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タンジブルインターフェースを活用した住民参加型まちづくり等

実施事業者インフォ・ラウンジ株式会社/株式会社山手総合計画研究所/サイバネットシステム株式会社
実施協力横浜市/Code for YOKOHAMA
実施場所神奈川県横浜市 都心臨海部・インナーハーバーエリア
実施期間2023年10〜12月
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「タンジブルインターフェース」を用いた体感型のアーバンプランニングツールを開発。参加型まちづくりにおけるコミュニケ―ションの活性化を目指す。

実証実験の概要

行政機関やデベロッパーによる新規開発、にぎわいの創出、景観の保全などを目的としたアーバンプランニングのプロセスにおいて、市民参加の必要性が強く求められている。アーバンプランニングにおける市民参加を活性化させるためには、行政やデベロッパー等の専門家に加え、専門的なスキルを持たない市民も含めた幅広い関係者が共通の課題認識や都市構造の理解を持ち、まちの将来像のイメージを共有しながら議論を進めていく手法の開発が必要となる。

今回の実証実験では、2022年度の「XR技術を用いた体感型アーバンプランニングツール」において開発した「タンジブルインターフェース」を活用したアーバンプランニングツールの汎用性や可搬性を高める改修を行う。これにより、同ツールを活用した市民参加
型まちづくりの新手法の全国展開を目指す。

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実現したい価値・目指す世界

アーバンプランニングのプロセスにおける住民ワークショップ等の市民参加の現場では、図面やパース図を用いて計画や構想を説明し、意見を収集する方法が一般的であるが、専門的な説明や図面のみでは「そもそも現在の都市にどのような課題があるのか」といった現状の都市の課題を把握することや、「まちが変わることで生活にどのような変化があるのか」といった開発後のリアルな生活をイメージすることは難しい場合もある。
アーバンプランニングにおいて市民参加を活性化させていくためには、専門知識の有無に依存せず容易かつ直感的に都市構造や将来計画を理解できることや、効果的に自らの意見を表現したり、他人の意見を理解したりすることが重要であり、そのためのコミュニケーション支援ツールが求められている。

2022年度の「XR技術を用いた体感型アーバンプランニングツール」では、模型とVRを組み合わせたタンジブルインターフェース技術を用いることで、誰でも簡単に「都市の未来像」を具体化させ、多様な視点の発見や議論を活性化させることができるツール開発を行い、行政と市民の双方向の議論の活性化の観点から一定の成果を得ることが出来た。他方で、利用したタンジブルインターフェースは筐体が大きく部材が多く組み立てやセッティングに時間がかかること、システム構成もゲーミングPC等ハイスペックなPCが必須なこと等、デバイスやシステムの可搬性・汎用性が課題として明らかになった。
そこで、今回の実証実験では、これまでUnityをベースに構築していたシステムのうち、コンテンツ管理やビューアなど一部の機能をクラウド化することでシステムの汎用性を向上する。さらに、タンジブルインターフェースの筐体を小型ユニット化し複数台連結できるようにすることで可搬性を改善する。これらにより、タンジブルインターフェースの汎用ソリューション化を目指す。

本ツールの汎用性を高める改修を行うことで、タンジブルインターフェース技術を用いたアーバンプランニングツールを全国的に展開し、全国のまちづくりの現場における市民参加の活性化を目指す。

対象エリアの地図(2D)
対象エリアの地図(3D)

検証や実証に用いた方法・データ・技術・機材

今回の実証実験では、タンジブルインターフェースの筐体を小型ユニット化し、複数台の連結を可能にすることで可搬性を改善するとともに、コンテンツ管理やビューワーなど一部の機能をクラウド化することでシステムの汎用性を向上させた。

タンジブルインターフェース筐体の小型ユニット化は、テーブルトップに映像を映し出す装置を、従来プロジェクターから液晶ディスプレイに置き換えることで実現した。従来のプロジェクター方式は、既製品を組み合わせることで構成できる手軽さがある反面、光量、焦点距離、プロジェクターのサイズ、投影面とプロジェクターの固定、これらを総合的に扱い、ちょうど良いサイズにパッケージするように設計しなければならず、小型するには高度な設計製造技術が必要とされる、といった課題があった。これを液晶ディスプレイに置き換えることで、内蔵される装置の構成をシンプルにすることが可能となったが、液晶ディスプレイ上に置かれた2次元マーカーを光学的に読み取るための工夫が必要とされた。本実証実験では透過液晶ディスプレイを採用することで、筐体の内側に設置したカメラから2次元マーカーを読み取れるようにした。

また、各筐体ユニットにRaspberry Piを内蔵させることで、建築物等を表す駒の位置の読取りと読み取った位置データのクラウドシステムへの送信を自動で行う機能を実装した。従来、すべての設定情報はUnityアプリ内に持っており、設定を変更するにはUnityアプリを変更、再パッケージ化する必要があった。また、複数ユニットを同時に連起動させるような機能は備わっていなかった。今回の実証実験では、Raspberry Piの内臓によるエッジコンピューティングとクラウドシステムの仕組みの導入によりこれらの課題を解消している。すべての設定値はクラウドシステムに集約することで、設定の変更の柔軟性、複数ユニットの連携を同時に実現した。

筐体上に配置される駒(タンジブルインターフェース)の位置の読み取りは、ユニットに内蔵したRaspberry Pi と小型カメラ、ソフトウェアはOpenCVのArUcoを用いた。駒に貼付けられた2次元マーカーは常時読み取られ、クラウドシステムに座標値が送信される。

タンジブルインターフェース筐体の内部構造

システムのクラウド化は、コンテンツ管理、ビューワー機能をFirebase上にNode.js(React)でウェブアプリとして実装した。UnityアプリやRaspberry Piとの間で、検討エリアの設定情報や駒の座標値の連携に用いるAPIは、同じく、FirebaseのCloudFunctions上にNode.jsで実装した。

前述のとおり、各ユニットとUnityアプリはクラウドを介し疎結合化することで、ワークショップのチーム編成をはじめとする設計が柔軟になり、同じ空間にいない参加者と一緒にワークショップに参加することができるようになった。また、ウェブアプリ内のビューワーを用いることで、ハイスペックなPCを用いずに本ツールを利用することが可能となった。

複数のチームがシステムを同時に使用

開発したシステムの有用性検証のため、昨年度に引き続き、横浜市を舞台として市民や行政が参加するまちづくりワークショップを実施した。ワークショップのフィールドは横浜を代表する公園である山下公園(横浜市中区)周辺とし、テーマは36年後の開港200年に向けた「36年後の山下公園」とした。同エリアは、中長期的に沿道のビルの建て替え、山下埠頭の大規模開発、を控えている。ワークショップの最初のセッションでは参加者各自が考える36年後の山下公園の姿を想像してもらい、その後、フィールドワークやグループディスカッション、本ツールを用いたセッションを行った。本ツールを用いたコミュニケーションによって、参加者のコミュニケーションや考えにどのように影響があったかを分析した。

検証で得られたデータ・結果・課題

今回の実証実験では、ワークショップを2回開催した。第1回のワークショップでは、4グループにわかれて対象エリアの現況を観察するフィールドワークを実施した。フィールドワークの後は、各グループで対象エリアの将来イメージについて対話し、その内容をワークシートにまとめた。ワークシートには、対象エリアの変えたいところ、変えたくないところはどこか、そして、将来イメージはどのようなものか、その将来イメージを描くために必要となる設備や人々の活動などの景観の構成要素をとりまとめた。第2回のワークショップでは、第1回のアウトプットに基づき、引き続きグループごとに、タンジブルインターフェースを用いて具体的な将来イメージを描いた。グループごとに近景と遠景、それぞれの視点でアイデアを形にした。

遠景1
地域のウォーカビリティ、連続性、地域の宝物を発見する楽しみについて検討。望ましくないと思う景観として、エリアに大きな建物を配置してみたり、大さん橋から山下公園にかけてビル群を除去してみたり、水辺に水上ステージを配置して賑わいのある様子を再現したりした。

山下公園からの象の鼻パーク方面を望む(ビルを取り除いた風景)

遠景2
海側から見た山下公園の景色がテーマ。水辺にステージを配置したり、ヒトの賑わいのある様子を再現。

山下公園の水辺を活用(足湯ムービー)

近景1
山下公園通り沿いの神奈川県民ホールと貿易センタービルの間の広場(ペア広場)と山下公園の一体感を検討。車道を芝生化したり、サイクリングロード化したり比較検討した。視点の確認。

山下公園の歩道を拡張し、サイクリングロードを整備

近景2
山下公園と公園通りの空間の接続性について検討。歩道でスローモビリティが走る様子を再現したり、車に駒を使うことで、車のあり方を比較したりした。駒を複数配置してみた結果、モノを置きすぎないことの重要性に気がついた。

山下公園の道路を全面芝生化

2回のワークショップを通じてアンケートを実施し、検証の目的である本ツールの有用性について調査を行った。以下のような設問を設けて1~5の5段階で評価してもらい、1回目(タンジブルインターフェース体験前)と2回目(タンジブルインターフェース体験後)でワークショップの体験に関する評価スコアの増減を検証した。結果としては、概ねタンジブルインターフェースを用いた2回目のほうが高スコアで、特に「具体的なイメージを形成し、他の参加者との意見を共有しやすくなる」という点でタンジブルインターフェースの効果があるという結果が得られた。

・他の参加者との意見の共有(伝達、理解)がしやすいと感じましたか(+0.4pt)
・グループワーク時に、建物や物の配置など街の空間を具体的にイメージできましたか(+1.1pt)
・議論に対して、あなたは良いアイデアを出していたと感じますか(-0.3pt)
・本日のワークショップに参加する上で、どの程度の期待値がありましたか(+0.5pt)
・ワークショップの結果は、本日のワークショップ参加前の期待値を超えていましたか(+0.1pt)

タンジブルインターフェースによる物理的なモデルや映像によるフィードバックは、ワークショップにおける検討内容を視覚と触覚を用いて直感的に理解しやすくする効果がある。これにより、今回の実証実験でも非専門家のワークショップ参加の障壁を下げることができたと考えられる。実際、非専門家の参加者から、「ツールを用いることで、自分で想像していたことを体感的に理解できた」、「考えたことをすぐに視覚的に共有できた」といった肯定的な意見が寄せられた。従って、インタラクティブなフィードバック(データビジュアライゼーションや、聴覚、触覚を用いたフィードバック)をさらに充実させていくことが、検討内容のより深い理解や納得感、共感を生むと示唆される。

参加ユーザーからのコメント

参加者から本ツールの有用性や将来に向けた発展性について、ポジティブな意見が多く寄せられた。

・街歩きをした際にヒューマンスケールで考えていたが、タンジブルツールを用いることで遠くからの視点なども試すことができ、その結果自分が想像していたことを体感的に理解できたという点が良いと感じた。(20代学生)
・思ったことをすぐに視覚的に共有できて良い。アイデアを組み合わせる際、物をたくさん置きすぎると、ごちゃごちゃするといったことも確認ができ、情報をマイナスする判断もしやすくなった。(20代学生)
・「こういう風にしたい」「こうすると良い」といった感覚を伝えることができ、絵や図面で表現し伝達するのに求められる高いスキルを超えていく手法としてタンジブルツールが有効ではないかと思った。(40代会社員)
・子供たちがWSに参加しやすくなると感じた。小学校の校舎建て替え時に、子供たちが欲しいものを表現するなどといった使い方の可能性がある。(20代学生)

今後の展望

今回の実証実験では、20代から50代まで、また、大学教員や公務員、会社員、学生など約20名の多様なワークショップ参加者と一緒に地域を代表する公園の将来イメージについて検討した。その中で、本ツールによって、参加者から出される多様な視点やアイデアがその場で可視化されることで、社会的属性を超えてワークを楽しみ、議論を深めることが可能であることが確認できた。

今回のワークショップでは、グループごとにタンジブルユニットを2〜3台を使用し、それぞれ異なる検討エリアとスケールを設定して全体で10台を同時に稼働させた。システムの基幹部分をクラウド化するアーキテクチャとしたことによって、スケーラビリティについて大きな可能性を感じることができた。一方で、システムの安定稼働やハードの堅牢性などについて課題も見つかった。今回見つかった課題を踏まえて本ツールを改善していくとともに、ワークショップの設計についても、より自由で活発な対話の場を実現するための改善に取り組んでいきたい。今後、継続して対象エリアやテーマを変え、多様なニーズに応えていけるようにしていくことで、各地での都市開発や再開発に非専門家である市民の参画を促し、より多様な視点を実現する新たなまちづくりを全国規模での展開を目指す。