2 交通運輸をめぐる環境変化と今後の課題 2 交通運輸をめぐる環境変化と今後の課題


 人の移動・交流及び物の輸送・流通を支える「交通運輸」は、現在及び将来にわたり我が国の経済活動、国民の生活にとって必要不可欠な基盤であり、1 に掲げる内外の様々な経済社会情勢の変化等を踏まえつつ、引き続き、「安全かつ低廉で利便性の高い交通運輸サービスの提供」を図ることを最終的な目標とすべきである。
 特に、我が国経済社会の環境変化に対応し、活力ある経済と利用者の視点に立った社会を実現するために、市場原理を最大限に活用した交通運輸システムを構築することが喫緊の課題となっている。
 本章では、交通運輸分野全体を一括りとして、それらをめぐる環境変化と今後の課題について整理した。本来、交通運輸の分野には、大量輸送機関としての特性を有する鉄道や個別輸送機関としての特性を有するタクシーなど多種多様なモードが存在しており、各モードごとにそれぞれ個別特有の事情があることは勿論のことである。このような各モードごとの特性を踏まえた需給調整規制廃止に伴う環境整備方策等については、別途各部会で検討されることとなっていることから、各モードの個別事情をとらえて整理するのではなく、今後の交通運輸分野全体の課題として各モードに共通する事項について整理した。
 課題の整理に当たっては、これを大きく「(1) 市場原理の活用のための交通運輸の課題」と「(2) 市場原理の活用のみでは十分に対応できない諸課題」とに分け、それぞれの個別項目ごとに、交通運輸をめぐる「環境変化」と「今後の課題」を列記した。

(1) 市場原理の活用のための交通運輸の課題
 今般、交通運輸分野においては、従来からの経済システムを見直し、市場原理と自己責任原則の下、国際的あるいは国内的な人、物の移動ニーズに的確に対応し、低廉で利便性の高いサービスの提供を行うために、需給調整規制の原則廃止の方針が決定されたところである。したがって、そのための前提として、以下のような競争条件の平等化を図り、その効果を十分に引き出すための市場環境を整備し、競争を促進することにより、交通運輸の活性化・高度化を実現することが非常に重要である。
(i) 交通インフラの整備による市場環境整備
<環境変化>
 経済社会情勢の変化に伴い、交通運輸の分野においても、市場原理を最大限活用した事業の活性化、サービスの高度化・多様化の必要性が高まっている。
 市場原理の活用に当たっては、その効果を十分に実効あらしめるため、その前提となる競争的な市場環境の整備が求められている。特に、交通インフラの整備は交通利用者にとって交通運輸サービスを享受するための前提となり、基盤的な役割を果たすことから、これを踏まえた市場環境整備を行っていくことが期待される。
<今後の課題>
 交通インフラの整備については、従来からの国土の均衡ある発展という観点に加え、競争的な市場環境を整備する前提として、経済のグローバル化への対応、高コスト構造の是正等に資する国際ハブ空港・港湾、高速鉄道、国内基幹空港、物流効率化のための物流拠点等の整備を図っていくことが重要である。

(ii) 新たなニーズに対応した創造性豊かなサービスの供給
<環境変化>
 国民の価値観の多様化、安全性に対する意識の高まり、高齢社会の到来等により、交通運輸に対するニーズも従来以上に多様化している。このような中で、情報通信技術の飛躍的発展等を踏まえながら、従来の諸条件の下では提供されることが困難であった創造性豊かな新たな交通運輸サービスを実現することにより、利用者の多様化するニーズに応えていくことが求められている。特に、「経済構造の変革と創造のための行動計画」においても、流通・物流関連分野、海洋関連分野、航空・宇宙(民需)分野、国際化関連分野、情報通信関連分野など15分野について、今後の成長への期待がなされているところである。
<今後の課題>
 利用者ニーズの多様化に対応し、既存の交通運輸サービスの一層の高度化を図るとともに、創造性豊かなニューサービスを創出するため、情報通信技術の飛躍的発展を踏まえた事業者による創意工夫の発揮及び積極的なビジネス展開に資するような環境整備が重要である。

(iii) 競争の促進措置による市場環境整備
<環境変化>
 交通運輸の分野においても、市場原理を最大限活用した事業の活性化、サービスの高度化の必要性が高まっているが、市場原理の活用による効果を十分に実効あらしめるためには、各モード毎の市場の特色等を踏まえつつ、事業者の競争を促進するための措置を講じることにより、競争市場をより有効に機能させることが期待される。
<今後の課題>
 競争的な市場環境を整備し、より一層の競争を促すため、航空、海運分野における国際交渉、空港容量の制約がある空港における空港スロットの調整ルールの設定等を進める必要がある。

(iv) 国際競争力の確保等のための良質かつ低廉なサービスの供給
<環境変化>
 我が国を巡る国際経済環境の変化の中で、産業の国際競争力の確保の観点から、交通運輸分野、中でも特に物流分野における高コスト構造の是正に対する関心が従来以上に高まってきている。このため、市場原理の活用を通じた事業活動の活性化により荷主のニーズに合致した良質かつ低廉なサービスが提供され、効果的に高コスト構造が是正されていくことが期待される。
<今後の課題>
 サービス供給コストの縮減に向けたインセンティブを与えるとともに、情報化の促進、技術開発を通じたサービスの高度化等を通じた交通運輸事業の効率化を進め、良質かつ低廉なサービス提供を促していくことが重要である。

(2) 市場原理の活用のみでは十分に対応できない諸課題
 域内の円滑な交通運輸の確保、利便性の高い交通運輸の確保、安全で災害に強い交通運輸の確保、高齢者等の利便性向上、環境への配慮は重要な課題である。これらは、(1) のような市場原理の活用による交通運輸サービスの向上だけではそもそも国民のニーズに十分な対応が期待できないこと、また、今般の需給調整規制の廃止に伴い、さらに対応の必要性が高まると予想されること等を勘案しつつ、状況に応じ的確な対応を図ることが重要な課題である。
(i) 域内(過密過疎地域等)における円滑な交通運輸の確保
<環境変化>
 我が国交通運輸分野においては、都市部における慢性的な交通渋滞が問題視されてから既に長期間が経過し、抜本的対策が採れないままとなっており、また、都市鉄道については輸送力増強等により若干の改善は見られるものの、職住分離型の都市構造による旅客流動の増大により通勤時の鉄道混雑等の様々な都市交通問題が顕在化している。その一方で地方部においては、モータリゼーションの進展により自家用乗用車の普及率が依然として伸びており、公共交通機関の利用減少によりそのサービス維持が困難となる地域が増加している。また、需給調整規制の廃止に伴い、競争が促進され、サービスの向上が期待される一方で、都市部も含め、従来内部補助によりサービスの維持を図ってきた比較的需要の少ない路線についてはサービスの質の低下が懸念されるところである。
<今後の課題>
 快適でゆとりと豊かさの実感できる社会を実現するためには、市場の活性化を通じたサービス向上、走行環境の整備等による大量交通機関の利用促進を通じた渋滞対策、鉄道の輸送力増強、オフピーク通勤の推進等の通勤混雑対策等を他の都市政策とも連携を図りつつハード面とソフト面の施策を一体的に遂行することにより、都市交通問題を早急に解決することが求められている。また、生活に不可欠の足となっているバス、旅客船等の生活交通の維持を図ることが重要な課題である。

(ii) 利用者が安心して利用できる交通運輸の確保
<環境変化>
 経済社会情勢の変化に伴い、市場原理を最大限活用した事業の活性化、サービスの高度化への期待が高まっている。しかしながら、その一方で、例えば、競争の促進に伴うサービスの質の低下や、運賃の多様化による利用者の混乱を指摘する声もある。
<今後の課題>
 運賃の高騰防止など利用者利益の確保を図るための措置等により、需給調整規制の廃止後においても、引き続き利用者が安心して利用できる利便性の高い交通運輸を確保することが重要である。
 また、市場原理を有効に機能させるため、利用者が交通機関を自由に選択できるよう、その判断の基礎となる情報を容易に入手できるようにすることが重要である。

(iii) モード間の連携・調整の強化
<環境変化>
 国民の価値観の多様化等に伴う交通運輸サービスへのニーズの高まり、情報通信技術の飛躍的発展、交通渋滞等の都市交通問題、環境問題の深刻化等を踏まえながら、利用者ニーズに的確に対応しつつ、様々な交通問題への対応を図るための調和のとれた交通運輸サービスを実現することが求められている。
<今後の課題>
 結節点の整備等各モード間の連携を図ることにより、移動の連続性があり利便性の高い交通運輸サービスを確保するとともに、情報通信機器の飛躍的発展を踏まえつつ、高度道路交通システム(ITS)等の新技術の開発・活用、交通需要マネジメント(TDM)等供給サイドと需要サイドの両面からの、かつ、モードを超えた取り組み等により、自家用交通利用も含めたトータルな視野に立った交通運輸サービスを確保することが重要である。

(iv) 安全で災害に強い交通運輸の確保
<環境変化>
 国民生活の基盤となる交通運輸分野においては、従来より安全性の確保が最も基本的な課題とされてきたが、大震災などの大規模災害の経験等により、安全で災害に強い交通運輸の確保への意識が従来にも増して高まってきている。
<今後の課題>
 今後とも、安全な輸送サービスが提供されるための措置、高度情報通信機器等による安全性向上のための技術開発の推進、事故防止に対する取り組み、リダンダンシー(代替輸送手段、経路等)の確保等を通じ、交通運輸に課せられた最も基本的な課題である安全性の確保と災害発生時にも国民経済、生活を支え得る交通運輸ネットワークの確保が重要な課題である。

(v) 高齢者・障害者等に利用しやすい交通環境の整備
<環境変化>
 高齢化の進展、障害者の社会参加の拡大の一方で、現在の交通環境は、健常者の利用を主体としたものとなっていることは否定できず、今後こうした交通の需要者の質の大幅な変更に伴う環境整備が求められている。
<今後の課題>
 交通機関、結節点の乗り継ぎ施設等交通関連施設のバリアフリー化、多様な交通サービスの提供等により、高齢者、障害者等が利用しやすい「人にやさしい」交通環境を整備することが重要な課題である。

(vi) 環境にやさしい交通体系の形成
<環境変化>
 交通運輸分野においては、自動車の輸送分担率が増大していること等により、自動車からの排出ガスを中心に、都市部における窒素酸化物の排出等による大気汚染、二酸化炭素の排出を主要因とする地球温暖化等の環境問題への対応が求められている。
<今後の課題>
 低燃費車、低公害車の技術開発、導入推進、大量輸送機関であるバス等の公共交通への需要の誘導、貨物自動車と他モードとの結節点の整備等による物流の効率化に資する諸施策など、陸・海・空毎又はこれらの各モードにまたがる施策を、ハード・ソフト一体的に推進することにより、窒素酸化物の排出等による都市環境問題、二酸化炭素の排出等による地球環境問題の解決に寄与する「環境にやさしい」交通体系を整備することが重要な課題である。


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