V 生活航路の維持方策 V 生活航路の維持方策

  1 生活航路についての基本的考え方

 離島等については、住民が日常生活を営む上で往来することの必要な本土の都市等が海によって隔てられており、また、住民が自家用の交通手段を有することはまれであるため、旅客船という公共交通機関の途絶が直ちに住民の生活を脅かすこととなる。また、離島における人口の減少等から輸送需要が小さい、あるいは輸送需要が減少している航路が多く、事業者は厳しい経営を余儀なくされている。このため、従来から離島等の住民の足として海上の航路の確保が行政の最重要課題の一つとされ、昭和27年以降は「離島航路整備法(昭和27年7月4日 法律第226号)」に基づく欠損補助制度等が講じられてきた。
 近年、一部の離島においては航空路線も整備されつつあるが、海上の航路は運賃が相対的に低廉であることや生活物資の輸送の大半を担っていること等から、航空路線がある場合であっても海上の航路が基本的かつ普遍的交通手段であり、これを維持していくことは今後とも重要な課題である。
 このような生活航路の維持については、国はナショナルミニマムとしての公共交通サービスの確保の観点から、地方公共団体は地域の公共交通サービスの確保や地域振興等の観点からそれぞれ責任を有するものと考えられ、需給調整規制廃止後も、以下の「2 事業制度のあり方」及び「3 公的支援のあり方」に述べるような方策を講じることにより、生活航路の維持を図っていく必要がある。
 なお、生活航路の維持を図るにあたっては、そもそも航路の需要喚起による経営改善が重要であり、国及び地方が連携して、離島振興のための諸般の施策を推進する必要がある。



[生活航路の範囲]
 生活航路とは以下の(1)及び(2)を満たす航路と考えられる。
 (1)以下のいずれかに該当する航路
   ・離島と本土とを連絡する航路
   ・離島相互間を連絡する航路
   ・これら以外で陸上交通機関がない又は陸上交通機関によることが著しく不便な地点間    を連絡する航路
 (2)日常生活(通勤、通学、通院、買い物、官公署への用事等)のために必要不可欠な目的   地(職場、学校、病院、商業施設、役場などの公的機関等の所在地等)と離島等を連絡す   る航路。これを輸送の内容から見ると、住民及び日常生活物資等(郵便、新聞、日用品等   )が輸送されている航路。観光や経済産業活動上の目的での利用にも併せて用いられて   いる場合、すなわち、観光客や産業物資が輸送されている場合であっても、これらに該当   する場合には生活航路と考えられる。
  なお、個々の航路が生活航路に該当するか否かについては、各離島等にお ける住民の航路利用の実態等を踏まえて判断することが必要である。
 

  2 事業制度のあり方

 需給調整規制を廃止した場合には、生活航路においても、相対的に需要の大きい特定の季節や一体として運航されている航路の一部のみへの参入などが予想される。しかしながら、生活航路においてこのような一時的又は部分的な参入によって需要の一部を奪う行為、いわゆるクリームスキミングが行われる場合には、生活航路について年間を通じて一体的にサービスの安定的供給を担う者の経営に悪影響を及ぼし、結果として、生活航路の維持に支障をきたすことが懸念される。
 したがって、生活航路については、その範囲を明確にした上で、生活航路の維持とサービス向上や経営合理化のインセンティブの両立に配慮しつつ、参入にあたって所要の規制等の措置を講じることが適当である。その内容としては、事業者が離島等の住民の生活に必要な交通を確保するための適切な事業の計画を有することなどを特別の審査要件とすることを検討し、措置することが適当である。このことにより、生活航路における住民の生活に必要な海上輸送サービスの供給が維持されるとともに、サービスの向上と利用者の利便の増進が図られるものと考える。
 また、退出については、生活航路の運航を担ってきた事業者が事業を廃止する場合には、これに替わる事業者等代替的な輸送手段を確保することが必要である。このため、事業の廃止の意志が示されてから、地方公共団体も含めた関係者間で代替輸送手段の確保について協議・調整等を行う仕組みを検討するとともに、協議・調整等のために必要な期間を経て退出することとするなどの規制等の措置を講じることが適当である。
 さらに、生活航路についての運賃制度その他の参入・退出以外の事業制度についても、参入・退出について特別の措置を講じることとの整合性に配慮して制度設計を行うことが必要である。
 また、地方公共団体は、それぞれの地域に対し第一義的な行政責任を負い、当該地域における行政の各分野にわたり、全体的に、かつ、詳細な知見を有することから、生活航路について参入・退出等について上記のような措置を講じるにあたっては、地方の自主性・主体性を尊重し、関係地方公共団体の意見が十分反映されるよう配慮することが適当である。
 なお、クリームスキミングの問題に関し、生活航路における12人以下の旅客定員を有する船舶(非旅客船)による旅客運送については、航路の維持に悪影響を及ぼすおそれがある、あるいは、公正な競争条件を整備する必要があるとの観点から、一定の規制をすべきとの意見がある。他方、非旅客船による旅客運送を困難とするような参入規制を設けることは、離島等の住民の利便性を損う場合があり適当でないとの意見があ る。今後、制度設計にあたりこれらの意見に留意し適切な結論を得る必要がある。

  3 公的支援のあり方

 生活航路については、参入・退出にあたって所要の規制等の措置を講じるとともに、合理的な経営の下でなお採算を採ることが困難である場合などには、国はナショナルミニマムとしての公共交通サービス確保の観点から、地方公共団体はその自主性・主体性に基づき、地域の公共交通サービスの確保や地域振興等の観点から、それぞれの責任に応じ航路の維持のための財政支援等を行うことが適当である。この際、「2 事業制度のあり方」で述べたようにクリームスキミング防止のための措置を講じることは、国と地方が限りある財源を用いて、生活航路維持のための支援策を講じていくにあたって必要な現実的対応策である。
 なお、国による補助制度の効率化を図るため、経営合理化のインセンティブが働く仕組が組み込まれることが必要であることから、標準化方式による現行の補助制度を今後も採用し、離島のおかれている状況の多様性に配慮しつつ、一層経営合理化のインセンティブが働くよう検討することが適当である。
 なお、補助制度の公平性・透明性を高めるとともに、事業の透明性を確保し経営の効率化を図る観点から、補助金交付額や補助金の交付を受けている事業者の経営内容について適切な情報公開が求められる。


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