「21世紀の国土のグランドデザイン」 第2部 第4章 第4節


第4節 農林水産業の新たな展開


1 農業の新たな展開

 我が国の農業は、構造的変革の端緒につきつつある。すなわち、経営感覚に富んだ、意欲ある若き担い手の増加等により、農業が気象や土地条件等に影響されやすいという特性を持ちながらも、その置かれた条件をたくみに活用した取組が各地・各農業分野で育ちつつあり、発展に向けた明るさがみられる。もちろん、一方では、土地利用型農業での規模拡大の遅れ、担い手の減少・高齢化、耕作放棄地の増大等の問題を抱えている。我が国においては、国民の食生活の変化に農業生産が対応できなかったこと等から、食料自給率が大幅に低下し、また、農山村の過疎化が進行しているという問題も生じている。したがって、21世紀の我が国の農業に求められる農山漁村の活性化、食料の安定的供給の確保等の役割を十全に果たすため、国土や自然環境の保全に配慮しながら、以下の施策を強力に進めることにより、構造的改革を一層促進する。

 (1) 農地の流動化による規模拡大の推進

 効率的で安定的な農業生産の構築のためには生産基盤の整備等と併せ、規模拡大と農地の集団化を行う必要がある。

 このため、土地の利用には社会的責任をともなうものであるとの認識に立ち、その農業上の効率的な利用を図る観点から、農業委員会等のあっせん活動等による農用地利用調整、農地保有合理化法人による担い手への農地の利用集積等により農地の流動化を促進する。

 (2) 担い手の確保と次世代の育成

 農業就業人口の減少と著しい高齢化の進行が想定されることに対応して、将来の農業の担い手を幅広く確保していくためには、効率的かつ安定的な農業経営への農地の利用集積、地域農業の組織化、非農家からの新規参入を含めた担い手の育成、女性の役割の正当な評価、農業の担い手と高齢者、兼業農家等の役割の明確化等を行い、それぞれの主体が行う農業の適切な誘導を図ることが必要である。

 このため、意欲ある経営体への支援施策を充実し認定農業者制度等の推進を図るとともに、経営の熟度に応じた農業経営の法人化を推進する。また、担い手がいないなどその地域の状況に応じて、多様な主体の農業経営への参入等農業生産の担い手をいかに幅広く確保していくかにつき検討する。この場合、農業経営の持続性と投機目的での農地取得防止の担保につき配慮する必要がある。特に、多様な地域資源を生かし、生産・加工・流通及びサービスの提供を総合的に取り組む多産業複合経営を地域の状況に応じて推進する。さらに、新規就農者の確保のため、農地取得等の情報提供とあっせん等を行う組織の強化と農業就業者の安定確保体制の整備等を図るとともに第三セクター等を活用した担い手育成、学校教育の充実、市民農園の整備、技術向上等のための施策を推進する。特に、中山間地域等において、担い手を確保するための方策について、幅広く検討を進める。

 (3) 農業生産基盤の整備と高質化

 食料の生産力の向上を図り、効率的で安定的な経営体が、生産性や収益性が高く持続可能な農業を営むための基礎条件の整備として、農業生産基盤の整備と高質化を推進する。

 このため、大区画ほ場の整備、水田の農業用用排水施設の整備や畑地かんがい施設の整備、農道の整備、農地防災事業等の実施、土づくり等資源のリサイクルに資する施設、水質浄化施設等の整備等を、地域の状況に応じて、生活環境との一体的な整備や生態系を含む農村環境の保全や創造を行いながら、効率的に推進する。その際、技術の進歩等を踏まえ、自動水管理施設、ほ場地下かんがい施設、循環かんがいの導入等生産基盤の高質化を図っていく。さらに、高度情報化システムやクリーンエネルギーの利用技術等の新技術を活用することにより、生産性向上と環境保全を計画的、効率的に推進する。

 また、農業生産基盤の整備により形成されてきた社会資本について時代の技術を結集して適切な維持管理を進めるとともに、高質化しながら計画的な更新整備を図る。この場合、農地の流動化による規模拡大にともない、相対的に少数の担い手による新たな農業が進展するきざしがある中、社会資本ストックの機能を十分発揮させるため、必要となるソフト対策をハード対策と一体的に推進する。

 (4) 高度情報通信等新たな技術を活用した安定的農業生産の確保

 高度情報通信技術を活用し、農業気象情報の収集、市場の動向調査、農産物の流通システム等の高度化等を図るため、情報通信基盤の整備、情報提供システムの開発等施策を総合的に推進する。また、生産性の向上、担い手の労働快適化等を図るため水稲直播技術等の生産現場に直結した技術開発、バイオテクノロジー等の基礎的、先導的な研究を推進する。

 (5) 環境保全型農業の展開

 農業は農村空間における物質循環機能を生かして営まれてきた。しかしながら、近年、農業生産活動における農薬や化学肥料の多投入や不適切な使用等による土壌や水質等環境への悪影響も生じており、将来的に持続可能な農業の展開を図っていく必要がある。このため、生態系にも配慮した整備を行うとともに、有機物資源のリサイクルによる土づくり等を促進し、環境保全型農業を推進する。


2 林業の新たな展開

 世界的に木材需要が増大する一方、地球全体として減少と劣化が進む森林の状況を踏まえ、毎年、蓄積が増加している国内資源を有効かつ持続的に利用していく必要がある。また、林業と木材産業を巡る厳しい情勢の中で、山村経済の振興、森林の多面的機能の確保等の重要な役割を十全に果たしていくため、広範な関係者の連携を通じて、林業と木材産業の一体的な活性化、森林空間、景観等をも最大限に活用した総合的な産業の展開、木の文化の展開を図る必要がある。

 (1) 流域を単位とした林業と木材産業の活性化

 地域の特性に応じた森林整備とその生産材利用の推進に向け、流域を基本単位として、いわゆる川上から川下に至る関係者の連携の下、木材の生産、加工、流通等に一体的に取り組む森林の流域管理システムを推進する。このため、林業経営体の経営規模の拡大や経営の複合化、林業事業体の協業化や安定的な事業量の確保等を推進し、担い手の確保と育成を図る。また、高性能林業機械のレンタル、情報提供等の流域での事業活動の支援を図るとともに、林道や作業道の整備と間伐とを一体的に促進する。さらに、需要者の住宅等への要請に応じ、安定した品質の製品を低コストで適時適量供給し得る効率的な木材供給体制の整備を図る。

 (2) 森林を総合的に活用する産業展開

 多産業複合経営による経営基盤の強化といった観点から、多様な木材・木材製品や特用林産物の生産、加工、販売から、森林空間や景観そのものをも活用した、健康や心身のリフレッシュに着目した森林レクリエーション、宿泊や森林ガイド等のサービスの提供等の分野にまで複合的に取り組み、「もり業」ともいうべき森林を総合的に活用した森林産業の展開を図る。

 (3) 木の文化の展開

 「木の文化」の展開に向け、木材の健康面等での優れた性質や環境に負荷の小さい資材としての有効性を普及し、内装材、屋外施設、未利用木質資源の有効活用等の多様な分野における木材の利用推進を図る。また、研究機関、関連企業、消費者等との連携を促進し、耐久性向上や間伐材利用等の技術開発、住宅関連事業等と提携した商品開発や加工・販売体制の整備、産地直送住宅への取組、学校等公共施設等への木材の利用推進を図る。さらに、リサイクル等による木材の有効利用の推進を図る。


3 水産業の新たな展開

 (1) 魅力ある水産業の展開

 国連海洋法条約に基づき、新たな漁獲可能量制度の定着を図るとともに、漁業者が自主的に資源を管理するなどの取組を通じて、多面的な資源管理を推進する。あわせて、海洋の持つ生産力を最大限に生かし、持続的かつ高度な利用を図るため、沿岸漁場の整備、栽培漁業、養殖業等のつくり育てる漁業を総合的かつ有機的に推進する。このため、資源・漁獲管理情報システムを整備し、漁場造成技術の開発のほか関連する技術開発を進める。

 また、水産業の担い手の確保のため作業の省力化、安全性の確保等、労働環境の改善を図るとともに、新規参入を促す就職情報提供、受け入れ制度等のソフトの面の充実を図る。あわせて、高齢者や女性にも配慮しつつ、漁業者の就労条件の改善を図る。

 さらに、漁業者を中心とした関係者の連携の下、海に関する知識を活用した遊漁、ダイビング等の案内や宿泊、魚食文化の伝承、料理の提供、水産物の加工と販売等の「うみ業」ともいうべき海を生かした多産業複合的な取組を推進し、地域の活性化を支援する。

 (2) 生産・流通基盤体制の展開

 水産物供給の基盤となる漁港、漁村については、海洋・沿岸域の保全・管理上の役割にも配慮しつつ、沿岸域圏内での一体性を有する地域の特性に応じた漁港や漁村での連携と機能分担による効率的な整備を進める。その際、生活環境との一体的な整備、都市部との連携による海とのふれあいの推進、生態環境との調和に配慮して進める。その中で拠点となる漁港においては、陸揚げ、流通機能の高度化、適正な漁獲量管理機能の強化、情報通信機能の集積等を図る。また、消費者の安全で新鮮な水産物への要求にこたえた生産、流通体制を整備し、付加価値の高い加工品の開発と利用を進める。


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