(ii) しかしながら、21世紀を目前に控え、経済社会が成熟し、安定成長の時代に突入しつつある今日の我が国において、引き続き、豊かな経済社会を実現するためには、社会全般における規制を緩和・撤廃し、又は、事前的な行政規制から事後的な措置へと移行することを通じ、世界標準を念頭に置いた市場原理及び自己責任原則の導入を図ることにより、経済社会を活性化していくことが現下の喫緊の政策課題となっている。特に、国際的な大競争時代の到来や情報化の進展に伴い、我が国の運輸企業がそのサービスの向上及びコストの削減を図るために、従来以上に事業の効率性を高めることが求められることとなった。
このような状況の中で、交通分野における需給調整規制を行うことは、既存のサービスの質の確保を図るという面で引き続き機能する一方で、
(iii) このため、交通分野においても、安全の確保、利用者保護等を目的とする必要最小限の規制を除いて旅客輸送サービスの供給を自由化することにより、交通事業者の創意工夫及び市場における公正かつ自由な競争を通じた事業活動の活性化・効率化を図り、運輸サービスの多様化や高度化、運賃の多様化や低廉化等交通利用者の利便の増進を図るため、平成11年度から遅くとも平成13年度までに、鉄道、自動車交通、海上交通及び航空の各分野において、現行の需給調整規制を原則として廃止することとしている。
(ii) このような生活交通の分野については、需給調整規制を廃止し、市場原理を導入することによりもたらされるメリットとデメリットを十分に考慮し、利用者にとって、サービスの向上等の競争促進による効果を享受することが期待できず、むしろ実際には交通サービスの休止や廃止といった不利益がもたらされると見込まれる場合においては、地域における生活交通サービスを確保するために、予め行政において、適切な方策を用意しておくことが必要である。
生活交通の維持については、国と地方の役割分担を念頭に置いて検討する必要がある。
すなわち、地域における生活交通の維持については、国としての固有の立場がある一方で、地方公共団体としてもまたその固有の立場があり、全体的な制度的枠組みの下に国と地方公共団体とがそれぞれの立場に基づいて適切に分担・協同してこの課題に対処することが適当である。今後、地方分権を推進していくという政府の方針に留意しつつ、上述の両者の役割分担についての基本的な考え方に基づき、各交通モードの事情を考慮した生活交通維持のための適切なルールを確立する必要があると考えられる。
なお、国と地方の役割分担に関連して、政策的に維持すべき生活交通について国の立場から厳格な基準が設けられると、往々にして地方公共団体が自主的な判断を避け、国の基準に準拠した画一的な支援に陥りがちであるとの懸念もあるところであり、これに留意しておく必要があろう。
なお、国と地方の分担・協同関係の下に講じられる生活交通維持方策の枠外で、地方公共団体がそれぞれ独自に生活交通の維持のための方策を講ずることについては、当然のことながら地方公共団体の主体的な判断に委ねることが望ましい。