IV 需給調整規制廃止後の事業制度のあり方 IV 需給調整規制廃止後の事業制度のあり方

  1 参入・退出制度

 市場原理と自己責任原則の下に競争を促進するためには、参入について、これまでの需給調整規制を前提とした免許制を改め、一定の資格要件を満たせば参入が認められる許可制とすることが適当である。
 この場合、事業者の資格要件は、安全確保を図る上での船舶その他の輸送施設に関するもの、安全確保のための事業者の事業遂行能力に関するものなど最小限に限定することが適当である。
 また、市場原理を適正に機能させるためには、原則として退出も自由とすることが適当であり、届出制へと変更することが適当である。

  2 運賃制度

 事業者の創意工夫が活かされ、また、事業者間の競争が促進されるためには、事業者による自主的かつ弾力的な運賃設定が可能となる制度とすることが必要である。このような観点からは、運賃制度についてはできるかぎり行政の関与をなくし、自由なものとすることが適当である。しかしながら、運賃制度を全く自由とした場合には、特定の旅客に対して不当に差別的な運賃が設定されたり、独占的な航路において運賃が著しく高騰する可能性があるとともに、一方では他の事業者を排除するための市場収奪的な運賃設定が行われ、結果として利用者が不利益を被る可能性も懸念される。
 このため、需給調整規制廃止後の運賃制度については、事業者が運賃の適用にあたって事前に届出を行い、届け出た運賃について利用者の利益が著しく阻害されると認められる場合に限って、行政が是正のために必要な指示ができることとすることが適当である。

  3 利用者保護
(i) 運送約款
 国内旅客船事業と利用者の契約関係については、不特定多数の利用者との運送契約の締結を円滑かつ迅速に処理するため、契約内容をあらかじめ定型的な運送約款の形で処理することが契約の双方にとって簡便であり現実的である。このため、従来より運送約款が定められており、利用者は特別の場合を除き個別に運送契約の内容について交渉するのではなく、また、あらかじめ運送約款の内容の詳細について検討した上で運送契約を締結するのでもなく、運送約款を前提として運送契約を締結するか否かの判断を行うことが一般的である。このように、実際の運送にあたっては運送事業者と利用者が対等な立場で運送契約を締結する状況にはないところから、現在は行政があらかじめ運送約款について審査した上で認可する制度がとられている。また、行政が利用者保護の上で望ましいと考えられる標準運送約款を定めて公示し、事業者がこれと同一の運送約款を定めた場合には認可手続を不要とする制度(標準運送約款制度)があり、これにより事業者の負担軽減が図られている。
 需給調整規制廃止後も、このように、運送約款が利用者一般の立場から見て適正なものであるか否かについて行政があらかじめ審査する制度を引き続き維持することが適当である。
 なお、今後も標準運送約款を含む運送約款については、行政、事業者ともに、利用者ニーズの変化を反映させるためその内容を適時適切に見直すとともに、その主要な内容を利用者により簡単でわかりやすく周知させる方法を工夫することが適当である。

(ii) 事業改善命令
 需給調整規制の廃止等により、市場における事業者間の競争を通じて最適なサービスが提供されることが期待されるが、例えば、新規参入者が現れないことにより結果的に独占的な状態にある航路において、事業者が他の交通機関との乗り継ぎのための適切な運航スケジュールの設定を行わないなど、利用者の利便が阻害され、公共交通機関としての事業の適正かつ合理的なサービスの提供が行われない場合が生じる可能性も否定できない。このため、このような場合には、事業の改善を行うよう行政が命令することができることとすることが適当である。

(iii) その他
 旅客運送について需給調整規制を廃止した場合、航路によっては過当競争が生じて航路の維持が困難になり、結果的に利用者の利益が損なわれる可能性があるが、このような場合、独占禁止法で対応できる場合は限られ、また対応するとしても事後的救済となるため、現行海上運送法第32条のように行政が緊急避難的に過当競争排除のため一定の関与を行う制度が必要であるとの意見がある。一方、このような制度は需給調整規制を廃止し、競争を促進するという今回の改革の目的に反し、かえって利用者の利益を損なうおそれがあるとの意見もある。このため、このような制度の導入の必要性については、独占禁止法に基づく措置等他の代替的措置との関係にも留意しつつ、慎重に検討することが適当である。
 また、一定の航路において一定の日程表に従い運送を行う定期航路事業は、需要の多寡に関らず定時に運航を行うことにより人々の日常生活や経済活動が安定的に行われることを支えており、不定期に運送を行う不定期航路事業に比べてより公益性・公共性が高い。しかしながら、定期航路事業及び不定期航路事業の双方について需給調整規制を廃止すると、一定の日程表に従って運送を行う義務を負った定期航路事業者が競争上不利な条件の下におかれ、定期航路事業の維持が困難になる場合も想定される。このため需給調整規制廃止後の制度設計にあたっては、定期航路事業の公益性に配慮し、不定期航路事業との機能分担を考慮することが適当である。

  4 安全確保等

 運輸分野においては安全の確保が最も重要な課題であり、現在、事業運営について課されている以下の海上運送法に基づく安全確保のための方策については、基本的に需給調整規制を廃止した後も講じていくことが適当である。

   [安全規制等の具体的内容]

    輸送施設の安全性や船舶交通上の安全性等の審査
    運航管理規程の策定・届出義務や運航管理者の選任義務
    安全確保命令、保険契約締結命令
    安全の確保上必要な場合の立ち入り検査等
 また、いわゆる海上タクシーやRORO船等12人以下の旅客定員を有する船舶(非旅客船)を用いて行う旅客運送等については、現行海上運送法上、国内旅客船事業に適用されている事業面からの安全確保等のための規制は適用されていないが、有償で反復継続して旅客運送を行うなど事業として旅客運送を行っている場合には、その実態を踏まえつつ、法制度に基づく措置を含め適切な安全対策を検討することが適当である。
 なお、国内旅客船事業における輸送の安全は、このほか船舶の技術基準・検査制度、船員資格に係る制度等が総合的に講じられることによって確保されるものであり、海上における安全の確保に関する総合的な検討を行い、最も効果的かつ効率的な方法で安全が確保できるよう、技術の進展や社会経済状況の変化も踏まえて、各般の安全規制について適時適切に見直していくことが適当である。
  5 情報提供

 市場原理の下で利用者が自己責任に基づく自由な選択を行うことを可能とするためには、運賃や運航スケジュール等のサービス内容や安全性等に関する情報が、比較可能でわかりやすい形で、利用者にあまねく提供されることが必要であり、国内旅客船事業者は、このような情報を利用者に対して積極的に提供するよう努めるべきである。また、行政は、事業者による正確・公正な情報の提供を促すとともに、安全に関する情報等専門的知識が必要とされる情報や事業者が自ら積極的に提供することを期待し難い自己に不利な情報等については、客観的立場から、利用者にわかりやすく提供することが適当である。
 また、情報の提供にあたっては、利用者からの情報へのアクセスが容易となるよう配慮すべきである。
 なお、情報の提供にあわせて、利用者の意見・苦情等が事業者にフィードバックされ、事業の改善等に反映される仕組みを検討することが重要である。


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