第II部 国土交通行政の動向 

(4)地震対策

1)住宅・建築物の耐震・安全性の向上
 阪神・淡路大震災や平成16年新潟県中越地震のほか、福岡県西方沖を震源とする地震等の大規模地震が頻発しており、大規模地震はいつどこで発生してもおかしくない状況にあるとの認識が広まっている。こうした状況を背景に、平成17年10月に「建築物の耐震改修の促進に関する法律(耐震改修促進法)」を改正し(18年1月施行)、国による基本方針において、住宅や不特定多数の方が利用する建築物の耐震化率を現行の75%から27年までに少なくとも9割とする目標を定め、建築物に対する指導等の強化や計画的な耐震化の促進を図っている。この改正により、各都道府県は耐震改修促進計画の作成が義務付けられ、18年度中にすべての都道府県において計画が策定された。
 また、耐震診断・耐震改修に対する補助を行う住宅・建築物耐震改修等事業において、緊急輸送道路沿道建築物に対し補助率のかさ上げ等を行うとともに、平成18年度税制改正において住宅・建築物に係る耐震改修促進税制を創設するなど、支援制度の拡充を図っている。

2)密集市街地の緊急整備
 防災・居住環境上の課題を抱えている密集市街地の早急な整備改善は喫緊の課題である。都市再生プロジェクト第三次決定においては、特に大火の可能性が高い危険な密集市街地(重点密集市街地、東京・大阪各約2,000ha、全国約8,000ha)を対象に重点整備し、今後10年間で最低限の安全性を確保することとされている。また、住生活基本計画(全国計画)では、「密集住宅市街地の整備を推進する」、さらに、経済成長戦略大綱(平成18年7月)では、「密集市街地のリノベーションを戦略的に推進する」ことと位置付けられている。
 国土交通省では、社会資本整備重点計画において、平成19年度までに重点密集市街地のうち3割について最低限の安全性を確保することを重点目標の一つとして位置付け、(ア)幹線道路沿道建築物の不燃化による延焼遮断機能と避難路機能が一体となった都市の骨格防災軸(防災環境軸)や避難地となる防災公園の整備、(イ)防災街区整備事業、住宅市街地総合整備事業等による老朽建築物の除却と合わせた耐火建築物等への共同建替え等による、密集市街地の防災性の向上と居住環境の整備を推進している。
 
図表II-6-1-8 防災環境軸

災害時の避難ろが未整備で、火災時の延焼危険性が大きい重点密集市街地について、防災環境軸を整備することにより、災害時の避難ろ、延焼遮断帯として機能させる。

 また、道路等の基盤整備を推進しつつ、老朽化した建築物の建替えの促進を図ることにより、危険な密集市街地のリノベーションを戦略的に推進するため、「都市再生特別措置法等の一部を改正する法律案」を第166回国会に提出した。
 さらに、平成19年度税制改正において、密集市街地における民間事業者による積極的な建替えを推進する建替計画認定制度について特例措置を講ずることとしている。

3)オープンスペースの確保
 安全・安心な都市づくりを図るため、地震災害時の復旧・復興拠点や生活物資等の輸送中継基地等となる広域防災拠点・地域防災拠点、周辺地区からの避難者の収容や市街地火災等から避難者の生命を保護する広域避難地、地域周辺の集結場所や消防救護活動の拠点等として機能する一次避難地となる防災公園等の整備を推進している。
 また、大都市圏等において、先行取得した防災公園予定地に防災施設を機動的に整備する防災緑地緊急整備事業を川名公園(名古屋市)等4地域で実施するとともに、防災公園と周辺市街地の整備改善を一体的に実施する防災公園街区整備事業を桃井中央公園(東京都)等10地域で実施している。

4)総合的な耐震安全性を確保した防災拠点官庁施設の整備の推進
 総合的な耐震安全性を確保した官庁施設の新営及び耐震改修を推進しており、平成18年度は、災害応急対策活動の拠点として特に重要な官庁施設の耐震診断結果及び耐震化の整備目標を公表するとともに、中央合同庁舎第1号館本館(霞が関地区)の耐震対策に着手した。

5)構造物の耐震性向上
(ア)河川事業における耐震対策
 河川堤防耐震点検マニュアル等に基づき点検を行い、河川堤防等が被災した場合に浸水被害が生じないよう、平成17年度は約8kmの耐震対策を実施した。
(イ)道路事業における耐震対策
 地震による被災時には、円滑な救急・救援活動、緊急物資の輸送、復旧活動に不可欠な緊急輸送道路を確保し、新幹線や高速道路をまたぐ橋梁の落橋等による甚大な二次被害を防止する必要がある。そのため、平成17年度から緊急輸送道路の橋梁や新幹線、高速道路をまたぐ橋梁について耐震補強3箇年プログラムに基づき、橋梁の耐震補強を実施している。
(ウ)港湾事業における耐震対策
 大規模災害時に、発災直後から復旧完了に至るまで、一定の幹線貨物輸送(国際コンテナ貨物、幹線フェリー等)を確保するとともに、臨海部防災拠点として避難者や緊急救援物資用の輸送拠点とするため、耐震強化岸壁(平成18年4月末現在149バース供用)や緑地等のオープンスペースの整備を推進している。
(エ)空港事業における耐震対策
 平成18年度は東京国際空港(羽田)の誘導路の耐震化を促進したほか、航空輸送上重要な空港等の耐震化のあり方について方針を取りまとめた。
(オ)下水道事業における耐震対策
 平成18年度に「下水道地震対策緊急整備事業」を創設し、消毒機能等地震時においても下水道が最低限有すべき機能を確保するための耐震化や避難地におけるトイレの確保等を、緊急かつ重点的に促進している。

6)総合的な宅地防災対策の推進
 平成18年4月に「宅地造成等規制法」等が改正され(同年9月施行)、新規に造成される宅地について盛土宅地の崩落等を防止する耐震基準を盛り込むほか、既に造成された宅地等の安全性確保のため、造成宅地防災区域の指定ができることとした。また、耐震対策として、既存の造成地に係る「宅地ハザードマップ」の作成及び大規模盛土造成地の耐震化を促進している。

7)大規模地震に対応する土砂災害対策
 首都直下地震、東南海・南海地震等の将来起こりうる大規模地震等に起因する土砂災害から被害を軽減するため、地震対策の強化区域内等において土砂災害対策を重点的に実施する。

8)被災建築物の応急危険度判定の実施
 地震により被災した建築物の余震等による倒壊等から生じる二次災害を防止するため、被災後速やかに応急危険度判定を実施できるよう、業務マニュアルの整備や全国連絡訓練等により都道府県と協力して体制整備を図っている。平成17年の福岡県西方沖を震源とする地震では、3,148件について応急危険度判定を実施した。

 

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