II 需給調整規制廃止後における旅客鉄道事業制度のあり方 II 需給調整規制廃止後における旅客鉄道事業制度のあり方
1 参入に係る制度のあり方
(1)参入に対する行政の関与のあり方
 鉄道事業者の自主性・主体的経営判断を尊重し、高度化・多様化する利用者ニーズに鉄道事業者が柔軟に対応できるような環境を整備することが重要である。しかし、旅客鉄道事業の特性から必要不可欠な利用者利便や安全性が確保されることが必要であり、このような観点から行政が関与する必要がある。そこで参入申請に対して必要最小限の審査を行い、利用者の利便・安全が著しく阻害されるような事態を未然に防止できる審査のあり方を検討し、参入の仕組みを組み立てるのが適当である。

(2)参入審査における具体的審査についての考え方
 旅客鉄道事業の特性を踏まえると、事業計画の内容につき、必要不可欠な利用者利便の確保の観点から審査を行うとともに、事業の実現可能性、継続性・安定性について審査を行うことにより利用者の利便が著しく阻害される事態を未然に防止する必要がある。また、安全の確保の観点からも事業計画の内容について審査を行うことにより、不適切な計画による参入を未然に防止する必要がある。
 具体的には、

(i)利用者利便の確保の観点からは、他の交通機関との連携、計画供給輸送力の設定、要員配置計画が著しく不適切であるといったことがないか

(ii)事業の実現可能性、継続性・安定性の観点からは、資金調達の見通しが立っているか、収支採算(事例に応じ弾力的に対応するものとする)が確保されているか

(iii)安全の確保の観点からは、施設計画が計画供給輸送力の設定との関係で適切か、施設計画が資金計画等の関係から適切か

等について審査を行うのが適当である。
 なお、安全面での審査は、その基準や方法がその時々の技術の状況に適切に対応していくことが必要であると考えられるため、別途専門的に検討するのが適当である。
 さらに参入審査の基準は、簡素化・合理化を図るとともに、鉄道事業者の主体的経営判断に基づく多様かつ機動的な参入を促進するため、事業の種類による特性等に応じ、緩和することが適当である。加えて、制度の公正性・透明性を確保するため、可能な限り明確に記述してこれをオープンにする必要がある。
 また、公的助成を受けての参入についても、参入審査の基準を満たす以上、公的助成を受けていることをもって参入が排除されるべきものではないと考えられる。ただし、公的助成を受ける鉄道事業者と受けない鉄道事業者との競争条件に差が生じることにならないかという指摘については、公的助成のあり方として引き続き検討する必要がある。

(3)参入時の手続について
 現行では、参入審査の後に行うこととなっている工事の施行等に対する詳細な審査については、種々の問題点もあり両審査を一本化することは困難である。ただし、これら両審査の関係は、手続の簡素化の観点から検討を続けていく必要がある。

(4)多様な参入への対応について
 旅客鉄道事業への新規参入を通じて競争を促進し、鉄道輸送サービスの向上を図るために、鉄道事業者が他の鉄道事業者の保有する線路を利用して新規参入しようとする場合に対応し、線路を保有する事業者に対し線路の開放を促すような仕組みを整備すべきであるという考え方がある。
 しかしながら、鉄道事業者が他の鉄道事業者の保有する線路をより円滑に利用できるような仕組みを整備することについては、線路を保有する事業者の経営への影響、線路容量に係る物理的制約及び運行管理への影響を踏まえ、公的助成のあり方とも絡めてどのような制度が考えられるか、またその制度の導入の可能性を十分に検討していく必要がある。
 また、多様な参入を促進する観点から、事業の種類による特性等に応じて審査基準の緩和を図る中で、例えば既に鉄道輸送サービスが提供されている路線における第2種鉄道事業者の小規模な追加的参入に関しては、審査の簡略化を図ることが必要である。

2 退出に係る制度のあり方
(1)旅客鉄道事業をめぐる状況
 鉄道輸送サービスは、一般的に大量性・速達性・定時性において優位性を発揮するとともに、輸送需要が多い場合は、それらの優位性に加え、経済性や環境問題等の面でも大きな効果を発揮することができる。
 一方、輸送需要の少ない鉄道路線ではそれらの優位性を発揮できず、収支採算も悪化しているものが少なくない。これら鉄道路線に係る事業は、今後、バス等の需給調整規制の廃止、道路整備の進展等からその事業を取り巻く経営環境はさらに厳しくなり、経済的にはバスを中心とした交通体系に移行することが考えられる。
 しかしながら、鉄道輸送サービスは、地域の交通手段として定着していること、安定的・継続的に提供されることが期待されていることから、鉄道利用者に対し地域における適切な輸送サービスを確保することも重要な課題である。したがって、これらの路線は以下のとおり取扱うこととする。

(2)収支採算が悪化している路線における鉄道輸送サービスについて
 利用者が少なく収支採算が悪化している鉄道路線についても、鉄道事業者は当該鉄道輸送サービスの維持に最大限の努力を払うことが期待されており、国及び地方公共団体もその努力を前提にサービス改善、保安度向上等のための適切な支援措置を講じることとする。

(3)鉄道事業者が退出する旨を決めた路線における鉄道輸送サービスに対する行政の関与のあり方
 (5)の政策的支援を受けられず、鉄道事業者が退出する旨を決めた路線(その一部区間を含む。)における鉄道輸送サービスに対する行政の関与は、必要最小限の仕組みとすることが適当である。それは、政策的支援が得られない鉄道輸送サービスの維持を鉄道事業者に求める合理的理由がないこと及びそもそも鉄道事業者の自主性・主体的経営判断を尊重することが重要であることによる。また、現行規制においては、運用上、退出に係る許可申請に際し、原則として地方公共団体の同意を得ることを求めているが、その同意は不要とする。
 鉄道輸送サービスが廃止される際には、代替バスの確保等により当該路線に係る輸送サービスの提供が中断されることのないよう留意する必要がある。そこで、次のとおり退出の仕組みを組み立てることが適当である。

(i)鉄道事業者から退出の意向が表明された場合には地方公共団体の申し出により、運輸省は地元協議会を設置する。

(ii)地元協議会は運輸省、関係地方公共団体に加え、関係交通事業者等の参画も求め、バス等による代替交通の確保、助成による鉄道輸送サービスの維持方策等について調整を行う。調整期間は原則として1年以内とする。また、協議会メンバーは調整された事項につき尊重するものとする。

(iii)調整が難航した場合は、地域交通のあり方について地方交通審議会の意見を聴いて運輸省が調整案を策定する等その調整が円滑にまとまるような仕組みを構築することとする。

 なお、退出を行おうとする鉄道事業者に対しては、利用者等に対し説明責任を果たす観点から、当該路線に係る経営内容等に関し情報を提供することが求められる。また、第2種旅客鉄道事業者や第2種貨物鉄道事業者が鉄道輸送サービスを提供している路線から、第1種または第3種鉄道事業者が退出を行おうとする場合は、当該第2種鉄道事業者と事前に調整を終えておくことが必要である。

(4)鉄道事業者が複数の路線において鉄道輸送サービスを提供している場合等
 鉄道事業者が複数の路線を経営している場合等における内部補助の取扱いは、当該事業者の経営判断に属する事項である。政策的に維持すべき路線の考え方及び鉄道路線からの退出に係る行政上の取扱いは、鉄道事業者が一つの路線において鉄道輸送サービスを提供している場合と同様とする。
 なお、複数の路線において鉄道輸送サービスを提供している鉄道事業者が退出を行おうとする場合は、自らが経営する路線網との相違を含めた当該路線に係る経営内容等に関し、情報提供を行うことが求められる。
 JR各社が退出を行おうとする場合の経営内容等の情報提供においては、分割民営化時に当時の不採算路線も含め、事業全体で採算が確保できるよう所要の政策的措置を講じたという他の鉄道事業者には見られない事情を踏まえ、分割民営化後の状況変化等について所要の説明責任を果たしていく必要がある。

(5)収支採算の確保が困難な路線における鉄道輸送サービスに対する行政の関与のあり方
 最大限の努力にも関わらず収支採算の確保が困難な鉄道路線は、前述したように、一般的に需要が小さく、鉄道輸送サービスの持つ優位性を十分に発揮できない状況にある。また輸送コスト面でもバス等の自動車輸送の方が経済的であるのが通例であり、これらは、より適切な輸送モードへの転換を図ることが適当である。
 しかしながら、当該路線における鉄道輸送サービスが廃止された場合、バス等による適切な輸送サービスの確保が困難で、かつ、地域の生活等に著しい障害を生ずるというケースも想定される。このようなケースにおいては、鉄道事業者の助成申請に基づき国が地方公共団体と協議した上で、地域における適切な輸送サービスの確保を図る観点から政策的に維持すべき鉄道路線として、国・地方公共団体が助成することとする。今後、(2)の支援措置の適切な活用も含め、その助成のあり方についてさらに検討すべきである。
 ただし、当該路線のおかれている状況にかんがみ、政策的に維持するとしてもより適切なモードによる代替輸送サービスの提供が可能となるまでの間の措置とし、速やかにより適切な輸送モードへの転換を図る必要がある。
 また、地方公共団体が独自に地域振興等の観点から鉄道輸送サービスを存続するのが望ましいと判断する場合には、当該地方公共団体が助成を行って維持すべきである。
 これら政策的支援を受けていない路線における鉄道輸送サービスは、鉄道事業者の経営判断により、内部補助をもって維持するか又は廃止を選択することになる。


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