資 料 編
世界の海難(各国の海難調査機関の海難調査報告書)
 海難審判庁では、国際海事機関(IMO)や国際海難調査官会議(MAIIF)等を通じて各国と協力・連携する体制をとっており、当庁が入手した海外の海難調査機関の調査報告書を紹介します。
旅客船 TRUE NORTHU号 沈没・乗員死亡
カナダTSB(運輸安全委員会)


海難の概要
 2000年6月16日10時12分小型旅客船TRUE NORTHU号(5.67トン)は、海上にやや風浪のある状況のもと、船長が1人で乗り組み、中学生17人を含む19人を乗せてオンタリオ州ジョージア湾のFlowerpot Islandを発港し、Tobermoryへ向けて帰航した。
 防波堤を通過後、船体のピッチング、ローリングが激しくなり、船首から連続して打ち込んだ波が、船橋フロントドアを打ち破り、上甲板に上がった海水が船内甲板下に流入し、船体が直立状態になった後、10時30分Flowerpot Island沖約200mの地点において、船尾から急速に沈没した。
 乗船者20人のうち18人は2個の救命浮器につかまって陸岸に漂着したが、2人の中学生は溺死した。

原 因
 @船長が、小型船に対する風警報及び雷注意報が発表されていたにもかかわらず、Flowerpot Islandに向けて出港した。
 A復航時、連続した波の打ち上げで、船橋フロントドア及び窓が打ち破られ、急速に上甲板に海水が打ち込んだ。
 B打ち上げた海水が、非水密性のハッチ及び甲板開口部から上甲板下区画へ瞬時に海水が流入し、予備浮力を喪失して船尾から急速に沈没した。
 C改造したことによって水密性保持の低下を招いた。
 D出港前の船内安全設備の説明がなく、旅客は救命設備の保管場所及びその使用法を知ることができなかった。
 E本件時、船長を補佐する乗組員がいなかった。
 F膨張式ライフラフトが、利用されないまま、船体とともに沈没した。

勧 告
 カナダ運輸省に対して、カナダ国内水域で運航されている多くの小型旅客船は、救命設備の検査の結果、重大な欠陥があり、ライフラフトの船体離脱装置が取り付けられていない旨指摘し、船舶安全勧告が出された。
 それに応えて救命設備規則が改正され、また、カナダ運輸省が旅客船の検査及び検査証書発行手続についての見直しを始めた。

水陸両用客船 Miss Majestic号 沈没
米国USCG(沿岸警備隊)及びNTSB(国家運輸安全委員会)


海難の概要
 1999年5月1日水陸両用客船Miss Majestic 号は、定期周遊ツアーのため、船長が1人で乗り組み、旅客20人を乗せ、アーカンサス州ハミルトン湖に入ったところ、その7分後に船体が左舷に傾き、その後急速に船尾から水没し始めた。
 旅客1人は沈没前に脱出したが、船長と残りの旅客は船体の天蓋(Canopy Roof)に遮られて船体と共に湖中に引き込まれ、船長と6人の旅客は船体が沈下している間に脱出し、浮上して付近のプレジャーボートに救助されたが、子供3人を含む旅客13人が死亡した。
 本船は、第2次世界大戦中、米国陸軍が、兵員と物資を輸送するために開発した水陸両用車で、戦後民間に払い下げられ、周遊旅客船に改装されて再利用されているものである。
 本船は、長さ9.5m、幅2.5m、深さ1.2mで、1車軸2車輪の前輪が1本の前輪駆動軸で、2車軸4車輪の後輪が2本の後輪駆動軸でそれぞれ作動されるようになっている六輪駆動車であるが、各駆動軸は、船体を貫通しているので、Cylindrical Steel Housingによって保護されており、また、同Housingは、Rubber Boot(Shaft Boot Seal)によって水密性が確保されるようになっている。


USCG

根本原因
 Miss Majestic 号が水上航行を開始するときに、船尾のShaft HousingのShaft Boot Sealと称される防水設備が脱落して浸水したことによる。

寄与原因
 @Shaft Boot Sealの整備が不良であった。
 A船長が観光ガイドを兼ねており、乗組員の配乗が不適切であった。
 Bビルジポンプが作動しなかった。
 Cハイレベルのビルジ警報機が設置されていなかった。
 D耐水性区画や浮揚性材料が採用されていなかった。
 E風防ガラスや前方の窓が開かなかったために、旅客が避難できなかった。

勧 告
 USCGに対して、検査に対する船主責任の明確化、船主及び海事検査担当官の技術マニュアル所有の義務化、水陸両用船修理時の水中検査の励行、検査時の乗組員立会い、ビルジポンプの効力検査の実施、乗組員配乗の再検討、水陸両用船のベストプラクティス集及び天蓋使用方針の策定の作成などを勧告している。

NTSB

推定原因
 船舶所有者による水陸両用自動車の修理及び保守が不適切であった。

寄与原因
 @客船転用時の設計段階で、浸水しても船が浮いていられるように、適切な予備浮力装置を設けなかった。
 AMiss Majestic 号が危険な状態にならないように、USCGが監督不十分であった。
 B天蓋の屋根がそのままになっていて、沈没する船の中に旅客が閉じ込められた。

勧 告
 USCG並びにニューヨーク州知事及びウィスコンシン州知事に対して、予備浮力装置の整備及び救命胴衣の着用を義務付けるように勧告している。

ばら積み貨物船Bright Field号岸壁衝突
米国USCG及びNTSB


海難の概要
 1996年12月14日リベリア船籍船Bright Field号(36,120トン)は、船長、機関長ほか26人が乗り組み、56,397トンのとうもろこしを積載し、ルイジアナ州ニューオリンズ港内のミシシッピ川を下航中、主機関の潤滑油圧力を喪失したため、主機関が自動的にトリップし推進力を喪失して舵効速力を得られず、同川左岸に広がる市街地の岸壁に衝突した。
 その結果、本船の左舷船首部を大破し、岸壁及び付近のマンションと車庫、ホテルの客室、商店などに損害を与え、当時係岸していたカジノ船と外輪遊覧船にも軽損を与え、両船の乗組員や旅客の4人に重傷、58人に軽傷を負わせた。

USCG

直接原因
 主軸受に通じている主機関潤滑油の圧力が喪失したため、主機関がトリップしたことによる。

寄与原因
 @主機関の保守、整備が不十分で、潤滑油に大量の微粒子が含まれ、気泡が混入した。
 A第2潤滑油ポンプが待機モードになっていなかった。
 B潤滑油ポンプの油圧センサーの調整が不適切であった。
 C規格不適格な潤滑油を使用していた。
 D主機関サンプに潤滑油が少なくなっていた。

勧 告
 IMO、USCG、リベリア共和国、ノルウェー船級協会、船舶所有者・船舶運航者、各港長、ニューオリンズ海事安全事務所、全米水先人協会、ミシシッピ川各水先人協会、ニューオリンズ港湾委員会、米国陸軍工兵隊及び船用工業会等に対して、総合オートメーション機器の標準仕様手順書及び検査手帳の備え付け、制限水域航行時の船首及び機関室の適切な乗組員配置、本船の免許受有者及び前機関長に対する懲戒の要否、オートメーションシステムに情報を送る温度センサーや圧力センサーの調整確認の義務化、オートメーションシステムの保守と検査プログラムの整備などを勧告している。

NTSB

推定原因
 機関装置の保守を十分に管理、監督しなかったことによる。

寄与原因
 船舶の衝突に脆弱な地域に無防備な営利企業を設置することのリスクを適切に評価、管理せず、リスクを低減しなかった。

勧 告
 USCG、米国陸軍技術部隊、ルイジアナ州政府、ニューオリンズ港湾委員会、国際河川センター、本船所有者、カジノ船及び周遊船所有者、ニューオリンズ・バトンルージュ汽船水先人協会、クレセント・リバー港水先人協会、ルイジアナ州水先人・ドックマスター連盟に対して、海上及び陸上の活動を対象にした総合危機評価、人と財産の安全を確保するための危機管理と危機緩和、本船機関装置の安全と信頼確保のための試験、保守、修理、監督プログラムの設定、BRM(Bridge Resource Management)の訓練実施、非常事態及び防災訓練の実施等を勧告している。

プレジャーヨットMorning Dew号沈没
米国NTSB


海難の概要
 1997年12月29日補助エンジン付きプレジャーヨットMorning Dew号(34フィート)は、サウスカロライナ州チャールストン港において、捨石で築造された南・北両防波堤間の水路を航行中、北側の防波堤に衝突し、沈没した。
 本船は、その後同防波堤の南約14m、水深約4mのところに沈んでいるのが見つかり、ヨットの所有者兼船長一家4人の死亡が確認された。

推定原因
 外洋航行時のリスクに対して操船者が正しく判断できなかったことと、外洋航行のための準備が不足しており、それに対応できなかったことにある。
人命が失われた一因は、捜索救助活動を開始するに当たって、USCGの対応が標準を下回っていたことである。

勧 告
 USCGに対して、司令センターや通信センターの監視官全員の研修や検定資格制度及び行動態勢観察システムの導入等を勧告している。
 各州知事に対して、USCGと協力してボーティング(Boating)に関する安全合意を検討、改正し、責任や管轄の正確さを期するように求めている。
 全米ボーティング協議会、アメリカ船舶所有者協会等に対して、ボーティングの安全教育を実施するよう勧告している。

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       表紙     海難レポート2003概要版
メッセージ-CONTENTS-外国船の海難-最近の海難審判庁の動き-海難審判庁のしごと-裁決における海難原因-海難分析-資料編
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