(2)国土の展望
これまでの我が国の多くの地方公共団体は、地域社会の活力の源としての定住人口の増加を目指して数々の施策を講じてきた。しかし、今後の人口減少局面において「広大なる過疎化」の進行が予測される中で、これまでのような定住人口の増大を確保することは難しい。一定の定住人口の必要性については、集落や地方都市の持続的発展や既存資源の有効活用、日本の原風景や伝統文化の保持、国土の保全等色々な観点が提示されており、いずれも重要なことではあるが、定住という枠組みで考える限り今後の継続的な人口減少の中でこれらすべてを実現することは困難となる。
このような中で定住人口に代わるものとして交流人口が重要視されてきている。今後交流が盛んになれば、双方向で様々な場所を訪れ新しいものにふれることにより消費の機会も増えるものと考えられ、地域の経済的な活性化につながるものと考えられる。今後個々人の活動量が量的・質的に拡大する環境を整えていく中で、これまで定住が果たしてきた役割の一部を交流が果たしていくようになると期待できる。交流の内容はボランティア等を通じて相互理解を進めるなど質的に深化しつつあり、今後この傾向が定着すれば経済的効果のみならず、文化・伝統の継承という面においても好影響を及ぼすと考えられる。
この「定住」「従来型の交流」「新しい交流」の違いを、一過性・継続性の軸と一方向性・双方向性の軸で考えると、「定住」は継続性・一方向性であるのに対し、「従来型の交流」は一過性・一方向性であり、さらに「新しい交流」は継続性・双方向性へと変化しつつあると考えられる。
こうした交流の深化を促すために、公共部門の行うべき重要な役割として、交流主体が活動できるステージづくりがある。そのためには、以下のことが必要である。
・移動ロスを低減する幹線道路ネットワークの早期整備
・双方向での交流を促進する美しくて安全な魅力ある交流拠点の整備
・交流の中継拠点としての地方都市の機能の充実
先に、高度成長期以来の国土と住宅・社会資本に残された課題が今後の人口の動きの影響を受けて新たな問題を生んだり複雑化したりしていくことを見たが、住宅・社会資本が上記の三つの役割を果たしていくことができれば、これらに対する対応としても望ましい効果を持つものと考えられる。静かなる集中に対しては都市の活力維持と魅力の向上が、広大なる過疎化に対しては交流の維持拡大が、社会情勢の変化に住宅・社会資本が十分対応できないミスマッチの問題に対しては住宅・社会資本の機能の再編成が、人口が減少しても必ずしも軽減しない環境負荷の問題に対しては循環型社会の構築がそれぞれ効果を持つと考えられる。今後の社会における個人の役割の量的・質的拡大の可能性を現実のものとし、高度成長期以来の課題から生じる新たな問題に対応していくため、住宅・社会資本はその役割を果たしていかなければならない。
「第1 総説−人口の動きから見た住宅・社会資本−」終了

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