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資金調達

SDGs

島根県雲南市

地元の個性を輝かせる、持続可能な地域づくりのパイオニア。

■実施主体:株式会社吉田ふるさと村

◆地域課題の解決を担う地域商社

1985年に、中国山地に位置する山村・島根県雲南市の旧吉田村で、第三セクター「株式会社吉田ふるさと村(代表取締役社長 高岡裕司氏)」が設立された。自治体と地域住民が共同出資した同社の設立目的は、過疎化と高齢化が進む中での地域産業の振興と雇用創出である。

同社の主力事業である農産加工部では、地元の農産物を主とした国内産原料を使用し、保存料などを使用しない安心・安全な特産品の開発・製造・販売を行っている。そのラインナップは、地元産の餅米で作った餅や焼き肉のたれ、ドレッシングなど、約50種類にものぼり、加工原料として商品価値の無かった規格外の農作物を地元農家から仕入れることで、農業所得の向上にも貢献している。

バス事業部は、路線バス撤退後の地域の足として欠かせない存在だ。雲南市の6町を連結して走る雲南市民バス広域路線のほか、運行1時間前までに予約すると自宅まで迎えに来るデマンドバスを運行している。田んぼのあぜ道のような細い道や大雪の日も運行し、町内の小中学校のスクールバスとしての役割も担う。

水道部には、工事部門と水道施設管理部門がある。旧吉田村には水道工事の専門業者が存在しなかったことから、1991年に建設業許可を取得し、自社で工事等を行うようになった。

この他、「たたら製鉄」など地域資源を活用した旅行商品の企画・販売を行う観光事業部、指定管理者として来年3月までで弊社の委託は終了と温泉宿泊施設「国民宿舎 清嵐荘」の運営、地域課題の解決に向けた多くの事業を運営し、全国から多くの視察が訪れる地域活性化のトップランナーとして知られている。

地域住民の貴重な足となっている雲南市民バス。地域住民の貴重な足となっている雲南市民バス。
2019年11月からは温泉宿泊施設「国民宿舎 清嵐荘」の指定管理者を務めるようになった。2019年11月からは温泉宿泊施設「国民宿舎 清嵐荘」の指定管理者を務めるようになった。

◆村を思う住人達の大きな期待と支援を背負って設立

株式会社は、地域(当時は飯石郡吉田村)の過疎化が進む中で、「このままでは村がなくなる」という村民の危機感から生まれた。村の人口は最盛期には5,000人を擁したが、1960年代末から基幹産業である林業の衰退により、1985年には人口が2,800人と半減していた。そこで、雇用を創出することで人口流出の阻止のため、商工会メンバーを中心とした強い危機感を持った有志が行政と共に立ち上がったのだ。当初はリスクが大きいということで議会の反対もあったが、強い民意の後押しもあり、1年ほどの紆余曲折を乗り越え、同社は6人の従業員でスタートした。当時は事務所も食品製造工場もなく、村役場の印刷室を無料で間借りしていたという。

同社の特筆すべき点は、限られた株主で構成されているのではなく、住民の出資によって設立された点だ。たくさん入っている。立ち上げにあたっては、村内全戸に設立趣意書を配布して説明会を開催し、株主を募った。その結果、24歳の若者から85歳のお年寄りまで村の人口の1/6にあたる125名を超える地域住民が2,750万円を出資した。そのため、同社の従業員は「村民の会社」「第二の役場」という感覚で勤務しているという。また、行政も出資した第三セクターではあるが、行政の出向や財政的援助はなく独立採算制を採っている。「地域振興」という行政と同じ目標を目指しながら、補助事業、委託事業、指定管理などはビジネスとして活用し、行政ではできないところを同社のアイデアや行動力で対応しているのだ。

株式会社吉田ふるさと村代表取締役社長高岡裕司氏と取締役部長   堀江祐輔氏のヒアリングの様子。6代目代表取締役である高岡氏は、創業メンバーの一人でもある。
                            株式会社吉田ふるさと村代表取締役社長高岡裕司氏と取締役部長 堀江祐輔氏のヒアリングの様子。6代目社長である高岡氏は、創業メンバーの一人でもある。

◆より自立した地域運営組織となるために

設立直後の同社は、地元の餅米を使用した餅を全国の百貨店やスーパーで餅つきの実演販売することで基盤を築き、3年目には黒字化させ、実績を積んでいった。10年目には行政からの2億7,000万円の補助金と3,000万円の自己資本で工場と本社を建てた。そして、2002年に発売した卵かけご飯専用醤油「おたまはん」が、社会現象になるほどのヒット商品になり、地域づくり総務大臣表彰など数々の賞を受賞するなど、同社の名前は全国区となった。

令和4年度は、法人全体の売上5億1,682万円、事業により79人を雇用し、地域に貢献している。多岐に渡る事業を展開しているため人材確保が課題ではあるが、同社では外部からの人材確保にも成功しており、現在社員の半分以上は町外の人間である。都会からのUIターン者の就業に力を入れているほか、メディアに露出する機会が増えたことから、近年ではゼミや卒論テーマの取材としてインターンシップに来た学生がそのまま就職するケースも増えている。社員のスキルアップやノウハウ構築は基本的に自社で行っており、外部の専門業者に派遣し経験を積ませるなど、人材育成にも投資している。また、同社が2005年より開催しているイベント「日本たまごかけごはんシンポジウム」も、企画・運営を通じて良い社員教育・人材育成の良い機会になっているという。

一方、住民のライフライン維持に欠かせない水道部や、コロナ禍のダメージがあった観光事業部といった、赤字部門への取り組みは今後の課題だ。とくに観光事業部では、たたら製鉄の体験ツアーを中心に取り組んでいるが、なかなか利益を出せず赤字が続いている。2019年より指定管理者となった「清嵐荘」のオプショナルツアーとして、ダムの見える牧場とのタイアップなど吉田町エリア外とも連携した取組みが今後の展望である。

「卵かけご飯ブーム」「専用調味料ブーム」の火付け役になった卵かけご飯専用醤油「おたまはん」。令和2年3月末までに累計372万本を販売している。「卵かけご飯ブーム」「専用調味料ブーム」の火付け役になった卵かけご飯専用醤油「おたまはん」。令和5年3月末までに累計400万本を販売している。
同社の観光事業部では、日本古来の製鉄法「たたら製鉄」を一昼夜体験できる体験ツアーなどを扱っている。同社の観光事業部では、日本古来の製鉄法「たたら製鉄」を一昼夜体験できる体験ツアーなどを扱っている。