
国土交通白書 2024
第3節 産業の活性化
(1)不動産業をめぐる動向
①不動産業の動向
不動産業は、全産業の売上高の2.9%、法人数の12.9%(令和4年度)を占める重要な産業の1つである。
②地価の動向
令和6年地価公示(令和6年1月1日時点)によると、全国の地価動向は、全用途平均・住宅地・商業地のいずれも3年連続で上昇し、上昇率が拡大した。
住宅地では、都市中心部や利便性・住環境に優れた地域などでは住宅需要は堅調であり、地価上昇が継続している。また、三大都市圏や地方四市の中心部における地価上昇に伴い、周辺部においても上昇の範囲が拡大しており、特に地方四市の周辺の市等では、高い上昇となった地点が見られる。
商業地では、都市部を中心に、人流回復を受けて店舗需要の回復傾向が続いたほか、オフィス需要も底堅く推移したことなどから、地価の回復傾向が進んでいる。再開発事業等が進展している地域では、利便性や賑わいの向上への期待感等から、地価上昇が継続しており、また、インバウンドを含めた観光客が回復した観光地や、人流回復が進む繁華街では、地価の大幅な回復が見られる。
大手半導体メーカーの工場が進出する地域では、関連企業も含めた従業員向けの住宅用地等の需要のほか、関連企業の事務所用地等の需要も旺盛となっており、住宅地、商業地、工業地ともに高い上昇となっている。
③既存住宅流通の動向
既存住宅の流通市場については、指定流通機構(レインズ)における令和5年度の成約件数が18.3万件(前年度比5.1%増)となった。
(2)不動産業の現状
宅地建物取引に係る消費者利益の保護と流通の円滑化を図るため、「宅地建物取引業法」の的確な運用に努めている。令和4年度末において、宅地建物取引業者数は129,604業者である。
国土交通省及び都道府県は、関係機関と連携しながら苦情・紛争の未然防止に努めるとともに、同法に違反した業者には、厳正な監督処分を行っており、4年度の監督処分件数は139件(免許取消63件、業務停止38件、指示38件)となっている。
不動産管理業については、マンション管理業・住宅宿泊管理業・賃貸住宅管理業それぞれ法律に基づき管理業を営む者に係る登録制度を設け、適正な業務運営を確保するための措置を実施している。マンション管理業については、立入検査や指導監督を行い管理の適正化を図るとともに、令和5年度には標準管理委託契約書の改訂を行った。また、住宅宿泊管理業については、地方部における担い手確保を目的とした講習制度を創設するとともに、関係法令等の遵守徹底等を図っている。さらに、賃貸住宅管理業については、登録の義務化(令和3年6月施行)により、法施行前の任意登録制度での登録数5,104件を上回る9,482件の登録(令和6年3月末日時点)を行うとともに、法律の解釈・運用の考え方の普及・啓発等により、事業の適正な運営の確保に努めている。
(3)市場の活性化のための環境整備
①不動産投資市場の現状
我が国における不動産の資産額は、令和4年末現在で約3,055兆円となっている注9。
国土交通省では、令和12年までにリート等注10の資産総額を約40兆円にするという目標を新たに設定したところ、不動産投資市場の中心的存在であるJリートについては、6年3月末現在、58銘柄が東京証券取引所に上場されており、対象不動産の総額は約23.1兆円、私募リートと不動産特定共同事業と合わせて約30.5兆円注11となっている。
Jリート市場全体の値動きを示す東証REIT指数は、令和5年4月から11月まではおおむね1,800ポイント台から1,900ポイント台を推移したが、同年12月からは金融政策の一部見直しへの懸念等も背景に下落し、6年3月には一時1,700ポイントを下回った。しかし、金融政策の具体的な見直し内容が示された後は回復し、同月末時点で1,800ポイント近くとなった。また、Jリートにおける令和5年度の1年間における資産取得額は、約1.2兆円となった。
②不動産特定共同事業の推進
不動産特定共同事業の意義・活用のメリットや好事例等をまとめた「不動産特定共同事業(FTK)の利活用促進ハンドブック」を更新・周知した。また、地域における不動産特定共同事業の普及促進に向けたワークショップの開催やクラウドファンディングを活用した不動産特定共同事業に係る実務手引書の公表等、民間の資金・アイデアを活用した老朽・遊休不動産の再生の推進に向けた取組みを実施した。
③ESG投資等による良好な不動産の形成促進
我が国不動産へのESG投資を促進するため、不動産分野TCFD対応ガイダンスについて、国内外の動向変化や開示事例の充実等の改訂を行うとともに、「社会的インパクト不動産」の実践ガイダンスに関するセミナー等を通じて普及啓発を行った。また、環境不動産等の良質な不動産の形成を促進するため、耐震・環境不動産形成促進事業においては、令和5年度には約131.5億円の出資を決定した。
④不動産に係る情報の環境整備
国土交通省では、不動産市場の透明化、不動産取引の円滑化・活性化等を図るため、以下のとおり、不動産に係る情報を公表している。
(ア)不動産取引価格情報
令和6年4月1日より、地価公示等の価格情報、ハザード情報、都市計画情報、周辺施設情報等の不動産に関するオープンデータを利用者のニーズに応じて地図上に分かりやすく表示する「不動産情報ライブラリ」を公開している。
複数のテーマの情報をWeb地図上で重ねて閲覧することができるようにし、消費者の不動産購入等に係る検討を支援することにより、不動産取引の円滑化・活性化を図る。
(イ)不動産価格指数
国際通貨基金(IMF)等の国際機関が作成した基準に基づき、不動産価格指数(住宅)を毎月、不動産価格指数(商業用不動産・試験運用)を四半期ごとに公表している。即時的な動向把握を可能とするため、令和2年6月より、季節調整を加えた指数の公表を開始した。
(ウ)既存住宅販売量指数
令和2年4月より、建物の売買を原因とした所有権移転登記個数を基に、個人が購入した既存住宅の販売量に係る動向を指数化した「既存住宅販売量指数」の公表(試験運用)を開始した。
(エ)法人取引量指数
令和4年3月より、建物の売買を原因とした所有権移転登記件数を基に、法人が購入した既存建物の取引量に係る動向を指数化した「法人取引量指数」の公表(試験運用)を開始した。
⑤市場の活性化のための環境整備
既存住宅の流通促進を図るため、建物状況調査(インスペクション)の活用促進や、建物状況調査が行われた既存住宅であること等を示す「安心R住宅」制度等を通じ、消費者が安心して既存住宅を取引できる市場環境の整備を推進している。さらに、地方公共団体が把握・提供している空き家・空き地の情報について、横断的に簡単に検索することを可能とする「全国版空き家・空き地バンク」の活用促進を通じた需要と供給のマッチングにより取引を促進している。
加えて、不動産取引における書面の電磁的方法による提供を可能とする「宅地建物取引業法」改正(令和4年)等を踏まえ、不動産分野におけるDXの推進について議論する有識者会議を開催するなど、不動産取引のオンライン化に係る環境整備に向け、検討を行った。
⑥土地税制の活用
令和6年度税制改正においては、光熱費や修繕費などのコストが増加する中、企業の設備投資を促進し、コロナ禍からの経済回復を確実なものとするため、令和6年度から8年度までの間、下落修正措置を含め土地に係る固定資産税の負担調整の仕組みと地方公共団体の条例による減額制度を継続することとした。
このほか、土地等に係る不動産取得税の特例措置や、工事請負契約書及び不動産譲渡契約書に係る印紙税の特例措置についても、それぞれ適用期限の延長を行った。
⑦「不動産ID」の活用による不動産関連情報の連携・活用促進
我が国の不動産については、土地・建物いずれも、幅広い主体で共通で用いられている番号(ID)が存在せず、現状、住居表示の表記ゆれ等により、物件情報の照合やデータ連携が困難となっている。このため、官民が保有する不動産関連情報のデータ連携のキーとして活用されるべく、国土交通省において、令和4年3月に「不動産IDルールガイドライン」を策定・公表するとともに、令和5年5月に設置した不動産ID官民連携協議会を通じ、新サービスの実現を目指した社会実装に向けて取組みを進めている。
⑧不動産鑑定評価の信頼性の向上
不動産市場を支える制度インフラである不動産鑑定評価の信頼性を更に向上させるため、不動産鑑定業者に対する立入検査等を内容とする鑑定評価モニタリングを引き続き実施した。
- 注9 国民経済計算をもとに建物、構築物及び土地の資産額を合計
- 注10 Jリート、私募リート、不動産特定共同事業
- 注11 不動産特定共同事業については、令和4年度末時点の数値を使用