土地政策審議会企画部会 意見とりまとめ

 

 

「計画白地地域を中心とした地域における土地利用調整制度のあり方について」

 

 

平成12年3月8日

 

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はじめに

 道路網の整備を背景としたモータリゼーションの進展等に伴い、国土全般にわたって都市的土地利用が急速に展開され、これに伴い土地利用調整上の諸問題が発生している。なかでも、規制・誘導のための制度が相対的に緩やかで、土地利用の方向性が明らかでなく、まとまった土地を確保できる計画白地地域を中心とした地域において、良好な生活環境の形成や効率的な営農環境の維持等の観点から問題のある蚕食的な住宅開発、開発による里山や鎮守の森等の地域にとって貴重な自然環境・景観の喪失など、土地利用上の問題の発生が顕著になっている。このような土地利用の調整を経ない無秩序な土地利用による悪影響に対し、機動的な対応が求められている。
 このような問題が顕著となっているのは、当該地域における土地利用を規制・誘導するための実効性のある制度が十分整備されていないこと等に起因しており、第2次地方分権推進計画においても、「計画白地地域における土地利用整序の確保等をはじめとした総合的な観点からの見直しについて検討する」こととされている。このようなことから、特に土地利用上の問題が顕著になっている計画白地地域を中心とした地域における土地利用整序の確保に向けた新たな方策について検討することとした。
 
 
1.新たな土地利用調整制度の基本的考え方について
 
(1)我が国の土地利用調整制度の現状と問題点
 我が国の土地利用に関する即地的な計画体系は、国土利用計画法に基づき定められる都道府県レベルの土地利用基本計画を中心として、土地利用基本計画で定められる五地域区分及び土地利用の調整等に関する事項に即しつつ、関係法律に基づく諸制度によって、適正かつ合理的な土地利用を図るための規制・誘導措置等が講じられる仕組みとなっている。
 なかでも、土地利用基本計画に基づく五地域区分に直接対応する地域・区域を有する都市計画法等の個別規制法については、五地域区分の枠内において、それぞれの地域区分の土地利用を具体的に調整していく観点から、それぞれの法目的に照らした重要性の度合いに応じて土地利用の方向性を段階的に定め、相対的に重要性の高い地域については強力な規制措置等を講じているところである。
 しかしながら、土地利用基本計画は、五地域区分による都道府県の土地利用の基本方向と五地域区分が重複する地域における大まかな調整方針等を定性的に記述するにとどまり、実際の土地利用調整は、個別規制法による土地利用規制の規定に従い、個別規制法の運用に委ねられている面がある。
 他方、各個別規制法における土地利用の規制・誘導のための制度が相対的に緩やかで土地利用の方向性が明確になっていない計画白地地域を中心とした地域においては、問題の発生状況に応じて、それぞれの地域の実状に即したきめの細かい土地利用調整が必要となるにもかかわらず、市町村レベルでは、即地的なレベルで、それらの土地利用を総合的に調整し得る計画制度が存在していない。このため、土地利用調整の主体として相応の役割を果たすことが期待される市町村が、その調整に総合的な観点から機動的かつ柔軟に関与していくことが困難になっている。
 この結果、当該地域において、規制・誘導のための制度が緩やかで土地利用の方向性が不明確であることなどに着目した土地利用転換が盛んに行われる傾向が見られ、土地利用上の諸問題が発生している。
 なかでも、里山、鎮守の森や景観等地域にとって身近で保全の必要性が高い地域資源については、国レベルの法律では特に保全の対象とはならず、また、地域において、これらを保全するための機動的かつ柔軟な仕組みが十分整っていないため、開発行為等によって喪失していく傾向にあり、地域における適正かつ合理的な土地利用を実現する上で問題となっている。
 なお、実態としては、計画白地地域の他、規制は強いものの土地利用の誘導のための制度が相対的に緩やかで土地利用の方向性が明確になっていない市街化調整区域等についても、土地利用上の問題が多く発生していることから、対象地域の検討に当たっては、その点も考慮することが必要である。
 
(2)条例による土地利用調整の課題
 現在の土地利用調整制度が土地利用相互間の調整に必ずしも十分な機能を果たしていないことに加えて、今日的な課題として、地球環境問題や生態系維持問題などに対する意識が高まるとともに、地域住民にとっても、景観や身近な自然の維持に対する要求が高まってきている。これらの課題に適切に対応していくために、いくつかの市町村においては、地域における土地利用の適正化を図るため、現行の制度の枠組みに加えて、条例を根拠として計画白地地域を含む土地利用の調整を行っている例が見られる。
 このような条例化の取組みは、
①地域の実状を把握した市町村が制定主体となることから、実態に即した土地利用調整が行えること
②それぞれの地域における土地利用の方向性及びその調整ルールを自律的に決定することが地方分権の趣旨からみて望ましいこと
等から概ね評価できるものと考えられる。
 しかしながら、土地利用規制を法律による委任なく条例のみによって定めることについては、条例制定権の限界からの問題が指摘されているほか、国の法律との関係が整理されていないことなどから、条例による土地利用調整の具体的手法等は市町村によってばらつきがあること、条例制定の必要性を認識しているにもかかわらず、法律上の位置づけが明確でないことなどのために条例の制定を躊躇し、土地利用調整が必要な地域における土地利用上の問題に適切に対処し得ていない例が見受けられることなどの問題がある。
 
(3)市町村レベルの土地利用調整の必要性
 以上のことから、計画白地地域を中心とした地域における個々具体の土地利用転換がもたらす問題点を即地的に把握し得る市町村レベルにおいて、土地利用の調整が必要な地域について、即地的なレベルで総合的な土地利用調整を行うことができるような制度が必要と考えられる。
 また、市町村レベルの土地利用調整を行うに当たっての土地利用調整の主体については、各地域毎の自然的、社会的、経済的及び文化的諸条件等地域の実状を反映させつつ、より即地的かつ具体的に行うべきと考えられることや、住民に身近な行政はできる限り地方公共団体に委ねることが望ましいという地方分権の趣旨等を踏まえると、住民により近い基礎的自治体であり、個々具体の土地利用転換及びそれが直接的・間接的に及ぼす問題点を即地的に把握し得る市町村が、主体となって、土地利用調整を行うことが適当である。
 
(4)地方分権の推進への対応
 市町村による土地利用に関する総合計画の策定の必要性については、第2次地方分権推進計画等においても指摘されており、市町村が自律的に土地利用調整を行う仕組みを検討することは、地方分権の観点からも課題となっている。
 
(5)個別規制法と国土利用計画法の役割分担について
 各個別規制法において積極的な土地利用が想定されていない計画白地地域を中心とした地域における諸問題に対処していくためには、総合的な観点から地域の実状に応じた様々な土地利用調整を行うことが必要と考えられるが、当該地域において、個別規制法による規制・誘導措置を講じても、なお土地利用調整の実現を十分に図ることが困難な場合がある。
 したがって、当該地域に係る新たな土地利用調整制度については、国土利用の基本法であり、各種の土地利用調整を通じて適正かつ合理的な土地利用を実現することを法目的とする国土利用計画法の体系に位置付けることが適当と考えられる。
 
 
2.市町村レベルの土地利用調整に関する計画について
 
(1)市町村レベルの土地利用調整制度について
 市町村レベルにおいて、土地利用を総合的な観点から調整するため、土地利用の動向等からみて土地利用の調整が必要であると認められる地域において、市町村が、土地利用基本計画を補完する土地利用調整に関する計画を定めることができることとすることが適当である。また、計画策定に向けて、市町村を支援するための方策についても併せて検討することが適当である。
 なお、土地利用基本計画との関係については、市町村における土地利用調整の方向性が、国土利用計画法に基づく土地利用計画の方向性と基本的に調和が保たれていることが必要であるため、様々な土地利用を総合的な観点から調整し得る調整方針が必要と考えられるが、この調整方針については、市町村段階の土地利用の調整方向を広域的な観点から調整し得る都道府県が定めるのが適当であり、具体的には都道府県の土地利用のあり方を総合的な観点から定めている土地利用基本計画の中で明らかにすることが適当である。
 
(2)市町村レベルの土地利用調整計画の策定手続き
 
①住民の意向の反映
 市町村レベルの土地利用調整計画の策定に当たっては、それぞれの土地がおかれている自然的、社会的、経済的及び文化的諸条件に照らしつつ、地域の実状に応じて土地利用の方向性を決めるものであることから、公聴会の開催等により、住民の意向を十分に把握することが適当である。
 
②広域的な観点からの土地利用調整の必要性
 市町村が土地利用調整を行う場合、運用次第では、結果として広域的に影響を及ぼす場合も考えられる。
 このため、市町村の範囲を超える広域調整、土地利用基本計画等による県レベルの土地利用調整との整合性の確保等の観点から、土地利用調整計画の策定に際して都道府県との協議にかからしめること等により、当該計画を都道府県レベルで広域的に調整できることとすることが適当である。
 
  
3.国土利用計画法に基づく条例による土地利用調整について
 
(1)条例による土地利用調整の必要性等について
 都道府県及び市町村は、地域の適正かつ合理的な土地利用の確保を図るため、個別規制法により土地利用の規制に関する措置を講じており、これにより、各個別規制法の法目的を達成する上での重要度が相対的に高い地域においては、実効性のある規制措置によって適正かつ合理的な土地利用へ誘導していくことが可能と考えられる。
 しかしながら、計画白地地域を中心とした地域における土地利用上の問題については、自然的、社会的、経済的及び文化的諸条件等地域毎の多様な条件にきめ細かく適応した適正な土地利用の実現を図る観点から、地域独自の実状に応じて、市町村が直接的な調整手段を講じることが必要となる場合が生じてきていること等から、市町村が、市町村レベルの土地利用調整計画を踏まえた条例により、個別規制法の土地利用に係る規制・誘導措置との整合性をとりつつ、主体的に土地利用調整に取り組めるようにすることが適当である。
  なお、複数の市町村にまたがる場合等広域的な土地利用調整を行うことが必要な場合には、都道府県が、広域的な観点から、条例により自ら土地利用調整を行うことができるようにすることも併せて検討することが適当である。
 
(2)国の法律による条例への委任について
 計画白地地域を中心とした地域においては、各地域毎の自然的、社会的、経済的及び文化的諸条件を勘案した上で、地域の実状に即したきめの細かい土地利用調整が必要とされることから、当該地域における具体的な土地利用調整の内容は条例において規定されることが望ましいものと考えられる。
 この場合、土地利用調整の内容を法律による委任なく条例のみで定めることについては、条例制定権の限界からの問題が指摘されており、その限界については必ずしも明確になっていないことから、こうした問題を解決するため、国の法律により土地利用調整に係る条例に対し法的根拠を付与することが適当と考えられる。
 更に、その条例は憲法上保障された財産権に対する制限について定めるものであること、条例と個別規制法との関係や、各条例間の土地利用調整の内容のバランス等を整理することが必要な場合があることから、全国レベルで一定のルールを定めておくことが必要な事項については、国の法令において、その枠組みを設定することが適当である。
 
(3)条例による土地利用調整の具体的手法
  土地利用調整により担保すべき保護法益の程度は、個々の地域における土地利用の無秩序ないし危機的状況の具体的度合い等、地域の置かれた状況に応じて様々であるため、土地利用調整の具体的手法として許可制の可能性が否定されるものではなく、地域の実状に応じ、土地利用調整が必要とされる場合の具体的な内容に即して検討を行うことが必要であると考えられる。
 このため、実際に制度として土地利用調整手法の強度を検討する場合には、土地利用調整により担保すべき保護法益の重要性の程度、規制・誘導のための制度が緩やかな計画白地地域を中心とした地域に導入する財産権に対する新たな制限となることなどを総合的に勘案して検討を加え、適切な方法を選択することができるようにすることが適当である。
 
 
4.結び
 
 以上の意見とりまとめは、計画白地地域を中心とした地域における土地利用整序の確保に向けた新たな方策について検討した結果をとりまとめ、必要な見直しの方向性を示したものであるが、条例による土地利用調整の対象となる具体的な地域の整理、都道府県と市町村との役割分担の整理、条例による土地利用調整の具体的手法の整理など、具体的に検討すべき課題がなお残されている。
 このため、実際に制度化を図るに当たっては、これらの課題について引き続き検討を深め、当該地域における土地利用上の諸問題に対し、地域の実状に応じた土地利用調整を的確に行うことができるような制度を構築していくことが必要である。
 また、こうした検討と併せて、将来的な我が国経済・社会の構造的な変化を視座に据えつつ、総合的な土地利用計画制度の整備・充実に向けて、引き続き検討を進めていくことが必要である。