第2節 インフラ整備の担い手確保、現場の生産性向上、新技術導入等

第2節 インフラ整備の担い手確保、現場の生産性向上、新技術導入等

■1 インフラ整備、メンテナンスの担い手の確保

(1)建設業における労働力の状況
(建設業界の現状)
 我が国全体の生産年齢人口の減少が見込まれる中、今後もインフラの品質確保と適切な機能維持を図るためには、その担い手を円滑に確保することが重要である。しかし、建設投資は1992年をピークに、就業者数は1997年をピークに2010年までは減少傾向にあった(図表3-2-1)。
 
図表3-2-1 建設投資、建設業における許可業者数及び就業者数の推移
図表3-2-1 建設投資、建設業における許可業者数及び就業者数の推移
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(若手入職者の減少、高齢化)
 地域の建設企業は低価格入札による赤字受注等により経営環境が悪化し、技能労働者の賃金の低下、若手入職者の減少等の問題に直面している。建設業の就業者の年齢構成についても、55歳以上が約3割を占める一方、29歳以下の若手が約1割となるなど、全産業に比べ、高齢化と若手の比率の低下が著しく進行している(図表3-2-2)。
 
図表3-2-2 若手比率の低下、高齢化の進行
図表3-2-2 若手比率の低下、高齢化の進行
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(官民挙げての取組み)
 建設産業の担い手をめぐる現状や将来の見通しを含む重要課題に関する認識を共有し、短期及び中長期といった時間軸に分けた上で講ずべき施策の検討に着手することが必要であることから、2014年1月に国土交通副大臣を座長とする「建設産業活性化会議」を開催した。本会議では、官民一体となって講じる総合的な人材確保・育成策として、同年8月には直轄工事で元請、一定の一次下請を社会保険加入業者に限定する措置の実施や官民挙げた「もっと女性が活躍できる建設業行動計画」の策定、同年10月には「建設産業担い手確保・育成コンソーシアム」(事務局:(一財)建設業振興基金)の発足等、各種の取組みを講じている(図表3-2-3)。
 
図表3-2-3 建設産業担い手確保・育成コンソーシアム
図表3-2-3 建設産業担い手確保・育成コンソーシアム

 これらの動きと連携して、建設業団体においても、全国建設業協会による「将来の地域建設産業の担い手確保・育成のための行動指針」の策定(2015年2月)や、日本建設業連合会の「再生と進化に向けて−建設業の長期ビジョン−」の策定(同年3月)など、団体の特徴を活かした取組みが進められ、着実な実践がなされている。
 このような官民挙げた取組みにより、公共投資の安定とも相まって注67、近年の技能労働者数は堅調に推移している(図表3-2-4)。
 
図表3-2-4 建設業就業者の推移
図表3-2-4 建設業就業者の推移
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 しかしながら、今後、建設業では高齢化等により技能労働者が大量に離職することが見込まれており、将来にわたってインフラの品質確保と適切な機能維持を図るためには、建設業の将来を担う若者の入職・定着を促し、人材を確保することが最重要課題である。こうした観点から、2015年5月の第10回建設産業活性化会議では、処遇改善を中心として担い手確保・育成対策の更なる強化を図るとともに、建設生産システムにおける生産性の向上に官民一体で取り組むことで、将来の担い手確保に強い決意で臨むことを官民で合意した。

(2)処遇改善の徹底
 建設業の就業者の減少の要因の一つとして、賃金の低下(収入の低さ)が考えられる。建設業の売上高経常利益率の推移を見ると、1990年代前半は全産業平均よりも収益力が高かったが、バブル崩壊後は低下傾向が続き、2000年代以降は1%台の低水準で推移している。2011年度より、復興需要等でやや回復傾向に向かっているが、依然として全産業や製造業の利益率を下回る状態が続いている(図表3-2-5)。
 
図表3-2-5 建設業の売上高経常利益率の推移
図表3-2-5 建設業の売上高経常利益率の推移
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 また、技能労働者の賃金について、建設業の男性生産労働者の年間賃金総支給額の推移を見ると、1990年代前半までは大幅上昇を続け、製造業の男性生産労働者との格差はかなり縮小したが、その後は建設業の賃金低下により、格差は再び拡大した(図表3-2-6)。
 
図表3-2-6 年間賃金総支給額の推移
図表3-2-6 年間賃金総支給額の推移
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 さらに、社会保険等福利厚生面での環境の未整備等、処遇面で他産業と比べ立ち遅れがみられることが、熟練した技能を有する技能者の離職や若者が建設産業で就労・定着しにくい主な要因となっている。担い手確保を図るためにも、まずは処遇改善の徹底を図ることが重要である。そのため、国土交通省では以下のような取組みを進めている。

(適切な賃金支払の浸透と社会保険加入の促進)
 現場の労働者に適切な賃金水準が確保されるよう、2016年2月には公共工事設計労務単価について実勢を踏まえる形で4度目となる引き上げを行った。この設計労務単価の引き上げが現場の技能労働者の賃金水準の上昇という好循環につながるよう取り組んでいく。
 社会保険等未加入対策に関しては、2017年度を目途に、企業単位で許可業者の加入率100%を目指すこと等を目標として各種対策を進めてきたところであり、2011年から2015年の4年で労働者単位の3保険注68加入率が15%上昇するなど確実に成果が現れてきている(図表3-2-7)。
 
図表3-2-7 社会保険の加入率
図表3-2-7 社会保険の加入率

 また、更なる取組強化を図るため、未加入対策を周知するための説明会(キャラバン)の全国10箇所での開催や社会保険加入指導の前倒し注69を実施した。加えて、2015年8月には、建設技能労働者の技能や経験に関する情報を統一のルールで蓄積し、技能や経験に応じた適切な評価や処遇の改善、工事の品質向上や現場の効率化を実現する建設キャリアアップシステムの構築をめざし、官民コンソーシアムを立ち上げた(図表3-2-8)。2016年4月には第2回キャリアアップシステムの構築に向けた官民コンソーシアムを開催し、基本計画書を取りまとめた。
 
図表3-2-8 建設キャリアアップシステム
図表3-2-8 建設キャリアアップシステム

(ダンピング対策の強化、歩切りの根絶)
 2015年4月より本格運用が開始された改正公共工事品質確保促進法(改正品確法)、改正建設業法及び改正公共工事入札契約適正化法(改正入契法)等に基づき、ダンピング対策の強化や歩切り(ぶぎ)注70の根絶に向けた取組みを進めている。特に、歩切りの根絶については、総務省とも連携しつつ、これまで4度にわたり、地方公共団体に対して、その実態や歩切りを行う理由等に関する調査を行い、歩切りを行っている地方公共団体に対しては、あらゆる機会を通じて早期に見直すよう求めてきた。その結果、2015年1月時点で慣例や自治体財政の健全化等のため歩切りを行っていたすべての地方公共団体(459団体)が、2016年4月時点で、歩切りを廃止することを決定した。

(建設業における休日の拡大(週休2日の実現))
 若年者が建設業に入職・定職しない要因の一つとして、「休日の少なさ」が挙げられる。日本建設産業職員労働組合協議会の時短アンケートによると、建設工事の作業所では、約6割が4週4休以下で工程を組んでいる(図表3-2-9)。工事の性格、地域の実情、自然条件、建設労働者の休日等による不稼働日等を踏まえ、適切な工期を設定したうえで、週休2日を確保できるよう、現場の労働条件の改善を図ることが必要である。
 
図表3-2-9 建設業の休日について
図表3-2-9 建設業の休日について

 国土交通省は2014年度より、「週休2日モデル工事」を実施しており、2015年度は56件の工事において週休2日を確保できるよう官民連携して取り組んでいる。
 担い手確保・育成をうたった改正品確法の運用指針に明記された週休2日の確保に向け、モデル工事を通じて課題を把握し、解決策を検討している。

(3)安定的・持続的な建設事業の見通しの確保
 過去の公共投資の急激な増減は、建設業における不適格業者の参入、ダンピングの多発、人材の離職等、様々な弊害をもたらしてきた。また、公共投資の大幅な減少に伴い、建設企業の経営を取り巻く環境が悪化し、若手入職者の減少や高齢化の進行等の構造的な問題が生じている。近年では、公共投資額の回復とともに賃金水準も回復し、技能労働者の数も堅調に推移しているが、将来にわたってインフラ整備を支える担い手を確保するためには、公共事業予算の持続的・安定的な確保等の建設業者が将来を見通すことができる環境整備に取り組む必要がある。

(4)若者や女性の更なる活躍等
(若者の早期活躍の促進、教育訓練の充実化)
 就業者の高齢化が進む中、若者に早い段階で建設業を具体的な目標として入職してもらうとともに、その後も定着し続ける環境づくりを図ることが喫緊の課題である。具体的には、技術検定の受検要件の大幅拡大、説明会(キャラバン)の実施対象を工業高校から小中学校、普通高校へ拡大、地域連携ネットワークによる教育訓練体系の構築に対する支援の継続及び教育訓練に必要なプログラム・教材等の整備に取り組んでいる。
 また、子どもを対象に行ったアンケート調査(実施:(株)クラレ)によると、「新小学1年生が将来就きたい職業」で、「大工・職人」と答えた男の子の割合が安定して上位10位以内を推移している(図表3-2-10)。
 
図表3-2-10 就きたい職業に関するアンケート(男の子)
図表3-2-10 就きたい職業に関するアンケート(男の子)

 このように、これから小学校に入学する男の子にとっては、建設業は魅力ある産業として捉えられており、その魅力を発信し、継続して関心を持ってもらうことも、若年入職者の増加につながると考えられる。このため、技能労働者が学生にものづくりの楽しさや喜びを伝える出前講座、工事現場の見学会、現場実習等を通じて、引き続き若者の入職動機の形成、入職促進を図っていくことが必要である。

(建設業における女性の更なる活躍に向けて)
 国土交通省は、女性技術者及び技能者を「5年で倍増」の目標を掲げ(図表3-2-11)、2014年8月に官民共同で策定した「もっと女性が活躍できる建設業行動計画」を契機に、地域ぐるみで女性活躍を推進する取組みの支援や、女性技術者の登用を促すモデル工事・建設現場の質の良いトイレ等を設置する試行工事の着実な実施、「建設現場における仮設トイレ事例集」の作成、女性の活躍を総合的に応援するポータルサイト「建設産業で働く女性がカッコイイ」(図表3-2-12)の開設等、具体的な取組みを進めており、女性活躍の機運が高まっている。今後は更なる女性の活躍・定着を目差し、具体的に現場を変えていくステージにある。
 
図表3-2-11 女性技術者および技能者を「5年で倍増」の目標
図表3-2-11 女性技術者および技能者を「5年で倍増」の目標

 
図表3-2-12 女性の活躍を総合的に応援するポータルサイト
図表3-2-12 女性の活躍を総合的に応援するポータルサイト

 2015年度は新たにこの取組みの一環として、女性活躍を応援する先進的な事例を収集し、テーマ別に取りまとめを行った「建設業 女性の活躍応援ケースブック」(図表3-2-13)の作成や、女性活躍に関する取組みの実態・意見等についての初のアンケート調査を実施した。
 
図表3-2-13 「建設業女性の活躍応援ケースブック」
図表3-2-13 「建設業女性の活躍応援ケースブック」

(5)メンテナンス産業の創出
 第1章でも述べたように、我が国の社会インフラは高度経済成長期に集中的に整備され、今後急速に老朽化することが懸念されている。社会インフラの維持管理・更新については、国のみならず、社会インフラの多くを管理している地方公共団体を含めた、我が国全体の大きな問題となっている。
 今後20年間で、建設後50年以上経過する施設の割合は加速度的に高くなる見込みであり注71、一斉に老朽化するインフラを戦略的に維持管理・更新することが求められている。このため、インフラ長寿命化計画等に則り、計画的な点検・修繕や、地方公共団体に対する財政的支援、技術的支援を着実に実施するとともに、メンテナンス産業の育成・活性化につなげていくことが大切である。
 2012年12月に起きた笹子トンネルの崩落事故が大きな契機となって、国内ではインフラメンテナンスに幅広い業種が関心を持って取り組んでおり、今後、国内の市場規模も拡大すると見込まれる。国土交通省では以下の対策に積極的に取り組んでいく。

1)「インフラメンテナンス国民会議(仮称)」の創設
 国土交通省では、メンテナンスの理念普及やメンテナンス産業の育成・活性化のため、産学官が総力を挙げて取り組むプラットフォームとして、2016年度にインフラメンテナンス国民会議(仮称)を創設することとしている(図表3-2-16)。
 
図表3-2-16 インフラメンテナンス国民会議(仮称)の設置
図表3-2-16 インフラメンテナンス国民会議(仮称)の設置

 2015年末に行ったインフラメンテナンスに関心のある企業・団体との意見交換会では、異業種との技術交流、新たなビジネスモデルの検討、表彰制度の創設等を求めるといった多様な意見交換が行われた。これを踏まえ、国民会議が企業・団体の取組みに伴走して支援していく仕組みを構築することにより、民間の新技術の堀り起こしや、幅広い業種からの新規参入を促進したいと考えている。

2)メンテナンス技術者を育成・確保するための民間資格の登録制度の活用
 既存の民間資格を評価し、メンテナンスに必要な技術水準を満たす資格を登録する制度を活用することにより、民間技術者の育成・活用を促進するとともに、点検・診断等の業務の質を確保する。2015年度早期発注の点検・診断業務においては、約7割で登録技術者を配置している(図表3-2-17)。
 
図表3-2-17 先行して登録した資格の活用状況について
図表3-2-17 先行して登録した資格の活用状況について

3)グッドプラクティスの普及・啓発を図る
 国土交通省では、インフラメンテナンスの理念の普及・啓発を図るため、2015年12月から約1ヶ月間、インフラの維持管理・更新を支えるさまざまな工夫や活動等の優れた実践事例(グッドプラクティス)を募集し、インフラメンテナンスグッドプラクティスのパネル展を開催した。これらの情報は情報ポータルサイト注72で公開している(図表3-2-18)。情報ポータルサイトでは、道路、河川、港湾等の各分野におけるインフラの点検状況等が確認できるほか、インフラの戦略的維持管理・更新に関する施策や取組み等について確認できる。
 
図表3-2-18 インフラメンテナンス情報ポータルサイト
図表3-2-18 インフラメンテナンス情報ポータルサイト

4)民間企業の技術・ノウハウ活用のための包括的民間委託の導入の検討
 民間企業の技術・ノウハウやスケールメリットを活かして効率的な維持管理を図るため、地域建設企業の活用も図りながら複数の分野や施設の維持管理業務を複数年にわたり包括的に民間に委託する手法について、地方公共団体と協力して具体的な検討を進めている。
 この取組み等を通じて、維持管理・更新に係る複数年契約や包括的民間委託の活用を推進していく。
 国土交通省が2016年2月に一般国民を対象に行ったモニターアンケートにおいて、インフラの新規整備と維持管理・更新のバランスについての意識を尋ねたところ、約45%の人が維持管理・更新を優先すべきと回答しており、一般国民の認識を踏まえても、今後のメンテナンス産業の可能性を示唆しているといえる(図表3-2-19)。
 
図表3-2-19 インフラの新規整備と維持管理・更新のバランスについての意識
図表3-2-19 インフラの新規整備と維持管理・更新のバランスについての意識
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注67 図表3-2-1に示すように、2010年度から2014年度において政府建設投資は安定している。
注68 雇用保険料、健康保険料、厚生年金保険料
注69 許可更新時に行っている指導を、2016年1月以降に更新期限を迎える許可業者に対しては、更新期限前に前倒しで実施
注70 「適正な積算に基づく設計書金額の一部を控除して予定価格とする行為」であり、改正品確法第7条第1項第1号の規定に違反すること、予定価格が予算決算及び会計令や財務規則等により取引の実例価格等を考慮して定められるべきものとされていること、公共工事の品質や工事の安全の確保に支障を来すとともに、建設業の健全な発達を阻害するおそれがあることから、これを行わないものとされている。
注71 第1章(図表1-2-45)社会資本の維持管理・更新費及び老朽化状況
注72 国土交通省では、国や地方公共団体等のインフラのメンテナンスに関するさまざまな情報について容易に確認できるよう、情報ポータルサイト「インフラメンテナンス情報」(http://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/maintenance/)を開設した。


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