(4)環境の保全と創出

イ 多様性を考慮した河川環境への取組み
 近年、河川には、治水・利水の機能だけではなく、多様な自然環境や水辺空間を活かした潤いのある生活や地域の文化を育む場としての役割が求められており、こうしたニーズを踏まえ、多様な生物の生息・生育の場であり、人と自然が触れ合える河川や渓流の整備・保全を推進している。
1) 多様な河川形状を考慮した取組みの推進
 河川や渓流の整備に当たっては、洪水・土砂災害に対する安全の確保を基本とし、生物の多様な生息・生育の場を確保し、河道の直線化を避けるとともに、従来のような画一的な計画ではなく、多自然型川づくり等の各河川・渓流に応じた多様な整備により、自然を活かした川を目指した整備を行う(写真2-VIII-2)。
 また、河川の自然環境に関する知見の収集として、河川環境に関する学術的研究を総合的に進める目的で平成7年度から河川生態学術研究に着手するとともに、平成10年11月に木曽川三派川地区に設置した自然共生研究センターにおいて、洪水に対する安全性を確保しつつ良好な生物の生息・生育空間を確保するという技術的な課題に取り組んでいる。
2) 河川・渓流における上下流方向の連続した環境条件の確保
 魚道の設置・改良等の河川・渓流を横断する工作物の構造の改善、生物の生息に必要な水量の確保等を、上流から河口まで水系全体を考慮しつつさらに推進する。また、河川の高水敷においても生物の生息・生育環境の連続性に配慮し、生物の自由な移動の確保に努める。
3) 流域での自然の広がりを考慮した取組みの推進
 河川、渓流、湖沼、貯水池は、これに繋がる水路や緑の空間とともに、流域における水と緑のネットワークとしての機能を有しているため、沿川の緑化や水質の浄化を推進する等、生物の生息・生育空間として整備・保全を図る。
ロ 水環境の改善への取組み
1) 水質の現状
 全国の一級河川の直轄管理区間における水質の現況を生活環境項目のBOD(生物化学的酸素要求量)又はCOD(化学的酸素要求量)でみると、長期的には徐々に改善傾向にあり、水質環境基準を満足した地点数の割合は平成10年に過去最高の87%に達した(図2-VIII-9)。しかし、都市域の河川の中には依然として水質汚濁の著しいものがある(図2-VIII-10)。また、閉鎖性水域の湖沼等の水質は近年横這い状態ないしやや悪化の傾向がみられる(図2-VIII-11)。
2) 水環境改善対策
 都市河川や湖沼等の閉鎖性水域の一部では、水質の悪化が生じている。このような河川・湖沼等の水環境の改善を図るため、下水道の整備、河川の直接浄化、流入汚濁水と上流からの清浄な流水の分離、清浄な水の導水、底泥のしゅんせつ等各種事業を総合的に実施する。
 また、水量の減少により動植物の生息・生育環境の悪化等水環境が悪化している都市河川等について、直轄河川環境整備事業により、水量が豊富な河川から清浄な流水を導入する事業を実施するほか、下水道の雨水貯留浸透事業により、地下水のかん養を図る事業を推進する。
3) 内分泌攪乱化学物質(いわゆる環境ホルモン)への対応
 近時、ヒトを含む生物の生殖機能等内分泌系に悪影響を与える可能性が指摘されている内分泌攪乱化学物質等の新たな水環境問題が顕在化してきている。
 水環境中の内分泌攪乱化学物質の存在状況については、平成10年度より、環境庁と連携して、代表的な下水処理場を含めた全国的な実態調査を実施しており、最高でも数μg/lという低い濃度ではあるが、内分泌攪乱化学物質の疑いのある化学物質が我が国の河川水中に広く存在していることが確認された。
 今後とも、関係省庁の実施する内分泌攪乱化学物質に関わる調査研究の結果も踏まえつつ、継続的な実態把握を実施する。
4) ダイオキシン類の汚染実態調査
 近年、ダイオキシン類に対する社会的な関心が高まる中、平成11年7月にダイオキシン類対策特別措置法が成立し、同年12月にダイオキシン類に係る環境基準が告示されたところである。
 建設省では、平成12年1月から全国の一級河川直轄管理区間におけるダイオキシン類の実態調査に着手しており、今後も調査を継続するとともに、その結果を踏まえ、今後の監視計画や河川におけるダイオキシン対策のあり方について検討することとしている。
ハ 多様な生物の生育・生息環境の確保
1) 貴重な動植物種の絶滅を防止するための取組みの推進
 貴重な動植物種については、その生息・生育環境を保全し、種の保護・増殖を図っていく必要がある。木曽川、淀川流域では、国内希少野生動植物種であるイタセンパラについて、関係省庁と連携して平成8年度に保護増殖事業計画を策定しており、今後もこうした動植物種の保護増殖に積極的に取り組んでいく。
2) 河川水辺の国勢調査
 河川に生息する魚介類、底生動物、植物等並びに河川の利用実態等を調査する「河川水辺の国勢調査」を、109の一級水系及び直轄・公団管理ダムについては平成2年度から、主要な二級水系及び道府県管理ダムについては平成5年度から実施している。今後、これらの調査結果を河川改修や河川管理に一層活かしていくとともに、河川における生態系に関する調査研究を推進する。
ニ 海岸環境の整備と保全〜白砂青松の海岸を目指して
 平成12年4月に施行された改正海岸法では、これまでの「防護」に加え、「環境」「利用」を目的に追加した。今後は、「防護」「環境」「利用」の調和のとれた海岸保全を行っていく。特に、日本の原風景である「白砂青松」の海岸を構成する砂浜は、防護・環境・利用に対する良好な空間としての機能を有することからその保全に努める。
 具体的には、砂浜を海岸保全施設として法律に位置付けた。また、砂浜を有効に活用するため、消波工等を人工リーフ等へ転用し、海浜へのアプローチと海岸空間に優れたなぎさの回復、漁港事業等との連携により港内の浚渫土砂等を海岸侵食が顕著な海岸へ流用するサンドバイパス、人工的に岬地形を創出しポケットビーチを生み出し、長期的に砂浜を安定的に保つ「ヘッドランド」の整備等を進めてきたが、今後とも、これらの取組みを一層推進するとともに、海岸部に供給される土砂について流域全体で取組みを行う総合的な土砂管理対策も進めていく。
 施設の整備に当たっては、すぐれた海岸景観が損なわれることのないよう、また、海岸を生息・生育の場とする生物が、その生息環境等を脅かされることのないよう、干潟や藻場を含む自然環境の保全に配慮する。人工リーフなどは、多様な生物の生息・生育の場となりうることから、自然環境に配慮した整備を進める。
 海岸管理上からは、これまで護岸など海岸保全施設の上に車等を入れることによる施設の損傷及び汚損、油による砂浜の汚損、船舶等の海岸への放置、動植物の生息・生育の場への車の乗り入れ等が問題となってきた。今回の法改正によりこれらの行為が規制できることとなった。また、油の流出事故等に対する海岸の維持についても、原因者に施行させたり、負担させたりすることができ、さらに、海岸における船舶等の違法な放置について早急に除去できるよう、違法放置物件についてその所有者が特定できない場合には、簡易代執行及び簡易代執行による除却物件の売却、廃棄、売却代金の保管等を行うことができるようにした。今後はこれらの制度を有効に活用して、海岸環境の整備と保全を進めていく。


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