第3節 自然との共生を目指した活動を支えるために

1 生態系への負荷軽減と生態系との調和

 われわれが生活する人間社会は、昔から様々な活動によって自然へ作用を及ぼしてきた。自然はこれを生態系というシステムの中で処理し、われわれも生態系の一部として自然と共生する生活を営んできた。しかし自然へ及ぼす作用が過度になってくると、生態系システムそのものに影響を及ぼし、大気汚染や水質汚濁など生態系のシステムでは処理しきれない状況が現れた。
 これらの問題に対し、人間社会は、原因物質の除去や排出停止などの対症療法的な処置により人間社会への悪影響を最小限にするように取り組んできた。また、自然の回復・尊重への取組が行われてきたが、その場合にも、あくまでも人間活動にとって有益であり、好ましい自然状態をつくるということであったケースも多かった。
 しかし、このような人間中心の取組の結果、生態系が徐々に変化し、この変化が環境ホルモン問題を始めとして人間社会に対しても大きな影響を及ぼし始めている。また、現在、地球温暖化問題など原因が普遍的で人間活動と密接不可分な問題も出現してきており、これまでの人間中心の取組は再考を迫られている。
 今後は、従来の社会システムを見直し、資源の有効活用による環境への負荷軽減だけでなく、「循環」の考え方を再認識し、生態系との調和の中で社会経済活動を見直すことが求められる。
 また、生活者としての自分自身も環境負荷の発生原因であるという認識も徐々に深まっている。霞ヶ浦の最大の汚染原因は生活排水であるが、建設省霞ヶ浦工事事務所では住民との協力関係の下、住民が生態系の仕組みと自らも負荷原因者であるという意識を学ぶ場を設けている。例えば、アサザプロジェクトは、自然豊かな霞ヶ浦の再生を目指し、自然保護団体の方々が中心となり、地元の有志や小学生等と一緒になって、アサザ(霞ヶ浦に自生している水草)の栽培や植え付けを行う活動であり、現在霞ヶ浦や北浦の各地で進められている。

霞ケ浦の排水の種類
霞ケ浦・北浦各地でアサザプロジェクト進行中!
土浦ビオパークの水質浄化メカニズム


2 自然の脅威のリスク管理

我が国ではむかしから台風や地震をはじめとする自然災害が多く、安全を確保するため国土の安全基盤の整備が進められてきた。こうした努力により自然災害による人命の損失は減少を続けているが、一方で、自然の中での人間活動が大きくなるにつれて、災害時の想定被害も増大し続けている。このように自然の中で人間活動を捉えた場合、防災についても自然と調和したあり方が求められる。自然の脅威の発生や拡大に対する人間活動の責任やその引き受け方については、原因者であり最終的に生命・財産の危機にさらされる各人が自覚して対応していかなければならない。

 また、今後は、ハードの整備を引き続き進める一方、施設整備のみによりすべての災害を防ぐことは不可能であるという現実的な認識に基づいて、むしろ災害の発生を想定した上で、被害を最小限に軽減するための施策を予め準備する減災対策が重要であると考えられるようになった。このため、ハード面での対策に加えて災害に関する情報の提供、行政機関間での連携の強化等のソフトの対策を充実させた危機管理型防災対策が展開されている。

 一方、現在、地域の防災活動は低調であるが、今後高齢化が進めば、勤め先を持たない高齢者の増加が予想され、災害に対する備えが不十分な社会ともなりかねない。

地域と勤め先の自主防災活動

 今後は、一層、地域コミュニティの持つ防災機能を高めていく必要がある。地元住民の自覚により人的被害を回避できた例としては、平成9年7月に発生した長崎市北陽地区におけるがけ崩れがある。このがけ崩れは、家屋7戸を押し潰す大規模なものであったが、前日から斜面の変状を察知した地区住民が自治会に連絡し、警察、消防と協力しながら周辺住民に避難を呼びかけたため、深夜にもかかわらず速やかな避難が行われ人的被害を免れることができた。この例に見られるように、地域における防災体制の機能は非常に重要であり、行政と住民は相互に情報を交換し、共同作業で防災に当たることが必要である。