uc20-013

時系列浸水シミュレーションデータの3D可視化による防災計画立案・防災意識啓発

実施事業者株式会社三菱総合研究所
実施場所鳥取県鳥取市 城北地区 / 大正地区 / 美保南地区
実施期間-
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時系列で浸⽔が広がる様子を3D都市モデルを用いてシミュレート。時間軸を意識した避難計画や避難ルートの検討材料とすることで、地域の防災力向上を目指す。

実証実験の概要

洪水等の自然災害から住民の命を守るためには、避難計画を立案し、住民一人ひとりが自ら考え命を守る避難行動をとることが重要になる。今回の実証実験では、住民の避難行動に役立てるため、時系列の浸⽔シミュレーションデータを活用し、洪⽔による浸⽔の広がりにあわせて道路等が徐々に使えなくなっていく様⼦をシミュレートした結果を3D都市モデル上に可視化する技術検証を行う。

実現したい価値・目指す世界

近年、自然災害はますます激甚化・頻発化しており、住民一人ひとりが自ら考え命を守る避難行動をとることが一層重要となっている。

今回の実証実験では、地方公共団体・住民の防災意識の向上、地域の強靱化を図るため、鳥取市市街地をモデル地域として、時系列の浸⽔シミュレーションデータを3D都市モデルに重ね合わせ、洪⽔による浸⽔の広がりにあわせて道路等が徐々に使えなくなっていく様⼦の可視化を行う。

さらに、防災意識を啓発するため、地域の防災や合意形成の専門家である鳥取大学有識者と協力し、3D都市モデルの防災への活用方法等に関するセミナーを開催する。当該セミナーにおいては、有識者や地元学生、地域住民、ユースケース開発事業者等の参加による意見交換等も実施することにより、ユーザー目線、専門家目線、ユースケース開発事業者目線それぞれにおける3D都市モデルの活用可能性について議論を展開する予定である。セミナーにおける議論等も踏まえ、将来、避難経路の検討や防災まちづくり、出水期前の防災講習会での啓発に活用する。

鳥取市街地(実証対象エリア)
鳥取市街地(鳥瞰)

検証や実証に用いた方法・データ・技術・機材

国土地理院の「浸水ナビ」(地点別浸水シミュレーション検索システム)では、破堤点別で時系列に従って徐々に洪水浸水範囲が拡大していくシミュレーションデータが提供されている。このデータを用いて、洪⽔による浸⽔の広がりにあわせて道路等が徐々に使えなくなっていく様⼦を3D都市モデル上に可視化する技術検証を実施した。

3D都市モデルに時系列の浸水シミュレーション結果を重ねることにより、破堤から何分後に自宅や避難所に洪水が押し寄せる可能性があるのか、いつまでに避難しなければならないのか、浸水深がどのように変化していくのか、避難が間に合わない場合は垂直避難でも対応可能なのか、などをよりビジュアルに検討することが可能となる。

検証で得られたデータ・結果・課題

今回の実証実験では、時系列の洪水浸水シミュレーションを3D都市モデルに重畳するだけでなく、地域の防災や合意形成の専門家である鳥取大学の有識者と協力し、地域住民、市役所等を巻き込んだ3D都市モデル活用セミナーを開催し、より多様な立場から3D都市モデルの活用方法について議論した。

セミナーでは、有識者から、「3D都市モデルの建物属性として要配慮者情報や空き家等の情報を付加することを通じた、自治会による効果的な住民の避難誘導」、「破堤の何時間前であれば避難場所へ避難する、避難できない場合は垂直避難を検討するといった(時系列×三次元)を考慮した多彩な避難行動選択」、「多様な研究機関の連携による包括的な防災施策研究のプラットフォーム化」など3D都市モデルの様々な活用方法が提示された。また、地域住民からは「より具体的に危機感を感じることができるため、地域の防災意識の向上に活用できる」などの感想を得ることができた。

3D都市モデルを活用して実際に地域における避難誘導を高度化させるためには、社会福祉協議会等との連携を通じて3D都市モデルの属性情報に「要配慮者の居住情報」など住民(個人)に係る情報を付加させるなど、更に必要な情報を集積する必要がある。こうした3D都市モデルの積極的な活用に際しては、個人情報保護等の観点を踏まえつつ、地域の防災力強化とのバランスを図る必要があり、地域社会において継続的な議論を行っていくことが重要である。

城北地区が最大浸水深となる場合の浸水シミュレーションの可視化:破堤20分後
城北地区が最大浸水深となる場合の浸水シミュレーションの可視化:破堤60分後
城北小学校周辺 浸水状況 (千代川右岸5.2k 破堤の場合)
大正小学校周辺 浸水状況 (千代川左岸9.6k 破堤の場合)

今後の展望

鳥取市千代川流域においては、近年大規模出水が生じておらず、地域住民等の防災意識が低下しているとも言われている。
セミナーにおける地域住民との対話では、高齢化や防災の担い手不足といった、地域が直面している現状が改めて浮き彫りになった。まずは、このような地域の現状と、3D可視化技術のような最新技術を活用できる地域になることとの「間」を、どう埋めていくかの検討が急務である。

具体的には、「子ども・若年層、行政担当者、NPO等「間」を埋める担い手をどう確保するか」や、「このような地域の実情に応じた地域強靱化施策の具体化(例えば、要配慮者の多い地域特性を踏まえたより安全で確実なタイムラインの検討・普及、子どものころから3D都市モデルに慣れ親しみ担い手として成長させるための施策、大学における3D都市モデルの講義の開講等)」などについて、継続的に検討・議論を行う場の形成が重要である。

これらも踏まえ、鳥取市では、今後、避難経路の検討や防災まちづくり、出水期前の防災講習会での啓発に3D都市モデルを活用することを想定している。
また、特に、近年被災していない防災意識が比較的低い地域において、鳥取市と同様の取組を展開することにより、全国的な防災意識の向上が図られることを期待する。