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国土交通白書 2024

第3節 産業の活性化

■3 海事産業の動向と施策

(1)海事産業の競争力強化に向けた取組み

 四面を海に囲まれる我が国において、海上輸送は、我が国の貿易量の99.6%、国内の貨物輸送量の約4割を担い、我が国の国民生活や経済活動を支える社会インフラであり、海運とその物的基盤である造船業及び人的基盤である船員の3分野が一体となって支えている。

 このような特徴を持つ海事産業全体が近年直面している様々な課題に一体的に対応するため、令和3年5月に成立した「海事産業の基盤強化のための海上運送法等の一部を改正する法律」に基づき、各種支援を行っている。

 具体的には、造船・海運分野の競争力強化のため、造船・舶用事業者が生産性向上等に取り組む「事業基盤強化計画」について32件(50社)注4、事業基盤強化計画の認定を受けた造船事業者が建造し、安全・低環境負荷で船員の省力化に資する高品質な船舶を海運事業者が導入する「特定船舶導入計画」について35件(36隻)注4をそれぞれ認定した。認定事業者に対しては、税制特例及び政府系金融機関からの長期・低利融資等の措置が必要に応じて講じられており、令和5年5月には指定金融機関注5として、初めて民間金融機関を指定した。

 また、船員の労務管理の適正化、荷役作業の効率化を通じて船員の働き方改革に取り組むとともに、内航分野における内航海運業者と荷主間の取引環境の改善や生産性の向上、行政手続のデジタル化に取り組んでいく。

【関連リンク】

「海事産業の基盤強化のための海上運送法等の一部を改正する法律案」を閣議決定

URL:https://www.mlit.go.jp/report/press/kaiji01_hh_000512.html

(2)造船・舶用工業

①造船・舶用工業の現状

 貿易を海上輸送に依存している我が国において、造船・舶用工業は、経済安全保障上不可欠であるとともに、地域経済・雇用に貢献している。また、艦艇・巡視船をすべて国内で建造・修繕しており、我が国の安全保障を支える重要な産業である。

 船舶は我が国と中国・韓国で世界需要の9割以上を建造しており、し烈な国際競争を繰り広げている。そのような中、原材料費の高騰や人手不足の深刻化等、我が国の造船・舶用工業は依然として様々な課題に直面しており、事業基盤の強化が重要である。また、世界の海上輸送の荷動き量の増加に伴い、今後の船舶市場の拡大が見込まれる中、海運分野の脱炭素化の加速、船舶の省人化・自動化の進展等の世界的な潮流に対応しつつ市場の成長を取り込めるよう、国際競争力の強化を図る必要がある。

②経済安全保障の確保に関する取組み

 安定的な海上輸送を確保するためには、船舶及びこれを構成する舶用機器の安定的な調達が不可欠である。経済安全保障確保の観点から、「経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律」に基づき、特定重要物資に指定された船舶用機関(エンジン)・航海用具(ソナー)・推進器(プロペラ)について、安定的な供給体制の確保を図るため、これまでに8件の供給確保計画の認定を行い、設備投資に必要な支援を講じている。エンジンについては、従来の支援対象である2ストロークエンジン及びそのクランクシャフトに加え、令和6年2月、新たに4ストロークエンジンを追加した。引き続き、当該制度の適切な運用を通じて、舶用機器製造事業者の取組みを支援していく。

 加えて、「デジタル技術を用いた高性能次世代船舶開発技術」が同法に基づく特定重要技術の1つとして位置付けられたことを受けて、令和6年度から、船舶の開発・設計・建造の効率や船舶の性能を革新的に高める技術の研究開発支援を行っていく。

③造船・舶用工業の国際競争力強化のための取組み

 造船・舶用業界の垣根を越えたサプライチェーン全体の最適化を推進するため、業界における仕様書の標準化や舶用機器の共同輸送実証等を行い、その成果の普及を図っている。さらに、造船事業者による生産性向上やビジネスモデルの変革を促進するため、令和4年度から5年度にかけて、造船所のデジタル・トランスフォーメーション(DX)に向けた技術開発等への支援を行ってきたところ、令和6年度には、人手不足への対処を目的として、シミュレーションにより効率よく船を造る技術(バーチャル・エンジニアリング技術)の開発・実証を行っていく。

 加えて、海運分野の脱炭素化推進のため、令和6年度から、水素、アンモニア等の新燃料に対応した舶用機器の生産設備及び造船所におけるそれらの機器の艤装設備の整備に対する支援を行っていく。

 我が国の造船業がDXを実現し、成長力のある産業となるためには、現場で船づくりを支える技能者と、技術開発や設計を行う技術者の確保に加え、必要な高度技術の習得に向けた人材育成も重要である。このため、国内人材の持続的な確保・育成に向け、産学官連携の取組みを後押ししつつ、次世代の造船人材のあり方の検討等を進める。

 また、現場を支える技能者の安定的な確保に向け、令和元年度より開始された「特定技能制度」について、令和5年6月に造船・舶用工業分野の業務区分注6の追加を行った。技能実習制度及び特定技能制度のあり方について見直しが進められているところ、これらの動きも踏まえつつ、引き続き、巡回指導の実施等により、外国人材の適正な受入れを進めていく。

 一方で、造船分野における世界的な供給能力過剰問題が長期化する中、一部の国においては市場を歪曲するような公的支援が行われていることから、我が国は、WTO紛争解決手続を用いて、その是正が図られるよう取り組むとともに、経済協力開発機構(OECD)造船委員会において、コストを船価に適切に反映しないような不当廉売の抑止や市場歪曲的な公的支援の抑制に取り組んでいるほか、船舶関連の公的輸出信用アレンジメント注7の改定の議論を通じて環境に配慮した船舶の輸出促進に向けて取り組んでいる。引き続き、これらの取組みを推進し、公正な競争条件の確保に努める。

(3)海上輸送産業

①外航海運

 外航海運は、経済安全保障の確保に重要な役割を果たしていることから、日本船舶・日本人船員を確保することは極めて重要である。この課題に対処するため、「海上運送法」に基づき、日本船舶・船員確保計画の認定を受けた本邦対外船舶運航事業者が確保する日本船舶等(航海命令発令時に日本籍化が可能である外国船舶(準日本船舶)や、本邦船主の子会社が保有する一定の要件を満たした外国船舶を含む。)について、トン数標準税制注8を適用し、安定的な海上輸送の早期確保を図っている。

 さらに、令和5年4月に成立した「海上運送法等の一部を改正する法律」にて創設された外航船舶確保等計画の認定制度が同年7月より施行された。認定を受けた上記の計画に基づき導入する一定の船舶について、特別償却率を最大32%まで引き上げることにより、外航船舶の日本船主による計画的な導入・確保を促進している。

②国内旅客船事業

 国内旅客船事業は地域住民の移動や生活物資の輸送手段として重要な役割を担う一方、令和4年度の国内旅客船事業の輸送需要は63.3百万人(3年度比28.8%増)と、新型コロナウイルス感染症拡大の影響による落ち込みから回復の途上にあるが、燃油価格高騰も相まって、経営環境は厳しい状況にある。このため、独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構の船舶共有建造制度や税制特例措置により省エネ性能の高い船舶の建造等を促進している。さらに、海運へのモーダルシフトを一層推進するため、モーダルシフトに最も貢献度の高かったと認められる事業者を表彰する「海運モーダルシフト大賞」を元年度に創設し、表彰を実施している。

【関連データ】

国内旅客船事業者数及び旅客輸送人員の推移

URL:https://www.mlit.go.jp/statistics/file000010.html

③内航海運

 令和4年度の内航海運の輸送量は1,627億トンキロであり、国内物流の約4割、産業基礎物資輸送の約8割を担っており、モーダルシフトの受け皿としても重要である。

 一方で、船齢が法定耐用年数(14年)以上の船舶が全体の約7割を占め、また、年齢50歳以上の船員が半数近くとなっており、こうした状況の改善が課題である。加えて、令和3年8月に船舶の供給に関する規制が終了したことで、内航海運を取り巻く環境は大きく変化している。

 これらの課題や環境の変化に対応するため、令和4年4月に施行された改正内航海運業法では、内航海運業に係る契約の書面交付を義務化し、契約書に盛り込むべき事項を法定化することで、契約内容の「見える化」を図るとともに、内航海運業者による法令違反が荷主の要求に起因する場合の「荷主に対する勧告・公表制度」や、「船舶管理業の登録制度」等を創設し、例えば、船舶管理業者については、328社(令和6年3月末現在)まで増加した。また、内航海運業者と荷主との連携強化のためのガイドラインの周知や、荷主業界と内航海運業界との意見交換の場である「安定・効率輸送協議会」等の開催を通じて、取引環境の改善や内航海運の生産性向上等に取り組んでいる。

④港湾運送事業

 港湾運送事業は、海上輸送と陸上輸送の結節点として、我が国の経済や国民の生活を支える重要な役割を果たしている。令和5年3月末現在、「港湾運送事業法」の対象となる全国93港の指定港における一般港湾運送事業等の事業者数は856者(前年度より2者増)となっており、令和4年度の船舶積卸量は、全国で13億6,700万トン(前年度比1.5%減)となっている。

 また、近年、港湾運送事業においても生産年齢人口の減少などを背景とした担い手不足の実態にかんがみ、民間事業者による先進的取組事例の共有、事業者間の協業の促進、適正な取引環境の実現に向けた取組み等を通じ、安定的な港湾物流の確保を図ることとしている。

(4)船員

 船員の確保・育成は我が国経済の発展や国民生活の維持・向上に必要不可欠であり、国土交通省では我が国最大の船員養成機関として独立行政法人海技教育機構(JMETS)を活用し、優秀な船員を育成している。外航船員については、経済安全保障等の観点から、一定数の日本人船員の確保・育成に取り組んでいるのに対し、内航船員については、船員教育機関を卒業していない者を対象とした短期養成課程の支援や新人船員を計画的に雇用して育成する事業者への支援など、若手船員確保に取り組んでおり、業界関係者の努力も相まって、若手船員の割合はこれまで増加傾向にある。

 一方、厳しい労働環境等を背景に若手船員の定着が課題となっていることから、労務管理責任者制度の創設による船員の労務管理の適正化や船員の健康確保に関する新たな制度、海上における通信環境の改善等を通じて、船員の働き方改革の実現に取り組んでいる。

(5)海洋産業

 浮体式洋上風力発電は、再生可能エネルギーの主力電源化に向けた切り札であるとともに、海事産業にとっても新たな市場として期待されており、造船業界もグリーンイノベーション基金による要素技術開発に参画している。国土交通省では、日本の海域に合わせたメンテナンス作業員輸送船の設計上の留意事項等を取りまとめたガイドラインを策定するなど、浮体式洋上風力発電の普及に向けた環境整備を行っている。

(6)海事思想普及、海事振興の推進

 海洋立国である我が国において、国民の海洋に対する理解や関心の増進や、暮らしや経済を支える海事産業の認知度向上は、安定的な海上輸送及びそれを支える人材の確保のために重要な取組みである。このため、国土交通省は、海事関連団体等と連携して、海事振興事業及び海洋教育事業を全国で展開している。令和5年度には、海事振興事業として「海の日プロジェクト2023」を開催し、海や船にまつわる各種ブースの展示やステージイベント等を行った。また、海洋教育事業では、児童・生徒・教員・保護者に対し、出前講座や体験型学習等の場を提供することで、海洋や海事産業の理解増進を図った。

  1. 注4 各計画の認定制度が開始されて以降の累積。
  2. 注5 国土交通大臣が認定した計画に従って事業を行う認定事業者に対し、政府系金融機関からの貸付けを受けて、当該事業に必要な資金の融資を実施する金融機関。造船法及び海上運送法に基づき国土交通大臣及び財務大臣が指定する。
  3. 注6 特定技能2号における塗装、鉄工、仕上げ、機械加工、電気機器組み立ての5業務区分
  4. 注7 政府系金融機関による船舶輸出への融資の金利や償還期間等に関する国際的なルール
  5. 注8 毎年の利益に応じた法人税額の算出に代わり、船舶のトン数に応じた一定のみなし利益に基づいて法人税額を算出する税制。世界の主要海運国においては、同様の税制が導入されている。