第4章 新たな展望と住宅・社会資本の役割
第1節 展望を開く個人の活動の量的・質的拡大
高度成長期に継続的な従属負担の低下と人口の移動集中を利用することで発展を遂げた我が国の経済社会は、今後、人口が減少する中で従属負担を高めていく。例えて言えば、高度成長期には下り坂を利用して勢いをつけて走ってきたのに対し、今後は長い登り坂を上っていくこととなる。したがって、人口減少の中での従属負担増大によって引き起こされるマイナス面を緩和する(登り坂を緩くする)ための子育て支援施策などの継続的な取組が必要である。
また一方で、人口減少の中での従属負担の増大による「逆人口ボーナス現象」も、可処分時間の増加、経験知の蓄積、交流の拡大・深化など個人の活動を量的質的に拡大充実していく環境条件が整ってくることを考えるとプラス面を実現、発展させることができれば、それを新たな人口ボーナスとして利用する(登り坂を逆手に利用する)方策が考えられることになる。
そこで、まず我が国が経験した「人口ボーナス」のメカニズムと対比しつつ今後の新たな展望について考えることとする。
人口ボーナスの特徴としては、
(1)新たに形成された生産年齢層世帯の消費の自由度の増大
(2)画一的な消費文化の普及
(3)継続的に拡大する消費と労働供給の循環
(4)就業形態における雇用者化
の4点があげられる。工業化社会において雇用者化した生産年齢層が機械的労働により規格大量生産を行い、耐久消費財を中心とした画一的な消費を行ったことが生産と消費の継続的拡大を可能にした。経済の発展段階に合わせて、最も活力を持っていた人々に対して、その特徴に相応しい活躍の場を設定したことによって活発な経済活動がもたらされたといえる。
この点から人口減少社会における「逆人口ボーナス現象」を見た場合、
(1)(高齢)単身・夫婦のみ世帯の自由度の増大
(2)より多様で高度な消費文化の普及
(3)継続的に拡大する智恵・技能と社会参加の循環
(4)ベンチャー企業の創業やボランティア活動など活動形態の多様化
が人口ボーナスと対照する点としてあげられる。
こうした「逆人口ボーナス現象」の特徴を活かし、「新人口ボーナス」とするためには、まず特定の層の特定分野における活動に着目するのではなく、個々人の行う様々な活動を量的・質的に拡大していくことが望まれる。そこで、今後の経済社会の中で、「個人の活動の量的・質的拡大の可能性」を三つの側面から考えてみる。
(ア)個人の役割や裁量の範囲の拡大
人口減少によりピラミッド型組織の維持が困難となり、組織がフラット化・スリム化し、個人の役割や裁量の範囲が拡大するネットワーク型の組織に移行する可能性がある。
(イ)活用可能資源・可処分時間・経験知量の増大
人口が減少する中で一人当たりの活用可能な資源の量は増加していく可能性がある。また、高齢化とともに可処分時間と経験知量が増加し、時間の消費へと消費の趣向が変化し、個々人の経験や知恵が活かされるようになる。
(ウ)新たな高齢者文化の萌芽
可処分時間と経験知を豊富に持った高齢者は創造的な活動や個性的な消費生活を送り、新たな高齢者文化を作っていく可能性がある。
ところで、上記の(ア)(イ)(ウ)に見られる個人の活動の量的・質的拡大の可能性が現実に今後の人口減少社会の活力につながっていくためには、過渡期の生み出す変革のエネルギーと個人の自己実現の可能性が個々人の様々な活動の中で実感できることが必要である。
こうした環境づくりは社会全体として取り組んではじめて意味があるものがあるが、住宅・社会資本はその一部ではあるものの重要な役割を果たすと考えられる。