一般に船腹調整制度と言う場合は、内航海運組合法第8条第1項第5号に規定する調整事業の制度そのものを意味する場合と、現在実施されているスクラップ&ビルド方式による船舶建造方式を意味する場合とに区分できる。そこで、船腹調整制度の見直しに際しても、両者を区分して整理する必要があり、以下において、前者を「法律上の船腹調整制度」と、後者を「船腹調整事業」と言い、両者を併せたものを「船腹調整制度」と言うことにする。
内航海運市場は、船腹の需給ギャップが生じやすいという産業特性を有しており、現に内航海運業界は、長期にわたり船腹過剰対策に悩んできたという経緯があり、今後も景気変動の中で船腹過剰が発生することが十分想定される。船腹過剰の状態を放置する場合は、経営基盤の脆弱な中小企業が大半を占める内航海運市場においては、経営不安等により大きな混乱が生じ、良質な輸送サービスの安定的かつ効率的な提供が確保されなくなるおそれがある。その意味で、必要な時に船腹調整事業を実施する根拠となる法律上の船腹調整制度は、今後とも維持存続し船腹過剰時のセーフガード(緊急避難措置)としての機能が期待されていると考える。
船腹調整事業は、平成景気時に一時的に船腹不足が生ずる等の問題があったものの、全般的には、船腹需給の適正化、内航海運業者の経営安定、船舶の近代化等を推進する上で効果があったと評価できる。また、一般的に競争制限的措置がもたらすと言われている経営合理化、運賃水準等の面における弊害は、同事業の弾力的運用等により比較的少なかったと考える。
一方、同事業に対しては、次の弊害が指摘されている。