平成15年6月5日付日本経済新聞(5面)において、「公共工事単価高止まり」という主旨で掲載された記事は、平成13年11月に内閣府より刊行された「地域経済レポート2001」を基にした記事であると考えられますが、以下に国土交通省の見解を述べます。
(1) 2000年度の公共建築工事単価(21.7万円/m2)は、民間建築工事(12.8万円/m2)の1.7倍
【見解】
- 地域経済レポート2001では、建築工事の単価については、公共工事と民間工事の別、あるいはその構造種別毎の工事単価をもとに大括りで記述されています(参考1)。
- 一方、建築工事の単価は、建物用途により大きく異なり、内装、設備が少ない工場、倉庫等の単価は、病院や事務所の概ね3分の1です。また、用途別構成比を算出しますと、単価の低い倉庫等が占める割合は、公共建築工事では約6%であるのに対し、民間建築工事では約35%です。(参考2)。
従いまして、用途別区分をしていない統計においては、民間建築工事の単価は、公共建築工事の単価よりも低くなる傾向を持つこととなります。
※平成12年度の建築着工統計
- さらに、民間建築工事と公共建築工事では、建物の構造種別の構成比率も大きく異なり、民間建築工事では、木造建築が約15%、鉄骨造が約50%を占めており、公共建築工事では、木造建築が約5%、鉄骨造が約20%となっています。一般に鉄骨造と呼ばれる構造には、プレハブのような軽量鉄骨による簡易な建造物も含まれており、耐用性を求められる公共建築工事に多く使用される鉄筋コンクリート造や鉄骨鉄筋コンクリート造を含めた平均的な値として民間建築工事の単価は公共建築工事に比べて低くなる傾向を持つこととなります(参考3)。
- また、地域経済レポートに使用されている建築着工統計においては、民間建築工事の設備工事費やテナントビルなどの内装工事費が除かれている場合もあり、一概に比較はできないものと考えられます。
- この他、地域経済レポートにも記述されているように、公共建築工事は、耐震性能の確保やバリアフリー化への対応などのほか、公共建築としての長期的な耐用性が求められることから、民間建築工事より単価が上昇する要因を抱えています。
- なお、仕様等の類似した民間事務所と庁舎について平成13年度に実施した比較では一概に公共建築工事が高いとはいえない結果となっております。(参考4)
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(2) 民間工事単価が1990年度か ら35%下がったのに、公共工事単価は逆に5%上っている。
【見解】
- バブル期に建設された民間の店舗、オフィスビルなどでは、内外装仕上げ材等にグレードの高い仕様を施していたことなどから工事単価が高騰し、バブル崩壊過程ではコストの下落とともに、スペックダウンが図られていることが想定されます。しかしながら、公共建築工事においては、常に一定の品質を確保することから、仕上げ材等の極端な仕様の変更が行われないことから、民間建築工事のような工事単価の変動が起きてはいないものと考えられます。
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(3) 公共工事の算定に使う資材価格は硬直的で市況の下落を十分反映していない。
【見解】
- 公共工事の予定価格の積算に使用する資材価格は、直近の物価資料等に掲載されている資材価格を用いており、当該資材価格は記事における資材価格と同程度の下落率となっております(参考5)。
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(4) H形鋼は90年比で32%値下がりし民間工事の鉄骨単価も32%下がったが、公共工事の鉄骨単価はわずか2%下落。
【見解】
- H形鋼が90年比で32%値下がりしたことは事実であり、公共建築工事では値下がりした価格で積算を実施しています(参考5)。
- しかし、鉄骨単価の記述は、地域経済レポートの「鉄骨造」の1m2当たりの建築工事単価のデータに基づいて記載されていると考えられます(参考1)。仮にそうであれば、資材の単価と建築工事の単価を混同した記述であり、公共建築工事の積算に不適切な単価を用いているかのごとく、読者に誤った認識を与えることとなり、不適切な表現です。
- なお、鉄骨造の建築工事単価の差額についても、上述の(1)( 2)に示すような統計上の要因や民間建築単価の動向から生じているものと考えられます。
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