「21世紀の国土のグランドデザイン」 第2部 第3章 第1節 3

3 大都市のリノベーション

 (1) 大都市のリノベーションの基本的方向

 大都市においては、都心部の空洞化、職住遠隔化等の都市構造の歪み、交通渋滞、大規模地震等による災害に対する脆弱性、大気、水質の汚染等の都市環境の悪化、廃棄物処理問題の深刻化、都心部や臨海部の工場跡地、鉄道施設跡地等の低未利用地の発生等様々な問題が発生している。また、人口、諸機能の過度の集中により都市機能の円滑な発揮が阻害されており、大都市が国境を越えた都市間競争の激化や国際交流の活発化に対応し、我が国の発展に引き続き積極的に貢献していくことが可能か懸念されている。

 このため、これらの問題が最も顕著に現れている東京圏を始めとする大都市において、次のような基本的方向に基づき、リノベーションを積極的に推進する必要がある。

大都市における都心部の空洞化、長時間通勤等の問題を解消し、職住のバランスがとれた 豊かさが実感できる都市生活を実現する。また、災害に対して極めて脆弱である老朽木造密集市街地の解消や防災拠点の整備等により、都市の防災性を向上させるとともに、都市の環境とアメニティに配慮したまちづくりや美しい都市景観の形成を行うことにより、安全であると同時にゆとりとうるおいのある豊かな都市空間を形成する。
国境を越えた都市間競争の激化や国際交流の活発化に対応し、我が国の発展に積極的に貢献していくため、大都市において、高次都市機能の高質化を図るとともに、これらの機能の円滑かつ効率的な発揮を可能とする。
 (2) 大都市のリノベーションのための対策
  (豊かさが実感できる都市生活の実現)

 都心部において居住機能を回復するとともに、長時間通勤等の問題に適切に対応するよう、土地の有効利用に配慮しつつ、職住のバランスのとれた都市構造の形成を図る必要がある。このため、容積率等の建築規制の緩和により中高層住宅の建設促進を図る高層住居誘導地区の指定を推進するとともに、低未利用地を活用した面的整備事業、都心共同住宅供給事業の実施や総合設計制度等の活用等により、都心居住を積極的に推進する。また、都心商業地域において、老朽化した建築物の建て替えによる都市機能の更新を適切に誘導する。

 交通渋滞を緩和し、都市機能の円滑な発揮を図るため、バイパス、環状道路の整備や鉄道の連続立体交差化等による交通容量の拡大に加え、VICS(道路交通情報通信システム)や自動料金収受システムの導入等を行うITSの推進、フレックスタイム制の導入やパーク・アンド・ライドの推進等を行うTDM(交通需要マネジメント)施策の推進等を積極的に図る。また、通勤混雑の緩和を図り長時間通勤の是正等に資するため、新線建設、既存の都市鉄道の複々線化等を推進するとともに、新交通システム、都市モノレール等の整備を推進する。

  (老朽木造密集市街地の解消と防災拠点の整備)

 大都市の都心部周辺に広がる老朽木造密集市街地は、防火、避難・救助等の観点から大規模地震等の災害に対して極めて脆弱であるのみならず、都市のアメニティや居住環境の面での問題を抱えていることから、大都市を安全であると同時にゆとりとうるおいのある生活空間として再生するためには、これらの老朽木造密集市街地の解消と防災拠点の整備を重点的に推進する必要がある。

 このため、各地域において老朽木造密集市街地の防災上、居住環境上の問題を調査し、その結果を公表するとともに、住民等から成る協議会活動を支援することにより、防災性の向上と居住環境の改善に向けた住民の自主的なまちづくり活動を推進する。また、防災性の向上に資する土地の権利移転の円滑化を図るとともに、老朽木造建築物の除却や敷地の統合等による建築物の共同建て替え・不燃化を進め、オープンスペースの確保や面的整備事業等による避難路・避難地の整備等を推進する。さらに、被災後の応急対策の円滑化を図るため、防災センター、備蓄倉庫、防災用ヘリポート等を備えた防災拠点の整備を推進する。

  (都市の環境・アメニティの向上と美しい都市景観の形成)

 環境と調和した都市空間を創造する観点から、都市における環境に対する負荷を低減するため、リサイクルの推進や未利用エネルギーの活用を図るとともに、バイパス・環状道路の整備や高規格幹線道路のインターチェンジ周辺等における広域物流拠点の整備、立体交差化の促進、公共交通機関の整備やパーク・アンド・ライドの推進、自転車の利用促進等のマルチモーダル施策の促進を図る。また、河川における水質浄化、下水処理水の効果的利用、雨水の適正な地下浸透等により健全な水循環を確保する。

 自然とふれあえる都市空間を創造するため、河川、沿岸等の身近な水辺空間や公園、緑地の整備等による水と緑のネットワークの形成、市民農園の整備を推進するとともに、緑地保全地区の指定や緑地協定、市民緑地制度の活用等により都市内の樹林地等の保全、創造を図る。

 美しい都市景観を形成する観点から、歴史的・文化的遺産の保全・活用を積極的に行うとともに、質の高い都市空間の整備を通じて新たな文化の創造に貢献するまちづくりを推進する。このため、総合的なガイドライン等に基づく公共施設の整備、地区計画、建築協定制度の活用による民間建築物の規制・誘導、電線類の地中化、屋外広告物の規制、傾斜地の斜面緑化、歴史的建造物の保全等を推進し、地方公共団体、地域住民等が一体となった美しいまちづくり活動を積極的に展開する。

  (都市構造の再編)

 大都市の都心部に過度に集中している諸機能を業務核都市等の周辺都市、あるいは地方の中枢拠点都市圏等へ選択的に分散するとともに、都心部や臨海部に存在する低未利用地の土地利用転換や都市基盤の整備等を図りながら、新たなニーズに対応した全国的、国際的レベルの中枢機能の整備を進める。特に、臨海部の工場跡地等については、必要に応じて土地利用規制の見直しを行いつつ、居住機能、業務機能等の土地利用と工業生産機能等の土地利用の調整を図りながら、広域的な視点から計画的な土地利用転換を推進する。これらにより大都市の高次都市機能の高質化を図るとともに、交通、情報通信ネットワークの整備等によりその広域的活用を図る。

 大都市における活動空間や公共施設の用に供する空間の量的な不足に対応し、都市の地下、上空等の積極的な活用を図るため、共同溝・電線共同溝や地下駐車場の整備、建築物と一体となった立体道路の建設、地下河川の整備、下水処理場の上部空間の活用等を推進する。また、大深度地下空間の公共的利用の円滑化に資する方策について、安全性の確保や環境の保全に配慮しつつ検討を進める。


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