資料6−2
遊休地の暫定利用について
1.遊休地の暫定利用の問題認識
産業構造の転換に伴って発生する工場跡地等の遊休地は、以下のような状況にあり、一般市街地とは隔離された計画的工業地を中心に遊休地の発生と本格的な土地需要の間には時間的なずれが生じている場合がある。
工場施設等の遊休化はそれぞれの企業固有の事情によって発生するため、その時期や場所をあらかじめ都市計画において想定することは困難である。
遊休地を抱える企業は、できるだけ早い処分や土地利用転換を希望しているところもあれば、その決断ができずに様子見のところもある。
無秩序な土地利用転換やそれに伴う土地利用規制の緩和は、周辺で操業中の工場の存続を脅かすおそれがある。
最近の経済社会状況の下では、立地条件にもよるが、遊休地に対する本格的な需要は限定的であり、また、本格的利用にインフラが対応していない場合もある。
都市政策上や産業政策の観点からは、大規模土地に関する将来需要について、不透明な部分が多い。
都市計画においては、再開発地区計画や各種の面整備事業など遊休地の土地利用転換を進める制度そのものの整備はかなり進んでいることから、産業構造の円滑な転換と望ましい土地利用の実現との両立を図るためには、むしろ上記のような遊休地の発生とそれに対する本格的な土地需要の具体化との間に発生するずれを調整する仕組みとして、都市計画における暫定利用の方向性と、それに対する方策を検討することが重要であると考えられる。
なお、遊休地の暫定利用に関しては、平成9年度に、神奈川県・横浜市・川崎市による「京浜臨海部再編整備協議会」や、学識経験者と民間企業によるワークショップ(座長・小林重敬横浜国大教授)で、暫定利用について検討が行われているほか、臨海部の実際の動きとしても、東京都港湾局が、平成8年11月、臨海副都心の未利用地約11haを10年間の期限限定で暫定的に活用する方針を定め、事業を公募し、平成11年3月に、「パレットタウン」としてオープンしている。
2.暫定利用の現状と問題点
(1)暫定利用の現状
暫定利用の一般的事例からは、分野、規模、立地、経営主体など、多様な展開が見られる。分野別では、仮設施設や屋外利用の物販、飲食、サービス施設など、規模別では、オートキャンプ場やゴルフ練習場のような大規模なものから、自販機ショップやトランクルームのような小規模なものまで幅広い。また、立地別では、中古車展示場や住宅展示場などのように主にロードサイド型のものから、郊外、繁華街など立地ポテンシャルを生かした利用が展開されている。経営主体別では、土地所有者の直営型、他者への賃貸型に大別できる。平成3年の新借地借家法による事業用借地権(10年以上20年以下)の活用が増えている。(参考「遊休地の暫定的利用事例の分類」参照)
最近の例としては、臨海副都心における「ビーナスフォート」、JR亀戸駅近接の「サンストリート」のように、期間を限定した「暫定的」性格を持ちながらも、本格的利用に耐えうる施設のものが出てきている。(参考「特色のある暫定利用事例」参照)
(2)暫定利用に伴う問題点
暫定利用の事例などから、工場跡地等の遊休地の暫定利用を考える場合の一般的な問題点としては、次のようなことがあげられる。
■立地及び規模の制約
一般的に行われている暫定利用の中には、立地条件として住宅地や繁華街への近接性、交通の利便性などを求めるものや、必要とする規模の小さいものが多く、臨海部の工場跡地等に適した暫定利用の幅は限られている。
■土地利用の制約
暫定的な土地利用であっても、原則として現行の土地利用規制に従うことになるため、大量の遊休地の発生が予想される工業専用地域や臨港地区においては、より暫定利用の幅が限られている。(参考「工業専用地域・臨港地区の暫定利用の用途規制」参照)
■10年未満の賃貸借契約
土地の賃貸借において、10年以上の場合には、定期借地権(期間10年以上20年以下の事業用借地権)の活用により、土地所有者、借受による事業者の両者にとって賃貸借が保証される。しかし、10年未満の場合には、一時使用許可(通常1年未満)を毎年再契約することが考えられるが、事業者にとっては、当初想定した事業期間(例えば5年)にわたって土地を借受けることの保証がない。
■期間限定建築物の減価償却
事業用借地権による期間限定建築物については、借地借家法と税法がリンクしていないことから、期間満了後に未償却資産が残る。事業用借地権の利用期間(10年以上20年以下)と建物の法定耐用年数(例えば、S造(重量鉄骨造)の店舗の場合は34年)が乖離している。
■仮設建築物の事業採算性
建築基準法第85条に「仮設建築物」の規定があり、第4項で、期間は1年以内、適用建築物としては「仮設興行場、博覧会建築物、仮設店舗その他これらに類する仮設建築物」とある。現実には、1年毎に更新を行い期間を延長している場合が多い。事業採算性の確保からは、ある程度の期間が必要である。
3.暫定利用の考え方
(1)暫定利用の都市計画的意義
(通常の都市計画行政を補完、補強する意味での意義)
■アメニティの向上、防災への備え
都市計画公園、緑地、防災空地等都市計画上必要な用地の一時的な代替施設になりうる場合、また、本格的な都市計画事業としては取り上げられないが、水辺へのアクセス強化などアメニティの向上にとって意義のあるプロジェクトになりうる場合など、暫定的な緑地等を設けることは積極的に評価できる。(宅地並課税と連動した生産緑地の指定は同様な効果を評価されている。)
■隣接する密集市街地整備の受け皿
密集市街地に隣接する遊休地の場合には、当該密集市街地の整備事業の実施に伴って、一時的に建物や機能を移転する受け皿として活用することによって、密集市街地の整備を促進する効果が期待できる。
■大規模な土地利用転換に備えた土地の確保等
大きな土地利用の変動が見込まれるが、現時点ではその内容や時期についての確定的な見通しがたてられない場合、時間を限定した暫定的な利用により、将来の土地利用転換に備えて土地を確保しておく効果が期待できる。また、暫定利用を通じて望ましい土地利用への誘導や、長期的土地利用の動向を見定めるための実験を行うことも考えられる。
(現実的な要請に対応しての意義)
■現行土地利用との間に摩擦が発生する可能性のある新規プロジェクトの併存
かなり広い地域での土地利用変動があるとき、既存の用途と新しく提案されるプロジェクトの間で摩擦が発生する可能性があり、かつ当分の間は既存の用途を共存させる必要がある場合には、新しいプロジェクトを暫定的なものとして、用途地域の変更等を行わずに個別に処理する方が、現実的な解決策である場合がある。例えば、工場集積ゾーンにおいて、既存工場の操業環境を確保しながら、新しいプロジェクトを展開していく場合が考えられる。
■長期化する事業の中での土地の有効活用
長期的な趨勢は明らかであり、都市計画的には区画整理事業や公共施設整備事業で対応するとしても、事業の実施期間が長期に及ぶ場合、当該地域内の土地を長期的な目標には適合しないものであっても、暫定的に利用させる方が、土地を遊ばせておくよりも現実的である場合がある。
(その他の意義)
■経済活動の機会の増大
土地利用の長期的な目標を実体的に阻害しない場合には、変動する土地利用の過程において暫定利用を促進し、民間投資の機会を増大させることは、経済活性化の観点から、むしろ推奨されるべきである。
■既設建築物の再利用による事業性の向上や新産業の苗床の供給
遊休化した工場や倉庫などの既設建築物を再利用することによって、建築コストの低減を図り、事業性を向上させるとともに、低廉な床の供給による新産業の苗床としての利用を図ることが期待できる。
■マーケットへの迅速な対応
期間限定の利用により、変動するマーケットに迅速に対応することができる。
(2)暫定利用の概念規定
暫定利用の方向性の検討に際して、「暫定利用」の概念を以下のように規定しておく。
■期間の限定性
利用期間が限定されていること。
利用期間としては、現行の賃貸借法上では、定期借地権の事業用借地方式における最低期間の10年がひとつの区切りとなるが、ここでは、短期(概ね5年〜10年)、中期(概ね10年〜15年)の2つに分けて規定しておく。
■建築物の仮設性
建築物はないか、あるいはある場合にも利用期間が終了後の施設の解体、移動等を前提としていること。
利用期間が限定されており、利用期間終了後の建築物の解体、移動等を前提としていることから、現行の土地利用規制に必ずしも限定されないとともに、将来の土地利用も拘束しないこと。
(3)暫定利用の方向性の提案と課題
産業構造の転換に伴う遊休地の発生と本格的な土地需要と間のずれを調整するために、(1)で述べた暫定利用の都市政策的意義を踏まえ、一般市街地と隔離された計画的工業地において発生する遊休地などを念頭に置きつつ、想定される暫定利用のねらいと課題を次のように整理した。
■一般開放型空地(暫定緑地)
【趣旨】
遊休地が自社開発や現所有者以外による開発等が当面行われる計画のない場合について、土地の緑化を図り、市民が自由にアクセスでき利用できる公園的な場所として公共的な活用を図る。
大きな遊休地にも対応でき、整備や将来の転用に要する費用も比較的小さい。
将来大きな土地利用転換が見込まれる場合には、地域イメージを変える先導的プロジェクトとなる可能性がある。
【課題】
公園的な利用によって市民から継続の要求が起こったり、希少生物が棲息した場合に保護が求められることもあり得るため、土地所有者にとって、暫定利用後の土地利用転換を妨げないルール、規定などが必要である。
維持管理において、何らかの事故に対する責任問題や、緑地としての維持費など、土地所有者の負担を軽減する対策が必要である。
なお、時価会計の導入、鑑定評価での収益還元法の適用の場合に土地の担保評価額の下落の可能性が指摘される場合があるが、これは暫定利用の有無に関わらず利用可能性の低い遊休地に共通する課題である。
■特定利用型空地(暫定空地)
【趣旨】
暫定緑地と同様、遊休地が自社開発や現所有者以外による開発等が当面行われる計画のない場合について、空地として産業利用等を図る。例えば、従来から行われているゴルフ練習場、テニス場、貸グラウンド、資材置き場、駐車場などのほか、今後、増大する建設廃材のリサイクル場(置き場)などが考えられる。
比較的大きな遊休地にも対応でき、整備や将来の転用に要する費用も比較的小さい。また、ある程度の収益も期待でき、何もしないよりはましである。
【課題】
ゴルフ練習場、テニス場、貸グラウンド等の場合には、暫定緑地と同様、土地所有者にとって暫定利用後の土地利用転換を妨げないルール、規定などが必要である。
■暫定建築物
【趣旨】
長期的な土地利用の需要がない場合に、期間を限定して、建築物の暫定利用を図るものであり、次の3つのタイプが想定される。
a.既存建築物:遊休化した既存施設を借りて事業を行うもの
b.仮設建築物:建築基準法第85条の「仮設建築物」を建設して事業を行うもの
c.本格建築物:通常の建築物として建設して事業を行うもの
いずれの場合にも、倉庫など現状の土地利用規制に適合するものに限らず、期間限定であることを前提として個別に規制の緩和を受け、店舗、アミューズメント施設などとして利用することにより、比較的高い収益を上げることも可能である。
【課題】
a.既存建築物
建物所有者にとって、利用者等の権利が期間満了後に残らないようにすることが必要である。(定期借家権を利用すれば期間満了後には返還が保証されるが、通常の賃借契約の場合、正当事由がないと期間満了後の更新を拒むことができない。)
既存建築物の用途を変更する際に、現行の建築基準に適合させるため相当の投資が必要になる場合がある。
b.仮設建築物
既存建築物と同様、土地所有者にとって、利用者等の権利が期間満了後に残らないように、借地契約を、一時使用許可(仮に10年を超える場合には、事業用借地権も選択肢となる)に基づくものとして、期間満了時の更新に際して所有者の正当事由を求められないようにすることが必要である。
事業者にとって、1年以上事業を継続する場合、仮設建築物が一定期間にわたって期間延長される保証がなく、一時使用許可で土地を借りる場合、一定期間にわたり土地を借り続けられることの保証がない。
c.本格建築物
土地所有者にとって、利用者等の権利が期間満了後に残らないようにすることが必要である。(事業用借地権を利用すれば期間満了後には返還が保証される。)
借地借家法と税法がリンクしていないため、期間満了時に未償却資産が残る。
期間10年未満(現在は一時使用許可が用いられている)の場合、一定期間にわたり土地を借りることを保証する適当な土地貸付方法がない。
なお、期間限定であっても通常の建築基準に適合することが求められるため、過剰投資ではないかという指摘も一部あるが、一方で安全等に関わる基準であるためやむを得ないとする事業者もある。
d.共通事項
期間限定であることを理由に規制の緩和を受けるための明確なルールがない。
4.遊休地の暫定利用を促進する方策
以上の検討をもとに、産業構造転換に伴う工場跡地等の暫定利用に関し、一般開放型空地の場合、特定利用型空地の場合及び暫定建築物の場合それぞれについて、必要な促進方策を以下の通り提案する。
(1)一般開放型空地(暫定緑地)について
暫定的な緑地の提供、臨海部における水辺の開放などは、都市環境の改善やアメニティの向上など公共性が高い場合があるので、そのような利用について土地所有者の意向が強い場合には、都市政策の観点からも積極的にこれを取り上げ、次のような措置を検討することが適当である。
産業政策の観点も含めた固定資産税の減免
簡易な緑化、利便施設や護岸、アクセス道路等の整備に対する支援
借り上げや使用料の支払い(一種のPFI方式)
なお、将来の本格的利用への転換に関する土地所有者の不安を軽減するため、将来も残さざるをえない最小限の緑地等を都市公園等として決定し、暫定利用期間の終了に際して地方公共団体が買い取るというような方策も考えられる。
(2)特定利用型空地(暫定空地)について
暫定的な空地利用に関し、産業政策の観点から固定資産税の減免等について検討するとともに、都市政策の観点からも、具体的な事業計画について、当該計画が周辺の土地利用や公共施設整備の状況から判断して特段の支障がない場合には、必要に応じて個別の許可等を柔軟に行うことを検討すべきである。
(3)暫定建築物について
暫定的な建築物利用に関し、産業政策の観点から固定資産税の減免や事業用定期借地権を活用した建築物の割増償却について検討するとともに、都市政策の観点からも、具体的な事業計画について、当該計画が周辺の土地利用や公共施設整備の状況から判断して特段の支障がない場合には、必要に応じて個別の許可等を柔軟に行うことを検討すべきである。また、既存建築物の再生利用に対する建築基準法の仮設建築物の規定の適用についてもあわせて検討すべきである。