ダム活ポータルサイト

波形 波形

資金調達

ウェルビーイング

静岡県浜松市天竜区

お母さんたちの危機感とがんばりが地域を活性化

■実施主体:NPO法人夢未来くんま

◆地域の女性たちが立ちあがり村おこしに着手

浜松市中心部より北西部に位置する山々に囲まれた自然豊かなエリア熊(くんま)地区はNPO法人夢未来くんまがさまざまな村おこしに取り組んでいる。その活動は現在「水車部」「しあわせ部」「いきがい部」「ふるさと部」の4つに分かれている。

女性たちを中心とする「水車部」では、道の駅「くんま水車の里」と食事処「かあさんの店」物産館「ぶらっと」の運営を行っている。食事処は蕎麦を中心としたメニューを提供している。道の駅では、高品質と安心・安全の精神を具現化した地場産品(味噌、漬物、蕎麦、まんじゅう、こんにゃく、五平餅など)の加工のほか、蕎麦打ちや五平餅づくり、こんにゃくづくりなどの体験教室も開催している。物産館では、道の駅で加工した商品のほか、お茶やシイタケ、木工、竹製品など熊地区の特産品を販売している。

子どもや孫世代向けに交流促進やまちづくりを行う「いきがい部」、親世代向けにデイサービスを提供する「しあわせ部」、未来の子孫たちのために環境保全活動を行う「ふるさと部」といった非営利事業には、「水車部」で得た収益を充てている。収益事業と非収益事業とを効率的に組み合わせることで、地域に利益を還元する仕組みを整えている。このような事業を展開することで、天竜の山村に雇用の場と、にぎわいと生きがいを創出している。

道の駅「くんま水車の里」と食事処「かあさんの店」道の駅「くんま水車の里」と食事処「かあさんの店」
物産館「ぶらっと」の建物には、天竜材をふんだんに使用している物産館「ぶらっと」の建物には、天竜材をふんだんに使用している
毎年9月に開催される「アルプホルンセミナー」には、県内外から大勢の参加者が集まる毎年9月に開催される「アルプホルンセミナー」には、県内外から大勢の参加者が集まる

◆危機感から全戸が加入した協議会が発足

熊地区は、昭和30年に2,500人いた人口が、30年後には1,205人に減少してしまった。過疎化と高齢化に伴い基盤産業だった林業も徐々に振るわなくなり、産業が無く地域は衰退する一方だった。「このままでは地区が消滅する」と危機感を持ち立ち上がったのが、地域の女性たちだった。1985(昭和60)年に開かれた地区住民の話し合い「明日の熊を語る会」の中で、一人の女性が郷土料理の商品化に着目し、それが村おこしのアイデアとなり、行政も着目し始めたのだ。1986(昭和61)年には「熊地区活性化推進協議会」が発足し、村おこし事業に着手するようになった。発足時の呼びかけにより当時306戸の全戸が加入したことで、国、県、市からの補助金1億2千万円と地元負担金4千万円(熊財産区より)を得ることができた。1988(昭和63)年には食事処「かあさんの店」がオープンし、「水車の里」での蕎麦づくりと味噌の加工を開始。その後、農林水産祭「むらづくり」部門での天皇杯受賞や、「くんま水車の里」の道の駅への認定などがあり、運営も順調に進んだことから、継続性と社会性を持った組織を目指して2000年に「NPO法人夢未来くんま」を設立。NPOには地区住民の74%が参加している。順調に売り上げが伸びると納税義務も生じるため、NPO法人とすることを選択し、地域への分配を主目的に活動してきたことも成功の一因だろう。また、補助金の活用においては、市や県からの助言や指導、情報提供を基に、文化振興、子どもの水辺事業、地域振興など多岐にわたる分野で効果的に使われているという。

「かあさんの店」「水車の里」は、地元に暮らすお母さんたち31人が集まって開始した事業だが、どのメンバーも接客や店の運営に関して未経験で、家の外で働くことが初めてのことも多かったという。そのため当初は苦労も多かったが、「地元の特産品の良さを知ってもらう」「自分たちが作ったものをお金を出して買ってもらう」という喜びが、活動の原動力となった。ときには農林事務所の普及員による指導を仰いだり、知り合いの蕎麦屋など専門家指導による商品化の取組も行ったりと、外部の力も借りながら、限られた時間の中で効率的にスキルを高めていったことで、食事やサービスの品質がより一層高まり、顧客満足度の向上につながっていったのだ。

「浜松の秘境」ともいわれる熊地区「浜松の秘境」ともいわれる熊地区
手切りそばは「かあさんの店」の原点ともいえるメニュー手切りそばは「かあさんの店」の原点ともいえるメニュー

◆次世代に向けた課題

そんなお母さんたちの努力の甲斐あって、年間7~8万人が県内外から訪れるようになり、リピーターは着実に増えていった。その結果、1988(平成元)年の「農林水産祭むらづくり部門」天皇杯受賞をはじめ、2012(平成24)年「第2回地域再生大賞」、2016(平成28)年「都市と農山漁村の共生・交流推進会議 オーライ!ニッポン大賞」など、中山間地におけるコミュニティビジネスのモデルケースとして全国からその活動が注目されるようになった。

しかし、現状は決して楽観的ではない。地域の過疎化という根幹の問題は解決されておらず、活動メンバーの高齢化も進んでいる。さらには、行政区の変更により行政担当者との接点が希薄になりつつあったり、コロナ禍や災害による道路陥没の影響で来場者が減少傾向にあったりと、課題は多い。また、現在の商品は若い世代にはなじみのないものが多いため、新商品の開発をするなどして、新しいファンの獲得を目指していきたいところだ。

道の駅「くんま水車の里」シンボルである水車道の駅「くんま水車の里」シンボルである水車