『心のバリアフリー』を目指すまちづくり
第9回『交流・連携とバリアフリー』
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[背景]
§増加する高齢者・障害者
・わが国の高齢化は世界的にも驚くべき速度で進行しており、高齢の身体障害者も着実に増加するものと考えられている。
§進む高齢者・障害者の社会参加
・その中で、高齢者・障害者の社会参加は必然的なものになりつつあり、実数としても増加している。
§社会としての対応の進展
・こうした状況をふまえ、(高齢者・障害者を含む)すべての人々が安全で快適な暮らしを営むことができる生活空間をつくることを目的としたバリアフリー−ユニバーサルデザイン−の概念も、社会の中で定着しつつある。
・しかしながら、こうした取り組みにも係わらず、『バリア』は厳然として存在しているという指摘も見られる。
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論点: |
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・高齢者・障害者の社会参加の現状は? |
[ゲストスピーカー]
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●特別なものではなく、憂うものでもない高齢化社会。『福祉』は普遍化していく
・今後、成人の過半数が50歳以上となる「高齢社会」が到来する。高齢社会というと、とかく暗いマイナスイメージを伴うものだが、特段憂うべきこともない。高齢者の多い社会とは、本来、戦後の日本がめざした「平和で豊かな社会」の当然の帰結である。
・マイナスイメージがあるとすれば、@要介護高齢者の増加、A社会全体の活力の低下、B少子化の3点に起因するものであろう。このうち、要介護者については、2025年には倍増すると予想され、これは社会に大きな影響を与える。家族構造の変化もふまえ、現在のニュータウンでは一人暮らし高齢世帯が増加すると思われる。こうした状況にどう対応していくかが今後の課題となろう。
・高齢者の生活スタイルも多様化する。健康的に何ら問題のない元気な高齢者、経済的にも豊かな高齢者が増加する。ニューフィフティ世代は、自分の貯蓄を子どもに与えて面倒を見てもらうタイプと、子に財産を譲らず、自分のためにお金を使うタイプに分かれる。後者の自己実現のためにお金を使う高齢者は、これまでの高齢者像と異なる新しいスタイルである。
・こうした新しいスタイルの高齢者も含め、社会に占める高齢者の比率が高まると、高齢であることが特別なことではなくなり、福祉の概念がより普遍化していくだろう。
●どこにもいない高齢者
・中途障害はある日突然訪れるが、高齢化による身体状況の変化はゆるやかな生活の変化となる。高齢者自身も自分の高齢化を自覚していないことが多い。高齢者に対するアンケートを行っても、「高齢者=自分自身」と認識していないため、参考にならないことがある。また、高齢者とみなされることへの抵抗も強い。
・例えばアメリカの缶詰会社が、ベビーフードを食事用に購入している高齢者が多いことに着目し、高齢者用パッケージで商品化したところ、まったく売れなかったという。このため、高齢者向け商品は売れないというジンクスができている。もっとも今後高齢者であることを開き直る人が増えてくれば、状況も変わる可能性はある。
●バリアフリーによって生まれるバリアもある
・人によって障害の態様はさまざまであり、その内容により適切な対応方法は異なる。例えば、誘導警告ブロックは視覚障害者には必要だが、車いす使用者にとっては通行の妨げになったり、女性には靴がすべる原因にもなる。
・視覚障害者は、電車の音や量販店の宣伝音などを聴いて、自分のいる場所を確認する。いわば、音や風といった「肌で感じるもの」、今まで街のデザインをつくる際に考慮されていなかったものが重要な意味を持っている。21世紀の街づくりには、これらの要素を見直す必要があろう。
・また、知的障害の情報認知の問題は、外国人の言語的な情報障害の問題と共通するものがあるので、そうした検討も必要ではないか。
●ソフト面が重要
・バリアをとり除くためには、ハード整備だけでは解決しない。時間はかかるが、最終的には「教育」にいきつくのではないか。
・外国に行くと、日本のハード整備水準はそう劣っていないと感じる。パリの地下鉄などは、障害者対応はできていないといえる。それでも障害者が「ヨーロッパがいい」と言うのは、周囲の人々の「接し方」に違いがある面が強い。
●今後、何をどうしていけばよいか〜
・楽しい空間づくりに向けて、歩きやすい靴と道路づくりをセットで考えたり、視線の高さが異なる車いすからの情報認知サインの見え方、高齢者が渡りきれる信号など、さまざまな視点から総合的にとらえることが重要になる。
・公共交通機関のレベルアップ。市町村の20%は中間モード(地域内を回遊するミニバスなど)の導入に前向きである。個人の身体状況、所得、行動範囲に応じ、選択可能な交通システムが求められる。
・横浜では障害児施設に住民向け貸会議室を併設したところ、障害児と顔見知りになるにつれ、当初施設建設に反対だった住民も好意的になったという。こうした仕掛けとして、地域住民の交流拠点を交通施設に結びつけることはできないか。
・また、中央省庁に対するお願いとして、バリアフリー等施策の効果測定をぜひ実施していただきたいと考える。
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●外国で知った『日本人の心のバリア』
・会社に入って2年目に、初めての海外旅行でニューヨーク、ナイアガラに行った。自分は全身の筋肉の力が弱いので、それまで海外旅行はあきらめていたのだが、実際にはスムーズに移動でき、実に快適な旅であった。
・そこで気づいたのは、段差がないといったハード面の整備よりも、周囲の人の接し方がまるで違うということ。日本では歩いている時には声をかけられるが、段差の前で躊躇しているときに声をかける人はいない。外国では、困ったときや頼みごとをすると、すぐ手がさしのべられるが、それ以外はそっとしておいてくれる。
●おでかけミシュラン『accessible東京』
・こうした文化の違いを自分自身が実感してみて、海外から日本を訪れる障害者の苦労が理解できたため、何か手助けができればと考え、英語版車いすガイドブック「アクセッシブル東京」の刊行に携わることになった。これが、私がボランティア活動(赤十字語学奉仕団)に参加するようになったきっかけである。
・この冊子は東京全体を網羅するガイドで、掲載施設は一つ一つ実地調査している。このような冊子はこれまでになく、日本人のニーズも多かったため、現在(第5版)では、日本語も併記されている。高齢者のニーズも多い。
・「アクセッシブル東京」は、IBMのホームページ(http://www.ibm.co.jp/japantravel/index.html#naviskip)に掲載されており、さまざまなメディアからアクセスできるようにしている。
●まず、外に出ること〜やりたいことは、みな同じ
・障害のある人とない人の交流の機会が少ないことが心のバリアが生まれる原因ではないか。誰でも生活を楽しみたい気持ちは同じである。そこで、障害の有無にかかわらず、人々が出会う場や、ともに楽しむ企画づくりを手がけることにした。
・築地市場の見学会を企画し、東京都や「築地をきれいにする会」の方たちと話し合ったところ、新たに車いす用のトイレを2ヶ所設置することになった。また、市場で働く人の中にもケガによる中途障害者が多く、日常業務で不便を感じていることが明らかになり、施設の見直しをするきっかけになった。こうして、自分たちが訪れることで、バリアフリーの施設づくりに役立つことがわかった。
・パラリンピック開催時、野沢温泉旅行を企画したところ、応募者200人のうち障害者は1割。9割は障害のない人たちだった。彼らは、ふだん接することのない障害者と知り合い、交流することを求めて申し込んできたのである。参加者は、ツアーを通じてお互いの世界が広がったことを非常に喜んでいた。
●心のバリアをなくす『こころのたび』
・こうした体験を通じて「みんなのたび」では、障害者が家に閉じこもることなく勇気を出して外に出ることや、心のバリアを越えることを呼びかけている。情報提供と意識啓発が活動の主な柱である。
・障害を持っていても、障害のない人の観光ツアーにそのまま参加できるのが理想である。そのためには、各ツアーが、どのような障害をどの程度受け入れられるのかという情報を提供することが必要になる。私たちは、この点についてJALパックのアイルと検討を進めているところである。
・人口比率を考えれば、ある程度の人数のパックツアーなら必ず何名かの障害者や高齢者が含まれているほうが自然である。
・障害を持つ人や高齢者が、積極的に街に出ていくことがバリアフリー推進の力になる。しかし、目的がなければ誰も街には出ていかない。この「目的」を企画するのが我々の仕事である。
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●交通のバリアフリーは『そこそこ』か〜エスカルよりエレベーター
Q:日本のハード施設は十分か。
A:例えば誘導警告ブロックの整備率などは高い。しかし、これは視覚障害者には有効だが、車いすには障害になるなど、障害の内容によってプラス・マイナス双方の影響が出る。新設の駅にはエレベーターも整備されているが、既存の施設は遅れている。ニュータウンをはじめ、既存施設にどう対応していくかが今後の課題。アメリカのADAほどではないが、日本でも今後、障害者の事故に関する裁判が出てくるのではないか。
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Q:質的にはどうか。
A:ハードの水準はいい線まで行っていると感じているが、使う人の立場になって作っていないのが問題。JRのエスカルなどは、駅員のサポートが不可欠で、障害を持つ人1人だけでは利用できない。一人でも利用できるエレベーターがベストである。エレベーターなら、車いすだけでなく妊婦や高齢者も恩恵を受けられる。
Q:エスカレーターについてはどうか。
A:うまく乗れる人もいるようだが、非常に危険である。2段つながっているものもあるが、2段の部分はエスカレーター全体の一部にしかないので、その部分が来るのを待つ間、エスカレーター利用者の動きが遮断される。吉祥寺で2段式エスカレーターを使うのに30分待ったことがある。
A:エスカルも予約をする必要があるので、使いにくい。使う立場で作ること、1人でも使えるものを設置することが大切である。
Q:模範となる事例はあるのかどうか。
A:町全体をバリアフリー化した北海道の栗沢があげられる。また、大阪には駅前のデパート、体育館、ホテル、有料老人ホームを一体化した施設の例がある。
●バリアフリーの評価も必要〜減点主義ではなく加点主義で
Q:バリアフリーのチェックを行う団体などはないのか。
A:障害者団体にチェックを頼めばよいというものでもないのが難しい点である。障害者団体は、障害の内容ごとに組織されていることが多いが、視覚障害、歩行障害など、障害の内容によって施設に要求するものは異なる。全体のバランスを考えることが大切である。また、現状では障害者が十分に社会参加できていないことから、被害者意識のために客観的な意見を出せないケースもある。ハンディキャップがあっても、仕事を持ったりして社会参加を果たしている、バランス感覚のある人がチェックに適しているのではないか。
A:結局、教育によって設計段階から全体的な視点で考える発想を持たせることが重要なのではないか。
Q:「アクセッシブル東京」は、星の数でレストランを格付けするのと同じように、施設に適切なプレッシャーを与えることができるのではないか。
A:その影響は明らかにあり、施設の姿勢も少しずつ変わってきている。前回刊行した際には、ホテル側の抵抗や反感があったようだが、HPに掲載されて認知度が上がったことも影響してか、今回は「前回よりも施設を改善した」とアピールするホテルが出てくるなど、前向きに考えるところが多くなっている。イギリスでは、ランキングではなく、良いものを表彰する制度があるが、我々もホテルにマイナスの評価を与えるのではなく、加点主義でいいものを推奨するようにしたいと考えている。良いものをアピールすれば、ホテルのPRにもなるので理解を得やすい。
●バリアフリー法案で解決すること、しないこと。そして費用負担
Q:今後「バリアフリー法」が施行されると、1日5000人以上が利用する駅及び駅周辺機能にはバリアフリーが義務づけられるようになる。このようなバリアフリー法について、意見をきかせてほしい。
A:バリアフリー法だけでは、いつまでにどの施設がどう変わるのかはわからないが、利用者にとっては、それが一番知りたいことである。
A:今後バリアフリーを推進していく際に、障害を持つ人の移動コストを誰が負担するのか、つまり、どこまでが公共交通の負担で、どこからが福祉サービスになるのか、という議論が十分になされていないと感じている。
A:施設のバリアフリー化については、基本的には行政が負担すべきものと考えている。鉄道事業者等が負担すべきものについては、行政が支援をする。
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●民間での取り組みの必要性
Q:バリアフリー法案等の行政の取り組みだけで十分なのか
A:例えば、現在の移送サービスは需要が多いため1ヶ月前から予約しなくてはならず、不便である。使いたいときに使えるシステムでなければならない。行政は、何の(誰の)ために、どのようなサービスを行うのかがあいまいで、有効なお金の使い方ができていないのではないか。
Q:民間がサポートしている例として、運転ボランティア等が挙げられるが、これは社会的にどのように位置づけられていくのかどうか。
A:運転ボランティアのような仕組みの要請は少なくない反面、民業としてのタクシー業を圧迫するという議論もある。行政・民間ボランティアのサービス提供の際、対象を分けて考えることも大切である。重度身障者は税金でカバーするとしても、高齢者や障害者は必ずしもみな経済的に困っているということはない。
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●車でのお出かけを便利にするには
Q:自動車は運転が可能な高齢者・障害者の外出に欠かせないものになっているが、車で移動する場合の課題についてはどうか。
A:高齢者・障害者用のスペースは増えつつあるが、マナーを守らない人が多いため、実際には使えないのが現状である。罰則を伴う法制化をしないと、いくら投資してもムダになる。また、車の移動に関連し、高齢者の入浴サービス車については、駐禁の除外規定を設けてほしいという声は大きい。
Q:海外の状況はどうなのか
A:アメリカでは障害を持つ人しか駐車できないスペースが設置され、きちんと機能している。また、日本と違い料金所がないのもありがたい。日本の高速道路等の無人料金所では、手が不自由だと届かない場合があり、非常に不便である。
A:シドニーでリフト付観光バスを借りようとしたが、そのようなバスはないとのことであった。オーストラリアやアメリカでは、障害があっても個人単位で車を利用して移動する。日本では、障害者どうしがまとまり、いつも同じ顔ぶれでバスに乗って移動することが多いため、リフト付バスの需要があるのだが、この傾向が正しいことなのかどうかは疑問である。
●高齢者に必要な拠点とは
Q:自分は高齢者になっても今のままの生活で十分ではないかと思っている。高齢者向けの交流拠点に自分が出向いていくかは疑問なのだが。
A:現在、高齢者の交流拠点は老人クラブと公民館等の多くの選択肢がないといえる。自分自身の実感として、妻に比べて地域の知り合いが少ないことを痛感する。この状況のままだと、老後自分が従来の公民館や老人クラブに出向いていくとは思えない。こうした人たちにとって、出かけていけば誰かがいるという拠点を作ることは大切ではないか。
A:イギリスの商店街などでも「パーク&ライド」の発想で自動車とカートを乗り換えているという。電動カートは非常に便利なので、商店街だけでなく、成田空港のように広いスペースでもぜひ貸し出してほしい。現状では、航空会社の社員が車いすを押してくれるが、これでは遠慮して買物もできない。社員のコストもかかる。
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