1.船腹調整制度の見直し 1.船腹調整制度の見直し

 一般に船腹調整制度と言う場合は、内航海運組合法第8条第1項第5号に規定する調整事業の制度そのものを意味する場合と、現在実施されているスクラップ&ビルド方式による船舶建造方式を意味する場合とに区分できる。そこで、船腹調整制度の見直しに際しても、両者を区分して整理する必要があり、以下において、前者を「法律上の船腹調整制度」と、後者を「船腹調整事業」と言い、両者を併せたものを「船腹調整制度」と言うことにする。

(1)船腹調整制度に対する評価

(ア)法律上の船腹調整制度に対する評価

 内航海運市場は、船腹の需給ギャップが生じやすいという産業特性を有しており、現に内航海運業界は、長期にわたり船腹過剰対策に悩んできたという経緯があり、今後も景気変動の中で船腹過剰が発生することが十分想定される。船腹過剰の状態を放置する場合は、経営基盤の脆弱な中小企業が大半を占める内航海運市場においては、経営不安等により大きな混乱が生じ、良質な輸送サービスの安定的かつ効率的な提供が確保されなくなるおそれがある。その意味で、必要な時に船腹調整事業を実施する根拠となる法律上の船腹調整制度は、今後とも維持存続し船腹過剰時のセーフガード(緊急避難措置)としての機能が期待されていると考える。

(イ)現在の船腹調整事業に対する評価

 船腹調整事業は、平成景気時に一時的に船腹不足が生ずる等の問題があったものの、全般的には、船腹需給の適正化、内航海運業者の経営安定、船舶の近代化等を推進する上で効果があったと評価できる。また、一般的に競争制限的措置がもたらすと言われている経営合理化、運賃水準等の面における弊害は、同事業の弾力的運用等により比較的少なかったと考える。

 一方、同事業に対しては、次の弊害が指摘されている。

  • 船腹調整事業が長期にわたり継続実施される中で、小規模な事業者を中心に同事業への過度な依存体質を生んでおり、このことが事業規模拡大等による経営基盤強化に向けた構造改善が進まない要因の一つになっていること
  • 同事業の下では、意欲的な者の事業規模の拡大や新規参入が制限されるため、内航海運業の活性化等の支障になっていること
  • 同事業の下では、モーダルシフト対象船種の寄港地に係る制限、フライアッシュ輸送等にセメント専用船を使用する場合の制限のように輸送効率化の支障になっているものがあること

 今後の内航海運における課題は、上記 −3で述べたように、良質な内航船員の安定的確保、輸送効率化等の推進、モーダルシフト等の新規分野への積極的取り組み等とともに、その事業主体である内航海運業者の経営基盤強化を目的とした抜本的な構造改善を推進していくことにある。その観点から見ると、現在の船腹調整事業の下では、内航海運業界がこれらの課題に的確に対応することが期待できなくなるおそれがある。

(2)船腹調整制度の見直し

(ア)船腹調整制度見直しの考え方

個別法による独占禁止法適用除外カルテル等制度の見直しに係る閣議決定の趣旨を踏まえ、船腹調整制度を以下の考え方により見直すものとする。

(a)現在の船腹調整事業は、以下の点に配慮しつつ見直すものとする。

  • 内航海運市場は、そもそも船腹の需給ギャップが生じやすい産業特性を有していること、船腹調整事業の見直しに伴い投機的な船舶建造等が心配されること等を踏まえると一定の船腹需給の適正化措置が必要である。
  • 船腹調整事業は30年近くの長期にわたり内航海運対策の中核として実施されてきたことから、船主経済に深くビルトインされている実態にある。現実問題として内航海運業者の多くが船腹調整事業に係る引当資格を担保に船舶建造資金、運転資金等の融資を受けていることから同事業の見直しにより資金確保に支障を生ずることのないよう、また、同事業の見直しにより新規船舶建造にスクラップが不要となることからこれを必要とした船舶との間で資金コスト面の競争条件の公平化が損なわれることのないよう、内航海運業の事業環境の変化に係る激変緩和措置が必要である。
  • 経営基盤の脆弱な中小事業者については、船腹調整事業への依存度が特に高いことから、経営基盤の強化を目的とした円滑な構造改善の推進、資金調達の円滑化、運賃及び用船料に係るコスト負担の適正化等の措置が必要である。
  • 輸送効率化及びモーダルシフトの推進は、利用者利益の実現等の観点から内航海運が緊急に取り組むべき課題である。

(b)法律上の船腹調整制度は維持存続し、船腹過剰時のセーフガード(緊急避難措置)として活用する。

(イ)現在の船腹調整事業の見直し

(a)当面措置すべき事項
  • モーダルシフト対象船種の寄港地に係る制限及びセメント副原料であるフライアッシュ等の輸送にセメント専用船を使用する場合の制限は、直ちに緩和する。
  • 鉄鋼、石油等に係る長期積荷保証船については、日本内航海運組合総連合会と荷主団体との協議結果を踏まえ、船腹調整事業の弾力的運用を行う。
  • その他、船腹調整事業については、利用者ニーズを反映できるよう、荷主団体の要望を十分把握し、引当比率の設定、外航船臨時投入等につき、弾力的運用を行う。

(b)モーダルシフト対象船種については、速やかに船腹調整事業の対象外とする。

(c)上記に加え、現在の船腹調整事業については、内航海運業者による同事業への依存の計画的解消を図り、市場原理の活用による内航海運業の活性化を図る。


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