考えるべきである。
●トランジットモール実験への反応
Q:トランジットモール実験に対する若い世代、たとえば高校生などの反応はどうであったか。
A:若い世代の方が評価は高かった。今までと違うことに対する新鮮さを評価しているらしい。
●トランジットモール実験を行う際の課題
Q:社会実験に対する様々なニーズが増えてきているが、行政の支援のあり方についてどのように考えるか。
A:「街路交通調査費」(補助事業)などでは、仮にメニューが確定していなくても、組織をきちんとつくって社会実験を行おうとしているところには補助を行うなど、対応を積極的に支援している。
●都市における交通の今後の課題
Q:都市における交通システムの今後の課題は何か。
A:車を駐車場に置いてから、中心部に来るまでの移動手段をどうするかであろう。高齢化の進行により、今後は身障者だけの問題としてでなく、都心へのアクセス支援を社会全体で行うことが大切である。
A:このため、ヨーロッパではトランジットモールを行うことが当たり前のことなのに、我が国ではそれができないことこそ、大熊氏のいう「技術や合意形成の未熟さ」なのではないか。
●まちづくりを進めていくためには
Q:交通システムの整備やまちづくりには、非常に長い時間を要する。その間、取組を維持するためにはどうすべきと考えるか。
A:かつてのまちづくりは、議員を使って行政から補助金をいかに引き出すかという視点で進められた。これからは、単に道路整備を要求するだけではだめで、整備された道路サイドで住民が何をするか、何ができるかを考えなければならない。住民が自ら考え、動かなければだめだと住民に思わせるために、行政はどう働きかけるべきかを考えることが重要である。行政の善意・熱意が町の活性化につながるよう、税金が効率的・効果的に使われるようにしなければならない。
A:最近は、コンサルタントとして頼まれる仕事の内容が変わってきた。以前は、事業化に向けて火をつけるように頼まれていたが、最近は「もう少しじっくり考えるよう説得してほしい」という依頼がある。
民度はかなり熟してきていると、都市計画家協会の活動を通じて感じる。今後、社会実験やまちづくりに熱意ある人をどう取り込んでいけるかが課題である。
A:今後、がんばる都市とそうでない都市の格差は広がるので、住民自身が自らの問題として取り組む姿勢が大切になっていく。
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第9回研究会へ(本文のみ、図表はPDFファイルを参照ください)