ARTICLE

地域交通の課題解決に向けて、使っていない車の活用に挑んでいるのが株式会社TRILL.です。同社は、個人のマイカーや法人の社用車を「共同使用契約」に基づいてシェアするカーシェアリングサービス「OURCAR(アワカ)」を展開しています。代表取締役の藤森研伍氏に、その取り組みやCOMmmmONSでの実証を通じて見えてきた未来像を聞きました。

使っていない車を地域のセーフティーネットに。共同使用カーシェア「OURCAR」

レンタカーもカーシェアも届かない場所の「足」をどうするか

 「車がないと、行けない場所が多すぎる」。地方や中山間地域に住む人なら、一度は感じたことがある悩みではないでしょうか。駅から離れたラーメン屋や、ふと思い立った夜の温泉、終電後に友人を家まで送り届ける時間――そこに“足”があるかどうかで、日常の選択肢は大きく変わります。

 こうした課題に対し、「使っていない車」を地域のセーフティネットに変えていこうとしているのが株式会社TRILL.です。長野県を拠点に、個人のマイカーや法人の社用車を「共同使用契約」に基づいてシェアするカーシェアリングサービス「OURCAR(アワカ)」を展開しています。

 長野のような地方都市や中山間部では、「車があるかどうか」が生活の自由度を左右します。バスの本数は少なく、駅前のレンタカー店は夜には閉店。都市部のように24時間使えるカーシェアもありません。

 株式会社TRILL. 代表取締役の藤森研伍さんは、こうした「交通空白」の課題を、身をもって感じてきました。

 「大学1年の頃、長野県で車のない生活をしていて、本当にしんどかったんです。坂道はきついし、どこに行くにも一苦労で」

 その一方で、地域には「使っていない車」もたくさんあります。平日は通勤に使うものの、週末はほぼ駐車場に眠っているセカンドカー、自治体や企業の公用車・社用車、さらにはオフシーズンになるとほとんど動かない観光地の車両……。

 「使われない車」と「動きたくても動けない人」。このギャップをどう埋めるか。その問いから、OURCARの構想は始まりました。

誕生日の南京錠とティッシュ箱から始まった、シェアリングの原点

サービス開始当初のイメージ。車にはキーボックス(写真左)と利用案内、料金箱(写真右)が置かれている。料金はお手製の料金箱に入れる簡易な仕組みのイメージ画像
サービス開始当初のイメージ。車にはキーボックス(写真左)と利用案内、料金箱(写真右)が置かれている。料金はお手製の料金箱に入れる簡易な仕組み

 事業の原点は、とても素朴な「実験」でした。

 「おじいちゃんから車を譲り受けて、友達からも車をもらって、一時期2台持ちになったんです。そこで、1台をみんなで自由に使ってもらえたらいいなと。自分の誕生日を暗証番号にした南京錠を付けて、料金はティッシュ箱に現金を入れてもらう無人貸し出しをやってみました」

 これが、現在の無人カーシェアのプロトタイプでした。初日から売上が立ち、「自分の手で価値を生み出せた」という手応えがあったと振り返ります。

 さらに、OURCARにはもう一つの原体験があります。学生時代、半年間バックパックでアフリカを旅したときに訪れた、電子部品の巨大な廃棄場です。

 「ガーナにある電子廃棄場では、電子部品や車が山のように捨てられていて、現地の人たちが燃やしているんです。黄色い煙が立ち上っていて、それが原因で健康被害も出ている。『知らなかった』だけで、その一端に先進国として自分も加担してしまっていることへの罪悪感がすごくて」

 アフリカのコミュニティでは、お金は「トマトと石鹸」に使う程度で、あとは助け合いで成り立っていたと言います。「さつまいもが余ったからあげる」「学費が足りないから少し助けて」など、地域で支え合う暮らしぶりに、藤森さんは強い魅力を感じました。

株式会社TRILL. 代表取締役 藤森研伍氏 イメージ画像
株式会社TRILL. 代表取締役 藤森研伍氏

 「日本にも昔はあったはずの助け合いの感覚が、今は薄れていると感じました。モノを共有するシェアリングは、その助け合いを現代にインストールする仕組みになり得る。大量生産・大量消費のサイクルを少しでも緩められるんじゃないか、と」

 その後、東京で就職しつつも頭の片隅にはずっと「シェアリング」の構想がありました。退職時に100個ほど事業アイデアを書き出したなかで、「いちばん手触り感があり、やり切りたい」と思えたのがこの事業だったと言います。

 「稼げるかどうかよりも、この仕組みが日本中に浸透した世界が見たい。その気持ちの方が大きかったですね」

「共同使用契約」に沿った仕組みで、誰でも24時間気軽に貸せるOURCAR

 OURCARは、個人のマイカーと法人の車両が並ぶ“相互型”カーシェアプラットフォームです。個人のマイカー、企業の社用車、自治体の公用車を同じプラットフォーム上で「共同使用契約」に基づいて貸し借りできるようにしています。

 特徴的なのが、車に専用のキーボックスを取り付ける仕組みです。暗証番号で開閉できるキーボックスに鍵を入れておくことで、オーナーと利用者が直接会わなくても、24時間いつでも無人で貸し借りできます。

 「以前の個人間カーシェアは、鍵の受け渡しのために必ず対面が必要でした。OURCARでは、キーボックスのおかげで“空いた時間に気軽に貸す”ことができます。イメージとしては民泊サービス『Airbnb』の車版ですね」

 利用者はWebアプリで地図を開き、近くで空いている車や料金を確認して予約するだけ。レビュー機能や、カーシェア専用の保険も備えています。

ナンバープレートの隣にキーボックスがあり、入金もアプリから簡単にできるイメージ画像
ナンバープレートの隣にキーボックスがあり、入金もアプリから簡単にできる

 料金面でも、OURCARは一般的なレンタカー事業とは異なります。ベースになっているのが、道路運送法に基づくレンタカー業の許可を要しない「自家用自動車の共同使用」の仕組みです。

 「共同使用の仕組みでは、自家用車の貸渡が営利を目的とせず、自動車維持費の範囲内であることが必要です。そこで、過去のノーアクションレターを踏まえて、オーナーと利用者による『按分』も含めた上限額のロジックを一緒に詰め、システムに実装しました」

 具体的には、オーナーが車両の購入額や年間維持費を入力すると、OURCARのシステムが走行距離などを基準に「共同使用料の上限額」を自動計算します。購入額などの初期費用、保険や車検などの維持費用を走行距離や年数に応じて按分し、「ここまでなら共同使用料として受け取ってよい」という上限額を設定。その範囲内であれば、オーナーは自由に料金を決められます。

共同使用のイメージ図(TRILL.のピッチ資料から) イメージ画像
共同使用のイメージ図(TRILL.のピッチ資料から)

 目安としては、コンパクトカーで30分300円程度。一般的なレンタカーと比べると破格の料金ですが、その理由は「オーナーが絶対に儲からない」仕組みになっているからです。

 さらに、貸し出しの累計額が上限に近づくと自動的に貸し出しをストップし、次の車検のタイミングで上限額を再計算して再開できるようにしました。

 OURCARの利用者からは、「車がないと行けなかった、郊外のラーメン屋さんに行けるようになった」、「温泉に気軽に行けるようになった」といった生活の変化を感じる声が届き始めています。

 なかでも利用者からの声で藤森さんの印象に残っているのが、友人との過ごし方にまつわるエピソードです。

 「今までは終電までしか一緒にいられなかった友達と、OURCARを使うことで時間を気にせず過ごせるようになった。そのまま送っていく車の中の時間が、普段と違って心地いい――という声をいただいて。その人の生活の“かけがえのない瞬間”を一緒に作れている気がして、すごくエモいなと」

 一方オーナー側からは、「最初は不安だったけれど、やってみると意外と大丈夫だった」「お小遣い感覚でうれしい」という声が聞かれます。

 こうした日常の小さなプラスを積み重ねながら、OURCARは「車がないと不便な地域の日常」を少しずつ変えつつあります。

COMmmmONSの実証で見えてきた、共同使用の課題とヒント

 株式会社TRILL.は、国土交通省の地域交通DXプロジェクト「COMmmmONS」に「カーシェアリングによる地域の法人車両活用実証プロジェクト」として採択されています。

 本プロジェクトでは、松本市・長野市・諏訪郡原村をフィールドに、企業の社用車や自治体の公用車をOURCARの仕組みに組み込み、料金設定や運用ルール、現場でのオペレーションが実際に回るのかを検証しています。

 こうした実証を通じて、共同使用料の上限管理や車検ごとの再計算といった制御ロジックも、実際の運用に即した形へと磨かれていきました。

 「新しいサービスは、法律や規制の解釈や運用調整にとにかく時間がかかります。COMmmmONSは国土交通省が事業主体となる実証なので、共同使用契約のロジックを確認しながら、一緒に制度の確認を進められたことがすごく大きかったです」

 実際に法人車両を対象にしたことで、リース車両が想定以上に多いことも見えてきました。リース車両を共同使用で貸し出すには、リース会社との契約整理など、さらに検討すべき点があることも明らかになりました。

 また、営業車両を社員ごとに割り当てる企業では、「車内の私物をどうするか」「キーボックスの鍵管理を誰が担うか」といった現場レベルの課題も浮かび上がっています。

 「制度面だけ整っていても、現場オペレーションが回らなければ共同使用は定着しません。その意味でも、COMmmmONSの実証は『法律・保険・現場運用』をセットで検証できる貴重な場になっています」

「交通空白」を埋める“セーフティネット”としてのポジション

 既存のカーシェアやレンタカーとOURCARの決定的な違いは、「成立するスケール感」です。

 レンタカーは、店舗やスタッフ配置が前提で、ある程度の規模の需要がないと成り立ちません。また、既存のカーシェアは、都市部の駅前やマンションなど、儲かるロケーションが必要でした。これらに対し、OURCARは、個人車も含めてどんな車でも登録できるため、10人の村でも成立します。

 「『交通空白』に対して、自動運転やオンデマンドバスなどさまざまな施策が検討されていますが、それでも届かない移動が必ずあります。OURCARはその“最後のセーフティネット”になれる可能性の高いモデルだと考えています」

イメージ図

 COMmmmONS全体のテーマである「交通モード間の連携」「標準化」は、OURCARにも通じています。共同使用の料金ロジックや車両情報が標準化され、他のオンデマンド交通や自動運転サービスとデータ連携できれば、「どの地域でも、徒歩5分圏内に使える車があり、必要に応じて他の交通モードにもつながる」世界が見えてきます。

 「今の社会システムやビジネスの枠だけで捉えると、どうしても手が届かない範囲が出てきてしまいます。COMmmmONSは、『交通空白』のように“誰も手を出しにくい領域”に対して、国として新しい枠組みを検証している点に強い共感があります」

 モビリティスタートアップは「車をたくさん持っているわけでも、買う資金が潤沢にあるわけでもない」なかで戦っています。そうしたプレーヤーが挑戦しやすい土壌を整える取り組みとしても、COMmmmONSの意義は大きいと藤森さんは話します。

日本中どこでも「徒歩5分で車がある」世界へ

 OURCARの今後の課題は、「どう事業として拡大していくか」です。現在、長野県松本市では一定の基盤ができつつありますが、県外の法人や自治体をどう巻き込んでいくかは、まだ模索の段階です。

 「法人でも個人でも、オーナーになれるのがOURCARの価値です。福祉車両やトラック、冷凍冷蔵車などが登録されることで、車椅子の家族でも気軽に旅行に行けるようになったり、地域企業同士で特殊車両を融通し合えたりする。そうした“車の多様性”を、もっと全国に広げていきたいですね」

 そのためにはまず、オーナーと利用者の双方が納得できる価格帯やルールを、地域ごとに丁寧に作り上げていく必要があります。その上で、エリアを絞りながら「どの家からも徒歩5分以内に使える車がある」状態に近づけていくことを目指していると言います。

 藤森さんは、OURCARのような共同使用カーシェアが、自動運転やオンデマンドバスと「横並びの一事業者」としてではなく、連携することで初めて見える世界があると考えています。

イメージ図

 「いま国の施策でも、自動運転やオンデマンドバスなど、さまざまな交通モードをシームレスにつなごうとする動きがあります。そこにOURCARのような共同使用モデルも加われば、ようやく『どんな場所に住んでいても、移動をあきらめなくていい世界線』が見えてくる。COMmmmONSは、その世界線に向けたひとつの実験場だと思っています」

 最後に、地域交通に関わる事業者や自治体へのメッセージを伺いました。

 「正直なところ、『交通空白』の解消は“儲からない”領域です。だからこそ、単一の事業者だけでなく、国・自治体・地場企業・スタートアップが一丸となって取り組む必要があります。OURCARとしては、法人車両や公用車を“地域のためのセーフティネット”として活用するモデルを一緒に作っていきたいと思っています」

 誕生日の南京錠とティッシュ箱から始まった小さな実験は、COMmmmONSでの実証を経て、「誰も取り残さない移動のセーフティネット」という大きなビジョンへと育ちつつあります。

Updated: 2026.01.20

文: 松下 典子(Noriko Matsushita) 編集: 北島 幹雄(Mikio Kitashima)/ASCII STARTUP 撮影: 森裕一朗(Yuichiro Mori)

関連記事を読む

TOPページに戻る
PAGE
TOP