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岐阜県飛騨市

飛騨の広葉樹から生まれる、暮らしと文化の革新。

■実施主体:株式会社飛騨の森でクマは踊る

◆伝統の技を活かし、森林資源に新たな価値を生み出す

岐阜県北端に位置する飛騨市は、面積の93.5%を森林が占め、昔から「飛騨の匠」と呼ばれる高い木工加工技術が継承されてきた土地だ。そんな伝統の技を活かし、森林資源に新たな価値を生み出すため2015年に設立されたのが、飛騨市と民間2社が出資する第三セクター・株式会社飛騨の森でクマは踊る(通称「ヒダクマ」)だ。

飛騨市の森林のうち68%を占めるミズナラやブナといった広葉樹は、平均胸高直径が26cm程度であった。これらは、90%以上がパルプやチップとして安価で市外に流出していた。同社は、それを民間企業が有するデザインやクリエイティブの力で斬新な家具、什器、内装材等に加工・流通させることで、地域資源として安定的かつ継続的にその価値を高めている。また、そういった取り組みを国内外に向けて積極的に発信することで、飛騨の匠の技を歴史・文化として広めてもいる。

2016年に同社が拠点としてオープンした「FabCafe(ファブカフェ) Hida(ヒダ)」は、飛騨古川の町なかにある築100年以上の古民家を改修した滞在型のものづくりカフェだ。「FabCafe」とは、同社の出資元の一つである株式会社ロフトワークが運営するクリエイティブコミュニティで、3Dプリンターやレーザーカッターなどのデジタル・ファブリケーションを使って、自由に次世代のものづくりが楽しめる場だ。世界6拠点目となる「FabCafe Hida」では、飛騨の森の恵みを活かした食事や木工・Fab体験を提供し、森や町の文化などを楽しみながら学べるイベントやワークショップを定期的に開催。蔵には木工房、母屋にはゲストハウスがあり、宿泊・滞在しながらプロジェクトに取り組める拠点となっている。

さらに森林資源活用と森づくりの連動を加速するため、2022年に竣工した新しい拠点「森(もり)の端(は)オフィス」は、飛騨地域の行政・林業関連事業者で推進する「広葉樹のまちづくり」の拠点にもなっている。林業の川中と呼ばれる広葉樹を専門とする集材所・製材所・木材乾燥施設と隣接し、未利用資源の代表格である曲がり木を扱うヒダクマの「曲がり木センター」も運用。ここでは、建築プロジェクトを推進しており、可視化されにくい森林資源流通をリアルタイムに捉えることで、地域の林業の専門家と国内外から訪れる建築家やデザイナーとともに、流通量の5%しか建築・家具用材にならないとされる広葉樹の95%部分を価値化することに挑戦している。

「FabCafe Hida」外観。「FabCafe Hida」外観。
 新しい拠点である「森の端オフィス」。 新しい拠点である「森の端オフィス」。

◆飛騨の森林を健やかにし、生態系のバランスを保ち、地域の暮らしも支える

株式会社飛騨の森でクマは踊る設立のきっかけは、株式会社トビムシが地域資源の利活用に関する調査事業を飛騨市役所から受託し、その中で広葉樹を使って活用する事業を創ることを目指して調査を進めてきたことだ。当時飛騨市役所企画課だった竹田慎二氏が、株式会社トビムシの松本剛氏(現ヒダクマ代表取締役)、株式会社ロフトワークの林千晶氏(現ヒダクマ取締役会長)らとつながり、2015年に3者合弁で同社はスタートした。

株式会社トビムシは、持続可能な地域の実現を目指し、自治体や事業パートナーと共に森林の価値を高めることを核とした事業を展開する企業で、総務省の事業「地域再生マネージャー制度」での岡山県の西粟倉村「株式会社西粟倉・森の学校」という森林資源を起点とした事業創出の成功事例があった。そして、株式会社ロフトワークというもう一社の出資先をパートナーとして調整をして、飛騨市を合わせた3者の出資によって同社が設立されたのだ。同社は第三セクターであるが、株主間協定で飛騨市からの経営補填当の補助金は、一切もらわない取り決めとなっており、市職員の出向もない。

「飛騨の森でクマは踊る」という社名には、「森林を活用することで、人と自然の関係を健やかにしたい」という想いが込められている。手入れがされなくなった森は生態系のバランスを崩したり、治水力が落ちたりと様々な問題を引き起こされるが、飛騨市で近年問題になっている野生のツキノワグマによる被害もその一つだ。同社は、事業を通じて飛騨の森林を健やかにすることで、生態系のバランスを保ち、地域の暮らしも支えていくことを目標としている。同社のロゴマークには、飛騨が目指す明るい未来の象徴として「熊が踊りだすぐらい安心して暮らせる森」がイメージされている。

株式会社飛騨の森でクマは踊るのロゴマーク株式会社飛騨の森でクマは踊るのロゴマーク
株式会社飛騨の森でクマは踊る代表取締役松本剛氏とのヒアリングの様子。株式会社飛騨の森でクマは踊る代表取締役松本剛氏とのヒアリングの様子。

◆共に地域の価値を創っていく「共創人口」の創出

小口径の広葉樹は、家具材料などでは使えず、大量生産もできない。そこで、同社ではビジネスとして成立させるために、単品の製品を売るのではなく、広葉樹を使って空間全体をプロデュースするやり方で事業を展開している。拠点である「FabCafe Hida」では、利用者に広葉樹の活用や曲げ木の技術といった地域の資源を消費してお金を落としてもらうのではなくて、一緒に再発見して磨き上げてもらうようにしている。さらに、宿泊を前提にしたものづくりを考えることで、地域外の人にただ観光してもらって終わるのでなく、地域のことをより深く知ってもらいながら、その人の技術を活かしてもらうことで、お互いにとって良い体験にできる交流の場となっている。「関係人口」のような、ただ関係があるということでなく、共に地域の価値を創っていく「共創人口」として、新しい地域の価値を共に創ることに成功している。同社のビジネスにおいては、「地域にあるリソースをどうすればビジネスがうまくいくか」ではなく、「リソースをどう組み合わせて、それらを活かせるサービスと事業活動をしていくか」というスタイルの思考が求められる。これにおいては、ノウハウのある株式会社トビムシが、事業パートナーとして株式会社ロフトワークを選んだことで、立ち上げ段階から専門的な知見が活かすことができたという。

設立5年目くらいからは売上が軌道にのり、雇用や地域への経済効果もでている。しかし、同社では、建築家と対話を行いながらケース毎に適材適所を考えていくやり方を採用しているため、新しいチャレンジはできるものの、安定して売れる商品があったり、太い顧客がいるわけではない。企業としては安定経営が課題ではあるが、「広葉樹のまちづくり」において関係人口拡大と事業開発を行う機能が自走している。

同社が手掛けた曲がり木家具。同社が手掛けた曲がり木家具。
「FabCafe Hida」内の工房。「FabCafe Hida」内の工房。