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COLUMN

地域交通DX推進プロジェクト「COMmmmONS(コモンズ)」の背景をより深く知るための、地域交通やモビリティの識者による寄稿をお届けします。
都市・交通のシンクタンクに従事し将来のモビリティビジョンを描くスペシャリストとして活動する、計量計画研究所理事の牧村和彦氏によるコラム。海外でもコロナ禍を通じて交通産業は厳しい状況に直面してきた中、欧州ではどのような動きが起きているのか。牧村氏が紹介します。

地方創生の源~欧米の都市交通ビジョンと一体のDX、GX戦略とは~
(計量計画研究所 理事 牧村和彦氏)

これからの都市交通・地域交通のあり方を検討していく際には、交通分野内における個別最適化ではなく、都市や地域の総合計画や環境計画、マスタープランなどとの総合的な連携が重要になるという。官民によるデータ連携やMaaSの取り組みの先にあるものとは。

都市交通ビジョンと一体となったDX、GX戦略へ

 欧米の成長力原動の一つに、行政の中期的な都市交通戦略と民間の移動産業政策が一体で進められてきたことがあげられる。移動産業政策はマイカー偏重ではなくモビリティ産業総動員の政策が特徴的だ。また、国、州、都市圏の異なる行政政策をデジタルで連携したデータガバナンス政策も功を奏してきた印象がある。多くの都市圏で運営費だけで毎年数百億円規模の移動を支える公共投資が続けられている。その結果であろう、欧州の都市を訪れると、老若男女問わず多くの市民で街は賑わい、交通空白や運転士不足とは無縁な社会が存在し、モビリティサービスのDXやGXが日常となっている。

 わが国では、将来交通ビジョンを掲げている都市はあるものの、地域の総合計画や環境計画、都市マスタープラン、立地適正化計画さらには産業政策との連携が十分ではなく、個別の交通計画が将来交通ビジョンとは連動しない形で存在している都市が多いように感じる。個別の計画には、地域公共交通計画、駐車場計画、自転車計画、スマートシティ計画、MaaS関連の計画、渋滞計画、交通安全計画などがあり、それぞれの役割、それぞれが最適化された戦略として機能しているものの、全体最適としては不十分な印象だ。 

統合された交通ビジョンの成果を誇らしげに報告するゲント市職員のイメージ画像
統合された交通ビジョンの成果を誇らしげに報告するゲント市職員(筆者撮影)
マイカー半減を実現したゲント中心部のイメージ画像
マイカー半減を実現したゲント中心部(筆者撮影)

 気候危機への対応、公正性(イクイティ)の確保、モビリティ産業の育成などの新たな政策目標に立ち向かっていくためには、従来の個別最適な交通計画や交通事業からの脱却が緊急課題である。また、個別の計画の横串、連携を促進していくためには、官民によるデータ連携基盤と市民向けの移動サービスであるMaaS、リアルな移動環境改善の3本の矢が求められる。

 地域の都市交通ビジョンの一体となったモビリティ産業のDX、GXが喫緊の政策課題であろう。

自動運転とMaaSが融合したデジタル地域生活圏形成へ

 サンフランシスコで本格的に始まったGoogleの無人の配車サービスWaymo One(ウェイモワン)は大きな話題だ。いまやケーブルカーに匹敵するほど、サンフランシスコの観光名所となりつつあり、ビジネスバイウェイ(ビジネス目的のちょっとした寄り道)としても注目だ。対象とするエリアも拡がり、目下ライドシェアと無人配車サービスの熾烈なシェア争奪戦が繰り広げられている。

 スタート当初は深夜時間帯のみの営業であり、無人運転の利用者の6割はライドシェアからの転換、2割が公共交通機関からの転換、2割が徒歩移動からの転換であったと報告されており、まさに破壊的なイノベーション、破壊的な行動変容が起きている都市の一つだ。サンフランシスコでは、ライドシェアが誕生した当時から駅近とそうでない不動産との価格差が縮小傾向であったものが、いよいよ不動産の価値そのものが変わる可能性もありそうだ。

 一方でオースティンはUberのMaaSプラットフォーム上でWaymo Oneの無人運転を呼べるサービスが25年3月からスタートしており、アリゾナ州チャンドラーでは、行政が運営するデマンド交通サービスにWaymoの無人サービスが統合される計画であり、官民連携も加速している。サンフランシスコでは、鉄道やBART、路線バスとWaymoを統合する取り組みも始まり、各地でMaaSと自動運転の統合も広がる気配を見せている。

 また、これまで土地利用政策と交通政策を一体で進めてきたドイツにおいては、ハンブルグに代表されるように、2030年までに公共交通機関と一体で無人運転サービスを1万台規模で展開する計画だ。郊外部や人口密度が疎なエリアに対して、駅や停留所までを無人の配車サービスで繋ぎ、集約型都市構造をより強固なものにする強いメッセージが感じられる。合わせて無人運転を含めて地域の移動サービスを利用する際の鍵がご当地MaaS(Hvv Switch)であり、すでに数年で100万DLを超え、市民に普及したサービスとの連携が進む。移動の伴走であるMaaSと自動運転が融合した社会をハンブルグでは描いている。今年に入り、ハンブルグ、ベルリン、ミュンヘンの交通事業者が連携し、無人運転車両の調達、MaaSのプラットフォームの統合に着手しており、デジタル公共財や交通連合が始まっている点も注目だろう。

ハンブルグ市内全域を対象に、年間290万人以上を輸送する乗り合いサービスのイメージ画像
ハンブルグ市内全域を対象に、年間290万人以上を輸送する乗り合いサービス(筆者撮影)

 わが国においても、今後地域生活圏の形成に向けた取り組みが本格化する計画であり、その際には、デジタル技術で市町村の行政界を超え、MaaSと自動運転を別々のサービスとするのではなく、デジタル時代のプラット-フォームをMaaSとし、市民に提供される移動サービスの一つに自動運転が加わるといった絵姿を描いていくことがデジタル生活圏の実現には極めて大切だ。

 まさにMaaSはこれからのビジネスであり、今後は人とモノの区分が薄れていき、不動産と可動産の2つの産業が始まっていく可能性が高い。MaaSブームは終わったというような風説に惑わされることなく、引き続き、グローバルな視点で自国ファーストのモビリティサービスの連携、推進が望まれる。

プロフィール

牧村 和彦(計量計画研究所 理事、CoIU(コーイノベーション大学)教授、神戸大学客員教授)

モビリティデザイナー。東京大学 博士(工学)。JCoMaaS理事、JCOMM理事。都市・交通のシンクタンクに従事し、将来のモビリティビジョンを描くスペシャリストとして活動。内閣府、内閣官房、国交省、経産省、環境省、大商等の委員を数多く歴任。代表的な著書に、「MaaSが都市を変える(学芸出版社)、不動産協会賞2021」、「MaaS~モビリティ革命の先にある全産業のゲームチェンジ(日経BP、共著)」、「Beyond MaaS(日経BP、共著)、交通図書賞他」等多数

牧村 和彦さん(計量計画研究所 理事、CoIU(コーイノベーション大学)教授、神戸大学客員教授)のイメージ画像

Updated: 2025.12.12

文: 牧村 和彦(計量計画研究所 理事、CoIU(コーイノベーション大学)教授、神戸大学客員教授)

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