4 交通運輸行政に取り組むに当たって留意すべき事項 4 交通運輸行政に取り組むに当たって留意すべき事項


 我が国経済の構造改革が求められる中、従来の手法では我が国が直面する諸課題に応えていくことは困難となりつつあり、今後は、従来のサービス供給者側(事業者等)の視点に立った発想から、サービスの需要者側(利用者)の視点に立った発想への転換をこれまで以上に進め、市場原理と自己責任原則の下に事業者間の自由競争を促進し、事業活動の効率化、活性化を通じたサービスの向上・多様化、価格の低廉化・多様化等を進めていくことが求められている。
 このような視点を踏まえ、今後の交通運輸行政に取り組むに当たり留意すべき事項をまとめると以下のとおりとなる。
 なお、今回の検討は、需給調整規制の原則廃止を契機に生じる交通運輸分野における政策課題と今後の行政の役割についての考え方を中心にとりまとめたものであり、交通運輸行政全般を視野に入れた21世紀初頭における政策の基本的な方向については、別途幅広い観点から十分詳細な検討が必要である。

(i) 基盤整備を行うに際しての留意事項
 事業者の参入・退出が制度上自由である市場原理に基づく交通システムが最大の効率性を確保するためには、できる限り競争条件が平等化されるような競争市場環境の整備が必要である。
 このため、引き続き交通インフラの整備を着実に進める必要があるが、これらの基盤整備については、従来より、公共投資の硬直的配分等の非効率性が指摘されてきたところであり、今日、国、地方の財政が著しく逼迫している状況にある中で、社会資本の整備に如何に取り組むかが重要な課題となっている。
 そのため、投資の重点化、事業配分の見直しを進めるとともに、既存の社会資本の有効活用、空港・港湾とアクセス鉄道・道路の一体的整備など各公共事業間の連携、陸・海・空にわたる交通モード相互の連携を図る必要がある。さらに、費用対効果分析の評価手法を深度化して、計画策定及び事業採択に際して総合的、体系的な評価を行うとともに、投資の重点化、コスト分析の徹底による公共工事の建設コスト縮減等に取り組むことにより、社会資本整備を最大限効率的、効果的に行う必要がある。
 一方、交通インフラが整備されてはじめて交通サービスの提供が可能となること、また、利用者ニーズに応じた交通インフラの整備という視点がさらに一層重要であること等を踏まえ、交通インフラの整備に当たっては、投資の効率化を図るため、交通インフラというハードについて利用面(ソフト面)の施策との整合性を十分に図りつつ、ハード・ソフト両者が一体となって最大の効果を発揮するように基盤整備に取り組む必要がある。

(ii) 利用者利便の確保等に際しての留意事項
 需給調整規制の原則廃止に伴い、利用者がこれまで以上に自己の責任の下で自由に輸送機関の選択を行うこととなるが、市場原理に基づき利便性の高いサービスが確保されるためには、事業者が守るべき責務や利用者がサービスを選択するに際しての責任を一層明確化する必要がある。
 同時に、その一方で、行政の関与を必要最小限に止める必要があり、特に社会的規制の名のもと、実質的に競争制限的な効果を持つものとなることがないように、その関与の内容及び必要性についての見直しが必要である。このため、経済社会情勢の変化への柔軟かつ迅速な対応が可能となるような行政手法を検討し、行政の硬直化を招くことのないよう留意する必要がある。例えば、技術基準についても、規制は必要最小限に止めるとともに、技術の進展、ハード・ソフトの連携等を踏まえ、時代に即応したものとするよう、不断の見直しが必要である。
 また、サービスの質の低下が利用者の利便を損なうことのないよう、事業に関連する必要情報の収集、チェック等の適切な監視活動を実施する必要がある。

(iii) 需給調整規制廃止への移行措置についての留意事項
 運輸サービスは、国民の日常生活に極めて密接に関わっており、利用者の年齢層にも幅があるほか、地域によってもその提供の形態は異なっている。また、我が国においては、自己責任の原則に関する意識が必ずしも完全には浸透しているとは考えにくい。このような交通運輸を取り巻く環境の下で、需給調整規制の廃止及びこれに伴う運輸サービスの形態等の変更を進めるに当たっては、円滑にソフトランディングさせるための配慮及び国民に対する措置内容の周知など、社会的な混乱を避けるための措置が重要である。
 また、需給調整規制の廃止に伴う競争の促進により、中小企業の経営悪化や雇用問題の発生が想定されるところであり、今後は、需給調整規制の廃止に伴う円滑な移行措置としての中小企業対策、雇用対策等の環境整備方策について、各モード毎の特性を踏まえつつ、十分に検討することが必要である。

(iv) 政策決定手続についての留意事項
 国民が納得できる交通運輸政策を実現するためには、まず、透明性の確保の観点から行政側の政策決定プロセスに関する情報を十分に国民に提供するとともに、政策決定に当たってはアカウンタビリティ(説明責任)を確保する必要がある。
 また、こうした透明性の確保、アカウンタビリティを前提として、利用者の行政に対するニーズが十分に行政側の政策決定プロセスに反映される必要があり、こうした利用者ニーズの汲み上げに努めていく必要がある。
 特に、都市交通問題、環境問題等への対応を図る観点から、地域における交通需要マネジメント等交通全体を視野に入れた調整を行う必要があると考えられる場合には、こうした政策決定に当たってのアカウンタビリティの確保及び利用者ニーズの汲み上げは非常に重要になっている。


おわりに


 今回の運輸行政における需給調整規制の原則廃止という大きな行政手法の転換は、とりもなおさず、市場原理の積極的活用により、事業の活性化、サービスの高度化を目的としたものである。
 こうした「市場原理の活用」と「行政による政策措置」とは、一見対立する概念として相容れないものであるかのような誤解も存在するが、両者とも、円滑な経済活動と国民の利益を目的にしたものであり、前者の効果が後者によってより有効に発揮されること、あるいは、前者による効果の期待できない部分を後者が補完することにより、21世紀に向け、陸・海・空にわたり整合性のとれた交通運輸体系の形成と安全かつ安定的で質の高い交通運輸サービスの提供に寄与していくものと考えられる。
 その意味で、今般の政策転換は、変革と創造を通じた新しい経済社会システムへの大きなチャレンジである。この大きな転換が本来の目的である事業の活性化、サービスの高度化に確実につながるよう、行政としては、競争的な市場環境の整備に努めるとともに、市場原理のみをもってしては十分な効果が期待できない課題に対する着実な対応を図っていく必要がある。
 また、これと併せて、今般の需給調整規制廃止に伴う円滑な移行措置として、中小企業対策、雇用対策等の環境整備方策について検討することが、行政に求められる。
 さらに、今回の需給調整規制の廃止を契機とするこれらの諸施策の企画立案、実施に当たっては、例えば一定期間を経た段階で、規制廃止の趣旨が活かされているか、弊害が生じていないかを検証し、施策を適時適切に見直すなど、行政としても柔軟な対応を図ることが求められる。


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