「21世紀の国土のグランドデザイン」 第2部 第4章 第3節

 


第3節 国際的に魅力ある立地環境の整備


 我が国企業の国内立地を確保し外国企業の対日投資を促進することにより、我が国の経済の活力を維持し雇用の安定を確保するためには、我が国の立地環境を国際的にも魅力あるものとすることが必要である。このため、高度情報通信、物流、金融、エネルギー等の各分野における規制緩和の推進等により、我が国経済システム全体の高コスト構造の是正及び自由な事業環境の整備を推進するとともに、以下の視点から立地環境の整備を図る。


1 産業集積地域における立地環境の整備

 (1) 地域の基盤的技術・技能集積の維持・発展

 これまで我が国経済を支えてきた産業集積地域が、国際的な分業関係の一層の深化等に柔軟に対応し、新たな展開を図っていくためには、長年にわたって培われてきた技術・技能や人材の集積を活用して、新製品の開発や新しい技術の開拓を進めていくことが必要である。特に、高度な加工技術や試作技術を持つ中堅・中小企業等及び高度な技能を有する労働者の集積は、新たな産業・製品分野を産み出す基盤として、今後とも我が国産業の「ものづくり」機能を支えるものであり、その維持・発展を図る。その際、産業集積地域の企業が商品開発や市場開拓のための幅広い情報に接する機会を提供するため、地域内の異業種交流や産学官交流等を活性化する。また、独自の技術力を有する中堅・中小企業の集積を生かした受発注や商品開発等に係るネットワークの形成を促進する。

 大都市圏等の臨海工業地帯については、産業構造の転換等により発生する低未利用地において、都市機能・産業集積への近接性等を生かした新たな産業を展開するに当たっては、これを円滑に進める観点から、当該地区の周辺における居住機能等の都市的利用との調整を図るとともに、産業的利用に係る諸制度の見直しや産業基盤の整備等を行う。

 (2) 産業基盤の整備等

 国際的にも魅力的な立地環境を整備するため、知的資本の充実等事業環境や生活環境の整備等と併せ、港湾、空港、高規格幹線道路等の道路ネットワークの一体的・効果的な整備を図る。また、輸出入、通関、出入港手続きの情報化・簡素化等利便性の向上や高度な物流基盤施設の整備等を通じ、国際交流に係る機能の充実等を図り、これらを通じて、輸送条件の改善や企業間連携の強化等に資するソフト、ハード両面で利便性が高い産業基盤の整備を着実に推進する。さらに、企業のニーズの多様化を踏まえ、環境の保全に留意しつつ、地域の産業開発戦略に沿った用地、用水等の整備を推進する。

 新産業都市及び工業整備特別地域については、これまでに形成されてきた産業集積や都市基盤を生かし、多様な産業の展開、魅力ある都市づくり及び雇用の創出を促進する観点から引き続き整備を進めるとともに、地域振興政策におけるそのあり方について長期的な視点から幅広い検討を行う。また、テクノポリス地域及び頭脳立地地域においては、これまでの施策を通じて産業集積の形成が進みつつあり、当該地域における産業の一層の高度化や地域内からの産業創出を促進する観点から、地域企業、大学等の連携・交流の強化等を通じ今後とも整備を進める。

 苫小牧東部地域については、すぐれた立地環境を生かし、生産施設やエネルギー関連施設及び我が国にとって重要な施設である国家石油備蓄基地の立地が進んでいるが、近年の経済社会情勢の変化を踏まえて開発方策等の検討を行いつつ、それに基づき推進する。

 むつ小川原地域については、我が国にとって重要な施設である国家石油備蓄基地や核燃料サイクル施設の立地・建設に加えて研究施設の立地が進んでいるが、近年の経済社会情勢の変化を踏まえて、これまでの基盤整備を生かし、開発方策等の検討を行いつつ、それに基づき推進する。

 ただし両地域の検討に当たっては、「北海道東北開発公庫に係る両プロジェクトについては、新銀行設立までの間に、関係省庁、地方公共団体、民間団体等関係者間において、その取扱いについて協議の上、結論を得るものとする」としている特殊法人等の整理合理化に関する閣議決定を踏まえて適切に対処する。


2 工業等の地域的展開

 (1) アジアとの分業の深化と立地展開

 産業機械等の資本財、自動車や電機部品等の技術水準の高い中間財、少量生産・高付加価値型の消費財等の産業は、今後ともアジア諸国との工程間、製品間分業を一層深化させ、完成品、部品の輸出入や人的交流を飛躍的に増大させつつ、着実に成長することが期待されることから、地方圏においてもこれらの産業の成長を可能にするための条件整備を図るため、広域国際交流圏の形成による国際交流基盤の整備を促進する。また、今後も国内立地が期待される内需対応型の工業等の地方圏における展開を促進するため、知的資本や基幹的な交通基盤等地方圏における立地条件の整備を引き続き促進する。

 工業再配置政策の推進に当たっては、経済のグローバル化等の環境の変化に対応した我が国工業の将来展望等を踏まえ、国土の均衡ある発展を図るという視点に加え、国際的な立地競争力を確保するという観点にも配慮していくことが求められる。

 (2) 外資系企業の立地促進

 我が国が成長するアジア地域の一角を占め、その最大の市場であること、研究・技術面の蓄積等の立地上の優位性があることから、今後は外資系企業の工場や研究所の立地需要が増加するものとみられる。このため、対日投資促進の観点から、規制緩和の推進、金融上の措置、情報の提供、M&A環境の整備、日本的商慣行の是正、高コスト構造の是正等の課題に対して積極的に対処する。また、各地域においても外資系企業に対する優遇制度の設置等、地域がそれぞれ創意工夫を凝らした立地促進への取組の推進を図る必要があり、交通、情報通信基盤の整備、地域の研究・技術開発基盤の強化や、言語や文化、安全・生活面にも配慮した、外国人にも魅力のある就業・教育環境の整備充実を図るための支援を行う。


3 労働力需給の産業間・職業間及び地域間調整の推進

 今後、各地域における知的資本の充実にともなって研究者や技術者等の需要が格段に増加するなど職業別就業構造が大きく変化することが見込まれ、また、雇用形態や賃金体系についても変化がみられることから、労働力の再配置は、従来の新規入職・定年退職によるものから職業間・産業間の労働力移動によるものに比重が移行することが予想される。そのため、失業なき労働移動に取り組むとともに、参入しやすく転出しやすい労働市場の整備を図り、また、在職者も含めた様々な求職者に対する多様な雇用情報を提供する機会や、専門的・技術的な分野を含む多様な職業能力開発を促進するための体制を整備する。また、各々の能力や適性に応じた職業選択や生涯設計を図れるよう、初等中等教育段階から職場体験等を通じて勤労観や職業観の育成を図るとともに、若年者、中高年齢者を問わずにこれらに対する職業情報の継続的・体系的な提供を行う体制を整備する。

 一方、高齢者の増大等地域間移動の困難な労働者層が拡大すること等により雇用機会の地域間不均衡による雇用のミスマッチの拡大が懸念されることから、地域における魅力ある雇用機会の開発に対する支援を行い、あわせて、UJIターンのより一層の促進や職業相談、職業訓練の充実等により、円滑な地域間移動が図れるような環境の整備を図る。

 さらに、高齢化や核家族化の進展に対応し、高齢者の就業ニーズや地域の実情に応じた臨時的、短期的な就業の場の積極的な提供及び育児休業や介護休業の普及促進等により、職業生活と家庭生活との両立や女性の就業を積極的に支援するための環境整備を推進する。


次頁「第4節 農林水産業の新たな展開」へ
目次へ
「21世紀の国土のグランドデザイン」トップページへ