第3節 将来を見越す

◯1 将来負担の捉え方

 将来世代のことも視野に入れてインフラのあり方を考えるべきという認識は広く共有されており、野村総合研究所が2008年度に行ったアンケートによれば、約7割の人々が、現世代は、将来世代に対して、社会インフラを適切な状態で残していく責任があると回答している(図表2-3-1)。
 
図表2-3-1 社会インフラと将来世代への責任に関する意識
図表2-3-1 社会インフラと将来世代への責任に関する意識
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 しかしながら、人口減少や財政状況のひっ迫といった諸制約のなかで、社会インフラの更新においても慎重な考え方をとる傾向が見られる。「国民意識調査」の結果を見ると、現在ある社会インフラをすべて更新するにしても、優先順位を付けて計画的に行うべきと考える人が多く、また、以前の調査結果と比較すると、負担が増えるのであればすべての施設を更新する必要はないと考える人がわずかではあるが増加している(図表2-3-2)。
 
図表2-3-2 インフラの更新と費用負担に対する考え方
図表2-3-2 インフラの更新と費用負担に対する考え方
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 ただし、社会インフラの更新についての意向は、現在の社会インフラの状態をどのように認識しているかにも影響される。現在の社会インフラの状態をどのように捉えているかという質問に対する回答ごとに傾向を見てみると、社会インフラの状態に不安を感じる人ほど、すべての社会インフラの更新を進める必要があると考え、社会インフラの状態を楽観視する人ほど、社会インフラの更新は必要ないと考える傾向がある(図表2-3-3)。以上の結果を踏まえると、すべての社会インフラの更新は難しいと考える人が増えているものの、社会インフラの老朽化について高い問題意識を持っている人ほど、社会インフラを更新していく必要性を認識しているということがわかる。
 
図表2-3-3 現在の社会インフラの状態について不安に感じる程度と、将来負担を踏まえた社会インフラの更新意向
図表2-3-3 現在の社会インフラの状態について不安に感じる程度と、将来負担を踏まえた社会インフラの更新意向
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 このような意識は、社会インフラの維持管理・更新にかかる施策に対する選好にも現れている。社会インフラの維持管理・更新について重要だと思うことを見てみると「社会インフラの実態の把握」に次いで、「地域ニーズにあわせた、撤退等も含む、社会インフラの集約・統廃合」が多いが「予防的措置による長寿命化」を挙げる人も多い(図表2-3-4)。このため、これからの社会インフラの維持管理・更新に当たっては、人々が社会インフラの状態を適切に把握したうえで、社会経済情勢の変化に応じて社会インフラの集約・統廃合を判断するとともに、予防保全による長寿命化の努力を進めていくことが望ましいと考えられる。
 
図表2-3-4 維持管理・更新において重要だと考える取組み
図表2-3-4 維持管理・更新において重要だと考える取組み
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(1)社会インフラの集約・統廃合に対する意識
 「国民意識調査」の結果を見ると、将来の維持管理・更新の負担が大きくなるのであれば、現在から計画的に社会インフラの縮減・廃止を進めていくべきという考え方に同意する人は過半数に上っており、その割合は、高齢者になるほど高い傾向が見られる(図表2-3-5)。地域における社会インフラの集約・統廃合を意思決定する際には、これからの人口減少・高齢化を踏まえると、高齢者の意向がこれまで以上に重要となってくることから、このような傾向は合意形成を進めやすくなる可能性を示している。一方で、年齢が若くなるほど「わからない」と回答する割合が増えていることから、若い世代に対しては、これまで以上に社会インフラの状況の理解促進に努めていくことが望ましいと考えられる。
 
図表2-3-5 将来負担を踏まえたインフラの集約・統廃合に対する考え方(世代別)
図表2-3-5 将来負担を踏まえたインフラの集約・統廃合に対する考え方(世代別)
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 また、現状で整備された社会インフラから利便性を享受している以上、多くの人が、将来にもできる限りそれを維持すべきと考えていることにも留意する必要がある。図表2-3-6を見ると、財政状況を不安に思う人ほど、社会インフラを維持するべきとする回答が少なくなる傾向が見られることから、現状の社会インフラによる利便性を将来世代に残したいという意向はあるものの、財政に対する懸念からインフラの更新をあきらめざるを得ないと考えている人が多いことがうかがえる。
 
図表2-3-6 財政状況に対する認識と社会インフラをできる限り残すべきと考える程度
図表2-3-6 財政状況に対する認識と社会インフラをできる限り残すべきと考える程度
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 当然ながら、必要に応じてインフラの縮減を行う場合でも、生活利便性や安全・安心等、地域住民が最低限必要な機能を享受することができるよう、計画的な取組みを進めていく必要があり、これは多くの人が望ましいと考える方向性でもある(図表2-3-7)。すなわち、すべての社会インフラを等しく廃止・縮小することが可能なわけではなく、とりわけ、国民の命を守る防災・国土基盤系の社会インフラについては、廃止・縮小は適当ではないとする人が多い(図表2-3-8)。また、府中市が実施したアンケート調査の結果を見ると、統廃合や複合化を実施する施設としては、土木系インフラ(道路、橋梁、公園、下水道等)よりも、いわゆる「ハコモノ」公共施設(文化・教育・スポーツ施設等)が適当であると考える人が多い(図表2-3-9)。このように、社会インフラの集約・統廃合に当たっては、できるだけ住民の効用が減じることがないよう、社会インフラの目的や種類に応じたきめ細かい対応をしていくことが重要である。
 
図表2-3-7 公共施設の見直しに当たり重視するもの(結果について)
図表2-3-7 公共施設の見直しに当たり重視するもの(結果について)
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図表2-3-8 社会インフラの維持管理・更新が現状のままでは困難となったとき、廃止・縮小・統廃合を実施すべきと考える程度(インフラの種類別)
図表2-3-8 社会インフラの維持管理・更新が現状のままでは困難となったとき、廃止・縮小・統廃合を実施すべきと考える程度(インフラの種類別)
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図表2-3-9 インフラや公共施設の再編・縮減に対する考え方
図表2-3-9 インフラや公共施設の再編・縮減に対する考え方
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(2)長寿命化に対する意識
 人口減少や財政制約の顕在化といった状況のなかで、社会インフラの老朽化に的確に対処していくためには、将来を見越した計画的な取組みにより維持管理・更新にかかるトータルコストの縮減を図りながら、既存のインフラを良好な状態で維持していくことが重要である。
 これまでの維持管理は、損傷が進んでから補修を行う対症療法的な「事後保全」の考え方が中心であったが、これでは長寿命化は期待できず、将来の更新費用を含めると膨大な費用がかかる。しかし、損傷が小さなうちに補修を行う「予防保全」の考え方を積極的に取り入れることで、長寿命化が図られ、結果として将来にわたる維持管理コストをトータルで削減することができる。
 笹子トンネル事故や、その後の老朽化対策の進展等により、社会インフラについても定期的な維持管理・更新が必要であるという意識は浸透してきているが(図表2-3-10)、維持管理・更新に際しては、サービス水準の引き下げや料金徴収等ではなく、長寿命化により対策を実施すべきとの意見が圧倒的に多い(図表2-2-24)。こうした関心を背景に、維持管理・更新のための政策の選択肢として、長寿命化を挙げる者の割合も高まってきている(図表2-3-11)。
 
図表2-3-10 社会インフラの維持管理・更新に対する考え方
図表2-3-10 社会インフラの維持管理・更新に対する考え方
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図表2-3-11 今後の維持管理・更新について重要だと思うもの(複数選択)
図表2-3-11 今後の維持管理・更新について重要だと思うもの(複数選択)
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 事後保全ではなく予防保全により維持管理・更新を行った場合の効果については、いくつかの事例に関して試算が行われている。
 例えば、橋長150m、5径間連続橋注64について、事後保全と予防保全の場合の累積補修費のイメージを比較すると、補修を実施せず耐用年数まで使用を続けて、その後架け替えを行うというケースでは約31億円、こまめに舗装塗替やひび割れ注入により補修を行うというケースでは約8億円と試算されている(図表2-3-12)。
 
図表2-3-12 予防保全の累積補修費イメージ
図表2-3-12 予防保全の累積補修費イメージ

 社会インフラの長寿命化がインフラ全体について行われた場合の効果については、個別の施設の構造的特性や周辺環境のほか、利用状況や技術進歩等を総合的に考慮しなければ正確な把握は難しいが、内閣府「日本の社会資本2012」のデータを用いてマクロレベルでの長寿命化の効果試算を行うことが可能である。図表2-3-13では、15分野(道路、港湾、航空、公共賃貸住宅、下水道、廃棄物処理、水道、都市公園、文教施設、治水、治山、海岸、農林漁業、国有林、工業用水道)のインフラについて、「日本の社会資本2012」で採用されている除却手法と同じ方法で各年に新設されたインフラが除却されていくとしたうえで、それぞれの種別のインフラについて、「日本の社会資本2012」で採用されている現行の平均耐用年数で除却が進むとした場合と、長寿命化により平均耐用年数が一律10%増加するとした場合に発生するストックの滅失量を計算したところ、長寿命化を行った場合、インフラの滅失が抑制され、2009年の水準に比して、2010年からの50年間における除却されるインフラの量は、長寿命化を行わない場合に比べて12.4%少なくてすむという結果が得られた。
 
図表2-3-13 長寿命化の効果
図表2-3-13 長寿命化の効果
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 当然ながら、これは個別施設の構造的特性や利用実態を捨象した試算であることのほか、長寿命化に伴う維持管理コストの変化にも留意が必要であるが、予防保全による長寿命化により、中長期的に更新の縮小が期待されることがわかる。こうした取組みにより、トータルコストの縮減や予算の平準化を図りながら、将来世代にわたって社会インフラを適切な状態で維持し、便益が発揮されることを確保していくことが重要である。


注64 「径間」とは、構造物の支点と支点の間のことをいい、ここでは橋台や橋脚の間の床版が5つ連なった構造の橋ということ。


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