航空安全規制のあり方について(答申要旨)

I.航空安全行政を取り巻く環境の変化>
1.参入の容易化及び競争の激化を背景とする事業形態の変化
 需給調整規制の廃止等による参入の容易化及び内外の競争の激化に伴い、外部資源を大幅に活用した新規会社の参入、既存会社の運航・整備の一層の効率化等、事業形態の変化が予想される。
2.航空技術の発展及び民間事業者の能力の向上
 航空技術の発展等により運航の安全性及び信頼性が向上し、航空機の運航及び整備の方法も大きく変化してきている。また、我が国の民間事業者の安全確保に関する能力も向上してきている。
3.航空の国際化の進展
 航空機等の安全性に関する外国の証明の受入れ、整備等の国際間の委託等を容易にすることにより、運航者等の負担を軽減する観点から、国際間で基準の一層の調和が進められている。また、航空の国際化の進展により外国航空機の安全性について関心が高まっている。
II.航空安全規制の基本的考え方
1.国による安全規制の必要性
 経済的規制である需給調整規制は廃止する一方、社会的規制である安全規制は、いったん航空事故が生じた場合の被害の甚大さから、事故の未然防止は社会的要請であること等から、航空輸送の安全確保を市場原理に委ねることには限界。
 また、国際民間航空条約の枠組みの中で、国は航空輸送の安全確保のための役割を果たす責務を有している。
 よって航空の安全規制は必須のものであり、国は安全確保のための最低限の基準の設定、航空会社の基準への適合性の審査、監視等を引き続き行うことが必要である。
 なお、国はこのような役割について利用者に十分理解されるよう努力すべきである。
2.安全規制の見直しについての考え方
 安全規制は引き続き必要であるが、その内容は航空会社の事業形態の変化、航空技術の発展等の環境変化に対応したものであることが求められ、国は適時適切にこれを見直すことが重要である。安全規制の見直しの際の基本的視点は以下のとおり。
(1) 透明性及び公平性の確保
 基準の一層の明確化を図る等、透明性及び公平性を確保する必要。
(2) 国際的な標準・基準との調和
 欧米を中心とした国際間の基準の調和をも踏まえ、国際的な標準・基準との調和を図る必要。
(3) 規制の合理化
 技術発展等に伴う基準の見直しのほか、安全確保に関する民間能力の活用等、規制の合理化を図る必要。
III.航空運送事業に関する今後の安全規制のあり方
1.航空運送事業の参入に係る安全規制及び随時監視
(1) 参入に係る安全規制
 需給調整規制の廃止後は、航空運送事業の参入にあたり、安全面の審査を中心とし、国は航空会社が運航、整備等に係る安全基準に適合していることを確認すべきである。具体的には、当該航空会社が安全基準に適合していることを提出書類により審査し、運航規程及び整備規程を審査のうえ認可し、運航開始前の検査を行うことが引き続き必要である。
 また、運航開始後においても、新機種導入による運航・整備体制の変更等、その変更内容が安全基準に適合していることを確認する必要があると認められる事項に関しては、国が事前に審査を行うとともに、必要に応じ運航開始前の検査を行うことが必要である。
(2) 随時監視の充実
 従来より、航空運送事業への参入後も航空会社が安全基準に適合していることを確保するため、定期的に立入検査を行うなど随時監視を行っている。今後需給調整規制廃止に伴う新規航空会社の参入等事業形態の変化の中で、航空会社等に対する随時監視が従来にも増して重要となることから、その実施のための体制を更に充実していく必要がある。
2.航空運送事業の事業形態の変化等への対応
(1) 外部資源の活用に対する安全規制
(i) ウェットリース及び運航委託
 現在ウェットリースの中には、実態として貸し手側の航空会社が運航を管理していると考えられる場合があるが、現状では、当該路線の免許を受けた会社でない貸し手側の航空会社に対しては、免許を受けた会社である借り手側を通じ間接的な監督を実施している。今後我が国の航空会社間のウェットリースを広く認めるとした場合、実態として運航を管理している貸し手側の航空会社の運航及び整備体制についても、安全確保の観点から直接国が監督を行う必要があり、このための法的な規制の整備を検討すべきである。
 また、国際線における外国航空会社への運航委託を広く認めるとした場合、委託先の外国航空会社は、航空事業に関し我が国と同等又はそれ以上の安全に係る制度を有し、かつその運用を行っている国の免許を受けた航空会社に限定することが適当である。
(ii)整備等の委託
 今後も整備業務等の委託について、最終的な安全上の責任は委託者にあることを踏まえ、委託先が適切な能力を有していること、委託者による委託管理が適切に行われること等を前提として認めていくことが適当である。
 特に整備作業の委託先の要件について、航空会社が使用する大型飛行機に関する機体全体の整備作業を外部に委託する場合は、系統だった作業手順に従って組織的に整備改造作業及び検査を行う能力があると認定された事業場(整備改造認定事業場)に委託先を限定する必要がある。
(2) コミューター航空に関する安全規制
 現在コミューター航空には付加的な安全規制を通達により課しており、その結果、ほぼ定期航空運送事業と同等の規制となっているが、コミューター航空のこれまでの運航実績から、一定の役割を果たしてきたと考えられる。
 需給調整規制の廃止後は、定期航空とコミューター航空のすみ分けは困難となり、利用者から見れば、提供されるサービスに関し両者の相違は理解し難いものと思われる。
 このため、コミューター航空に適用される安全規制を法令上も定期航空運送事業と同一のものとする方向で検討する必要があるが、この場合、航空機の大きさ(最大離陸重量、客席数等)、耐空類別等に応じて安全規制を適切に設定することが必要である。
IV.航空安全規制の合理化について
1.機長路線資格制度の見直し
 飛行場における航空保安施設、飛行方式等の標準化、航空路における無線標識等の整備、機上航法装置の性能向上等により、航空機の運航が標準化され、飛行場や路線毎の特性の差異は少なくなってきている。このため、路線毎に経験、知識及び能力を求めることは合理性に欠けると考えられるようになってきている。
 したがって、機長の資格については、欧米の趨勢を参考にして、機長としての業務を遂行するために必要な全ての路線に共通して求められる知識及び能力を重点として認定することとし、これまでの路線毎に審査し認定を行う制度は廃止することが適当である。
2.整備士資格制度の見直し
 航空機の技術的進歩、信頼性の向上等により、ライン整備を中心に、高度な知識・能力が必要な構造修理、エンジン交換等の修理作業の発生頻度が減少し、大半は基本的知識・能力により対応可能な計器類の調整、消耗部品の交換等の保守作業となってきている。しかしながら、整備後の適切性を確認する者に必要とされる資格としては、修理作業にも対応することを目的としたもの(航空整備士資格)しか設けられていないため、保守作業についてもこのような資格を有する者を充てざるを得ない。
 以上から、一般的保守等に対応する資格(基本航空整備士資格(仮称))を設け、昨今の整備の環境を反映したものに改めることが望ましい。
 また、航空整備士資格の区分の方法について、現在の最大離陸重量による区分が合理的でなくなってきているため、航空機の構造、システムの複雑さに直接関係する設計基準の分類に着目したものに改める必要がある。
3.機器の装備義務
 対地接近警報装置(GPWS)をはじめとする運航の安全向上に効果の大きい各種機器については、国際的に装備が義務化されてきている。
 今後、機器の進歩及び多様化がさらに進み、国際的に新たな機器の装備が義務化されたり、装備すべき航空機の対象範囲が拡大することが予想されるが、我が国も運航の安全向上の観点から、こうした機器の装備を義務化する国際的な動きに迅速に対応する必要がある。
V.その他航空安全に関する事項
1.安全に関連する情報
 今後、需給調整規制の廃止に伴い輸送サービスに関する各種の情報に対するニーズが高まることが予想される中で、利用者の関心が高いと考えられる安全に関連する情報についても、利用者に対して十分かつ適切に公開される必要がある。
 この場合、国及び航空会社等が各々の役割に基づき情報を公開することが適当と考えられるが、具体的に公開する情報の範囲、内容、公開方法等について、今後更に検討を行うことが適当である。
2.システム認証の活用
 民間事業者の能力の向上を踏まえ、国の認証行為の効率化、受検者の利便の向上を図るため、国の個別的検査又は試験業務等については、可能な限り認定事業場等の民間事業者が実施する方向に移行し、国は民間事業者が業務を適切に実施する能力を有していることを認証する方式を一層活用すべきである。このようなシステム認証の活用にあたっては、国は認証後もこれらの事業者の業務が適切に行われていることを確保するため、業務の実施状況、基準への適合状況等についての随時監視を充実する必要がある。
3.外国航空機の安全確保
 我が国に乗り入れている外国航空機の安全の確保に資する観点から、国際民間航空機関(ICAO)が行っている安全監視プログラム(Safety Oversight Program)に我が国も積極的に参画していくと同時に、外国航空機に対する検査(ランプ・インスペクション)を早急に実施すべく必要な検査体制の整備、検査方法等の具体化を図っていく必要がある。


戻る