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高知県四万十町

四万十の自然とともに「地域にあるホンモノ」を売る

■実施主体:株式会社四万十ドラマ

◆「ローカル・ローテク・ローインパクト」な商品開発

地方創生のためには、自治体の積極的な取り組みが不可欠であり、その一環として提唱されているのが「6次産業化」だ。6次産業化とは、農林漁業者(1次産業)が自ら加工(2次産業)することによって、農産物などの生産物の元々持っている価値をさらに高め、さらにそれを自ら販売(3次産業)まですることで、農林漁業者の所得(収入)を向上していく取り組みのことだ。この6次産業化の先進事例としてとして代表的なのが、高知県四万十町で地域に根差した事業を展開する地域商社・株式会社四万十ドラマだ。クリや茶、コメ、シイタケといった地域の1次産品を加工して商品化し全国に販売することで、地元に外貨と雇用をもたらし、さらには若者の移住の呼び水にもなっているという。

同社では、地元の素材や技術、知恵を活かした1~1.5 次産業にこだわる「ローテク」、四万十川を共有財産に足元の豊かさや生き方を考える「ローカル」、四万十川に負荷をかけずに活用する仕組みを作る「ローインパクト」をコンセプトに、四万十川に負担をかけないものづくりを追求している。流域の生産者・事業者と連携し安心・安全な原料の確保と産地づくりによって農薬や化学肥料を使わずに栽培した原料(1次産業)を、添加物を使わず加工し(2次産業)、そして同社の理念に共感してくれる取引先・消費者と連携した地域商社としての販路拡大(3次産業)を目指している。このモットーを基に、同社では多くのヒット商品を連発しているのだ。次は同社のヒット商品の一例だ。焼き印をしたヒノキの端材にヒノキ油を浸透させ、湯船に浮かべてヒノキの香りを楽しむ「四万十ひのき風呂」。いつものコメに混ぜて炊く地元特有のかおり米「十和錦」。地元の広井茶生産組合と共同開発したペットボトル入り緑茶「しまんと緑茶」。「しまんとの商品はすべて新聞で包もう」というコンセプトから生まれた「しまんと新聞ばっぐ」は、ニューヨークの美術館や高級ブランド店なども購入に動いた。

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最後の清流「四万十川」と、四万十ドラマスタッフ
読み終えた新聞とのりだけで作る「四万十川新聞バック」は、地元の主婦が考案したという読み終えた新聞とのりだけで作る「しまんと新聞ばっぐ」は、地元の主婦が考案したという

◆地元に「新しい物語」を作るために創設

同社は、1994(平成6)年に四万十川中流域の旧3町村(旧大正町、十和村、西土佐村)が設立した第三セクターとして活動を開始した。発足時に唯一の正社員となったのが、旧十和村のJA職員であった現代表の畦地履正氏だった。社名の「四万十ドラマ」には、「最後の清流・四万十川から新たな物語を作る」という意味が込められている。

事業を始めるにあたって、氏は地域に目を向け、何があるかを探すところから始め、そこでユニークな資源の多さに改めて気づいたという。今から40~50年前の四万十町では、山の奥で行っているシイタケ産業で全国の市町村別生産量日本一に2回もなった。シイタケが採れない時季には茶を作り、そしてクリやイモを育てるなど、複数のものを組み合わせる複合経営で農家経営をしていた。しかし当時の現状としては、過疎化・高齢化により、後継者不足となり、森林の荒廃や耕作放棄地の増加が進んでいた。

それらの課題を解決するために、まずは地元産品を活用した独自商品の開発に知恵を絞り、販路開拓に力を入れた。バイヤーには必ず現地・四万十で生産者に直接、会ってもらうなど、顔の見える関係を重視したという。また、「RIVER」という会員制度を創設し、全国にネットワ―クを広げていった。これが商品開発のみならず、交流や観光といった「四万十発着型産業」へと展開していった。

2005(平成17)年に同社は業績の好調さを受けて近隣住民に株式を売却し、住民が株主の株式会社となった。2007(平成19)年から道の駅「四万十とおわ」の指定管理者となり、直接消費者に販売する場所を得たことで新商品開発が加速し、2018年3月に指定管理が終了するまでの10年間で、山間の立地ながら売上5億円規模の地域の中核企業に成長した。現在も、自社のECサイトや百貨店などを中心に高い売り上げを保っている。加えて、新たな加工場の設置やカフェのオープンなど、事業内容を拡大させている。

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四万十川を臨む栗畑と、ともに産地化を目指す人参芋生産者

◆フットワークはネットワーク

四万十ドラマの取り組みは、2022年11月に第9回「ディスカバー農山漁村の宝」優秀賞、2023年6月には第12回「全国イノベーション推進機関ネットワークアワード」にて、堀場雅夫賞を受賞するなど、全国的に高く評価されている。

魅力ある商品を数多く開発し、広く販路を拡大している同社だが、これらは同社だけの力ではない。補助事業を通じて専門家を招いたり、元百貨店のバイヤーに、東京で営業代行をしてもらったりと、外部の力も借りている。とはいえ、こういった頼れる外部の人を見つけるのは、同社が「フットワークはネットワーク」という考え方を基に、自分の足で稼いで知り合った人やその人からの紹介の方から見つけてきているからだ。地方創生において、有益な補助金制度は多数存在しているが、その生かし方を知らない人が多過ぎると同氏は指摘する。同社も自治体の補助金を使って講師を呼ぶことはあっても、リスクを取って自腹で行った時の方が、本当に適切な人物が見つかることの方が多いそうだ。その経験から畦地氏は「自治体が講師を呼んで来るようなやり方では、活性化にはつながらない」と考えており、自分の目で見て「本気でやれる」と感じた人を呼んでいるそうだ。

同社の従業員にはこれまで四万十町に移住・定住した若者も多いが、現状で満足していないようだ。今後も町に人が残ってもらうためには、今後も給与を上げ、福利厚生を整えていくことが必然と考えている。加えて、全国だけでなく海外進出も視野に入れ、若者が働きやすい環境づくりを目指している。

2022年11月7日に総理大臣官邸で開催された第9回「ディスカバー農山漁村の宝」有識者懇談会の様子2022年11月7日に総理大臣官邸で開催された第9回「ディスカバー農山漁村の宝」有識者懇談会の様子
2023年6月15日に開催された第12回全国イノベーション推進機関ネットワークアワード表彰式の様子2023年6月15日に開催された第12回全国イノベーション推進機関ネットワークアワード表彰式の様子

◆その他取り組みのポイント

・同氏は、地域活性化のノウハウや道の駅運営・商品開発ノウハウを学べるセミナー「いなかビジネス教えちゃる」講座、四万十ドラマあしもと塾等の講師として全国を飛び回っている。また、全国各地で同じように地域の魅力づくりに取り組む人たちとの交流コミュニティー「あしもと逸品プロジェクト」を運営したりと、地方経済の成長に向けて精力的に活動している。

・「いなかビジネス教えちゃる」講座の延長上として、同じく同氏が代表を務めるNPO法人RIVERでは2024(令和6)年7月を予定に、マイナスと思われていた「地域の個性」「地域の資源」をプラスに変える考え方を学べる「しまんと分校」という研修施設を開校する予定。施設には、築100年ほどの古民家を建築家の坂茂氏が改修設計した建物を利用する。四万十町地域の人物や各分野の専門家が講師となり、学ぶ人の要望を汲んだプログラムを組立てて、座学と実技を提供する。施設利用者は全国から受け入れる予定で、地方の課題を一緒になって考える場であり、逆に四万十町の人々も勉強できる場としていく予定だ。

・2021年には同社を中心に、地元生産者や事業者が連携し、「自分たちで決める農業」をテーマに四万十流域の産物「栗」「辛」「茶」なおの生産をorganicに転換して後世へ産業を残す「しまんと流域農業organicプロジェクト」にも挑戦している

・これらの新しい事業や補助金の情報は、国の省庁(経産省、農水省など)から連絡がくるそうだ。これもネットワークがあるおかげと同氏は考えている。