uc23-22

都市高速道路管理の効率化

実施事業者朝日航洋株式会社/ローカスブルー株式会社
実施協力DataLabs株式会社
実施場所首都高速道路都心環状線(C1)
実施期間2023年8月~12月
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点群データから高速道路の3D都市モデルを自動生成する技術を確立。道路インフラの管理・保全業務の効率化を目指す。

実証実験の概要

都市高速道路等の道路インフラの老朽化が進行するなか、管理リソースのひっ迫や担い手の減少なども相まって、管理・保全業務の効率化が求められている。そのため、InfraBIM(CIM)等を活用した管理・保全業務の効率化・高度化が期待されているが、技術的難易度の高さやデータ整備のコストが導入の課題となっている。

今回の実証実験では、都市高速道路の3D都市モデル(高速道路モデル、トンネルモデル等)の効率的な整備を実現するため、MMS測量により取得した高密度な点群データから高速道路の各部材に分類・モデリングをした後、自動で3D都市モデルを生成するシステムを開発する。加えて、生成した3D都市モデルを都市高速道路の管理・保全業務に活用するための手法を検討することで、道路のインフラの管理・保全業務における3D都市モデルの有用性を検証する。

実現したい価値・目指す世界

都市高速道路等の大規模インフラの管理・保全業務の効率化・高度化するためデジタルツイン技術等のデジタルツールを活用した業務プロセスの変革が求められている。近年では、設計データを基にしたInfraBIM(CIM)を活用した管理・保全業務の効率化・高度化が研究されているが、3Dモデルの構築の技術的難易度やデータ整備コストの高さから、実務での活用には様々な課題がある。

3D都市モデルには、道路モデル、橋梁モデル、トンネルモデル等の土木構造物を都市スケールで再現するための地物定義が用意されている。特にLOD3・LOD4のモデルは構造情報等を保持可能であり、InfraBIM(CIM)との互換性を確保した形で標準仕様が策定されている。

そこで、今回の実証実験では、MMS測量により取得した高密度な点群データを用い、地表面、床板、高架等の各部材に分類する自動分類機能(セマンティックセグメンテーション)の開発と、当該点群データからサーフェスモデルを自動生成する機能の開発を行う。また、これらのシステムによって自動生成された3D都市モデル(道路モデル、橋梁モデル、トンネルモデル等)をGISソフトやBIMソフト等で利用することで、道路インフラの管理・保全業務を効率化するための手法を検討する。

また、本実証を通じて得られた知見に基づき、InfraBIM(CIM)を用いたインフラ管理と互換性のある形で3D都市モデル(LOD3・LOD4)の仕様を整理することによって、点群データを用いた低コストかつ効率的な高速道路の3D都市モデル自動生成技術を確立しインフラ管理の効率化に寄与することを目指す。

首都高速都心環状線(C1)
首都高速都心環状線(C1)江戸橋ジャンクション

検証や実証に用いた方法・データ・技術・機材

今回の実証実験では、都市高速道路の管理・保全業務を効率化するため、2種類の手法を用いたデータ自動生成機能の開発と3D都市モデルを用いた高速道路点検支援シミュレーションアプリを試作した。

MMS測量により取得した点群データから都市高速道路の3D都市モデルを自動生成する機能の開発にあたっては、①セマンティックセグメンテーションを用いた点群の自動分類機能と、②構造物のサーフェスモデルの自動生成アルゴリズムの2つを開発し、それぞれに対して精度検証を実施した。

①セマンティックセグメンテーションによる点群の自動分類機能の開発では、取得した点群の分布を活用して平面構造や立体構造を識別するルールベースのアルゴリズムを活用し、段階的に分類することで点群データに含まれる構造物を3D都市モデルの分類項目に従って自動的に分類した。最初に分類する地表面や床板等の平面構造には、MATLAB (MathWorks, USA)のライブラリを一部利用して開発されたRANSAC(Random Sample Consensus)アルゴリズムと呼ばれる点群の中から3点以上の任意の点を選択して仮想平面を定義し、その平面の法線ベクトルで一定の距離内の点をカウントする処理を繰り返した上で、カウントされる点が最も多い平面を現実での平面部分であると推定する手法を使用している。まず、全量の点群データから抽出された最も広い平面部分を地表面として分類し、さらに、同様のアルゴリズムを用いて地表面を基準として一定の高さ以上の点群データに対しても平面部分の抽出を行い、地表面と並行な構造を有している特徴を活かして床板の分類を行った。

その後、床板を基準として上下部の点群に対して立体構造を識別するために、Mean Shift法(点群を密度ベースでクラスタ化し、構造を抽出する方法)とCuboid Fitting法(抽出した構造を直方体に近似し、構造物の位置と傾斜を分類する手法)を活用している。床板より上部に存在する点群から高欄に近しい連続した直方体形状のものを抽出することで上部工である高欄を特定し、さらに床面と地表面の間にある点群を下部工とする。最後に、下部工とされた点群の内、床板の間で鉛直方向かつ厚みがある点群部分を主桁、それ以外を橋脚とすることで、高架構造物の分類を実現している。 これによって生成されたセグメンテーション点群を用いて、床板、高欄、主桁、橋脚を自動分類した。

ここで使用した点群データは、MMS測量を他の業務に利用する際に必要な最低密度(400点/㎡)より密度の高い600点/㎡にダウンサンプリングし活用した。

橋梁モデルLOD3.0の部材定義(3D都市モデル標準製品仕様書)

②サーフェスモデル自動生成機能では、2つのステップ(Pre-mesh生成⇒平面抽出)で処理を行う。まず「Pre-mesh生成」において、取得した点群からメッシュを生成し、その後「平面抽出」において、生成したメッシュに対して平面を抽出することでサーフェスモデルを生成した。

具体的な方法として、「Pre-mesh生成」のステップでは、取得した点群データにおける各点を中心に任意の半径の球を作成し、球同士が交差するかどうかを判定して隣接関係を付与するPre-meshアルゴリズムを用いている。この隣接関係があると判定された点を組み合わせて1つのメッシュを生成する仕組みを実装した。次に、「平面抽出」のステップは、作成したメッシュに対して、Region Growingアルゴリズムを用いて同一平面上にあるものをラベリングして繋ぐことで平面を抽出し、連続したメッシュデータを生成する。この処理によって、高架構造物のサーフェスモデルが生成される。

この機能で使用する点群データは、データサイズと操作性のバランスを考慮し100点/㎡にダウンサンプリングしたものを活用した。また、今回の各システムにより自動生成することができないトンネル区間、水路上の高速道路等についてはLOD3.0のトンネルモデル、LOD3.0の道路モデルを手動で作成した上で、自動生成したモデルと統合し、検証場所である首都高速道路都心環状線(C1)の1周分の3D都市モデルを作成した。

これらのデータを用いた高速道路の管理・保全業務の効率化検証に向けて、高速道路の点検支援シミュレーションデモアプリをArcGIS上で開発した。本アプリは、作成した首都高速道路の3D都市モデルを読み込み、対象エリアを3次元的に形状確認できるほか、任意の構造の管理情報(管理番号、路線名、点検日等)を確認・編集する機能、点検時に見つかった損傷を任意の場所へマーキングする機能、高速道路の構造単位での管理情報や点検結果を時系列管理する機能を有する。今回の実証実験では、作成したデータの有用性を主要なヒアリング対象とし、データを実際に管理・保全業務で利活用するイメージ醸成のために本アプリを使用した。

検証で得られたデータ・結果・課題

①のセマンティックセグメンテーションを用いた構造物の自動分類機能の精度検証では、首都高速道路上の代表的な3箇所(各100m区間)を対象として、点群データから手動で作成した3D都市モデルと比較し、橋脚・主桁・床板・高欄の再現精度を評価した。作業効率化の観点で従来の手動分類から今回の自動分類機能(一部手動修正作業を含む)への変更によって工数を60%削減するということを目標として、その工数削減のために必要な自動分類の分類精度を70%と定めた。

結果として、自動分類の分類精度は対象の3箇所のいずれにおいても77%~82%の分類精度となった。従来手法との作業効率化という観点では75~80%の工数削減となり、高架構造物の3D点群データ処理において大幅な効率化に寄与していることが確認できた。

しかし、この手法における課題が大きく2点あることが判明した。1点目として、道路が2階建てになっている高速道路のジャンクション部分など構造物が複雑に入り組んでいる場所では、構造物ごとの自動分類が正確に実施できないケースがあった。2点目として、自動分類後の点群データを使用して作成した3D都市モデルにおいて、高欄部分は他の構造物に比べて不正確な分類項目を保持するケースが多かった。これらは構造物自体の複雑さや、高欄部分のようにポールや壁など様々な部材を組み合わせて構成される構造物は、点群から各構造物の境目の判断が難しいことが原因として考えられる。

②のサーフェスモデル自動作成機能の検証では、自動分類機能の精度検証と同様の区域を対象に、データ容量とモデルの精細さ及び工数削減の観点から実務での活用可能性を検証した。その結果、比較的簡易な構造を有する床板・橋脚では、元データである3D点群データと構造物の3Dモデル形状の差異を比較しても数㎝の差異であり、地図情報レベル500(標準偏差±25㎝)の3Dモデル作成に使用可能な結果が得られた。また、サーフェスモデルを用いた3D都市モデルの作成に要した時間は手動の場合に比べて60%の削減となり、効率化への寄与も確認できた。

しかしながら、セマンティックセグメンテーションを用いた点群の自動分類と同様に、形状が複雑な主桁部及び高欄下部については実用化に対する課題が残った。これは、複雑な形状を再現するには高密度な点群データの使用が必要になる一方で、点群データを一般的なパソコンで使用するためにはデータの軽量化が必要となり、精細さと実用性がトレードオフの関係になっているためである。軽量化によって欠落したデータを補完する手法の必要性が明らかとなった。

ローカスブルー社製アルゴリズムを使用したセマンティックセグメンテーションの事例
DataLabs社製アルゴリズムを使用したサーフェスモデル自動生成の事例

高速道路の管理・保全業務の効率化に関する検証として、作成した首都高速道路の3D都市モデルとArcGIS上で開発した点検支援シミュレーションデモアプリを使用し、埼玉県、狭山市、首都高速道路株式会社の道路管理担当部署に対して業務実施イメージのデモンストレーション及びヒアリングを行った。具体的には、道路管理者が日々実施する損傷個所の点検や保守内容の記録・確認などの主要業務において、3D都市モデルがInfraBIM(CIM)を代替するモデルとして有用であるか、そして本システムによる3D都市モデルの自動生成が高速道路の管理・保守業務の効率化に資するかを検証した。

道路管理者へのヒアリング結果として、3D都市モデルを活用した点検支援シミュレーションアプリが2Dの図面やテキストをベースとした手法及び、徐々に使用が拡大しているCADや点群データを用いた点検・管理ツールに比べ優位である点を確認できた。2D図面やテキストの視認性の低さ、管理の難しさはもとより、3Dデータを活用するツールであっても、CADでは対象の構造物の位置情報を紐づけられないことや、点群データでは位置情報はあるがデータ容量が膨大になってしまい、対象の高速道路全体を包括的に管理することが出来ないという問題がある。この点について3D都市モデルは地理座標及び、施設管理番号などの属性情報を持たせつつ、データが軽量であることから広範囲のデータをアプリケーション上で扱うことが可能である。そのため、高速道路の構造及び周辺施設との位置関係の視認性が向上した点や、過年度の点検結果を同一のインターフェース上で参照・確認できることに加え、対象となるインフラ設備全体のリスク分析や点検計画の作成が可能となるといった管理の効率化・高度化の面で高い評価を受けた。

しかし、実際の管理業務に活用するためにはより詳細な構造・部材レベルへの分類が必要であることが分かった。これは、今回の実証実験で自動生成の対象としたLOD3.0の3D都市モデル(道路モデル、橋梁モデル、トンネルモデル等)では建造物や設備への傷やひび割れ等の損傷が外表面上であれば記録ができるが、実際の点検・管理業務では損傷自体が構造物の内部にある場合や、ネジやリブなどのメタル関係の部材の管理も必要であり、LOD3.0のモデルでは詳細度が不十分であるためである。そのため今後の改善点としては、インプットデータ自体をLOD4.0の3D都市モデル(橋梁モデル)にすることによってより詳細な部材を再現し、点検アプリケーションも構造物内部への損傷を記載できるような仕様に更新することで高度化・効率化が期待できる。

これらのヒアリングの結果を踏まえ、必要とされる3D都市モデルの分類について、本検証では橋脚・主桁・床板・高欄の分類を行ったが、実際には橋脚・床板・主桁は構成する部材単位であること、高欄などの連続性のあるものも管理単位毎(首都高速では橋脚から橋脚までの1径間)の分類が必要である。

また、属性情報について今回は構造物の管理台帳を想定して管理番号、所属路線名、部材名等の諸項目を使用し、点検記録に関する属性として損傷を表す図形データに点検日時、損傷ランク等を付与した。高速道路管理という観点では、3D都市モデルの標準仕様として現行の管理情報がすべて含まれていることは必須であり、汎用属性を利用することで管理番号や高速道路の路線名などの構造物の基礎情報を管理者が付与することができることが望ましいと考えられる。

今回の実証実験で作成した首都高速道路都心環状線(C1)3Dモデルの一部
点検支援アプリケーションで3Dモデル上の損傷個所マーキング(赤線)のリスト検索と位置確認をするイメージ
点検支援アプリケーションのデモ

参加ユーザーからのコメント

ヒアリング参加者からのコメント

・高速道路に付随する地中の構造物モデルを導入・公開することで、他社が掘削工事時をする際に協議が必要であることを認知させ、誤って設備を損傷させるのを防止することに利用できそうである。
・道路モデル・橋梁モデルの利用という観点では、構造物点検支援に関して、高速道路自体の構造確認、周辺環境の確認、管理の高度化、診断の高度化、現場との連携強化について有用性が考えられる。
・新設道路検討時、現状では用地の境界しか確認できていないが、道路モデルと建築物モデルがあることで、残地や屋根のはみ出し等を考慮したルート検討を実施することができ、近隣住民との交渉等に使用できる可能性がある。また、新しい交差点の設計時にVR技術を利用したシミュレーションが可能となるので、警察との交通協議資料としての活用可能性がある。

今後の展望

都市高速道路のインフラ管理の効率化のために、高密度3D点群データを保有する道路管理者が増えている。しかし、3D点群データのままでは構造物単位のまとまりや形状そのものがわかりづらく、他方で3Dモデルを生成するにはコスト及び工数負荷が大きいことから、それらのデータの利用が進まないという課題がある。これに対して、今回の実証実験で開発した3D点群データから3D都市モデルを低コストかつ効率的に生成する技術は、多くの道路管理者にとってメリットが大きいツールになり得る。

更なる実用化に向けては、「半」自動化にとどまる要因となった複雑な構造物への対応と、3D都市モデルをインフラ管理における点検・管理の粒度に沿ったデータとして利活用できるように整備・拡充していくことが必要だと考えられる。そのため、前者についてはアルゴリズムの高度化が必要である。セマンティックセグメンテーションでは研究開発を進めることによって自動分類の精度向上や分類可能な構造物を追加し、サーフェスモデル自動作成機能ではデータの欠落箇所を隣接するデータ等から補完する技術を確立することで3D点群データを軽量化しても高精細なモデル作成を可能とすることで、より全自動に近い状態で3D都市モデルを生成することが可能になる。また、後者のインフラ管理における点検・管理の粒度に沿うという観点では、活用する3D都市モデルをLOD4.0にすることで、内部構造物にも対応可能なデータを導入すると共に、InfraBIM(CIM)の仕様に対して基礎や鋼橋の横桁など現状の3D都市モデルでは不足する属性情報を定義し、3D都市モデル単体でInfraBIM(CIM)と同等に使用できることや、双方のデータ連携が可能な仕様にすることが求められる。

将来的には、施工者が取得した3D点群データを用いて全自動的に3D都市モデルの生成を可能にすることに加え、管理・保全業務のアプリケーションと組み合わせることで、InfraBIM(CIM)と互換性と持ちつつ、低コストかつ効率的な道路インフラ管理業務の実現を目指す。