
国土交通白書 2024
第2節 国際交渉・連携等の推進
(1)アジア太平洋経済協力(APEC)
APECは、アジア太平洋地域の持続可能な成長と繁栄に向けて、貿易・投資の自由化、ビジネスの円滑化、経済・技術協力等の活動を行う経済協力の枠組みであり、国土交通省では、APECの交通・観光分野に係る大臣会合及び作業部会に出席し、APEC域内における効率的でシームレスな輸送システムの構築等に積極的に取り組んでいる。
令和5年5月、「第11回APEC交通大臣会合」がアメリカ・デトロイトで開催され、我が国からは国土交通審議官が出席した。本会合においては、サプライチェーンと連結性、気候変動、包摂性とジェンダーをテーマとした議論が行われ、我が国からは、「気候変動」のテーマで、海上分野の脱炭素化、船舶燃料の転換に向けた技術開発、国際海運のGHG削減目標の野心的かつ実現可能な目標導入に向けた考え方、港湾における脱炭素化の取組みであるカーボンニュートラルポート等についてプレゼンテーションを行った。
APECの交通分野を取り扱う作業部会「APEC交通ワーキンググループ」については、令和5年9月から10月にかけて第53回がオンラインにて開催され、コロナからの回復、包摂的かつ持続可能な交通、技術革新について議論された。
APECの観光分野を取り扱う作業部会「APEC観光ワーキンググループ」については、令和5年4月に第61回がフィリピン・イロイロ、同年8月に第62回がアメリカ・シアトルで開催され、APEC域内における包括的で持続可能な観光の実現に向けた取組み等について議論された。
(2)東南アジア諸国連合(ASEAN)との協力
国土交通省は、ASEANにおける「質の高い交通」を更に推進するため、日本とASEANの交通分野の協力枠組みである「日ASEAN交通連携」の下、陸上、海上、航空にわたる様々な協力プロジェクトを実施している。これらのプロジェクトの進捗状況を確認し、今後の方向性、新たなプロジェクトについて議論するため、「日ASEAN交通大臣会合」等の会合が毎年開催されている。令和5年11月、「第21回日ASEAN交通大臣会合」がラオス・ルアンパバーンで開催され、我が国からは国土交通審議官が出席した。本会合においては、更なる連携強化のため、今後10年間(2024~2033年)に向けた新たな行動計画「ルアンパバーン・アクションプラン」を採択し、「日ASEAN交通連携」の具体的実施計画である「日ASEAN交通連携ワークプラン2023-2024」とともに、新規協力プロジェクトとして「ASEAN地域におけるカーボンニュートラルポート形成ガイドラインの策定」、「ASEANにおけるGNSS導入計画の要員養成プロジェクト(2.0)」、「港湾保安地域行動計画2024」、「船舶通航サービス(VTS)管制官の人材育成(2024-2026)」及び「ASEAN国際物流網における舗装維持管理技術共同研究」の5つが承認された。さらに、これまでのプロジェクトの成果物として、「ASEANにおけるGNSS導入計画の要員養成プロジェクト報告書」、「ASEAN地域におけるコンテナターミナルの能力・性能に関する評価ガイドライン」及び「船舶通航サービス(VTS)管制官要員の増強に係る事業完了報告書」の3つが承認された。あわせて、日ASEAN友好協力50周年及び日ASEAN交通連携20周年を記念して特別セッションが開催された。
また、ASEAN各国のスマートシティ実現に向けたプラットフォームである「ASEANスマートシティ・ネットワーク(ASCN)」への協力の一環として、令和5年10月、「第5回日ASEANスマートシティ・ネットワーク ハイレベル会合」をASEAN各国、国内関係省庁、関係自治体と連携して、茨城県にて開催した。本会合では、「防災―レジリエンス」をテーマに、スマートシティの成功事例を共有し、その成功要因について議論し、防災分野での一層のデジタル化の必要性を確認し、本会合の継続的な開催と、ASEANでのスマートシティ実現に向けて引き続き協力をしていくことを確認した。併せて、日本とASEANの協力を促進するための枠組みである、日ASEANスマートシティ・ネットワーク官民協議会(JASCA)の活動の一環として、5年11月にインドネシア・ジャカルタにおいて、両国からスマートシティ開発における知見の共有を行うセミナーを開催し、併せて開催したビジネスマッチングイベントでは、両国の官民セクターからの参加者同士で関係づくりや情報交換が行われた。
さらに、観光分野においては、ASEANとの観光協力やASEAN+3(日中韓)地域における観光の促進を目的に、毎年「ASEAN+3観光大臣会合」が開催されている。5年10月には、日ASEAN友好協力50周年を記念して、日ASEANの観光分野では初めての閣僚級会合である「日ASEAN観光大臣特別対話」が東京で開催された。
(3)経済協力開発機構(OECD)
国土交通省は、OECDの活動のうち、国際交通フォーラム(ITF)、造船委員会(SBC)(令和6年1月に造船部会(WP6)から名称変更)、地域開発政策委員会(RDPC)、開発センター(DEV)、観光委員会等における議論に参画している。
ITFは、加盟66か国が全交通モードを対象に交通政策に関する議論・研究を行っており、毎年5月には各国の交通担当大臣を中心に、著名な有識者・経済人を交えて交通政策に関する議論を行うITFサミットをドイツ・ライプチヒにて開催している。令和5年5月に開催されたサミットでは、「持続可能な経済を実現するための交通」をテーマに、持続可能な経済を促進するための交通のグリーン化や、ウクライナにおける交通分野の持続可能な復興に向けたITF加盟国及びITFが果たす役割等について議論が行われた。また、ITFの調査研究部門である交通研究委員会(TRC)の「公共交通の財政」ワーキンググループや「都市内物流ハブ」ラウンドテーブル等に我が国から多くの専門家が参画し、国際的な研究活動の推進に貢献している。
SBCは、造船に関する唯一の多国間フォーラムとして、国際造船市場に関する政策協調のための重要な役割を担っており、公的支援の適正化や透明性確保、輸出信用等に関する議論を行っている。令和5年11月の会合では、環境に配慮した船舶への融資等を促進するための国際的なルールの改正に向けて、6年3月より特別会合を開催することに合意した。同特別会合では、我が国が提出した環境に配慮した船舶の定義及び金融条件に関する提案文書をベースに議論が行われている。我が国は同委員会及び同特別会合の副議長国として活動しており、引き続き、政策協調のための議論を継続的に実施し、加盟国間による公的支援の相互監視等を通じて、公正な競争条件の確保に努める。
RDPCでは、国土・地域政策等に関する各加盟国の政策レビューや、我が国の提案により高齢化等の人口動態の変化に伴う課題への対応に関する調査等に積極的に取り組んでいる。また「スマートシティと包括的成長に関するOECDプログラム」の一環としてスマートシティのデータ利活用に関する調査に取り組んできた。
DEVは、途上国及び新興国における成長を促進し、生活水準を向上させるための政策的解決策を見つける手助けを行う機関であり、今後の開発に関する議論を行うとともに、セミナー等により質の高いインフラの途上国への普及・実施についても取り組んでいる。
観光委員会では、各国の観光関連政策のレビューや、観光統計データの整備及び分析等を行っている。我が国は同委員会の副議長国として参加し、引き続き積極的に議論に関与している。令和5年には、同委員会で策定した優先課題である①エビデンスに基づく観光施策の立案と持続可能な観光開発のための手法改善、②より強靱な観光経済の構築に関する加盟国における取組についての議論を進めるとともに、「OECD諸国の観光動向と政策2024年」の発刊に向けて、我が国の関連施策や取組事例等を共有した。
(4)国際連合(UN)
①国際海事機関(IMO)
IMOは、船舶の安全・環境等に関する国際ルールを定めている国連の専門機関である。我が国は、令和5年12月に実施された理事国選挙において、カテゴリーA(主要海運国)でトップでの再選を果たすなど、同機関において中心的な役割を担いつつ、世界の主要海運・造船国として海事分野におけるルール作りを主導している。
特に、世界的に関心が高まっている気候変動対策を海運分野で強力に進めるべく、令和5年7月に国際海事機関(IMO)において我が国の提案をベースとした「2050年頃までにGHG排出ゼロ」を目標とする新たな国際海運GHG削減戦略が全会一致で合意された。現在目標達成に向けた具体的な対策の議論が行われており、引き続きIMOにおけるルール作りを主導していく。
また、安全面においては、我が国やニュージーランド等の提案に基づき検討が開始された、船上揚貨装置(船上クレーン及びアンカーハンドリングウィンチ)の設計、製造、保守点検、検査等に関する安全基準を新たに設ける条約改正案が採択されるなど、IMOにおける安全に関する国際ルール作りに貢献した。
さらに、令和5年11月以降、紅海等においてホーシー派による船舶の自由かつ安全な運航を阻害する行為が続いていることを踏まえ、5年11月、IMO総会において、國場国土交通副大臣より、このような行為が船舶だけでなく国際海上輸送にも深刻な脅威となるとして断固非難すること、また、脅威に対し、連帯を示して断固として対応していくため、IMOや関係諸国と緊密に連携していくことを発言した。
②国際民間航空機関(ICAO)
ICAOは、国連の専門機関の一つとして、国際民間航空の安全・保安・環境等に関する国際標準の策定、各国の安全監視体制の監査等の取組みを実施している。昭和28年に加盟した我が国は、令和5年に加盟70周年を迎えた。ICAOの本部が所在するモントリオールで開かれた記念レセプションにおいては、斉藤国土交通大臣がビデオメッセージを通じて、国際民間航空の発展に向けて今後も積極的に貢献をしていく旨強い決意を示した。
③国連人間居住計画(UN-Habitat)
UN-Habitatは、人間居住問題を専門に扱う国連の基金・計画の一つである。我が国は、設立以来の理事国としてUN-Habitatの諸活動に積極的に参加し、我が国の国土・地域・居住環境改善分野での経験、知見を活かした協力を通じ、世界、特にアジアでの人口爆発、急激な都市化に伴う人間居住問題の改善に貢献している。
令和5年6月には、UN-Habitat総会が「包括的かつ効果的な多国間主義による持続可能な都市の未来」をテーマに開催された。本総会において我が国からは、UN-Habitat福岡本部(アジア太平洋担当)との緊密な連携の下、国土・地域計画分野等への支援を通じて持続可能な開発目標(SDGs)の達成に貢献する旨を表明した。
④国連における水と防災に関する取組み
令和5年3月に、国連本部にて国連水会議2023が開催された。同会議では、世界の水問題に対して具体的な行動を起こすための議論が行われ、5つのテーマ別討議のうち、気候変動下における水の強靱性がテーマとなった討議の共同議長を日本とエジプトが務めた。同討議において、日本の水防災の知見を活かして議論を主導し、世界が今後取り組むべき水の強靱化に向けた提言を取りまとめた。
⑤国連における地理空間情報に関する取組み
国土地理院は、国連経済社会理事会に設置されている「地球規模の地理空間情報管理に関する国連専門家委員会(UN-GGIM)」に防災WG共同議長として、また、UN-GGIMの地域委員会の1つである「国連地球規模の地理空間情報管理に関するアジア太平洋地域委員会(UN-GGIM-AP)」に副会長として、更には、「国連地名専門家グループ(UNGEGN)」に参加し、我が国で培った技術や経験を活かして、地球規模の測地基準座標系(GGRF)の普及や、地理空間情報によるパートナーシップの推進等により貢献している。
(5)G7交通大臣会合
我が国がG7議長国を務めた令和5年、国土交通省では、交通分野について、同年6月に三重県志摩市において、「G7三重・伊勢志摩交通大臣会合」を開催し、本会合では「イノベーションによる誰もがアクセス可能で持続可能な交通の実現」というテーマについて議論を行い、G7交通大臣宣言を採択した。加えて、同年11月以降、紅海等においてホーシー派による船舶の自由かつ安全な運航を阻害する行為が続いていることを踏まえ、令和6年2月に紅海危機に関するG7臨時交通大臣会合において、ホーシー派による攻撃を強く非難すること、「拿捕」された船舶及び乗組員の解放並びに船舶に対する攻撃停止を求めること、G7の協調を強化していくこと等を内容とするG7交通大臣宣言を採択した。
(6)G7都市大臣会合
令和5年7月に、香川県高松市において、日本を議長国としてG7都市大臣会合を開催し、「持続可能な都市の発展に向けた協働」をテーマに議論を行い、会合の成果として、コミュニケと「香川・高松原則」を取りまとめた。
(7)世界銀行(WB)
「質の高いインフラ」及び「アフォーダブル(手頃な価格の)住宅」を主題とした「都市開発実務者向け対話型研修(テクニカル・ディープ・ダイブ)」が、世界銀行により開催された。同研修において、国土交通省は、日本政府が提唱する「質の高いインフラ」の原則と好事例、並びに日本における住宅政策の変遷や住宅確保要配慮者のための住宅供給政策等に関する知見を紹介した。
(8)アフリカ開発会議(TICAD)
アフリカにおける「質の高いインフラ投資」を推進するために、「アフリカ・インフラ協議会(JAIDA)」と連携し、官民インフラ会議の開催等の取組みを進めてきたところ、令和7年に我が国にてTICAD 9の開催が予定されており、これに向けて「質の高いインフラ投資」に対する理解を促進する取組みを加速していく。
(9)アジア欧州会合(ASEM)
ASEMは、アジア・欧州関係の強化を目指して平成8年に発足した対話と協力の場であり、アジア側参加メンバー(21か国と1機関)、欧州側参加メンバー(30か国と1機関)の合計51か国と2機関によって構成されている。