第2部 海上交通をめぐる現状・課題と政策的対応
(ii)二国間協議における取り組み
(A)米国
 (a) FMC制裁問題
 1996年11月、米国 連邦海事委員会(FMC) は、我が国の民間における港湾慣行である 事前協議制度等 を問題として、それが改善されない場合には我が国海運企業3社が米国の港に寄港する度に10万ドルの課徴金を課すとの制裁措置を発表した。
 我が国は、かかる一方的制裁措置は、相手国企業に対する最恵国待遇及び内国民待遇を定めた日米友好通商航海条約に違反するのみならず、WTOの精神にも違背するものであるとして、その即時撤回を求めた。
 同制裁措置は、1997年4月に日米間で事前協議制度等の改善に関する協議覚書が締結されたことを受けて同年9月4日まで停止されていた。4月以降も、日本国内において米国海運企業を含む関係者間で数十回に及ぶ話し合いを行うとともに、運輸省からは関係者の意見を踏まえ、数度にわたり調整案を提示するなど、関係者が事前協議制度の改善のための協議を続けていた。しかしながら、FMCは、9月4日に至るも事前協議制度の改善がみられないとして、同日、我が国海運企業3社に対する制裁措置を発動した。
 その後も、9月分の課徴金(400万ドル)の支払期日とされた翌10月15日を目前に控え、運輸省はギリギリまで民間の関係者間における合意を得るべく努力を続けた。その結果、米国海運企業等を除く運輸省を含めた関係者間で事前協議制度の改善についての事実上の合意が得られたことを受け、10月10日から米国ワシントンD.C.において日米海運協議(日本側;岩村海上交通局長他、米側;グレイコウスキー海事局長代行他)を開催し、事前協議制の改善についての進捗状況を説明するとともに、制裁措置の撤回を求めた。しかしながら、米側が港湾労使問題に対する日本政府の介入をあくまで求めたことから協議は難航した。他方、FMCは、日米間で協議が継続中であるにもかかわらず、課徴金を支払わないとして、米国沿岸警備隊に対して上記3社の運航船舶の入出港を差し止めるよう要請するという強行措置に出ようとした。このような状況の中、17日には次官級協議(日本側;斉藤駐米大使、米側;アイゼンシュタット国務次官)が開催され、事前協議制度の改善等について大筋合意に達した。しかしながら、FMCは強行措置の実施は留保したものの、依然として課徴金の徴収に固執したため、10月27日、上記3社はFMCに150万ドルを支払うことを余儀なくされた。
 その後、11月10日に斉藤駐米大使とオルブライト米国務長官との間で事前協議制度の改善について関係者間で合意がなされたこと、今後、日本における港湾慣行について問題が発生した場合には、原則として、まず日米間の協議による解決を試みるとともに、米国国務省等からFMCに対し、協議中は制裁措置を控えるよう勧告すること等を確認した書簡が交換される形で決着し、FMCは13日に制裁措置を停止したが、未だ完全に撤回するには至っていない。
 米側の制裁措置は日米友好通商航海条約に違反する行為であるため、その全面撤回を求めて、1998年1月、我が国の申し入れにより、同条約に基づく協議を開始したところであり、今後とも強くその撤回を申し入れていく。
 さらに、今回の米国の制裁措置のように、外国政府が日本海運企業に対し不当に差別的な負担金・課徴金の納付を義務付ける等一方的な制裁措置を行う場合に、我が国として対等な立場を確保するし、こうした不当な措置に対抗できるようにするため、当該国の外航海運企業に対し、その国が徴収する負担金・課徴金に相当する金額の納付を通告することができるようにすること等を内容とする「外国等による本邦船舶運航事業者に対する不利益な取扱いに対する特別措置に関する法律(いわゆる対抗立法)の一部を改正する法律」が、議員立法により1997年12月12日に成立し、19日公布、施行された。

 (b) 米国の海運政策
 米国は、国家安全保障を理由として、自国商船隊に対して手厚い政府助成を行うとともに、軍事・戦略物資や開発援助物資等の海上輸送にあたっては、その全部又は一部を米国籍船にのみ運ばせるとの貨物留保措置をとっており、我が国を含む各国海運企業による自由な国際海運活動を阻害する要因となっている。
 現在問題となっている主な事項は以下のとおりである。

(ア) 新運航補助制度(MSP:Maritime Security Program)
 米国政府は、1937年、国家緊急時の際に徴用できる自国商船隊の整備を目的として、主要外国航路に就航する自国海運企業に対して外国海運企業の船舶運航費との差額を補助するための運航費差額補助制度(ODS:Operating Differential Subsidy)を創設して以来、自国海運企業に対して多額の政府補助を実施してきた。
 ODSは1998年末に終了するものの、引き続き、国家緊急時の徴用を条件として、一定の米国籍船を対象に毎年1億ドルにのぼる運航費差額補助を10年間にわたって実施するための法案が1996年に可決された。この新運航補助制度(MSP:Maritime Security Program)の対象船舶は、コンテナ船40隻、 LASH船 5隻及び自動車専用船2隻の計47隻であり、一隻あたり年間210万ドル(初年度230万ドル)にも及ぶ補助が可能となる。我が国としては、かかる政府補助が、外航海運の自由かつ公平な競争を歪めるものであることから、日米二国間協議等を通じて米国に撤回を申し入れているところである。

(イ) アラスカ原油の輸送問題
 1995年1月、アラスカ原油輸出禁止解除法案が米国議会に提出され、同年11月に可決された。
 同法は、アラスカ原油の輸送にあたっては米国人が乗り組む米国籍船でなければならない旨規定しており、従来の軍及び政府貨物についての貨物留保措置に止まらず、原油という一般商業貨物に対してまで貨物留保措置を導入したものであることから、極めて保護主義的性格が強いものである。
 米国政府によるかかる自国商船隊保護政策は、海運自由の原則に反するとともに、交渉期間中は新たな保護主義的措置を導入しないことを定めたWTOの海運継続交渉に関する閣僚決定に反し、他の国での同様の保護政策の発動を誘引するおそれもあるため、我が国としては、1996年7月、亀井運輸大臣からバシェフスキー米国通商代表代行及びペーニャ米国運輸長官あてに当該措置の撤廃を求める書簡を発出したほか、直接日米二国間の協議の場において、また、 CSG 加盟諸国とも協調しつつ、今後ともその撤回を米国に強く申し入れていくこととしている。

 この他、我が国が重大な関心を寄せている問題として、1997年外航海運改革法案がある。

(ウ) 1997年外航海運改革法案
 1984年米国海運法 の改正法案として提出された「外航海運改革法案」が、1998年4月に米国上院本会議において可決された。今後、下院において審議されることとなる。
 同法案は、(i) 同盟 はメンバーである海運企業が個々の荷主との間で個別に サービス・コントラクト(S/C) を締結することを禁じてはならないこと、(ii)サービス・コントラクト(S/C)について、従来公表されていた 運賃等の情報を今後非公表とすること 、等を内容とするもので、同盟を中心とする外航海運のあり方に影響を与えるものであるため、我が国としても重大な関心を寄せている。
 また、同法案は、外国海運企業の運賃設定のあり方等を規制する権限をFMCに賦与することを内容とする1920年商船法第19条の改正案を含んでおり、今後、FMCが我が国を含む外国海運企業の運賃設定のあり方等を一方的に規制することを可能とするものであるため、我が国としては、直接又はCSG加盟国と協調しつつ、米国に対して我が国の懸念を申し入れている。

(B)EU(欧州連合)
 (a) EUの海運競争政策
 EUの競争法(ローマ条約)においては、企業間協定や共同行為を一般的に禁止しているが、我が国と同様、海運分野については、運賃協定等を行う海運同盟に対して、一定の条件の下で同法の包括的適用除外を認めている。
 1992年12月、欧州委員会は、欧州域内の陸上輸送を含む同盟運賃の設定に関して、同法違反である旨の決定を行い、現在、本件は欧州裁判所に持ち込まれて係争中となっている。
 我が国としては、国際的に広く行われている海陸一貫輸送の実施について欧州委員会がこのような決定を行ったことにより、我が国海運企業を含む事業活動に支障が生ずることのないよう、その動きを注意深く見守っているところであり、日・EU運輸ハイレベル協議等を通じて、我が方の懸念を伝えている。

 (b) 海運に対する国家助成についてのガイドライン
 1996年12月、EUは、EU商船隊の競争力の強化を目的として「新海運戦略に向けて」と題する委員会コミュニケを採択した。
 この新海運戦略に基づき、1997年7月、EUは「海運に対する国家助成についてのガイドライン」を公表し、99年1月までにEU諸国の既存の国家助成をこのガイドラインに整合させることとしている。
 同ガイドラインは、EU諸国が自国海運企業に対しての支援として、当該企業が納付する法人税や社会保障費用等の総額までEU諸国が自国海運企業に助成を行えるとの内容となっている。
 我が国としては、この政策がEU諸国における各種の国家助成を容認又は助長し、外航海運の自由かつ公平な競争を歪める可能性があるため、日・EU間の二国間協議の場を通してその内容を明らかにし、問題を生ぜしめないようにしていくこととしている。

(C)中国
 日中両国の海運関係は、1972年の日中国交正常化を契機として締結された日中海運協定を基礎としており、同協定が発効した1975年6月以来現在に至るまで、14回にわたって二国間協議を積み重ね、両国間の海運問題の解決に努めてきた。近年、中国は、計画経済から市場経済への移行に伴って、自国海運市場の漸進的自由化を進めてきているが、依然として保護主義的な各種の制限が残されており、我が国はその撤廃に向け粘り強く交渉を行ってきている。
 その中でも特に重要な事項として、我が国海運企業による自由な営業活動の確保の問題がある。1993年6月に東京で開催された二国間協議の結果、我が国海運企業が中国国内に独資現地法人を設立すること等が初めて認められ、現在我が国海運企業3社が、独資現地法人を設立し、営業を行っているものの、依然として独資現地法人の数の制限や、既に設立されている独資現地法人の営業活動の範囲に対する制限が残っていることから、その撤廃を求めて引き続き中国側と協議を行うこととしている。

(D)韓国
 1967年以降、韓国は自国発着貨物を優先的に自国船に船積みさせる ウェーバー制度 をとってきたため、日韓間の定期貨物航路においては、韓国船が輸送をほぼ独占してきた。
 我が国としては、このような自国船優先策の撤廃を二国間協議において強く要求してきたところであるが、1995年3月の協議において、韓国側は日韓定期航路におけるウェーバー制を同年1月より廃止したことを明らかにした。また、韓国は1996年12月からOECDに加盟しているが、同加盟に際して、自国船に留保されている政府指定貨物3品目(石炭、鉄鉱及び液化天然ガス)に関する貨物留保措置についても98年12月までに撤廃することを明らかにしている。
 また、日韓間の旅客定期航路については、二国間の合意に基づき実施されており、1998年1月に二国間協議を開催し、韓国側より提案のあった従来日本海運企業によって運航されてきた博多〜釜山航路に、2隻目の高速旅客船を就航させることについて日韓双方で意見の一致をみた。この結果、1998年5月1日より韓国海運企業により同航路に2隻目が就航している。

(E)ロシア
 日本とロシアとの海運関係は、1957年12月に締結された日ソ通商条約の下で両国政府が取り交わした「定期航路開設に関する交換公文」を基礎としている。同交換公文においては、両国政府が相互に通報した海運企業同士が協議を行って日ロ間の定期航路を運営することを定めている。これを受けて、両国の海運企業間で定期貨物航路の開設について協議した結果、1958年に在来定期航路が日本の海運企業によって、1975年にはコンテナ定期航路が日ロ双方の海運企業によって、それぞれ開設されている。
 また、日本とロシアを結ぶ定期フェリー航路の開設についても、両国の海運企業間で協議が行われた結果、1995年に小樽/コルサコフ、稚内/コルサコフ間の航路が開設され、ロシアの海運企業により運航された。1996年に小樽/ホルムスク、稚内/コルサコフ間に変更された。なお、1997年以降は、投入船舶の故障により当該航路が休止され、その代替措置として旅客船による小樽・稚内/コルサコフ間の運航が行われている。



戻る