第2節 時代に合った構造的な地域づくり

■2 「コンパクト+ネットワーク」の事例

 ここまで、「コンパクト+ネットワーク」の効果を見てきた。人口減少社会においては、それぞれの地域内において各種機能をコンパクトに集約すると同時に、各地域がネットワークでつながることによって、一定の圏域人口を確保し、生活に必要な機能を維持することが可能になる。
 そのような各種機能は日常生活に必要なものから、特定のときにしか利用しないものまで様々であり、それに応じて必要な圏域規模が規定されるため、「コンパクト+ネットワーク」は階層的な構造になる(図表2-2-12)。
 
図表2-2-12 階層的な「コンパクト+ネットワーク」
図表2-2-12 階層的な「コンパクト+ネットワーク」

 すなわち、一つの都市レベルで「コンパクト+ネットワーク」を適用するとともに、それよりも小さな単位である集落レベルやそれよりも大きな都市間レベルでも「コンパクト+ネットワーク」を適用していくことが重要となる。以下では、具体的な例として、富山県富山市や青森県八戸市を取り上げるとともに、中山間地域の集落や複数都市によって構成される都市圏などの地方都市以外のレベルにおいても「コンパクト+ネットワーク」の考え方があてはまることを見ていくこととする。

(1)コンパクトシティ(都市レベルでの「コンパクト+ネットワーク」)
(富山市)
 富山市では、他の都市に先駆けてコンパクトシティの形成に取り組んできた。市では、これまで高い道路整備率や強い戸建て志向等の背景から、市街地が急速に外延化してきた。そのため、2000年以前はDID面積が拡大し、人口密度も低下を続けていたが、近年はそれらの推移が横ばいとなり郊外化に一定の歯止めがかかっている(図表2-2-13)。
 
図表2-2-13 富山市におけるDID面積及びDID人口密度の推移
図表2-2-13 富山市におけるDID面積及びDID人口密度の推移
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 富山市では、既存の公共交通網のうち、市内のすべての鉄軌道と、運行頻度の高い路線バス等の路線を公共交通軸として設定した上で、「中心市街地地区(都心地区)」に加え、利便性の高い公共交通軸の沿線に「公共交通沿線居住推進地区」を設定し、住宅助成等を行うことで、人々の居住を居住推進エリアへ誘導している(図表2-2-14)。
 
図表2-2-14 中心市街地地区と公共交通沿線居住推進地区
図表2-2-14 中心市街地地区と公共交通沿線居住推進地区

 これらの取組みの成果として、「中心市街地地区(都心地区)」や「公共交通沿線居住推進地区」での人口の社会増減(転入人口から転出人口を差し引いたもの)を見ると、それまで転出超過で推移してきたが、徐々にその転出超過幅は縮小し、近年では転入超過へと転じるまでになった(図表2-2-15)。
 
図表2-2-15 公共交通沿線居住推進地区の社会増減の推移
図表2-2-15 公共交通沿線居住推進地区の社会増減の推移
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 また、住宅の立地に着目すると、人々の居住の動向に大きな変化が生まれていることが分かる。2003年から2008年と、コンパクトシティの取組みが始まって一定の期間が経過した2008年から2013年の両期間について、公共交通機関や保育所からの距離別の住宅戸数割合の変化率を比較すると、2003年から2008年では、全国平均では施設に近づくほど増加率が高くなる傾向が見られる一方で、富山市では逆に施設に近づくほど増加率が下がる傾向が見られた。しかし、2008年から2013年では、全国的な傾向が変わらない中、富山市では2003年から2008年とは逆の傾向が見られ、駅から2km圏内での住宅戸数割合の増加率が全国平均を上回る結果となっている(図表2-2-16)。
 
図表2-2-16 住宅戸数割合の変化率(最寄りの公共交通機関(駅、電停、バス停)及び保育所からの距離別)
図表2-2-16 住宅戸数割合の変化率(最寄りの公共交通機関(駅、電停、バス停)及び保育所からの距離別)
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 このような公共交通機関周辺への居住の進展に加えて、旧JR鉄道施設(富山港線)を活用したLRT注45「富山ライトレール」の整備では、運行間隔の短縮や新駅の設置、バリアフリーな低床車両の導入、運行サービスの改善等の取組みの結果、開業前と比較すると路線の平均利用者数は、平日で約2.1倍、休日で約3.5倍に増加した。時間帯別の利用者数を見るとこれまで利用の少なかった平日9時から17時までの日中の時間帯において利用者が大幅に増加しており、年代別では60歳以上の利用者数が特に増加していることが分かる。若年層においても利用者数は増加している(図表2-2-17、2-2-18)。

 
図表2-2-17 時間帯別の富山ライトレール利用者数変化(平日・1日当たり)
図表2-2-17 時間帯別の富山ライトレール利用者数変化(平日・1日当たり)
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図表2-2-18 年代別の富山ライトレール利用者数変化(平日・1日当たり)
図表2-2-18 年代別の富山ライトレール利用者数変化(平日・1日当たり)
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 なお、LRT以外にも富山市には、市内各地から中心市街地に向かう路線バス網がある。市では路線バスやLRT等の公共交通機関を利用する65歳以上の高齢者を対象として、「おでかけ定期券」という中心市街地において乗り降りする際の利用料金を一律100円に抑える定期券の発行を行っている(図表2-2-19)。この定期券を利用した外出は増加しており、市が行った調査では、定期券を利用する高齢者の平均歩数は県内の高齢者及び全国の高齢者の平均歩数よりも多く、おでかけ定期券を利用した日では、利用しなかった日の平均歩数より約1,300歩多いことが分かった(図表2-2-20)。
 
図表2-2-19 おでかけ定期券事業
図表2-2-19 おでかけ定期券事業

 
図表2-2-20 高齢者の平均歩数(お出かけ定期券利用者、富山県民平均、国民平均)
図表2-2-20 高齢者の平均歩数(お出かけ定期券利用者、富山県民平均、国民平均)
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 これは前述の歩数の増加による医療費抑制の効果を考慮すると、一人一日当たり80円の抑制効果があると推計され、利用者全体では年間で約7,560万円の医療費抑制効果があると推計される。
 また、ネットワークは、新たに整備したり、その利便性を改善したりすることによって周辺での集積を促す効果がある。以前より、富山市内には、富山地方鉄道が運行する市内電車の軌道が富山駅を中心に、それぞれ大学方面、南富山方面へ伸びており通勤・通学の足となっていたが、中心市街地を循環する路線がなかったため、市は市内電車の路線を一部延伸し、「市内電車環状線」として整備した。これにより、富山駅と中心市街地の間での回遊性が高まったほか、環状線新線区間(2009年12月23日開業)の沿線では民間投資が活発化し、マンションやオフィスビルのほかシネマコンプレックス等の商業施設建設等の再開発事業も活発化している。  また、市内の宅地の地価が下落を続ける一方で、環状線の新線区間では、地価が安定して推移しており、新線区間以外の中心市街地についても地価の下落が緩やかになる傾向が見られる(図表2-2-21)。

 
図表2-2-21 富山市における中心市街地の地価変動
図表2-2-21 富山市における中心市街地の地価変動

 このように地価が安定して推移することは、市財政の安定化にも寄与する。市の税収は45.1%が固定資産税と都市計画税によって占められており、そのうち22.0%が中心市街地から得られたものである(図表2-2-22、図表2-2-23)。中心市街地に集中的に投資を行うことによって資産価値を維持し、安定的な税財源を確保することができ、そこから得られる税収によって市内のその他の地域も含めた市全体の行政経費をまかなうことが可能となっているとも考えられる。このようにコンパクトシティ化は、限られた財源を選択的に投資することによって、財政の持続性の確保にもつながるといえる。
 
図表2-2-22 富山市における市税の内訳(2014年度当初予算)
図表2-2-22 富山市における市税の内訳(2014年度当初予算)
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図表2-2-23 固定資産税・都市計画税の地域別内訳(2014年度)
図表2-2-23 固定資産税・都市計画税の地域別内訳(2014年度)
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(八戸市)
 青森県八戸市でも、バスネットワークの利便性を高めることによって中心市街地への人の移動を促している。
 八戸市は青森県南東部の中心都市であり、市内には青い森鉄道とJR八戸線が運行されているが、市内の公共交通網の中心は路線バスであり、公営の八戸市営バスと民営の南部バス(株)、十和田観光電鉄(株)の3事業者が運行している。中でも市内路線バスの主要幹線である「八戸駅線」の八戸駅〜中心市街地の区間は、バス事業者が各々の営業方針により運行サービスを実施しており、例えば、バス停から市営バスが発車した直後に南部バスの便が到着し、その後は数10分もバスが来ないといったように、利用者にとって不便な運行ダイヤとなっていた。そこで、2007年にバス事業者の参画のもと「わかりやすさ」や「つかいやすさ」を考慮したサービス向上策について協議が重ねられ、2008年から市営バスと南部バスの2経路において、10分の等間隔での共同運行を開始した。共同運行開始の結果として、いずれの事業者においても運行の効率化により便数を減らすことができた一方で、乗車人数は増加し、共同運行を行った路線の収益は赤字から黒字へと転換した(図表2-2-24)。このような「八戸駅線」の実績を踏まえ、八太郎〜中心市街地の区間も2010年から20分等間隔による共同運行を実施するとともに、他の幹線についても事業者ごとに10分又は20分等間隔運行を実施している。
 
図表2-2-24 八戸駅線共同運行化後の八戸駅乗車人数の比較
図表2-2-24 八戸駅線共同運行化後の八戸駅乗車人数の比較
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 一方、八戸市を中心とする1市7町村で構成される八戸圏域定住自立圏では、2011年10月より、路線バスの上限運賃政策を開始し、大半の区間で運賃が低廉化した。その結果、同政策の実施前(2011年9月)と比較して、八戸圏域における路線バスの利用者数(平日一日あたりの運賃支払者数)は、1年後には14.0%、2年後には17.0%それぞれ増加した(広報はちのへ平成27年3月号より)。しかし、路線別の内訳を分析すると、実施1年後との比較で平均乗車密度が明らかに増加したのは、運行本数が多い路線(おおむね一日に16回以上)であり、それに満たない運行回数の少ない路線では、平均乗車密度の変化量にばらつきが存在しており、乗車密度が大きく増加する路線がある一方で、逆に大きく減少してしまう路線も見られた(図表2-2-25)。すなわち、運行本数が多く利便性が高いほど安定した乗車が見込まれることが考えられる。
 
図表2-2-25 運行回数と平均乗車密度の変化量との関連
図表2-2-25 運行回数と平均乗車密度の変化量との関連
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 さらに、バス利用の利便性向上の取組みは、事業者の収益性の改善のみならず、都市の集約化にも一定の効果を示すと考えられる。八戸市では、八戸市公共交通再生プラン及び八戸市地域公共交通総合連携計画に基づき、バス路線網の幹線軸を設定している。それぞれの区間について、八戸市内の医療機関と大型小売店へのアクセス性の高さを評価するために、それぞれ施設の床面積と幹線軸からの距離をもとに路線ごとの評価(偏差値)をすると、路線の再編前の2005年と再編後の2013年の比較では、多くの幹線軸でアクセス性が僅かではあるが相対的に向上していることがわかる(図表2-2-26)。
 
図表2-2-26 医療機関及び商業施設への空間的アクセシビリティ
図表2-2-26 医療機関及び商業施設への空間的アクセシビリティ
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図表2-2-27 八戸市バス路線図
図表2-2-27 八戸市バス路線図

(まとめ)
 コンパクトとネットワークはそれぞれが、互いに補完的な役割を果たすことによって、相乗的にその効果を高めることができる。コンパクト化により都市を構成する様々な施設等が空間的にまとまれば、そこにより濃密な人々のつながりが形成される。そのような都市機能と人々の活動は魅力的な生活環境を生み、多くの人々をひきつけることで、それらの機能をつなぐ公共交通等のネットワークを利用する人口が確保され、ネットワークの質を向上させるとともにサービスを持続的に提供することが可能になる。このような生活環境の向上を通じて更に都市に住む人が増えれば、コンパクト+ネットワークによる好循環が生まれる。
 コンパクトとネットワークのどちらか一方だけではなく、両方に取り組むことが持続可能な地域を実現するためには必要である。国土交通省においてもそのための取組みを行っている。2014年8月には、福祉等の生活サービス機能と居住を誘導し、高齢者も安心して暮らせるコンパクトなまちづくりを進めるための「都市再生特別措置法等の一部を改正する法律」が施行された。コンパクトシティ形成に向けた取組みに対しては、市民、民間事業者、行政等の関係者におけるコンセンサスの形成が必要であり、その観点から、同月に公表された「都市構造の評価に関するハンドブック」も参考にしながら、コンパクトシティの意義、必要性やそれによる効果等について客観的かつ定量的な分析を行うことが必要である。
 2014年11月には、「地域公共交通の活性化及び再生に関する法律の一部を改正する法律」が施行され、地方公共団体が中心となって、関係者がまちづくりにおいて連携し、持続可能な地域公共交通網を形成するための地域公共交通網形成計画の策定制度が創設された。また、まちづくりと連携しつつ、地域全体の公共交通ネットワークを再編するために、地域公共交通再編事業及び当該事業を実施するための地域公共交通再編実施計画の策定制度を創設した。上記の施策に関連して、まち・ひと・しごと創生総合戦略に基づき、関係省庁による「コンパクトシティ形成支援チーム」が国土交通省を事務局として設置され、コンパクトシティ形成に向けた市町村の取組みが一層円滑に進められるよう、関係施策が連携した支援策について検討するなど、省庁間の横の連携を強化し、市町村の取組みを支援することとしている。

(2)小さな拠点
(中山間地域の現状)
 ここまで都市部でのコンパクト化による効果を見てきたが、人口減少は、人口規模が小さい地域ほどその傾向が顕著になる。中山間地域の中でも山間農業地域について見ると、2010年の全国の高齢化率が23.0%であるのに対して、山間農業地域の高齢化率は34.9%となっている。さらに、その平均的な男女比や年齢構成をもとに、人口1,000人の仮想の集落を想定して人口の将来推計を行うと、40年後の2050年には全国の高齢化率が38.8%であるのに対し、山間地域は54.9%となっており、人口自体も約70%減少することになる(図表2-2-33)。
 
図表2-2-33 山間農業地域のモデル集落(人口1,000人)の将来推計人口
図表2-2-33 山間農業地域のモデル集落(人口1,000人)の将来推計人口
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 すでに過疎地域等の集落においては、人口減少や高齢化に伴い、食料品を扱う商店や診療所が閉鎖されたり、公共交通機関の維持が困難になったりするなど、日常生活に必要なサービスを提供するという集落機能が低下するとともに機能維持が困難になりつつある(図表2-2-34)。
 
図表2-2-34 集落で発生している課題
図表2-2-34 集落で発生している課題
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 このように集落における生活機能施設の維持が困難になることに加えて、他地域への交通手段の確保も困難となりつつある。集落における調査によると、世帯のなかに車の運転をする人がいない世帯の割合は、世帯主の年齢が上がるほど上昇し、特に世帯主が75歳以上の世帯においてはその割合が高く、半数を超えている(図表2-2-35)。
 
図表2-2-35 運転する人がいる世帯割合(世帯主の年齢別)
図表2-2-35 運転する人がいる世帯割合(世帯主の年齢別)
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 以上のように、集落での暮らしを続けていくことが危ぶまれる状況が、今後、全国各地で一層拡大していくことが懸念される。このような状況において、過疎集落の住民生活の安定を図るために、集落において基礎的な生活サービスを維持するとともに、効率的にサービスを提供する仕組みづくりが必要である。本節では、そのような地域の再生を目指す新たな取組みとして「小さな拠点」を紹介する。

(小さな拠点)
 これまで紹介してきた「コンパクト+ネットワーク」の考え方は、中山間地域の集落についてもあてはめることができる。小さな拠点とは、小学校区等の複数の集落が集まる地域において、小学校や旧役場庁舎等の既存施設を活かしつつ、商店や診療所等の日常生活に不可欠な施設等を歩いて動ける範囲に集め、集落が散在している場合にはコミュニティバスやデマンド交通、宅配等によって周辺集落とネットワークで結ぶことで、効率的に生活サービスを提供するとともに、人々の交流を促進する地域活動の場としての拠点を生活圏の中で確保することがその目的である。
 その他にも小さな拠点に期待される役割としては、地元農水産品の直売所や、それらを活用した商品開発・加工・販売まで行う6次産業化等、地域資源の活用の拠点となることで、地域の農林水産業を中心とした雇用の創出や商品の地域外への販売を通じた経済効果が期待される。
 
図表2-2-36 小さな拠点
図表2-2-36 小さな拠点

(小さな拠点の取組事例)
 以下では、小さな拠点として、先駆的に取り組まれている事例を紹介する。

■高知県檮原(ゆすはら)町(四万川地区)
 高知県は、2010年の高齢化率が28.8%で全国的にも高齢化の進行が早い。また、県土に占める森林面積は全国1位であり、中山間地が多くなっているため、人口の半数以上が平地である高知市、南国市に集中している。そのため、その他の市町村では過疎地域の人口が急激に高齢化し集落の規模も縮小するなど、集落問題への対策が待ったなしの状況となっている。県では、旧小学校や集会所等を利用した地域住民による地域課題解決の場を「集落活動センター」として、県内各集落における設置の支援に取り組んでいる。その一つに檮原町の四万川地区がある。
 
図表2-2-37 「集落活動センター四万川」(高知県檮原町四万川地区)
図表2-2-37 「集落活動センター四万川」(高知県檮原町四万川地区)

 檮原町四万川地区は人口583人、高齢化率49.9%(2014年3月31日時点)の集落である。2013年1月に地域で唯一の給油所が廃業したことに伴い、冬季の灯油の供給や生活物資の確保困難といった懸念が生じた。このことを受け、集落活動センター四万川推進委員会が立ち上げられ、委員会による検討の結果、住民出資の株式会社を設立することが決定された。設立後は、ガソリンスタンド、地場産品販売事業を開始しており、ガソリンスタンドでは、給油のほか冬季のタイヤ交換等も行うなど住民にとって生活に不可欠なサービスを提供している。また、併設されている販売店舗では、地域住民が栽培した農作物を販売しているほか、地域住民の要望に応え、農作業器具、たばこ販売も行っている。近隣には個人商店も存在するが、今後、閉業の予定であるため、閉業後は集落活動センターが店舗機能を代替することが計画されている。

■京都府南丹市美山町(平屋地区)
 美山町は京都府のほぼ中央に位置しており、平屋地区は人口837人、高齢化率45%(2015年3月31日時点)の集落である。中でも平屋地区は国道と府道の交差地点ということもあって、JA店舗や保健福祉センター、診療所等官民様々な施設が集まる町の中心部として発展してきた。しかしながら、2000年のJAの広域合併に伴い、併設されていた商店の閉鎖が決定され、高齢者にとって食料品や日用品の買い物が不自由になるおそれが出てきた。このことから、地域振興会が中心となって住民間の話し合いを進めた結果、平屋地区の住民の共同出資によるJA店舗の営業引継ぎが決定され、2002年には住民自身が運営する商店「ふらっと美山」が誕生した。店舗は他地域からの交通量も多い国道に面していることから観光客向けの地元産品の直売所も備えており、2005年には、「ふらっと美山」と周囲の農業振興総合センター、高齢者コミュニティセンター、駐車場広場等の一帯の既存施設を活かした道の駅として登録され地域の拠点を形成している。
 
図表2-2-38 道の駅「ふれあい広場」(京都府南丹市美山町平屋地区)
図表2-2-38 道の駅「ふれあい広場」(京都府南丹市美山町平屋地区)

 拠点において提供されるサービスには、道の駅の「ふらっと美山」における日用品販売等のほか、道の駅に隣接する公設民営の美山診療所における平日診療、保健福祉センターにおける予防接種や検診、ミニデイサービスの提供等があり、住民の日常生活に必要な機能が一カ所に集まっている。
 また、コミュニティバスの停留所が隣接するほか、デマンドバス(タクシー)の運行により、後背地の集落からのアクセスを確保し、地域住民の生活を支える「小さな拠点」として機能している。
 さらに、美山地域は酪農を振興してきた地域であることから、美山牛乳という地域ブランド製品を有し、乳製品の加工を行う施設も道の駅内にある。製造された製品は道の駅内の店舗でも販売されており、道の駅は地域の特色を活かして開発された6次産業化商品の販売等の取組みにおける拠点の役割も担っている。

(まとめ)
 第189回国会において提出されている「地域再生法の一部を改正する法律案」において、地域の自主的・自立的な取組みについて定めた地域再生計画に基づく事業に対して特別の措置を追加し、集落等の地域の日常生活圏における、地域再生拠点の形成及び農用地等の保全・利用を図るために行う事業を地域再生計画に定めることができることとされており、また、それらの事業と一体的に推進する事業として、自家用有償旅客運送者による少量の貨物の運送が、集落生活圏において集荷や配達が行われるものに限り認められることとされている。
 同法案により、生活・福祉サービスを一定のエリア内に集め、周辺集落と交通ネットワーク等で結ぶ「小さな拠点」の形成がより一層促進されることが期待される。

(3)連携中枢都市圏
 第1章第2節で見たように、地方都市に立地する都市機能はその都市の人口によってある程度規定される。人口が数十万人未満の地方都市においては、その都市圏内の居住者に対して大型のショッピングセンターや学校等の一定の機能を提供することが期待され、都市機能の中でも大学や地域医療の拠点病院等のように、より高次のものについては、近接する都市同士が道路や公共交通、ICT等のネットワークによってつながり都市圏を形成することで維持することが必要となる。人口減少・少子高齢社会においても一定の圏域人口を有しつつ、活力ある社会経済を維持するための、経済成長のけん引等の機能を備えた都市圏概念として連携中枢都市圏が提示された(「まち・ひと・しごと創生総合戦略」(2014年12月27日閣議決定))。連携中枢都市圏の形成においては、人口や行政サービス、生活基盤等の面だけでなく、経済や都市構造の面も重視した連携の構築が求められている。
 例えば、一つの都市だけでは必要なすべての機能を備えることが困難な場合に、周辺の各都市が連携して役割分担をし、これらの都市同士が道路や公共交通等のネットワークで結ばれることによって、すべての地域で必要な機能を享受することを可能とするものである。
 以下では、連携中枢都市圏の形成に向けて取り組んでいる事例として、京都府北部の地域路線であるKTR(北近畿タンゴ鉄道)の沿線地域を紹介する。

(京都府北部地域)
 京都府北部地域は、丹後(宮津市、京丹後市、伊根町、与謝野町)と中丹(福知山市、舞鶴市、綾部市)からなる地域であるが、丹後地域は、日本三景のひとつである天橋立をはじめとする観光資源に恵まれた地域である。一方の中丹地域は府内でも産業集積が進んでいる地域であり、中でも福地山市と綾部市には工業団地が多く立地し、京都縦貫自動車道と舞鶴若狭自動車道のクロスゾーンに当たるなど、京都市や阪神地域へのアクセス性が高い地域である。このように京都府北部地域は、市町ごとの特色に富んだ地域である。
 
図表2-2-41 広域交通アクセスの強化イメージ
図表2-2-41 広域交通アクセスの強化イメージ

 以下では、各市町の特色を活かした当該地域における役割分担や連携について見ていく。

(観光)
 日本海に面する京都府北部地域は、古代から大陸文化・技術の交流の窓口として栄え、江戸時代には北前船の寄港地、明治時代には軍港となるなど海にまつわる歴史の深い地域である。また、美しい地形と独特の動植物を有する山陰海岸があり自然遺産にも恵まれている。
 京都府北部地域ではこのような観光資源を活かすため、地域が一体となって進める滞在型観光エリアである「海の京都観光圏」の整備が進められている。エリアの中でも、特に集客力の高い宮津市の天橋立と京丹後市の夕日ヶ浦を、観光客の宿泊を促進する「主たる滞在促進地区」として設定する一方で、京阪神との交通結節点である福知山市や綾部市と交通面での連携を強化するなど、各地域の特性に応じて役割を明確にしている。また、宿泊客が立ち寄り観光や体験型観光を楽しむ観光エリアとして、伊根浦舟屋群や綾部東部里山等11地区を交流地区に指定している。さらに、「主たる滞在促進地区」である「天橋立」滞在促進地区と「夕日ヶ浦」滞在促進地区においては、「来訪者満足度」、「来訪者旅行消費額」、「宿泊数」、「宿泊者のリピーター率」、「滞在プログラム参加者数」、「滞在プログラム満足度」の6つの数値目標を立て、施策の具体的な効果の把握に努めている注46
 
図表2-2-42 海の京都観光圏
図表2-2-42 海の京都観光圏

(経済)
 京都府北部地域は、中丹地域の福知山市や綾部市の工業団地を中心に産業集積が進展しており、両市への通勤流動も多くなっているほか、丹後地域においても京丹後市や宮津市を中心として観光業、農林水産業、織物業、機械金属業等地域の特性を活かした産業が盛んであり、通勤者数で見ると中丹、丹後の各地域内での通勤流動が多くなっている(図表2-2-43)。一方で、京都府北部地域内に通勤する者全体に占める割合を2005年から2010年の期間において比較すると、各市及び郡注47とも、おおむね市又は郡をまたいだ通勤の割合が増加する傾向にあり、中でも丹後地域や福知山市においては中丹、丹後の両地域をまたいでの通勤の割合が地域内での通勤の割合よりも増加率が高くなる傾向にある(図表2-2-44)。このように、北部地域では従前からの地域的まとまりを超えた通勤の傾向が生まれつつあると考えられる。
 
図表2-2-43 京都府北部地域における通勤流動(15歳以上)
図表2-2-43 京都府北部地域における通勤流動(15歳以上)
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図表2-2-44 京都府北部地域における地域間通勤者割合の変化率
図表2-2-44 京都府北部地域における地域間通勤者割合の変化率
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 2015年7月には京都府の南北を結ぶ京都縦貫自動車道の未開通区間が開通予定であり、開通に伴い観光交流や観光投資の増加、沿線を中心とした更なる企業立地の進展等が期待されている。また、舞鶴港は日本海側拠点港として指定されており、港湾機能の拡充を目指している。このようなインフラ整備が進む中、地域や国境を越えたヒト・モノ・カネ・情報の流れが一層拡大していくことが予想される福知山市、綾部市の両市を中心とした地域において、地域をけん引する産業の発展が期待されている。

(医療)
 医療分野については、丹後地域と中丹地域の二つの二次医療圏注48それぞれに拠点病院が所在し、周辺市町の住民へ高度な医療サービスを提供している注49
 
図表2-2-45 京都府の二次医療圏
図表2-2-45 京都府の二次医療圏

 京都府立医科大学付属北部医療センター(丹後地域の地域医療支援病院。京都府与謝野町に立地)に「居住市別の通院者数の動向」の調査を行ったところ、図表2-2-46のとおり、各市からの通院患者数は6年間で増加傾向にある。規模的には丹後地域からの通院が多いものの、伸び率では隣の中丹地域からの通院が大きく増えており、市町のみならず地域をまたがって利用する住民も増えていることが分かる。
 
図表2-2-46 京都府北部地域における通院動向(京都府立医科大学付属北部医療センターへの通院外来患者数
図表2-2-46 京都府北部地域における通院動向(京都府立医科大学付属北部医療センターへの通院外来患者数
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(教育)
 通学流動調査によると、市をまたぐ通学については福知山市に対して他市からの流入が多くなっている(図表2-2-47)。福知山市には、多くの国・府等の研究機関や4年制大学等各種の高等教育機関が設置されている。
 
図表2-2-47 京都府北部地域における通学流動(15歳以上)
図表2-2-47 京都府北部地域における通学流動(15歳以上)
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 京都府北部地域では成美大学を拠点として、府内の6大学と京都府や北部の7市町、特定非営利活動法人等で構成する京都北部地域・大学連携機構が設立され、大学のもつ人材や知識を活かした地域活性化の取組みを行っている。
 また、地域外の大学が福知山市内にサテライトキャンパスの設置を検討する動きも現れている。京都市の国立京都工芸繊維大学は、他校との統合に伴い閉校となった高校の校舎を利用し、分校の設置を検討している。地域課題をテーマとした講義の展開や、周辺に多くのものづくり企業が立地していることを活かしたインターンシップの実施等を構想しており、共同研究や開発による技術革新の効果も期待される。

(まとめ)
 京都府北部地域は現時点で連携中枢都市圏として成立しているわけではないが、今後、地域内の各都市がそれぞれの個性を活かして互いに役割を分担し、これらを結ぶ交通ネットワークを維持・強化していくことで、都市を超えたヒトやモノの流れが生まれ、人口減少や高齢化が進む中にあっても、活力ある地域をつくり出すことができる潜在性を秘めている。そして、そのような都市圏が地方に数多く現れることによって、地方に暮らす人々の豊かな生活を守っていくことが可能となる。


注45 LRTとは、Light Rail Transitの略で、従来の路面電車から走行空間、車両等を向上させたものである。道路空間、鉄道敷等の既存インフラも有効活用し、高い速達性、定時性、輸送力等を持った、人や環境に優しい都市公共交通システムのこと。低床で車内に段差のないLRV(低床式車両)の導入や電停へのスロープ整備等の段差解消の取組みによりバリアフリー化を図り、高齢者や障害のある人も安心して利用できるようになる。
注46 数値目標(2013年から2030年の期間における目標):(天橋立滞在促進地区)来訪者満足度:10%増、来訪者旅行消費額:470,000万円(2013年)→564,000万円(2028年)、宿泊数:175千人(2013年)→210千人(2028年)、宿泊者のリピーター率:10%増、滞在プログラム参加者数:673人→860人(2028年)、滞在プログラム満足度:10%増
(夕日ヶ浦滞在促進地区)来訪者満足度:10%増、来訪者旅行消費額:164,000万円→196,800万円(2028年)、宿泊数:116千人→140千人(2028年)、宿泊者のリピーター率:10%増、滞在プログラム参加者数:2,102人→2,690人(2028年)、滞在プログラム満足度:10%増
注47 与謝郡は与謝野町及び伊根町からなる。
注48 一体の区域として、入院医療を提供することが相当である単位として、地理的条件等の自然条件、交通事情等の社会的条件を考慮して設定される。
注49 図表1-2-3にもあるとおり、拠点病院が立地するためにはある程度の人口規模が必要である。


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