環境

国土交通省の生物多様性保全に向けた取組

生物多様性保全のための主な取組例
 
■多自然川づくり

 我が国では河川整備にあたって、河岸や水際をコンクリートで固めず、湿地、河原等を保全・再生・創出するとともに、川の流れによる地形の形成やその土地の植物の自生を促すなど自然の特性やメカニズムを活用することにより、生物の生育・生息・繁殖環境の再生・創出を行っています。
 神奈川県横浜市を流れる鶴見川水系梅田川では、洪水対策で川の断面を広げる改修を行う際(計画流量6m3/s → 35m3/s)に、山の斜面に沿う川の蛇行を残すことで、魚の暮らしの場となる瀬や淵の形成や、餌となる虫を提供したり稚魚の隠れ場となる水際植生の生育を促しています。
1992年(改修前の状況)   2007年(施行後約14 年経過した状況)
 

■コウノトリと共生する河川整備

 日本では昭和30年頃までコウノトリが各地に生息していましたが、周辺の開発、農薬の影響等により野生の個体群は絶滅しました。コウノトリの日本で最後の野生生息地となった円山川で、平成16年に大水害(床上浸水522戸、床下浸水3,139 戸、浸水面積4.083ha)が発生しました。洪水後、関係者は、洪水に対する安全度を高めながら、コウノトリの生息場を復元する道を目指しました。川の流量を拡大するための掘削を行う際に、水深が浅い湿地帯を生み出し、円山川沿いの湿地面積を約5割増加させ、平成17年から行われているコウノトリの再野生化の取組に貴重な採餌環境を提供しています。
コウノトリと共生する河川整備

■身近な生物生息空間の保全と再生(国営昭和記念公園)

 国営昭和記念公園は、もともと戦後米軍が旧陸軍施設を接収し、昭和52年に全面返還された立川基地跡地でした。昭和56年当時の写真では、まったくみどりのない荒涼とした土地であることがわかります。ここから約20年間で、右の写真のような広大な緑地が創出されました。大都市においてこのような大規模な自然を再生した事例は、世界的にも稀有な取組であると言えます。
 また、この期間継続的にモニタリングを実施しており、都市の自然再生における生態系がどのように回復していくのかという貴重なデータがあります。
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■緑化地域制度/名古屋市の取組

 名古屋市では、1990 年から2005 年の15 年間に公園や街路樹等の緑を新たに420ha確保したにも関わらず、民有地における土地利用の転換等により1,643ha の緑地が失われました。そこで名古屋市では、市域の93%を占める市街化区域に緑化地域を指定しました。施行から約1 年半後の2010 年3 月までの緑化地域申請件数は、1929 件。
2009 年10 月までの1 年間に申請された緑化面積は522,436㎡あり、50ha を超える緑地が確保されたことになります。現在では、屋上等での生物多様性に配慮した緑化空間から、通常では緑化が図られることが少ないコンビニエンスストアやドラッグストア等での芝張り等まで、様々なものがみられるようになりました。緑化の義務付け制度により、生物多様性の確保につながる都市のみどりが着実に増えていくことが期待されています。
緑化地域制度/名古屋市の取組11緑化地域制度/名古屋市の取組21

■下水道事業による環境再生、清流の復活

 高度経済成長期、河川、湖沼、海域といった公共用水域では、人口や産業の急速な都市集中に伴い、水域に流入する生活排水、産業排水等が増加し、水質汚濁が進みました。多摩川でも昭和40年代、生活排水の垂れ流しによる水質汚濁により、水質汚濁の程度を示すBOD(生物化学的酸素要求量)が当時の基準を大きく超え、水質の悪化に起因する生態系、景観等への深刻な影響がみられましたが、昭和50 年代より流域の下水道整備が進められた結果、河川の水質も向上しアユなどの魚類が戻ってきました。このように下水道を整備することにより、生活排水、産業排水等が浄化され、生態系が回復し、生物多様性に貢献しています。
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下水道事業による環境再生、清流の復活31

■生態系保全に資する港湾事業~三河湾における自然再生~

 三河湾は知多半島と渥美半島によって囲まれ入り口が狭くなった閉鎖的な海域で、外洋との水循環も悪く、汚れが湾内に蓄積されやすいため、湾内の汚染が懸念されていました。
 そこで、青い海と豊かな環境の創造を目指し、「中山水道航路整備事業」で発生した良質な浚渫土砂を使用し、湾内の汚染された海底(ヘドロ)を覆うことによる水質・底質の改善を行うために、三河湾内39カ所(合計約620ha)において干潟、浅場の創出と覆砂を実施しました。(平成11年度~平成16年度)覆砂区域には多種多様な生物が確認されています。
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■中部国際空港の整備とあわせた藻場の創出

 「セントレア」の愛称で親しまれる中部国際空港は、日本と世界を結ぶ新しい空の玄関口として2005 年2月に愛知県常滑沖に開港した24 時間運用可能な国際拠点空港です。
 セントレアでは、「環境への配慮」を基本理念のひとつとして掲げて、空港を建設する前から現在に至るまで、環境に配慮した様々な取組を行っています。
 そのひとつとして、空港島の護岸に自然石を用いて環境に配慮した構造としました。さらに西側海岸と南側海岸では、幅10mの平坦部を設け、アラメ、カジメ、オオバモクなど多年性の海藻を移植して藻場を造成し、多様な生物の生息環境を創造しました。開港後5年たった今、護岸には移植した海藻のほかにワカメ、アカモクといった天然の海藻が繁茂し、その周囲にはアイナメ、メバル、イシガニなどの姿も見られます。
 天然アカモクは、栄養成分が豊富でたいへん健康に良く、地元の漁業関係者と連携して商品化し、この地域の新しい地産品としてたいへん好評を得ています。
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COP10_08_中部国際空港の整備とあわせた藻場の創出31

■エコロード~自然に配慮した道~

 新東名・新名神高速道路は、混雑が著しい現東名・名神高速道路との適切な交通分担機能を持ち、日本の産業・文化・社会経済活動の振興に大きく寄与することが期待される高速道路であり、現在NEXCO 中日本等で建設を進めています。高速道路の計画や建設にあたっては、生物多様性への取組として、「エコロード(自然環境に配慮した道)」の考え方の下、生態系への影響を回避・低減し、新たな生息・生育環境の創出などを進めています。
 例えば、希少な動植物の保全や自然環境への影響を少なくするための工法の採用。また、道路緑化にあたっては地域性苗木を活用し、道路周辺の緑と一体となって「みどりのネットワーク」を形成し、地球温暖化の抑制や生きものが生息できる環境の創出をしています。
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緑化地域制度/名古屋市の取組21

■地球地図プロジェクト

 地球地図は全陸域を統一した仕様でカバーする基盤的地理空間情報です。地球地図は自然環境や人間活動の状況を表す8種類のデータ( 交通網、海岸線・行政界、河川・湖沼、人口集中域、標高、植生、土地被覆、土地利用) からなります。地球環境をモニタリングし、変化を把握するため、データは概ね5年ごとに更新することとしています。地球地図と生物の生息域に関する情報を重ね合わせることにより、生物多様性の空間的な広がりを視覚化し、生物多様性の保全に関する国際的な取組や政策立案に役立ちます。地球地図プロジェクトは日本国政府の主導のもと、世界180 の国と地域の国家地図作成機関が参加しています。





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お問い合わせ先

国土交通省総合政策局環境政策課
電話 :(03)5253-8111

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