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新潟県長岡市

NFTアートで紡ぐデジタルとリアルの新しいコミュニティ。

■実施主体:山古志住民会議

◆自治体公認の電子住民票を兼ねたNFTアート発行で地方創生

山古志地域は、千年の歴史をもつ、新潟県の中山間地域にある小さな村だ。平成の市町村合併によって、現在は長岡市の一部となっている。冬には積雪量が3mになる豪雪地帯であり、平らなところがほぼない起伏の激しい地形で、厳しい自然環境と共生してきた地域でもあり、現在世界中に愛好家が増えている「錦鯉」発祥の地でもある。

同地域の任意団体「山古志住民会議」(代表:竹内春華氏)は、2021年12月14日に錦鯉をシンボルにしたNFTアート「Colored Carp」を発売した。これは長岡市公認で山古志地域のNFT電子住民票を兼ねたデジタルアートで、日本の過疎地が今後グローバルな関係人口を創出するための、NFTの新たな活用方法だ。

NFT(Non-Fungible Token、非代替性トークン)とは、ブロックチェーンを基盤にして作成された代替不可能なデジタルデータのことである。その形は様々で、デジタルアートやデジタルファッション、ゲームのアイテムなど、有形・無形さまざまなものがNFT化されている。NFTアートの特徴は、デジタル住民としての電子住民票の意味合いを持つ点だ。販売価格は0.03ETH(暗号資産イーサリアム販売時レート1ETH=45万円では1万3500円)。NFTアートの所有者は、デジタル住民専用のコミュニティ(チャットや音声通話ができるコミュニケーションツールを使い、居住地域を問わず議論できるオンラインコミュニティ)に参加可能。山古志住民会議は、ここを通して地域存続のためのアイデアや事業プランを募集・協議、デジタル住民による投票で採決している。

2022年2月に実施された「総選挙」においては、「VR(仮想現実)空間上に山古志村を構築してデジタル住民とリアル住民をつなぐコミュニティをつくる」など4つの事業プランが採択され、活動予算としてNFTアートの売り上げの一部が付与された。

日本農業遺産にも登録されている山古志地域の棚田・棚池の景観日本農業遺産にも登録されている山古志地域の棚田・棚池の景観
「Colored Carp」の一例「Colored Carp」の一例

◆集落存亡の危機から、持続可能な山古志へ

山古志地域は、2004年に発生した新潟県中越地震で甚大な被害を受けた。その後、さまざまな村おこしの施策に取り組んだにもかかわらず、震災前は2200人だった住民は、約800人まで減少し、高齢化率が55%を超えるなど、地域は存続の危機に瀕していた。この状況に危機感を抱いた竹内春華氏をはじめとする有志が、2021年に立ち上げたのが、任意団体「山古志住民会議」だ。「e-Residency(電子国民プログラム)」を導入した2014年以降、電子国民の登録者は10万人を超えたバルト三国のエストニアの事例を基に同団体が考案した仮想山古志プロジェクトの企画書が、総務省の交付金の令和3年度の事業で採択され、1000万円弱の規模の交付金を受け、プロジェクトが進んでいった。

同団体は、山古志地域の定住人口を増やすことにはこだわらず、他地域に住む人々を仮想的なデジタル住民として山古志地域に招き、地域の存続に必要なアイデアや事業プランを一緒に考えてもらうことを目指している。同氏は「日本全体で人口減少が進む中、減りゆくパイの奪い合いをしても、山古志地域の人口が増えることはまずない」と考え、定住人口にとらわれずにグローバルな「デジタル関係人口」を生み出し、NFTの販売益をベースに独自の財源とガバナンスを構築することで、持続可能な「山古志」を誕生させることをねらいとしている。世界中にいるColored Carpの購入者が、ブロックチェーン上に可視化されることで、グローバルなデジタル関係人口が生まれ、NFTの販売益をベースに山古志地域に必要なプロジェクトや課題解決を独自財源で押し進めることが可能になる。山古志地域を存続させるためのアイデアや事業プランをリアルタイムで、NFTホルダーであるデジタル住民専用のコミュニティチャット内(Discordを使用)で展開し、メンバーからの意見の集約、投票など、可能な限り民主的な手法を取り入れた地域づくりを目指しているのだ。

新潟県中越地震直後の山古志新潟県中越地震直後の山古志

◆「NishiKigoi NFT」がもたらす山古志のデジタル革命

山古志のNFTは「NishiKigoi NFT」と名づけられ、山古志の仲間の証、電子住民票の意味合いを含んで発行をされている。現時点で2,800近くのNishiKigoi NFTが発行され、デジタル村民が約1,600人誕生。2022年3月末までの売上金は約3,000万円となっている。NFT購入前は山古志の存在も知らなかったデジタル村民が、自発的にまとめサイトや動画、記事などを作成したり、実際に山古志を訪れるなどのアクションが生まれている。デジタル村民に山古志を存続させるための地域存続プランを募集し、選ばれたプランに売上の一部を付与し活動を行い、山古志への訪問や定期的な10人規模のツアーを開催するなどの取り組みもあり、のべ300人以上が訪れている。デジタル住民が山古志を訪れた際に、地域住民と対面し、その中で交流が生まれている。さらに、デジタル村民が、山古志に就職した例もあるそうだ。

「NishiKigoi NFT」は2022グッドデザイン・ベスト100への選出、令和5年度 過疎地域持続的発展優良事例 総務大臣賞受賞など、高く評価された。NFTの活用法、スピード感、収益の使途などを任意団体である山古志住民会議が行ったことで成功した事例だと考えられる。

今後は、Colored Carp所有者が滞在できるレジデンスの建設や特別な体験提供など、デジタル住民向けにリアル空間でも楽しめる価値づくりにも注力する予定だそうだ。10,000人のデジタル住民の知恵、ネットワーク、資源が集まり、現実の社会に関係なく、独自の財源、独自のガバナンスを構築し、持続可能な「山古志」づくりを目指している。

デジタル村民が山古志を訪れたときの様子
デジタル村民が山古志を訪れたときの様子