支援制度活用のススメ (自治体、企業のみなさんへ)

市街化が進んだ都市には多くの人が住んでいて、財産が集中しています。そういった都市で水害が発生すると、大きな被害が生じてしまうため、平成15年に「特定都市河川浸水被害対策法」(通称、特定都市河川法)を制定し、浸水被害の防止が市街化の進展により困難な地域を「特定都市河川」に指定し、河川管理者、下水道管理者及び自治体が一体となって浸水被害対策を講じてきました。令和3年5月、その改正法が公布され、特定都市河川の指定条件が拡大されました。これにより、全国で官民が連携して水害リスクに備えたまちづくりが行われ、「流域治水」が進んでいくことが期待されています。

カワナビvol.16では、自治体や企業のみなさんにこの制度の活用を呼びかけるべく、この法に基づいた施策の推進を担当している清田係長に、制度の狙いや考え方を話してもらいました。それでは清田さん、よろしくお願いいたします。

水管理・国土保全局治水課
清田 咲史 流域水害対策係長

平成25年UR都市機構入社。令和4年4月より現職(国土交通省へ出向)。特定都市河川浸水被害対策法に係る運用・支援制度等を担当。現職になってから川の名前を用いた地酒がよくあることに気づき、全国各地の「河川を味わう」ことが最近の楽しみ。

増えていく「特定都市河川」

流域治水を推進していく上で、この法改正は大きなポイントになりました。これまで「特定都市河川」に指定されていたのは、三大都市圏が中心でした(首都圏、近畿圏、中京圏と静岡)。しかし、近年は全国どこでも水害が起きてしまい、また、気候変動の影響により水害のさらなる激甚化、頻発化が懸念されていることから、全国で同じような取り組みが必要になってきて、令和3年に法律が改正されたわけです。

その結果、全国で「特定都市河川」の指定が進んでおります。指定を受ければすぐに流域治水が進むわけではありませんが、流域治水を本格的にやっていこう! という土壌が整い、スタートを切ったところと考えています。

特定都市河川の指定状況

特定都市河川ポータルサイト >

令和6年1月15日時点で全国19水系256河川が指定されている。特定都市河川流域においては、開発等に伴う雨水流出抑制対策の義務付けといった規制のみならず、民間事業者による雨水貯留浸透施設の整備に対する施設整備費用に係る法的補助や固定資産税の優遇といった支援制度もある。

企業の施設整備に補助が受けられる

個人や企業にとって、流域治水と言われてもなかなかピンと来ないかもしれませんが、大雨が降ったとき、河川の水が溢れたり(外水氾濫)、河川に排水出来ず下水道から水が溢れたり(内水氾濫)してしまうことを防ぐために、降った雨を一時的に貯めたり、地下にしみこませたりして外に流す量を増やさない、もしくは減らすようにすることが治水対策としてまず重要になります。こういった施設を「雨水貯留浸透施設」といいますが、特定都市河川の指定の受けた流域では、企業のみなさんが雨水貯留浸透施設を整備するときに、整備費用について高い補助率の補助や、固定資産税の優遇措置を受けることができます。

また、企業のみなさんが自社の土地に整備した施設を、特定都市河川法を根拠に公共的な施設として扱うことができるようになり、その管理を自治体が受け持つことも可能になります。官民が連携して、これまで水害対策には直接的に関係ないと思っていた人たちも協力して、地域を、流域を守ることを後押しするのが狙いです。

企業のみなさんにとっては、こうした取り組みはコストがかかるものですが、安全や、環境配慮への取り組みが評価され、それによって企業価値が高まる時代になってきていると思います。また、気候変動が進展している状況を踏まえると、大雨をいかに貯めておくか、地域の、流域の安全安心や環境保全に関するノウハウは、将来的に自社の持続可能性を高めていく上で有用なものになるのではないでしょうか。

固定資産税の減免措置などのメリット

特定都市河川の指定制度 >

モデルとなる地域の取り組みを参考に

よく自治体の方から、特定都市河川の指定を受けるメリットはなんですか? と聞かれることがあります。指定を受けることで、その地域が危険な印象を持たれるのではないかという声をよく聞くのですが、最初に言いましたとおり全国どこでも水害が起こるおそれがあることから、むしろ「だから他よりも先んじて対策をしている所なんですよ!」 という打ち出し方をしていただきたいと思います。捉え方は人それぞれですが、指定を受けることで支援も受けることができます。

自治体によっては、特定都市河川法の趣旨に近いことを、独自に進めているところがあります。例えば、山間部にある広島県三次市では、江の川という特定都市河川の流域があるのですが、特定都市河川の流域に含まれていない地域についても規制みたいなものを先行して行っています。また、高知県日高村でも独自の条例を制定しています。これは、その地域で発生した水害が契機になっているのかもしれませんが、やっぱり、「まちを守らなければ」という観点が大きいと思います。

その観点でいくと、奈良県川西町も意欲的な取り組みを進めています。ここは、大和川という特定都市河川の流域でもあるので、水害対策ももちろんあるのですけれども、「まちづくり」を考えているところなんですね。まちづくりという大きなものから俯瞰して、この郊外のところでは申し訳ないけど田んぼで水を貯めてもらいましょうといったように水害対策を考えているようです。そういった取捨選択は大きな決断になりますが、まちづくりの観点から覚悟をもって進めておられるように思いますね。

全国ではそういったモデルになる取り組みが進んでいます。私たちは、流域治水にどんな取り組みがあるのか、制度についてまとめた流域治水施策集や、流域治水の取り組みの中でも全国の優良事例・先進事例をとりまとめた流域治水優良事例集を作成していますので、ぜひ参考にしてみてください。

流域治水のメニューや優良事例を紹介中

流域治水施策集、優良事例集 >

計画に魂を入れる

最初に、各地域で特定都市河川の指定が進んで、流域治水の本格展開が始まるというお話をしましたが、実際、特定都市河川の指定を受けた地域では、「流域水害対策計画」を立てて実行に移していきます。今まさに、全国でどんどん計画を作っていくタイミングです。この計画策定は、河川管理者だけでなく、自治体の首長さんや関係者が共同して行うもので、そういう枠組みを整備していることが、特定都市河川法のキモです。正直、産みの苦しみというか、手探りな感じもあり、どれが正解なのかわからないこともありますが、どれも水害対策として地域一体で検討して取り組もうとしていることであり、そうやって前向きにチャレンジしていくことで、計画に「魂」が入ると考えています。

計画ができたら、企業による施設整備計画を自治体が認定することで、費用や税制面での支援が受けられるようになります。自社が立地している地域が、特定都市河川の指定を受けているか、指定を受ける予定があるか、流域水害対策計画の策定が進んでいるかなど、特定都市河川ポータルサイトや自治体HP等でぜひ確認してみてください。

身近なところから発想を

以上、特定都市河川についてお話ししましたが、こういった施策によって企業や自治体のみなさんによる「流域治水」を後押ししていきたいと考えています。しかし、そもそも企業や自治体のみなさんは、流域治水の取り組みといっても、何かすごいことをしなくてはいけないのでは? と考えてしまうかもしれません。

しかしそこは身構えず、大雨による災害をイメージしてもらって、そういう時にまず自分を守るためには何ができるんだろう、と考えてみてください。自分のお店、オフィスや工場が浸水することを考えれば、とれる対策は結構思い浮かぶと思います。例えば、工場に外壁を作って浸水を防ぐことも流域治水の取り組みです。

次は、自分のことだけでなく自分が根ざす地域にとって何ができるのだろうと、視野を広げればもう少し大きく考えることができると思います。自社の敷地に、地域の分(下流の分)の水を溜める施設として作りましょうとか、水害が起きた時に、自社の工場を避難場所にできるように少し地盤を高くしましょうとか、そういったことが流域治水の取組として、地域にとってとても重要なことになります。

あまり堅苦しく考えないで、水害から身を守るために何をすれば良いのか考えてみる、それが基本的には正解なのかなと思います。何も思い浮かばない場合には、例えばどのくらいの雨が降ったら自社は浸水するのか、そういった水害リスクをまず知ることも流域治水の取り組みの立派な第一歩だと思いますので、そういったところから始めてみてはいかがでしょうか(→vol.15参照)。

大切なことは、伝え合うこと

カワナビvol.16では、特定都市河川の指定を受けるとできることを中心に、流域治水にどう取り組んでいただきたいか、考え方を記事にしてみました。雨水貯留浸透施設を作ることや、まちづくりの観点から水害対策に取り組んでいる地域があることを紹介しましたが、あと一つ、すぐにできる取り組みを清田係長が話してくれました。

それは「伝える」ことです。特定都市河川のことに限らず、水害のニュースだったり、こんなまちづくりをしているところがあるらしいとかだったり、普段から知ったことを人に伝える、共有していく、そんな心がけが実はとても大切なことではないかということです。その広がり、みんなのアクションで地域が、流域が安全になるといいですね。

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