I 需給調整規制廃止に向けての基本的考え方 I 需給調整規制廃止に向けての基本的考え方


 今日においては新規に旅客鉄道事業を開始することについては既存鉄道事業者も含めて極めて慎重な姿勢にならざるを得ない状況にあり、競願や競合による共倒れの蓋然性が極めて低くなってきているという意味で鉄道事業者間の権益調整としての役目を持つ需給調整を行う必要性は薄れている。また、鉄道事業者側において経営面でのノウハウが蓄積してきているところであり、旅客鉄道事業の活性化等の観点から鉄道事業者の自主性・主体的経営判断を尊重することが重要となってきている。そこで、交通運輸の各分野において、原則、需給調整規制を廃止し競争原理の導入を図る中で、旅客鉄道事業についても、これまでの関与を撤廃した場合に最小限必要となる行政の関与は何かという立場に立って、ゼロベースで事業制度のあり方を考えていくのが適当である。
 一方で、旅客鉄道事業は、(i)一旦鉄道輸送サービスが提供されると地域住民の日常の交通手段として定着するものであり、他の輸送手段による代替がききにくい場合がある、(ii)投資コストが莫大であり、かつ、限られた空間を利用しての大規模な施設整備を伴うことから、事業の失敗があっても修正が効きにくい、(iii)利用者が複数の鉄道輸送サービスのどちらかを選択することが困難であり、市場原理によるサービス向上が期待しにくい場合がある、(iv)大量輸送機関であり、万一事故が起こった場合の被害は甚大であるという特性を有しているため、鉄道利用者の保護の観点から、利用者利便・安全を確保する必要がある。
 そこで、旅客鉄道事業の参入、退出等に関して行政が利用者利便・安全を確保するため必要最小限の関与を行い、事業を行う以上必要不可欠な鉄道輸送サービスのレベルが確実に維持される事業制度の仕組みを整備する必要がある。
 その際、鉄道事業者の負担の軽減、関係者の手続への参加機会の保証、手続の迅速化等を図る観点から、ルールの明確化やルール適用にあたっての透明性の確保が要請されていることに配慮する必要がある。
 また、IIIで述べるように、旅客鉄道事業に係る事業制度の見直しを行っても、近年の鉄道事業を取り巻く現状からは、既存鉄道事業者も含めて鉄道事業者が旅客鉄道事業の活性化に向けて鉄道整備を行うことは困難な場合が多いと考えられる。したがって、鉄道整備の円滑化に向けてその方策を検討し、鉄道整備に対するニーズに対して鉄道事業者が適切に応えていくことができるように環境整備を行う必要がある。


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